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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第四章 アニスとシズア、転機を迎える
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4-22. アニスは飲み会を催す

「かんぱーい」


その場でテーブルを囲んでいた全員が、ジョッキを持ち上げて発声した。

全員と言っても、サラ、タキ、アニスの三人だけだが。

ジョッキの中身は、サラとタキはエール、未成年のアニスは冷やしたお茶だ。

テーブルの上にはサラダや串焼きにフライドポテトにフライなどの料理が皿に盛られていた。


ここは、ザイアスの街の大衆酒場の二階の個室。以前、サラとアニスが使った神殿近くの喫茶店の二軒隣だ。喫茶店の個室と同じような理由で用意されている部屋らしい。

そこへ三人で夕刻に集まり、これから飲み食いしながら親交を深めようとしているのだ。


「うむ。エールを飲むのは久し振りだが、こうして仲間と飲むと美味いものだな」

「ボスは日頃、お酒飲まないですよね。良くそれでやっていけてますね」


タキは既に良い感じに酔っ払っている。


「別に飲まずとも不都合はないぞ。そもそも酔おうと思うと魔女の力を抑えねばならぬではないか」

「えっ、魔女の力を使っていると酔わないの?じゃあ今、タキは魔女の力を抑えているってこと?」


アニスの問いに、サラは頷いて答えた。


「ああ、我も程々に抑えておるぞ。魔女の力は自動で治癒してしまうからな。お蔭で毒も効かんが、酒を飲むには少しばかり面倒なのだ」


「だったら、私もエールを頼めば良かったかな」

「それはいかん。お主、未成年だろうが」

「そうそう、未成年はお酒は駄目」


サラとタキが揃って止めた。魔女であっても、世の中の規則はきちんと守るべきものらしい。


「別にお酒は飲みたいと思っていないから良いんだけど、このお店を予約するとき面倒だったんだよ。何で未成年がここを予約するんだとか言われて」

「それは仕方がなかろう。お主が我との勝負に負けた(ゆえ)のことだ」


そう、この内輪の飲み会は、先日のサラとの鍵開けの勝負で負けたアニスの(おご)りとして催したものだった。だからアニスが幹事として予約もしなければならなかったのだ。


細かいことを言えば、勝負はサラとアニスの一対一のものであったので、アニスが奢らないといけないのはサラ一人だけなのだが、賢者様として世話になっていたタキにも声を掛けた。

何しろ二輪車の推進板の代金は、賢者様の取り分の名目でかなりの額を得ていたものの、そのすべてをアニスが懐に収めている。今回の飲み会の代金を持っても大した問題ではないし、賢者様への恩返しは必要だ。

それに、これで少しでも親密度が高まるのなら、企画した甲斐があったとも言える。


「まあ、サラとタキに楽しんでもらえれば良いけどさ」


打算的な内心は押し隠し、アニスは澄ました顔で殊勝な態度を取ってみせた。


「ああ、楽しんでおる。この串焼きは美味だな」


串焼きの肉を頬張りながら、感想を伝えるサラ。


「お酒もおいしい。あ、次、ワイン頼んでも良い?」


タキは既に顔が紅い。これ以上飲ませて良いのかとアニスは疑問に感じつつも、サラが何も言わないので、きっといつものことなのだろうと気にしないことにする。


「ねぇサラ、シズアを(さら)おうとした人達はどうなったの?私、あの屋敷を制圧した後のことを知らないんだけど」


アニスはイラのところへ急ぐため、鍵開けの後、相手側の人員をすべて無力化したところまでしかサラ達とは一緒にいなかったのだ。


「ん?今頃は救出されているか、自分達で何とかしているのではないか?我らがやったことと言えば、魔法を使えなくする呪具を付けたことと動けないように縄で縛ったことだけだからの。あ、ペーターとパティには、奴らがシズアに掛けたのと同じ呪いを掛けておいたか。まあ、今回死に人が出た訳でも無し、こちらも穏便に済ませておいた」


「ボス、全員の足の骨を折ってませんでした?どこら辺が穏便なんです?」

酔っ払いながらもしっかり突っ込みを入れるタキ。

「奴らは出してはならぬところに手を出したのだ。少しくらい痛みを感じさせねばな。どうせ治癒魔法で綺麗に治るのだし」


「ちょっと、私が爆発で死にかけたことが計算に入っていないんだけど」


アニスが憤慨する。


「ああ、あれは無かったことにするしかないぞ。少なくともお主があれに巻き込まれて生きているとかあり得んからな。お主は爆発の場には居合わせなかった。ならばお主の分の制裁を科すのも変だろう?」

「そ、それはそうだけど、そういう話?」


サラの説明に首を傾げながらも受け入れてしまうアニス。

それを見たタキが笑う。


「ボスに良いように言いくるめられてるぅ。悪くないなぁ、そういう新人。沢山仕事を任せられそうで、私は嬉しいよ」


そう言えばタキはサラに人手不足だと言い張っていた。


「お手柔らかにお願いしますね、先輩」

「アニス、心配は無用だ。駆け出しのヒヨッコに重要な仕事は割り当てたりせんよ」


不安げなアニスに、サラが真顔でフォローする。


「まったくボスは真面目だなぁ。もう少し酔っ払ったらどうです?」

「お主は酔っ払い過ぎだ。我までお主のようになってしまったら、二度とアニスから食事に誘われなくなるぞ」


「それは困りますね。では、ボスは程々で」

「だから程々にしておろうが」


フンッと鼻息も荒くタキに言い返しながらエールを口にするサラ。

何だかんだ言いながら、サラとタキは良いコンビだなとアニスは二人を眺めていた。


ともあれ、シズアのことは二人のお蔭で何とかなったが、それは今回についてがそうだったと言うだけだ。


「魔導国は、またシズに手を出してきたりしないかなぁ」


相手の動き方が分からないので不安が募る。


「どこまでシズアに価値を見出しているかにもよるが、今回のことで我らが目を光らせていると分かった筈だ。滅多なことではちょっかいは出してこんだろう。それに奴らには魔女にだけ分かる目印を付けておいたからな。近くにくればすぐに知れる」

