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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第四章 アニスとシズア、転機を迎える
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4-20. アニスは手合せして貰う

トキノとアニスは、冒険者ギルドの訓練場の中央で互いに向き合う形で立っていた。


トキノは武器を手にしていない。

ただ、まったくの丸腰ではなく、両腰に短い剣を差している。双剣が使えるらしい。

とは言え、ナンシーに対して素手でと宣言していたことから、アニス相手に双剣を使うことはないだろう。


一方のアニスは、自分の背丈よりも長い木の棒を持っていた。

剣の間合いではとてもではないが、相手にならないと判断したためだ。

いや、より長い物を手にしたところで、扱えなければ意味がない。

一応、アニスは以前、兄のジークリフとの打ち合いで木槍を使っていた時期もあり、棒なら何とか使いこなせるだろうと考えていた。


「それでは両者構えて」


立会人であるガザックが二人に声を掛ける。

その声に従い、アニスは自分の右脇で棒を構えた。

片やトキノは両手を下げたまま、背筋を伸ばした美しい姿勢で立っている。


「始め」


開始の合図と共にアニスは前に出た。

アニスの目にトキノの隙は見えず、ともかく、打ち込んでみないことには攻略の糸口を掴めそうにない。

近付いて来るアニスをトキノは静かに見ている。


「うぉーっ」


前進した勢いそのままに、アニスは棒を前に突き出す。

トキノがそれを左に受け流したところで、アニスは棒を再度突くために一旦引き戻そうとするが、トキノは棒を受け流した状態から身体を一回転させながら素早くアニスの目の前に入って来た。慌てて後ろに飛び退(すさ)るアニス。


だがトキノの攻撃は止まらない。

トキノはアニスの後退に合わせるように前に出て、アニスの腹を目掛けて右の拳を繰り出してきた。

アニスは棒を地面に突き立て、それを軸にして左に半回転、そのまま左脚で回し蹴り。

トキノがそれを右の手甲でしっかり受け止めて、今度は左の拳でアニスの腹を狙う。


蹴りを受けられたアニスは、棒を握る両手に思いきり力を入れると共に、軸足にしていた右脚で飛び上がると、後ろに宙返り、更に今度は両足で踏み切ってもう一度後ろ宙返り。

トキノとの距離を十分に取って、棒を構え直す。

そんなアニスの動きを、背筋を伸ばしたトキノは黙って見ていた。


強い。

いや、そんなことは最初から分かっていた。

アニスが強化効果のある魔法を付与した装備を使っているのに対して、トキノはそうしたものを一切身に着けていないし、魔法も一切使おうとしていない。ただし、魔女の力でも身体強化はできる。トキノが使っているのは、その身体強化と力の眼くらいだろう。


アニスは相手の動きを捉えるのに、自分の目の他にウィンドサーチやウィンドビジョンも使えるし、トキノほどではないだろうが魔女の力の眼も使える。

なので、戦いの手立てとして使っている物は自分の方が多いくらいだ。

しかし、トキノを前にすると、圧倒的な力の差を感じずにはいられない。それは経験の差なのか、才能の差なのか。


ただ少しだけとは言え、打ち合ってみて感じたことがある。トキノは動くときに細かいことまで考えていない。

ある程度本能に任せている。それに役立っているのが力の眼。


思考に結び付ける形で力の眼を使えば周囲の様子を認識して理解することが出来るのだが、戦いの最中にいちいち状況を理解しようとしていたら動きが遅れる。そういう時は感覚に結び付ける形で力の眼を使い、相手の動きを身体で直接感じ取れば良い。身体で感じれば、そのまま身体で反応できる。


トキノの素早い動きに対応しようとする中で、必然的にそうせざるを得なかったのではあるが、アニスにとっては一つの大きな収穫だった。

できれば今この打ち合いの中で、力の眼の熟練度を更に上げたい。


悩ましいのは力の眼と身体の動きを連動させるには、同じ魔女の力を使った身体強化の方が容易で、装備の付与魔法への魔力供給が疎かになってしまうことだが、そこは何とか頑張ろう。


