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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第四章 アニスとシズア、転機を迎える
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4-6. アニスとシズアは凧の材料が欲しい

アニスとシズアはヴィクトルの工房の前に立っていた。

いつものようにヴィクトルは店先の馬車に張り付いて作業をしている。


「ヴィクトル、こんにちは」


シズアが声を掛けると、ヴィクトルは振り返った。


「ああ、お前達か。どうした?算盤の生産なら順調に進んでるぞ」


その答えにシズアは首を横に振る。


「ううん、今日は算盤のことではなくて。ところで、その馬車は修理してるの?」

「いや、少し調子が悪いみたいだと言われて点検してるんだが、油を注せば大丈夫そうなんだよな」


と、それまで馬車を眺めていたヴィクトルがアニス達の方に向き直る。


「そう言えば、二輪車の話、領都にも届いているみたいだぞ。どこの商会で扱っているのかと訊ねられた」


「それで教えたの?」


不安げな表情になるシズア。


「いや、あれは道楽で作っているものだから、売り物にはしてないぞと言ってやった。それで良いんだろ?」


「うん、ありがとう。助かった」


シズアはヴィクトルが上手くあしらってくれたことにホッとする。


「それでだが、算盤でないとすると、今日は何の用だ?二輪車か?」

「ううん、違うよ。今度は凧を作りたくて」

「凧?一体何に使うんだ、そんな物」


使い道が思い浮かばず、ヴィクトルは怪訝な顔をしてみせた。


「空を飛びたくて」

「空を飛ぶ?空を飛ぶのに凧が使えるのか?空を飛ぶと言えば魔法だとばかり思っていたが、魔法で飛ぶのでは駄目なのか?」


畳み掛けるように問いを重ねるヴィクトルだったが、その時、ん?と何かを思い出した顔になる。


「魔法と言えば、この前、物凄い速さで街の上空を飛んでいったものがあったぞ。お前達、知ってるか?」

「ヴィクトルは、その飛んでる物を見たの?」


シズアが上目遣いに見る。


「見たと言うか、何と言うか。その時俺は、いつものように店先で仕事してたんだ。そしたら突然、上から物凄い音がしたかと思うと、隣りの街に向かって飛んで行く物が見えた。だがそれも一瞬のことで、あっという間に見えなくなってな」


ヴィクトルが興奮気味に語る。


「え、あー、それ私だと思う」


目を逸らしながらシズアが告白する。


「あれはシズアだったのか?一体何をしていたんだ?」

「魔法でどれくらいまで速く飛べるのか試してたの。でも、結構空気抵抗受けちゃって大変だった」


「空気抵抗?何だそれは?」

「空気の中を動くものの動きを遅くしようとする力のこと。動きが速くなればなるほど、空気抵抗は大きくなるの。ほら、馬車だって正面から吹く風が強くなると前に進め難くなるでしょう?それと同じよ」


シズアの説明に、ヴィクトルが頷く。


「確かに風が強いと馬車は押されてしまうな。目を開けているのも大変な風だと尚更だ」

「そう、その通り。あ、そういえば私、風除け眼鏡が欲しかったんだ」


「風除け眼鏡?ただの眼鏡と何が違うんだ?」

「風が吹きつけても目が痛くならないもの」

「防塵眼鏡ならあるが」


ヴィクトルが棚に置いてあったそれを取り上げて、シズアに渡す。


シズアはそれを確認するが、残念そうな表情で首を横に振った。


「これ、目の脇に隙間が無いのは良いんだけど、強い風が吹きつけると外れてしまうよね?」

「おっと、そう言うことか。バンドで押さえて飛ばないようにしたいんだな」

「ええ、そう。お願いしても良い?」


シズアが両手を組んでお願いの姿勢になる。


それを見たヴィクトルは、笑顔で片手を挙げた。


「いつものことだ、問題ない。取り敢えず、有り合わせのもので試作してみるよ。一週間あれば作れるだろう」

「アニーのと二人分でも?」

「それは構わんが、試作品だぞ?」


ヴィクトルはまず一つ作ってみてから本番に臨むつもりでいた。


「実用上問題なければ、それでも十分よ」

「それで良いなら、俺は構わんが」

「ええ、良いわ」


シズアとヴィクトルが視線を合わせてにっこりと微笑み合う。交渉成立。


そこで、シズアが話を戻す。


「盛大に話が逸れてしまったわね。ともかく、風の飛行魔法は試したのよ。それでただ空中に浮かぶだけでも魔力を結構使うし、空気抵抗のお蔭でエアブーストにも凄く魔力が必要になるから、そんなに遠くまでは行けなくて」


