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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第四章 アニスとシズア、転機を迎える
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4-21. シズアは凧で空を飛ぶ

アニスとシズア、それにイラを加えた三人は街の北西の草原にいた。

そこはなだらかな南斜面になっていて、もう少し上に行けば再建中の賢者の家がある。

だが今は、賢者は関係ない。


これからシズアの作った凧を飛ばしてみるのだ。


朝、シズアはアニスと一緒にマーサの宿に行った。それはトキノに会うためだったのだが、トキノは既に出発してしまっていた。

まあ、トキノは極度の世間知らずではあるが、理解力はある。一度説明したことは忘れないし、応用もできる。


国ごとに通貨の名前が異なる話をしたら、国によって貨幣価値が変動するかを尋ねてきた。為替の話をする前にだ。

トキノの地頭は決して悪くない。あれだけ常識知らずなのは親が教えなかったから。

その理由は分からない。トキノは過去の話をしたがらなかったし、シズア達も無理に聞き出そうとはしなかった。


ともあれ、これからの旅で遭遇する出来事の中から新しい知識をどんどん吸収し、人としてきちんと成長するであろうことをシズアは疑っていなかった。

トキノにとって良い出会いに恵まれることを願うばかりだ。


なので、トキノがいないと知らされたシズアは、次にやることに向けて頭をさっと切り替えた。

次と言えばやりかけのことがある。凧作りだ。

丁度前の日に必要なバアブの木も採取してきた。ヴィクトルが依頼通りに作業を進めていてくれれば、今日完成できるかも知れない。


そう考えたシズアは、マーサの宿の手伝いをする予定のアニスと別れてヴィクトルの工房へと向かった。

朝食後に宿に来たイラも、アニスからシズアの話を聞くと、楽しそうに工房を目指して宿を出て行った。


アニスも午後になったら工房に行くかと考えていたが、その必要はなく、お昼前にシズアとイラが凧が完成したと宿にやって来た。

それから二人も宿の手伝いに参加し、昼時が過ぎて一緒に賄いを食べた後、三人揃ってこの草原へとやってきたのだ。


「ねえ、シズ。最初からシズが乗って試さなくても良いよね?凧だけ飛ばすのじゃ駄目なの?」


作りたての凧にシズアが自ら乗って試すと言い出したので、アニスが心配して止めに入る。


「どんな具合か見るには自分で試すのが一番とは思わない?それに、いざという時には魔法があるから問題ないって」

「魔法だって発動に失敗するかもしれないし」


どこまでも心配性なアニス。


「いや、この防具の背中にフライの魔法を付与してくれているよね?背中に魔力を流せば、ほら」


シズアは実際に背中に魔力を流して少しだけ宙に浮いて見せる。


「ね?これなら大丈夫と思わない?」

「そうだけどさぁ」

「ヴィクトル達は、きちんと設計図通りに作ってくれているし、強度も確認してあるし。これ結構安定して飛ぶから、ね。アニー、見てて」


シズアがアニスを安心させるように言葉を並べたてるのを聞いて、アニスは諦めた。


「うん、分かった」


渋々だが頷くアニスを見て、シズアは笑顔になる。


「それじゃあ、早速準備して飛んでみるね」


シズアは組み立て終わっている凧のところへと駆けていく。

そこへアニスが歩いていった時には、シズアは既に凧の下に入って命綱が外れないようになっているかなど確認を進めていた。


「うん、重りもよし、風向きも良い感じ。アニー、準備できたから行くよ。イラも見ててね」


少し離れたところから黙ってアニスとのやり取りを見ていたイラにも手を振ると、シズアは凧の制御棒を持ち、坂の下側に向けて草原を駆けていく。

すると、ものの数メートル走ったところでシズアの足が浮き、凧が空へと上がって行った。