そう決めたアニスは、棒を脇の方へと放り投げた。

身体で感じて反応するのなら、何も持たない方が楽だ。

そして身体中に、しかし身体の外には漏らさないように、魔女の力を行き渡らせる。

そんなアニスの様子を見て、トキノがフッと微笑んだように見えた。


アニスはそんなトキノに構うことなく前に出る。

するとトキノも前へと動いた。

二人が左腕の手甲をぶつけ合う。右?いや回し蹴り。トキノが右に回るのに合わせてアニスも右に回り、右脚を軸にして左脚で回し蹴りを繰り出す。


互いの左脚がぶつかると双方脚を戻して下ろし、その左脚を前へと踏み込んでいく。

次は左だとアニスは分かっていたが、動きをトキノに合わせる形になってしまっていることに加え、左が不慣れなことから、トキノに対してかなり遅れてしまっている。

なのでここは臨機応変にトキノの左拳を右腕で受けながら、トキノの懐に潜り込むように身体を動かして左拳を打ち出す。


だがトキノに簡単にいなされて、姿勢を崩し掛ける。

咄嗟に左手を地面に突き、それを軸に身体を回してトキノに向き直ると、間を置かずに今度は右拳を前に。

それも(かわ)されて、逆にトキノがアニスの懐に入って来る形で右の拳を打とうとしてきた。そうはさせじとアニスは左の膝を前に出し、その脚でトキノの腹を狙う。

トキノはアニスの左膝に左の掌を当てて押し返し、一旦後ろに下がった。


そこで見詰め合う二人。


アニスは左脇を締め、右腕を前に出した構えを取った。

対するトキノは毎度のように背筋を伸ばして立っている。

相変わらず隙は無く、その静かな闘気はアニスを圧倒していた。


そんなトキノ相手だが、棒を手にしていた時よりもまともに戦えているような気がする。

だが、まだまだだ。身体の動かし方も、動きの速さも、どちらもトキノに劣っているのをアニスは自覚していた。


少しでもトキノに近付きたい。

身体の動かし方は直ぐには変えられない、ならせめてもっと速く。身体に流す魔女の力をもっと増やせば動きが速くできるだろうか。

アニスが身体の中の魔女の力に注意を向けた瞬間、トキノが視界から消えた。


「えっ?」


気が付くとトキノはアニスの目の前で屈み、左手でアニスの右手を引きながら、右の拳をアニスの鳩尾(みぞおち)に叩き込んだ。そしてそのまま右に反転し、腰でアニスの上半身を持ち上げながら両手でアニスの右手を下に引く。

アニスは前方に回転して背中から地面に落ち、トキノが右腕を捻じるのに合わせて反転してうつ伏せとなる。相変わらず右腕を絞められて動きの取れないアニスの上にトキノが跨った。


「ここでそれをやっては駄目」


トキノはアニスが魔女の力を増やそうとしたことに気付き、それを止めようとしたのだ。


「うん、ごめんなさい」


アニスは素直に謝った。自分が魔女の(おきて)に反した時に命が危険に晒されるのは、自分ではなくこの場にいる他の人達だ。自分はもっと慎重にならないといけない。


「分かれば良い」


トキノは押さえていたアニスの右手を離し、アニスの上からも降りた。そしてアニスに右手を差し伸べる。

アニスはトキノの手を取り、膝を突いて身体を起こすと、トキノに引っ張られるようにして立ち上がった。


「ありがとうございました」


アニスはトキノにお辞儀をする。打ち合いをしてくれたこと、魔女の心得を思い出させてくれたことなど様々な感謝の気持ちを籠めて。


「こちらこそ」


トキノが笑顔を見せる。


「それでガザック、トキノは合格で良いんだよね?」


アニスがガザックを見やると、ガザックは困惑の表情を浮かべていた。


「だから俺は試験不要だって言ったんだがな。まあ、ともかく底が見えない強さだと思ったよ。アニスも前より随分と動きが良くなったな」

「うん、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」


トキノ最後の動きにアニスは全然付いていけなかった。しかし、自分は成長途中なのだ。ガザックの言葉でそれを感じ、元気づけられた。


「それで、トキノが狩った魔獣があるんだけど、買い取りしてくれるよね?」


アニスは気持ちを切り替え、トキノの代わりにガザックに持ち掛ける。


「ああ、勿論だ。解体場へ行こうか」

「あそこでも良いんだけど、少し狭いからここで渡しても良い?」

「おい、一体、何を持ち込むつもりだ?」


アニスの言葉に不穏な空気を感じ、怪訝な表情になるガザック。


そんなガザックを放置したまま、アニスはシズアに預かって貰っていたトキノの収納サックを受けとると、トキノの方を向く。


「ねえ、トキノ、買い取りに出さずに残しておきたい魔獣はある?」

「ない。今はお金が欲しい」


「魔石もお金にしちゃって良い?結構な金額になるよ」

「全部お金で良い」

「なら遠慮なく」


アニスはトキノの収納サックから魔獣を一体取り出して、訓練場の地面の上に横たえる。


「フェンリルだぁ?B級だぞ?一人でやったのか?」

「もう一つあるよ」


ガザックの言葉にも、アニスは澄ました顔でもう一体魔獣を取り出した。


「今度は地竜かよ。まあ確かに、解体場では狭いな」


地竜もフェンリル同様にB級だ。だが地竜の方が一回り大きい。

ガザックは半分呆れ顔ではあるが、想定内のようにも見える。


ともかくも、トキノが狩った魔獣はそれなりの額になり、イラから譲り受ける二輪車の代金を支払っても十分なお金がトキノの手元に残った。

これで当分は生活していけるだろうし、狩った魔獣の換金方法も分かっただろうから、お金が不足すればまた魔獣を狩れば良い。


用事が終わり、冒険者ギルドを後にしたアニス達はトキノをアニスの伯母のマーサの宿に連れていき、そこで大陸の地図を使って王国とその周辺国について一通り説明した。

それからトキノを客室に連れていき、シャワーの浴び方を教え込むと、翌朝また来るからと言ってトキノと別れた。


その晩、アニス達はそれぞれの家に帰って休んだのだが、翌朝いつものようにアニスがマーサの宿に到着した時、トキノは既に出発した後だった。

思い返せば、昨晩別れる際、アニスは「また明日」と言ったのに対してトキノは「また」としか口にしていなかった。最初から黙って朝早く出ていくつもりでいたのだ。


あれだけ強ければどう転んでも生きていけるだろうが、もう少し一般常識を教えておきたかったなと思うアニスだった。


トキノは必要なことをだけやって、さっさと先に行ってしまいましたね。無事に結婚相手を見付けられると良いのですけれど。


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