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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第四章 アニスとシズア、転機を迎える
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4-9. アニスとシズアはダンジョン内を案内する

シズアの胸騒ぎのような言葉もあり、アニスは慎重に周囲を確認しながら進んだ。しかし、何事もなく階段を下り切り、そのまま洞窟の入口に到達した。ここはもう、ダンジョンの二層だ。

一層の明かりが届かなくなり暗くなった階段の途中から光魔法(ライト)で足元を照らすことにしたのだが、アニスはその魔法をチャウには任せず、自分で発動させた。初級魔法は大抵の人が発動できたし、万が一の時に自分の魔法なら自由に動かせるからだ。


「月が出ているのですぅ」


チャウの言う通り、洞窟を出たところで空に月が見えた。半月くらいだが、十分に明るい。


「これならライトは要らないかね」


アマンダが問い掛けてきたが、アニスは首を横に振った。


「足元に何があるか分からないから、照らしておいた方が良いと思う」


いつもならアマンダと同じことをアニスも考えていたかも知れない。けれど今日は、慎重を期したかった。


「分かった。ここは案内人の判断に任せるさね」


アマンダが簡単に引き下がってくれたので、アニスはホッとする。


「この先はずっと草原になっているんだけど、途中の右側に森があって、そこで結構コウモリが目撃されてるから、そこに行こうと思う」


アニスが皆に聞こえるように大きな声で話した。


「いよいよ、待望の星爪コウモリとのご対面ですね。胸が高なりまっす」

「華麗に捕まえるのよ、ね、ダーリン」

「ハニー、私に任せるのでっす」


何やら夫婦が後ろの方でガサゴソしていたが、邪魔にならない限りは好きなようにして貰っても問題は無い。それよりも、案内人としてはコウモリの住む森まで皆を安全に連れていくことが重要だ。

アニスは、弱めたライト(明かり)の魔法で足元を薄く照らしながら、イヤリングのウィンドサーチ(探索魔法)を発動して周囲を警戒しつつ、草原に足を踏み出した。


広い草原で四方八方から狙われる可能性があることもあって、一行は陣形を変えている。アニスとシズアが先頭なことは変わらないが、その後ろに芸術家夫婦、その左右にマイケルとジェフの男性陣が並び、後ろがアマンダとチャウだ。


ダンジョンの二層にも、人を襲う魔獣がいない訳ではない。ただ、群れを成すことは無く単独であることと好戦的でもないので、腹を空かせていない限り、これだけ人が集まっていれば近寄ろうとはしない筈だ。

勿論、絶対大丈夫な保証も無いが、月明かりのお蔭でこの草原の中で近付くものがあれば、誰かが目視できる。


そうして暫く前へと進む。すると、キーッキーッと言う鳴き声と、バサッバサッと言う羽音が上の方から聞こえて来た。


「コウモリかな?」


シズアが声を掛けて来た。


「そうだと思う。あっ、あそこ」


アニスが指差した先で、ふらふらと空中を彷徨う小さな一対の光が見えた。星爪コウモリだ。その名の通り、翼の中央にある爪の部分が淡く光っている。


「おー。いました、星爪コウモリでっす。捕まえるのでっす」


後ろでピュッと音がした。何かがコウモリの傍まで到達するが、コウモリにぶつかることなく、どこかへ飛んで。


「きゃっ」


べちょっと言う音がして、その直後にシズアが声を上げた。


「シズ、どうしたの?」

「何かが飛んできて胸当てにくっついた。あ、これ、凄くベタベタして取れない、いや、手袋までくっついちゃった」


シズアが胸当てに付いたそれを剥がそうとうっかり手袋をはめた左手で持ってしまったために、更に事態が悪化する。


「あー、ごめんなさいでっす。コウモリを捕まえるためのトリモチが間違って当たってしまったでっす」


焦り顔のペーターが竿を持ったまま寄って来た。


「どうしてコウモリ目掛けて投げたトリモチがシズに当たるんです?」


依頼主ではあるものの、シズアのこととなるとアニスは自分を抑えきれず、目を細めて相手を見てしまう。


「いやぁ、トリモチが高く上がるようにと、長い竿に長い紐を付けてその先にトリモチを付けておいたのでっす。それがコウモリに当たらずに戻って来たところに、運悪く妹さんの防具があったと言うか何と言うか、本当に申し訳ないでっす」


