4-13. 間話・アマンダは意思の疎通に苦労する(前編)
「それじゃ、私、賢者様のところに行って来る。アマンダ、シズのことお願いね」
そう言ってアニスが出発した後、アマンダ達は持って来ていたパンなどの食糧で軽く腹ごしらえをしてから移動を始めた。
アマンダはもう少し野営した場所で休むつもりでいたのだが、アニスが出掛けるまでの騒動の中でパティもマイケルも目が覚めていたし、ペーターが早いところ安全な場所に移動した方が良いと主張したからだ。
動けないシズアをどう運ぶかについては皆で相談し、テントの支柱とテント布とで簡易な担架を作り、それに乗せていくことにした。担架を運ぶのに男手が二人取られてしまうものの、グレイウルフのアッシュがそれを補ってくれるだろうとの思惑があった。
しかし。
「なぁ、アッシュ。先に行っては貰えんのかね」
ペーター達が寝ていたテントや寝袋や結界の魔具を仕舞い、移動の準備が整ったところでアマンダが話し掛けても、アッシュは動かない。
「うむ、どうしたもんだろう」
「アマンダ。俺、思うんだけど」
「ん?マイク、何?」
アマンダは話し掛けて来たマイケルを見る。
「こいつ、家で買ってるワンコに似てるんだよね。だとするとだ」
「だとすると?」
マイケルはニカっと微笑んだ。
「飼い主から離れたくないんだ。まあ、本来の飼い主はアニスなんだろうけど、あいつに頼まれているからな。だから、ずっとシズアの傍にいるつもりなんだよ」
「なら、シズアを動かせば?」
「一緒に来るだろうさ。ジェフ、シズアを運ぶぞ」
「あいよ」
マイケルがシズアの頭の側に後ろ手になって、そしてジェフが足の側に前向きにそれぞれしゃがみ、よっこらせとシズアが横たわっている簡易担架を持ち上げた。
そこから二人が歩き出すと、アッシュも担架の脇について歩き出す。
「な?言った通りだろう?」
マイケルがドヤ顔になると、アマンダは肩を竦めた。
「恐れ入ったよ。マイクには、魔獣の相棒がいても良いかもしれないさね」
「今まで考えたこともなかったが、そうかもな。だが、こいつは賢いぜ。こいつみたいなのが他にもいるといいんだけどな」
バウッ。
褒められて嬉しいのか、きっと出会えるよとマイケルを励ましているのかは分からないが、明るい声でアッシュが吠える。
そんな具合に一行は地上に向けて進み始めた。
二層の草原は何事もなく渡り終え、一層に向かう階段のある洞窟に入る。
流石に階段で担架は危なかったため、マイケルがシズアを背負うことにした。アッシュはその直ぐ後ろを付いていく。
「大した忠犬ぶりさね」
先頭を歩いていたアマンダが、後ろを振り返りながら感心する。
一層でもアッシュはシズアに付きっきりで、後ろからアマンダに進む向きを教え、出てきた魔獣の始末もすべてアマンダにやらせていた。
アマンダも既に諦めていて、アッシュの指示に従う形で前を進んでいた。
アッシュは、アマンダが違う方へ進むと吠える。近くに魔獣がいると唸る。どちらもマイケルが気付いた法則だ。
アッシュの的確な指示のお蔭で、不意打ちされることもない。不意打ちを喰らう心配がないのなら、アマンダ達にとって一層は恐れるものとはなり得なかった。
道に迷うこともなく、あっさり地上への階段に到達し、二層からと同じようにその階段を登る。
ダンジョンの入口になっている古い祈祷所の建物を出ると、朝の太陽が東の山の端から顔を出しているのがアマンダの目に入った。
「朝日が綺麗なのですぅ」
隣からチャウの声がした。
「ああ。これでシズアの調子が悪くなければ、万事よしだったさね」
「なに、大丈夫だ。アニスが賢者様を連れてきて、解決くれる。気を落とす必要などない」
ジェフが励ましの言葉を掛けてくれた。
ダンジョンは出たが、ホッとするにはまだ早い。
アマンダ達は、建物の脇に置いていた馬車に馬を一頭だけ繋ぎ、残りには鞍を付けた。
