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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第四章 アニスとシズア、転機を迎える
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4-1. シズアは新しい凧を作りたい

昼食後、シズアが子供部屋の机に向かっていると、勢いよく扉が開いて姉のアニスが入ってきた。


「シズ、ただいま」

「お帰り、アニー」


午前中、伯母のマーサの宿を手伝いに出掛けていたアニスが帰ってきたのだ。この時間だと、仕事が終わって直ぐに街を出てきたと思われる。


「早かったね」

「今日はシズが街にいなかったからね。他に用事もなかったし」


「ヴィクトルのところにも行かなかったの?」

「行ってないよ。あれ、行った方が良かった?」


心配そうな表情になったアニスを安心させるように、笑顔で首を横に振るシズア。


「ううん、大丈夫」

「本当?」

「まあ、どんな様子か気にならないこともないけど、昨日行ってるしね。それに今週中にまた行くつもりだから」


旅商人のダリアに魔動二輪車を渡したときに算盤を千台買うと宣言され、それからシズアは工房をやっているヴィクトルと品質を落とさずに大量生産する方法の検討に取り組んでいた。

それで、昨日まで毎日ヴィクトルの工房に通っていたのだ。


それが一段落したので、シズアは今日一日、家でゆっくりしていた。

それでもヴィクトルのところの様子が気になってしまったのだが、そこまで重要な話ではない。

だから、アニスが気にしないようにフォローを入れたのだ。


「まあ、問題ないなら良いけど。で、シズは何を描いてるの?」


アニスは机の上に広げてある紙を見て、気になって聞いてみる。


「ああこれ?何て言えば良いかな?凧を作ってみようと思って」

「凧?何のために?」


凧と言えば、春の終わり、その年の実りを祈念する祭礼の時に揚げる凧のことしか思いつかない。その時期は、神をかたどった物など、大小様々な凧が揚げられて空が賑やかになる。


しかし、それ以外に凧揚げしているのを見たことがない。

だから、アニスにはシズアの考えていることが分からずにいた。


「あー、アニスは春の祭礼の凧揚げくらいしか思い付かないよね。それとは違うんものなのだけど、適切な言葉が思い浮かばなくて」


「もしかして、また新しい物を作ろうとしてるの?でも、凧だよね。何に使うの?」

「遠くに移動するのに、空を飛んで行けば早いかなぁと思って」


「空を飛ぶなら飛行魔法があるよね?」


風魔法の上位魔法に天空魔法がある。それを使えば道具に頼らなくても空を飛べるのではとアニスは考えた。

シズアは風魔法が使えるので、熟練度が上がれば、飛行魔法も使えるようになる筈なのだ。


「飛行魔法は魔力の消費量が大きいから、そんなに遠くまではいけないらしいよ。ここから街までは行けるかもだけど、領都までは遠すぎて魔力が持たないだろうって」

「その話、誰に聞いたの?」

「え?イラとジャンの二人よ。この前、小ダンジョンの帰りに話してて」

「そか」


イラ達が話していたのは一般的な内容で、シズアの魔力量なら領都にも行けてしまうような気がしなくもない。

でも、アニスは余計なことは言うまいと考えた。

シズアなら、きっとアニスの魔力でも飛べるものを作ってくれるだろうし、それに何よりシズアは物を作るのが楽しそうなのだ。楽しくてやっていることを止めるような野暮なことはしたくない。


「それで、その飛行凧を作るのに、あとどれくらい掛かるの?」

「設計図は大体できたから、後はヴィクトルとの相談ね。材料がすぐ手に入るかどうかで決まってくると思うわ。そう言えば、アニーはフライの魔法は使える?」


フライは初級の天空魔法で、風の力で空中に浮かび上がるものだ。


「そんなに長い間続けられはしないけど、使えることは使えるよ。でも、それが何か関係あるの?」

「いざという時の墜落対策を考えておいた方が良いかなと思って」

「飛行凧って墜落するものなの?」


思い起こせば、祭礼に揚げる凧も風向きが一定しないときなど偶に墜落していたことがあった。あんな風に地上に落ちたら、ひとたまりもないだろうなとアニスは心配になる。


「ううん。普通ならそんな簡単に墜落することはないよ。でも、この世界には魔法があって、いつ何が起きるか分からないでしょう?だから、安全対策はしておきたくて」


アニスにもシズアの言いたいことは何となくだが伝わった。


「そうだとすると、普通に魔法を発動できるだけでは駄目なんじゃないかな。咄嗟の時に、のんびり詠唱なんかしてられないよね?」


「それはそう思うけど、私、アニーみたく無詠唱では魔法を発動できないよ。他に何かやりようがあるの?」

「まぁ、あるにはあるよ。余りやるなとは言われているんだけど」


アニスはシズアから目を逸らして返事をする。


この様子だと、シズアには内緒にしてきたことに違いない。そう考えると、シズアにはピンと来るものがあった。


「もしかして、付与魔法?フライって付与できるの?」


シズアに見詰められて、アニスは素直に頷いた。


「うん、まあ内緒だけどできるよ。だから、防具とか身に着ける物に付与しておけば、咄嗟の時でも直ぐにフライを発動できるし、その方が安全対策には良いよね」

「それはその通りだと思うけど、内緒なのに付与して良いの?鑑定魔法で見付からない?」

「それも対策はあるからね。試しに新しく作ったアームドバッファローの皮の防具に付与してみるよ」


防具に付与して貰っておけば、高く飛び上がる時にも使えて便利そうだし、とシズアは頭の中でフライの魔法付与が活かせそうな場面を色々と思い浮かべてみる。そんなとき、一つの可能性に気が付いた。