「随分と簡単に飛べるものなのね」


イラがアニスの方へと歩きながら声を掛けて来た。


「そうだね。でも、シズアじゃなければ作れなかったと思うよ」

「ええ、そうね。二輪車や空を飛ぶ凧を考え出せて、付与魔法にも詳しいとなれば、魔導国に狙われるのも当然よね」


何気ないイラの言葉であったが、アニスはそこに引っ掛かるものを感じた。


「何でシズが付与魔法に詳しいことになってるの?シズは付与魔法のことは全然知らないんだけど」

「どうしてかは私も知らなくてよ。でも、領都(ザイナッハ)では最近そういう噂が流れていると聞いたわ」


「だってシズは風魔法使いなんだよ。魔力眼も無いのにどうして魔法付与ができるって言われるの?」


アニスは懸命に反論するが、イラの表情は変わらない。


「実際の付与はできなくても付与魔法の設計は可能とは思わなくて?それに、魔力眼を持っていることを隠しているかも知れなくてよ」

「えっ、何?イラもシズのこと疑っているの?」


「私はザイナッハの街の噂の話をしているのよ。(ひと)り歩きしている噂を否定するのは簡単ではないと言いたいだけ。分かって?」


そうまで言われればアニスにも分かる。イラは親切に教えてくれているだけなのだ。


「分かった。ごめん、イラ」

「謝っていただくほどのことではないわ」


イラはツンとした表情をするが、アニスにはそれが照れ隠しに思える。


「でも、どうしたら良いかな?」

「噂はいずれ消えてしまうわ。下手に別の噂を流そうとして、シズアの噂を補強することになれば厄介ですもの。放置で良いのではなくて?」


「そんなものなのかな?」


アニスは首を傾げる。


「そう思うのだけれど、心配ならもう暫く噂の動向を探ってあげても良くてよ」


不安そうなアニスを見かねてか、イラが手助けを持ち掛けた。


「それって借りを返す感じ?」


アニスの言葉に、イラはほぅっと一回溜息を吐いた。


「情報収集は貴族として普通にやっている話よ。噂の調査はちょっとしたついで。そんなので貴女からの借りを返したことにはならないわ」


「何だか、イラにはお世話になりっぱなしだね」

「それはこちらもよ。お互い持ちつ持たれつだと考えなさいな」


イラはアニスに微笑んでみせた。


しかしそこで一転して、イラは真面目な顔になる。


「ところで、アニス。貴女に一つ話しておきたいことがあるのだけれど」

「何?」

「この辺りの昔話よ。もしかして、聞いたことがあって?」


アニスは首を横に振る。


「知らない」


母サマンサは領都の出身だが、父ライアスの実家はザイアスの街だ。今、父の姉のマーサが宿屋をやっている建物が父の実家そのものだったりする。

だが、そのライアスから、いやマーサからもこの地域の昔話を聞いたことは無い。


「ザイアスの街がまだ無かった頃、この草原からもう少し上がった精霊の森の前に、あるものがあったの。それが何か知っていて?」


話が始まるかと思いきや、問題が出された。が、アニスは首を横に振る。


「知らない」

「それも聞かされていないのね。答えは、魔女の里よ」


「初めて聞いた」


嘘偽りのないアニスの返事を、イラはその通りに受け取った。


「だったら話して聞かせるわ。ここは昔、今にもまして辺鄙(へんぴ)な地域だったの。街道の隧道(トンネル)も無かったから領都から来るにも峠を越えて来なければならなかった。そして街も無くて、小ダンジョンも無くて、あの廃墟の場所に村があった程度だった。魔女の協力者達の村がね。スペンサー家は当時その村のまとめ役をしていたそうよ」


「当時から魔女達はその存在を隠して活動していたのだけれど、それでも人と関わる以上は秘密は漏れてしまうものだし、貴族達の知るところになってしまったの。そして貴族の使者が押し掛けるようになって。魔女達はそれが嫌になって精霊の森の奥へと里を移してしまった。元々精霊の森の奥にはエルフの里があったのだけれど、エルフ族と交渉して自分達の場所を得たそうよ」