「まあ、私としてはシズが安心して暮らせるなら良いんだけど」


幾分かホッとした表情で、フライドポテトを摘まんで口に運ぶアニス。


「心配ならお主がシズアの周囲に目を光らせてやるんだな」


同じようにサラもフライドポテトを摘まむ。


「そう言えば、今日はシズアは一緒ではないのだな。どうかしたのか?」

「どうかしたじゃないよ。魔女の集まりのつもりだったから、シズは呼ばなかったの。一人で来る言い訳が大変だったんだけど」

「何と言って出て来たのだ?」


興味深そうにサラがアニスを見る。


「トキノとの手合せで簡単にやられちゃったことをサラが聞き付けて、泊まり掛けで特訓するぞと賢者様の家に呼び出しを受けたことになってる」

「良くそれだけの理由で、お主を一人で出したものだな」

「シズは今、凧を改良することで頭が一杯だから」


アニスの答えを聞いたサラが目を丸くする。


「あの凧は成功したのではなかったのか?賢者の家の敷地からもシズアと凧が飛んでいるのが良く見えていたぞ」

「ただ飛ぶだけなら問題は無いんだけど、シズは凧に乗って遠くに行きたいって考えてるから、できるだけ速く飛ばしたいんだよ。あの試作機だと速度が出せなかったから駄目なんだって。でも、速度を出そうとすると着地が難しくなるから悩ましいって言ってた」


「こちらが立てば、あちらが立たずか。ありがちだな。だが、そういう課題に取り組むことが、モノ作りの楽しさよな」

「うん、そうみたいだね。シズ、家でも嬉しそうに図面を描いていたよ」


昨晩、子供部屋で机に向かっていたシズアの様子をアニスは思い出していた。


「それで凧はいつ完成するのだ?」

「シズは今週、遅くても来週にはって言ってたけど」

「完成したら、二人で旅に出るのか?」


ジョッキを口にしながら見詰めるサラに、アニスは頷く。


「シズのために、火の精霊を探しに行くんだ」

「火の精霊となると、火の山か。南だな。だとすると、再びトキノに会うかも知れぬぞ。あ奴が追い掛けている春告草は、南の共和国を目指して移動している筈だ」

「あー、あの人」


アニスは遠い目になる。


「あの人、何で一般常識がないの?お金のことすら知らなくて吃驚(びっくり)したんだけど?」

「あ奴にはあ奴の事情があるのだ。ともかくも、魔女の心得は叩き込んでおいたのだがな。それ以上を教える前に、賢者の家が破壊されお主が死にそうになったのだ。お主の再生に手を尽くしている間にあ奴は魔女の里を抜け出してしまった」


その表情を見て、サラとしても不本意だったのだとアニスは感じ取った。


「でも、あの精霊の森を数日で抜けてしまうなんて凄いですよね」


タキが感心した声を出す。


「そう言えば、トキノは精霊を連れてたよ。精霊に案内して貰ったんじゃないかな?イラの前で精霊が見えるって言えなかったから聞けてないけど、見たことのない色だった。何の精霊だったんだろう?」


運命神ファタリティアの精霊でしたよ。


「あー、あれがファタリティアの色なんだ。って教えてくれるんだ」


教えたところで事実が変わる訳ではないですからね。


「契約もしとらんのに親切な精霊だな、そ奴は。まあ、それにしても運命魔法の精霊とはトキノも珍しいものに出会えたものだ。もっとも我らは元々全属性が使えるから大した意味は無いのだが」


そしてサラは視線をアニスの方に向ける。


「ファタリティアの色を知らぬとなれば、アニスは運命魔法を使ったことが無いのか?」

「無いよ。魔力量が足りなかったし、運命魔法を使える人に会ったこともない」

「なら、これの後にでも教えてやるとするか。特訓の成果が何か必要だものな」


サラは笑みを向けるが、アニスは眉をひそめていた。


「シズに運命魔法が使えるようになったとか言える訳がないよね。だったら、トキノが使っていた体術を教えてよ。何であっという間に目の前にいたのか、今考えても分からないんだけど」

「我にできることは教えてやれるが、トキノは我には使えぬ特殊な技を持っておる。それ故、あ奴は我らの中でも最強なのだ。お主が勝てずとも何の不思議もない」


「同じ魔女なのに?」


驚いたように尋ねるアニスに、サラは真面目な顔で頷く。


「一口に魔女と言っても細かく見れば違いはあるのだ。お主と我の間にも、また別の大きな違いがある。それらについては、これから徐々に教えていかねばな」


以前、ゼペックから魔女の話を聞かされてはいたが、実際の魔女の世界はそれほど単純では無さそうだとアニスは悟ったのだった。


タキは割りとしょっちゅうお酒を飲んでいるみたいです。


と、そんなところで、第四章はここまでになります。お読みいただきありがとうございました。

アニスが魔女の仲間入りをしたことで、魔女の世界も見えて来ましたが、さて。


続きも楽しみにしていただけると嬉しいです。


あ、すみません。連日投稿は一旦今日までです。ご容赦を。


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