「ねえ、アニー。フライの付与って(ほうき)にもできるよね?」

「箒?できるけど、どうして箒?」


アニスにはシズアの考えていることが理解できない。


「勿論、魔法使いが空を飛ぶときには箒に乗るものだからよ」

「えっ、そうなの?私、そんなの見たことも聞いたことも無いよ。百歩譲って、魔法の杖ならありそうだけど」


アニスの反論にシズアは大きく首を横に振る。


「ううん、箒。絶対に箒。百歩譲っても、箒」

「それ、全然譲ってないし」


アニスは突っ込むが、それくらいでめげるシズアではない。


「それでアニーは箒にフライを付与してくれるの?くれないの?」


シズアから物凄いプレッシャーを受けて、タジタジになるアニス。


「付与するのは良いけど、フライって浮くだけだからね。前に進むなら、エアブーストなんかも必要だよ。それは自分で発動するの?」

「あー、そうね」


シズアは頬に手を当て考える。

「だったら、箒の柄にフライを付与して、穂先にエアブーストを付与して欲しいかな」

「箒の柄を前にして跨ぐ感じ?」

「そうそう、そんな感じ」


「分かった、やってみる。明日、街に行った時に箒を買って来るよ」

「アニー、大好き。明日が楽しみだなぁ」


シズアは椅子の背に寄り掛かり、ぽわわんとしている。


「シズなら、自分の魔法で飛べると思うけどね」

「それだと面白くないの。箒に乗って運転するところが良いのよ」

「あー」


何となくシズアの求めていることがアニスにも分かった。シズアは本質的に乗り物を運転するのが好きなのだ。二輪車を運転したがるのと、根っこは同じところにある。


アニスがそんなシズアの性格の一端を捉えた時、玄関を叩く音がした。

続いて、サマンサが応対する音が聞こえ、玄関の扉が閉まった音の後に、馬のいななきと馬車の車輪の軋む音が耳に入ってくる。


「何だろう?」


シズアとアニスが窓を見ると、立派な馬車が去って行くのが見えた。


「誰か来たのかな?」


しかし、玄関の扉が閉まった後、家の中が静かなので来訪者が留まっているとも思えない。

アニスもシズアも首を傾げるが、その答えは直ぐに分かった。


「アニスは帰っていたわよね」


トントンと部屋の扉を叩く音がしてから、扉が開き、サマンサが姿を現した。


「うん、いるよ。母さん、何?」


「貴女に封書が来たのですけど」

「誰から?」


サマンサの不安げな表情が気になる。


「それが子爵様なのよ。貴女、何かしたの?」


差し出された封書を受け取り、その裏を見ると、確かにザイアス子爵と書いてある。ご丁寧に封蝋までしてあり、それに刻まれている紋章もいつも見慣れた紋章と似通っているので、本物に違いない。


ザイアス子爵とは、アニスが毎日通っているザイアスの街とその周辺の土地の領主だ。街の入口の門の上には子爵家の紋章が掲げてある。封蝋に刻まれた紋章は、それより幾分簡略化されたものだが、基本的な構図は一緒だった。だからアニスもそれを見て、封書が子爵からのものだと分かった。


だが、アニスには子爵から直々に封書が来る理由にまったく心当たりがない。


「私、何もしてないよ。どうしてだろう」


封書を手に持って机に向かうと、シズアがペン立てに差してあったペーパーナイフを取り、アニスに差し出してくれた。


アニスはシズアに「ありがとう」と言いながらペーパーナイフを受け取り、封筒の上部を切って中に収められていた手紙を取り出す。


「えーと、何々?コッペル村のアニス殿。貴殿の話を伺いたく(そうろう)。ついては貴殿単身にて今度の土曜日に我が家へ来られたし」


「えー、アニーだけなの?私も行きたかったなぁ」

「どんな話かも分からないのに、良く行く気になるね、シズ」


アニスは半分呆れ顔だが、シズアは微笑んでいる。


「だって、ザイアス子爵様はここの領主様でしょう?何も悪いことしていないのなら、変なことにはならないって。それに、貴族のお屋敷の中がどんななのか見てみたいし」


まあ確かに、アニスも貴族の屋敷には行ったことがないので、それは見てみたいところだ。


さて、子供達二人はのほほんと会話をしていたが、その横で、母親のサマンサは一人ソワソワしていた。


「子爵様からの呼出状だなんて、どうしましょう。正装を用意しなくちゃいけないけれど、次の土曜日までに間に合うかしら」


「あ、母さん、服装なら大丈夫みたいだよ。さっきの文の下に、ダンジョンに向かうための冒険者装備で来られたし、って書いてあるから。ほらこれ」


アニスから渡された手紙に目を通して頷くサマンサ。


「あら、本当ね。冒険者の装備で来いってどういうことなのかしら」

「さあ、何でだろうね」


貴族の考えることは皆目見当も付かないよとアニスは思った。


飛行凧って、つまりはハングライダーのことです。


シズアは前世でバイクもハングライダーも乗ってました。要は趣味ですね。


さて、本話から4章になります。相変わらずの不定期投稿ですが、話の内容を忘れられないように間隔を開けずに頑張りたいと思います。


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(2023/12/30追記)

改行の付け方について、読み易いように五章以降と合わせました。合わせて少し表現を見直しているところもあります。

見直しは四章全体に及びます。

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