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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第四章 アニスとシズア、転機を迎える
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4-10. アニスは助けを必要とする

アニスの前で、シズアは時々苦しそうに呻き声を上げていた。

見たところ、体調不良ではなさそうだった。実際、水の回復魔法であるキュアを掛けても何も変化はない。鑑定眼でシズアの全身をくまなく確認しても、異常の原因になりそうなものは見当たらなかった。


残念なことに、アニスがシズアにしてあげられることをすべてやっても事態打開の糸口すら掴めない。

となると、次は情報共有か。今は依頼の真っ最中、依頼主にこのことを伝えねばなるまい。

誰に伝えようか。このダンジョン行は、ペーターとパティの芸術家夫婦の依頼として始まっているが、アニス達はアマンダ達虹色の翼の依頼を受けて案内人をやっている。


なのでアニスが伝えるべき相手はアマンダ達で良いだろう。芸術家夫婦に伝えるかどうかはアマンダ達に考えて貰えば良い。

そして今もアマンダ達の誰かが見張りをやってくれている筈だから、伝えるのは簡単、テントから顔を出すだけで済む。

そしてアニスはそれを実行した。


「おはようございますぅ。アニス、もう起きたんですね」


顔を出したアニスに気付き、チャウが声を掛け来た。


「チャウ、おはよう。見張りは一人だけ?」


アニスが問うと、チャウはアニスの右斜め後方を指差した。


「アマンダならそこにいますぅ」


アニスはテントから出て立ち上がり、チャウの示した方向を向く。


「やぁアニス、おはよう。良く寝られたかい?ん?何かあったのか?」


明るく投げ掛けた挨拶に対し、浮かない表情を向けて来たアニスを見て、アマンダは異常を感じ取った。


「シズアの様子が変なんです。ずっと苦しそうにしてて起き上がれないし」

「そうか、私が見ようかね」


アマンダはテントに入り、シズアの様子を観察する。


「うーん、これは」


顎に手を当てアマンダが唸る。


「治癒魔法は効かなかったんだね?」

「はい」

「そうかぁ」


考え込むアマンダ。


それからテントの入口の布を(めく)り、声をあげる。


「チャウ、悪いがジェフを起こして――いや良い、自分でやるさね」


アマンダは一旦テントを出て、近くの草原の上で寝袋に包まって寝ていたジェフを起こす。

眠そうで不機嫌なジェフの声を耳にして、アニスはアマンダが自分で起こすと言った理由が分かった気がした。


だがジェフも一人前の冒険者だ。ジェフの様子に構うことなく、アマンダから事情を言って聞かせると、途端にしゃっきりとした姿勢になる。

そして、テントに入るとシズアの様子を見る。


「どう思うさね?」


「確かなことは言えんが、呪われているような?(わず)かながら呪術の気配を感じる」

「そうか」


ジェフの言葉を予想していたのか、アマンダに驚きはない。


「えっ?シズは(のろ)われているの?」


アニスにとっては想定外の事態。


「恨まれるようなことに心当たりは、――ないさな、その年では」


ブンブンと首を横に振るアニスを見て、まあ、そうだよなと言う顔をする。


「ジェフ、解呪はできそうかい?」


解呪は闇魔法だから、ジェフならできる可能性がある。


「いや、呪われたものを身に付けていればできたろうが、そうしたものが見当たらん」

「となると厄介さね」


「どうすれば、シズは良くなるの?」


これまで呪いについて殆ど知る機会がなかったアニスには、対処の(すべ)が思い浮かばない。


「術者にやめさせるか、呪具を使っているなら、それの効力を消すかだな。どちらにせよ、呪いの元を見付けないといかんさね」

「ジェフは見つけられないの?」


願うようなアニスの問いに、ジェフは首を横に振る。

「呪いの糸を辿るには呪力眼が必要だが、儂は呪力眼を持っとらん。呪力眼を使うには、闇魔法に加えて魔力眼が必要だからな」


「闇魔法に魔力眼」


アニスはジェフの言葉を繰り返しながら考える。自分は両方持っているがやり方が分かっていない。やり方さえ分かれば、呪力眼が使えることがバレようが構わないのだが。


「ジェフは呪力眼の使い方は知ってる?」

「いや、そう言うものがあると聞いたことがあるだけだ」

「そうかぁ」


残念な答えにアニスは肩を落とす。


その時、テントの入口の布が捲られ、外の明かりが射し込んできた。


「何かあったのですか?」


外から覗き込むペーターの顔が見える。


「シズの具合が悪いんです。ジェフが誰かに呪われたんじゃないかって」

「呪いとは恐ろしいのでっす。早く何とかしてあげたいですが、私には手立てがないのでっす。その様子では虹色の翼でも?」


アマンダが首を振る様子を見て、ペーターは察したようだった。


「困りましたね。そうなると専門家の手が必要なのでっす」


専門家と言う言葉を耳にして、アニスは思い付くものがあった。


「そうだ、賢者様なら呪力眼が使えるんじゃ」


「賢者様?もしかして迷いの森に住むと言う賢者様のことですか?」

「はい、ペーターも知ってるんですね」


「お名前だけは聞いたことがあるのでっす。噂通りの方なら、頼りになると思うのでっす」