「でもそれだけでなくて、この場所に貴族が手を出せないようにと魔女達は王家とも交渉したの。王家直轄地にする話もあったものの、こんな何も無いところを直轄地にするのも変だからと、ザイアス子爵領にしたのよ。そしてその子爵位をスペンサー家に与えた。村の土地は狭かったから、今の街の場所に全員が移住して、元あった村は放棄された」


「ただ、子爵領にしてもそれで土地が豊かになる訳でも無くて、領地経営が苦しくてね。それを見かねた魔女達が、街の人の振りをして隧道(トンネル)を掘って新しい街道を作ってくれた。それでもまた飢饉で苦しい時期が来たら、放棄した村の廃墟にダンジョンができて魔獣が狩れるようになった。多分、それも魔女達のお蔭だろうって私達は考えている」


「それがここの昔話なのだけれど、この話はスペンサー家(うち)だけでなく、ザイアスの街の運営に関わっている人達の間で共有されているのよ。魔女から受けた恩を忘れないようにと。それと、精霊の森の入口に住むと言われている賢者様は、エルフ族と魔女の共同で用意した門番だと考えられているわ。だから私達はあの方を煩わせないようしているの。もっとも、誰かさんは結構気軽に出入りしているみたいですけれど」


イラが目を細めてアニスを見ていることから、その誰かさんとは自分を指しているのだろうとアニスは理解した。


「い、いや、私はそんな話は知らなかったし」

「まあ、貴女のことは良いのですけれど。ともかく、そんな話がある時に、トキノが精霊の森の向こうからやって来たと言った。そして、トキノはエルフではない。私の言いたいことが分かって?」


勿論分かる。イラはトキノが魔女の可能性があると言っているのだ。


「でも、魔女の里にいるのが魔女だけとは限らないんじゃない?それに、その昔話が本当かも分からないし」

「昔話は本当よ、疑う必要は無いわ」


イラは毅然とした態度で言い切った。


「それと私は貴女と議論する気はなくてよ。下手すれば私の命が危ないもの。貴女に言っておきたかったのは、トキノが精霊の森の向こうから来た話は他言無用だということだけ」

「それは分かった」


アニスが素直に応じると、イラは満足そうに微笑む。


「それで良いわ」


話はそれで終わったらしく、イラは空を見上げてシズアの凧を目で追い掛け始めた。


「それにしても、シズアはいつまでも降りてきそうにないわね」

「長距離を飛ぶために必要な情報(データ)集めをするって言ってたけど」

シズアの言葉を思い出しながら、イラに伝える。


「長距離を飛ぶ?あれに乗ってどこにいくつもりなの?」

「シズは前から火の精霊を探しに行きたがっていたからね。だからまず行くとしたら火の山かな」

「火の山。そう」


イラは考える素振りをみせた。


「イラも行ってみたいの?」


アニスが気になって尋ねてみるが、イラはかぶりを振った。


「いえ。私は残念ながら立場上、気軽には遠くに行けなくてよ。貴女達が羨ましいわ」

「貴族だからってこと?」


「ええ、そう。まあ、私のことはともかく、貴女方は火の山に行くのね。もしかしたら、好都合かも」

「何の話?」


イラの呟きにアニスが反応すると、イラは焦ったような表情になる。


「な、何でも無いわ」

「んー?」


アニスは眉をひそめてイラを見詰めるが、イラはそれ以上口を開こうとしない。


「ま、いっか」


アニスは諦めて再び空を見上げる。


空には雲が浮かんでいるが、いずれも高い位置にある雲だ。その下をシズアの乗った凧が軽やかに滑空している。

シズアの設計は正しく、アニスの心配は杞憂だったようだ。


そしてアニスは思う。


あれに乗って、シズアと一緒にどこまで遠くへ飛んで行けるか早く試してみたいな、と。


イラは魔女の協力者だと分かっているアニスにだけに昔話を聞かせたかったようです。まあ、話の大半はシズアが聞いても差し支えないものではありましたけれど。


さて、ここまで来たので明日も投稿しようかと思っています。

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