「だから凧なのか?」

「そう。これから作ろうとしている凧なら、飛ぶことに魔法は要らないから、魔法は進むことだけに使えるし、進むのも効率よくやれるし。何よりも」


ここが重要とばかりに、シズアは人差し指を上に立ててニッコリ微笑む。


「操縦しているって感じが良いわ」


これがシズアの本音なんだとアニスは思う。

ヴィクトルとの話の中では言っていなかったが、シズアが街の上空を飛んだのは、飛行魔法が付与された箒を試乗していた時のことだ。その時、シズアは速く飛べるのは良いけど、面白みに欠けると感想を漏らしていた。


結局、その後になっても、シズアは街との行き来には二輪車を使っている。二輪車の方が操縦している感覚があって楽しいのだそうだ。


それがヴィクトルに伝わっているとは思えないが、それでもヴィクトルはシズアの話を聞いて頷いていた。


「求めたいものは何となくだが分かった。それでだ、一体どんなものを作ろうとしているか、詳しく教えて貰いたんだが」

「図面を持ってきたから、それで説明する」

「よし、じゃあ奥へ行こう」


三人は工房の奥の大きなテーブルのところへと移動する。

そのテーブルの上に、シズアが持って来た図面を広げた。


「基本的には軽くて丈夫な枠組みを組んで、そこに水平に布を渡して、その下に人がぶら下がるの」


そこから、シズアは凧の細かい部分について説明していく。


ヴィクトルは腕を組み、時たま質問を投げ掛けながらシズアの話を聞いていた。


「本当にこれで飛べるのかは分からんが、形は分かった。布はテント布でいけそうだが、枠組みの部分の材料をどうするかだな。丈夫で軽くてしなやかで折れにくい棒が必要なんだよな」


「うん、そう」

「何にするかな?ここら辺で手に入る物でとなると、そうだ、バアブの木なんかどうだ?」


結構良い思い付きと見えて、ヴィクトルは満足そうに微笑む。


「バアブの木?」

「ああ、幹が細長く伸びる草みたいな木だ。結構な高さにまで成長するし、強度もあるから、凧の枠組みに丁度良いんじゃないかと思ってな」


「ふーん。この近くに生えてるの?」


この辺りに生えているのであれば名前を耳にしたことがあっても良さそうなのものだが、シズアにとってバアブの木は初めて聞く名前だった。


「小ダンジョンの二層のどこかにバアブの林があった筈だ。採取依頼を出しても良いが、どうする?」


ヴィクトルの言葉を受けてシズアがアニスを見ると、アニスが頷く。


「小ダンジョンの二層なら何度か行ってるから、私達で採って来るよ」

「そうか。ならこっちは他の材料集めを進めておくとしようか。あれ?凧は一つで良いのか?」

「良いよ。アニーは操縦できないと思うから、二人で一つの凧に乗るつもり」


「え?まあ、最初はそうかもだけど、私も自分の凧が欲しいような。ねぇ、シズ、私も練習したら、一人で飛べるようになれないかな?」


アニスが控え目に希望を口にする。


「きちんと練習すれば飛べるようになると思う。でも、最初は私と二人で飛んで慣れるところからになるよ」

「まあ、それはそうか」


シズアの言うことはもっともだとアニスも分かってはいるのだが、シズアに操縦を任せることに恐れの気持ちが入り混じる。


「アニー、何か問題?」


「あ、いや、凧って乗ったことが無いから怖くないかなぁって」

「大丈夫よ、アニー。私はいつだって安全第一だから」


「いつも?」

「ええ」


「二輪車を運転している時も?」

「勿論よ」


胸を張るシズアに対して、早いところ自分一人で凧に乗れるようになりたいと考えるアニスだった。


シズアは、サーキットでのスピードレースよりも、一般道でのラリーが好きなタイプみたいです。


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