ペーターの後押しもあって、アニスは勢いづく。


「私、今すぐ賢者様にお願いしに行ってみます」

「それは構いませんが、私達もいつまでもここにはいられないのでっす。ここはダンジョンの中で、私達は長く留まる準備をしてきていないのでっす」


ペーターの言うことももっともだ。それに、ペーターは依頼主でアニス達の事情で迷惑を掛ける訳にもいかない。


「それじゃあ、ご夫婦のお二人は私と一緒にダンジョンを出ます?」

「とんでもないでっす」


ペーターは大げさに手を振る。


「私達は、そんな薄情な人間ではないでっす。全員で安全なところに移動するのでっす」

「安全なところ?」

「ここからそれほど遠くないところに子爵様の別宅があるのでっす。私達はもうしばらく妹さんの様子を見て、回復しないようならその別宅に向かおうと思うのでっす」


安全な場所でシズアの面倒を見ていて貰えるのなら、アニスとしてはとても助かる。


「そのお屋敷はどこにあるんです?」

「領都ザイナッハへ向かう街道を途中で北に逸れた森の中でっす。直ぐ近くに川が流れていて景色が綺麗なところでっす」


聞くからに良さそうなところではあるものの、アニスにはそのお屋敷の場所の見当が付かない。


「あの、そのお屋敷への地図はありますか?」

「地図よりもっと良いものがあるのでっす。取って来るので待っているのでっす」


ペーターがテントの入口から見えなくなった。

アニスが慌ててテントの外に出ると、ペーターが自分のテントに入っていく様子が見えた。


そして少しすると、ペーターが何かを胸に抱えてテントから出て来た。


「これを、お渡しするのでっす」


そう言いながら差し出されたのは黄土色の模様の入ったこげ茶色の箱。

アニスには知識のない魔法が付与されているようで、鑑定で見ても何かの魔具としか分からない。


「これは何です?」

「魔具なのでっす。私が腰に付けている魔具と対になっていて、この対になる魔具の場所を教えてくれる物なのでっす。これなら私達がどこにいても見付けられるのでっす」


なるほど。ペーターの説明で知識を得たことで鑑定結果が変わり、説明通りの物であることが確認できた。


「どう使うの?」

「蓋を開けて、中にある魔石に魔力を与えるのでっす。そうすれば、私の持っている魔具の場所が頭の中に浮かぶのでっす。ただし、これを使うには条件がありまっす。上位魔法を余裕で発動できるだけの魔力量が必要なのでっす」


「え」


何故そんな沢山の魔力が必要なんだとアニスは思った。

どう考えてもアニスには発動できそうにない。


「貴女は魔力量は多いですか?」


駄目押しのように尋ねてくるペーターに、アニスは黙って首を横に振る。


「なら賢者様に使って貰うと良いのでっす。きっと、賢者様なら問題無いのでっす」

「そうですね」


感情の籠らない声で返事をするアニス。

シズアの居場所は自分で把握したかったのだが、仕方が無い。


「それじゃこれ、借りてきます」


アニスは魔具を収納サックに仕舞い、その場を離れようとするが、気になることを思い付いてアマンダを見る。


「ねえ、アマンダ。案内しなくてもダンジョンから出られる?」


アマンダは視線を逸らし、頬を指でポリポリと掻いた。


「まあ、多少心許ないところがあるものの、地図はあるから何とかなるさね」

「アマンダは方向音痴だから、私が地図を読むのですぅ」


横からチャウの突っ込みが入る。


流石に二層は真っ直ぐ歩くだけなので迷うことはないだろうが、一層は迷路になっている。出て来る魔獣はE級ばかりで虹色の翼の敵ではないとは思うものの、身動きの取れないシズアが一緒だ。

できるだけ不安要素は取り除いておきたい。


ならばとアニスは頭の中で呼び掛けて、了解の答えが来たので魔法の紋様を描く。


「サモン、アッシュ」


紋様が膨らみ、アッシュが現れた。


「アッシュ、来てくれてありがとう」


バーウ。

いつもより不機嫌そうな鳴き声だ。


「もしかして、呼ばなかったことを怒ってる?いやぁ、アッシュがいたら星爪コウモリが近寄って来ないかなぁって思ってさぁ。今度は呼ぶから機嫌直してよ」


バウ。

仕方が無いなぁという返事。


「それでね、アッシュ。今、シズが呪いで動けないんだ。だから私は今から賢者様を呼びに行こうと思ってて。他の人達は少ししたら子爵様のお屋敷に行くって言ってるけど、ここのダンジョンことを良く知らないから、皆を地上まで案内して貰える?」


バウッ。

元気よく承諾の返事をするアッシュ。


「それからシズのこと、護ってあげてね」


バウッ。

頼まれなくても当然のことと、頼もしい限りだ。


「なあ、アニス。その魔獣、グレイウルフに見えるんだが、人の言葉が分かるのかね?」

「アッシュはちゃんと分かってるよ。それに、このダンジョンの二層には何度も来ているから道を覚えてて、アマンダ達を出口まで連れてってくれるよ」

「それは頼もしいさね。アッシュ、私はアマンダ、よろしく」


バウッ。


アッシュがアマンダと挨拶を交わしてくれたことで、アニスはもう大丈夫だろうと考えた。


「それじゃ、私、賢者様のところに行って来る。アマンダ、シズのことお願いね」

「ああ、任せとくさね」


アニスは手を振ってその場を離れ、賢者のところへと向かうのだった。


アニスはアッシュを割りと放置しているみたいですね。

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