シズアについては、馬車の片端に毛布を畳んで重ね、その上に簡易担架ごと乗せた。
そこへアッシュがさも当たり前のようにシズアの横に並ぶ形で座ったため、馬車の中が狭くなってしまう。
「ペーター、すみません。アッシュがシズアから離れなくて」
「いーえ、構わないのでっす。貴女方には周りを警戒しながら馬車を進めて欲しいでっす。街道から逸れるところは私が教えるのでっす」
ペーターの隣に座るパティは、何も言わずに微笑んでいた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
御者台から謝意を伝えたアマンダだったが、ペーター達が気にしていないようで助かった思いがした。
「それじゃ、出発するさね」
それぞれ一人で馬に跨るマイケルとジェフに声を掛けて馬車を出す。チャウはアマンダの隣にちょこんと座っている。
街道からプラナラ子爵の別宅までも、これと言った事件は起きなかった。
ただ、街道から分かれて以降、緩やかな坂道となったため、馬の様子を見ながら休み休み進んだことから、別宅に到着した頃には夕方近くになっていた。
「別宅って、これは砦と言わんかね」
アマンダは別宅の門の前で驚きの声を上げていた。
「はい、そうなのでっす。ここはその昔は軍の砦だったのでっす。それを子爵家が買い取って別宅としたのでっす」
ペーターの説明で別宅の来歴は分かったものの、新たな疑問が湧いてくる。
「どうしてここに砦が?」
「私達がやって来た道は、昔の街道なのでっす。今の街道の二つの砦の間に長い隧道があったのを覚えてますか?あの隧道ができる前まで、この道が街道として使われていて、ここに軍の砦があったのでっす」
「その話は初めて聞きました」
「それは仕方のないことなのでっす。隧道ができて道が変わったのは、数百年前の話だと聞いているのでっす。そんなことより、ともかく中へ入るのでっす」
ペーターに促され、別宅の中へと入るアマンダ達。
別宅の門の内側も砦だった時の面影を強く残した石造りの構造になっていた。
しかし、軍の係官が出迎える砦とは異なり、ここでは子爵家の使用人達が迎えに出てきた。
彼らはシズアの様子を見ると気の毒がり、二階の客室をシズアのために整えてくれた。
そしてアマンダ達がシズアをベッドに寝かせると、夕食の誘いがあった。
「アッシュは夕食には行かんかね?」
アマンダが声を掛けても、アッシュはシズアの寝ているベッドの横で座ったままだ。
「無理だよ、アマンダ。アッシュは動く気が無いんだ。食事に行った時に、何か貰って来よう」
マイケルの提案にアマンダは頷く。
「そうするかね」
だが、アッシュはアマンダ達が厨房から貰って来た肉も、鼻を付けて少し匂いを嗅いだだけで食べようとしなかった。
「どうして食べないのかね」
「警戒しているんじゃないか?」
「ここまで誰かが襲いに来ると?」
アッシュの意図を測りかねているアマンダがマイケルに尋ねる。
「どう考えているのかは分からないが、シズアもこんな調子だし備えるに越したことはないのかもな。なあ、アマンダ。今夜、俺らはどうする?」
アマンダはマイケルの言葉も参考にして、今後の対応を思案する。
「そうさね。チャウと私はこの部屋で休むとするさね。マイクとジェフは隣の部屋が使えれば、そこで休むでどうかね?」
「それで良い」
マイケルはジェフを伴って部屋を出て行った。
アマンダは、疲れた様子のチャウに空いているベッドで寝るようにと言うと、自分はソファに座る。何かあった時、直ぐに剣を抜けるようにと剣を膝の上に置いたまま見張りをしていたが、いつの間にか眠ってしまう。
そして、次にアマンダが気付いた時、既に外は明るくなっていた。
アマンダにはアッシュの言いたいことが伝わらないみたいですね。その代わりにマイケルが分かってくれてます。
さて、長くなり過ぎたので二つに分けましたが、後編は明日投稿予定です。