事情を理解したアニスは、平身低頭のペーターを見て仕方ないかと考える。


「分かったから、トリモチはもう振り回さないで貰えますか?」

「は、はい。もう二度と振り回さないと約束するのでっす」


ペーターは相変わらずの低姿勢で、アニスの依頼を承諾した。


「それで、これ、どうやったら剥がせるんです?」

「えーと、油を使うと良いのでっす。コウモリを捕まえた時のために道具は持って来ているので、それを使うのでっす」


アタフタしながらペーターは収納バッグから油の入った瓶や布を取り出した。


「まずはこの布でできるだけトリモチを取り除くのでっす。それから別の布に油を染み込ませて(こす)るのでっす。良いですか、まずはこうやって」


と、シズアに触れようとしたペーターの腕を握って止める手があった。


「あーら、ダーリン。防具とは言っても、女の子にお触りするのはお上品ではないわ」


ペーターを止めたのは妻のパティだった。


「お嬢さんに付いてしまったトリモチは私が外しますわ。虹色の翼の皆さんは、近付くものが無いか、見張りをお願いできる?」


パティの指摘で、皆の注意がシズアに集まってしまっていることに気付いた虹色の翼は、きまり悪そうにシズア達を取り囲むように広がり、周囲の警戒にあたる。


「ごめんなさいね、シズア。ウチのダーリンがトリモチなんて付けてしまって」

「はい」


シズアの肩を優しく抱きしめて詫びの言葉を告げると、パティはペーターから布を取り上げてトリモチを剥がす作業を始めた。

それから十分あまり、パティがせっせと作業を行った結果、シズアの胸当てや皮の手袋についてしまったトリモチはすべて取り除くことができた。


「パティ、ありがとう。もう大丈夫だから」


シズアが礼を言うと、パティは手を休めてシズアの様子を確認して、満足そうに頷く。


「何とか取れて良かったわ。こんな事があって悪いのだけど、もう少し私達に付き合って貰える?」


「これからどうします?星爪コウモリを捕まえたいのなら私達でやりますけど?」


アニスの提案にパティが首を横に振る。


「いえ、コウモリの捕獲は止めておくわ。その代わり、しばらく腰を据えてじっくり観察したいのだけど」


「分かりました。見張っていれば良いですか?」

「それだと貴女達が疲れてしまうでしょう?」


そう言うと、パティはアマンダの方を向いた。


「アマンダ、貴女達結界の魔具を持っていたわよね」

「ええ、ここで使いますか?」


アマンダの返事に、パティは右手の方向を指差した。


「この森に星爪コウモリがいるのなら、もう少しあちらに行きたいの。月と森の配置が良さそうだから。そこに星爪コウモリが飛んでいれば、良い絵になりそう」

「では、そちらに移動しましょう」


一行は森には入らず、これまで進んで来た針路から右方向へと移動を開始した。

そして暫く進んだところでパティが満足そうに野営を告げ、アマンダ達が結界の魔具を設置する。


「私はこれからスケッチをするから、案内人のお嬢さん達はテントを張って寝てなさいな」

「え、でも、私達も見張りをしますよ」


アニスは反論するが、パティは首を横に振った。


「良いのよ、それは虹色の翼のお仕事だから。貴女達は朝起きたらバアブの林に行って来れば良いわ。そういう約束だったでしょう?ねえ、アマンダ、貴女はどう思う?」

「結界の魔具も使っているから、見張りは私達だけで十分。アニス達は採取に行って来れば良いさね」


アマンダの仲間達も微笑んでくれているのを見て、アニスは皆の言葉に甘えることにした。


「ありがとう」


アニス達はシズアの収納サックから折り畳んだテント布と支柱を取り出すと、それを組み立てて中に入る。

朝起きたらバアブの林にサッと行ってきて、見張りを交代しよう。

そう考えながら寝袋に潜り込んで寝付いたアニス。


しかし、予定通りにはいかなかった。


アニスが目を覚ました時、辺りは少し明るくなり始めていたが、アニスが起きたのは明るかったからではなく、呻き声が聞こえたためだった。

隣を見ると、シズアが苦悶のの表情を浮かべている。

妹の異常事態にアニスの目は一瞬で醒め、寝袋から飛び出すとシズアの手に触れる。


「シズ、苦しそうだけど、何かあった?」


シズアの目がアニスを見た。


「分からない。だけど、身体がだるくて重いの。それに魔力が動かせないみたい」


アニスが視たところでは、シズアの魔力は失われてはいない。けれど、制御ができておらず、シズアの体内で暴れまわっているようだった。


どうしてこんなことになってしまったのか。アニスにはその原因が皆目見当もつかず、ただ呆然とシズアを眺めていることしかできなかった。


こちらの世界では、トリモチを使った捕獲は禁止されていますので、良い子は真似してはいけませんよ。


それにしても、シズアはどうなってしまったのか。心配ですね。

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