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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-19. 間話・ダリアは推進板を複製したい

「ザイアスの街で魔動二輪車を扱っていたのは、小娘達の商会だったと言うのか」

「はい、その通りです」


ダリアは返事をした。


ここは領都ザイナッハにある商業ギルドの建物の中、ギルドマスターの部屋。

ダリアはギルドマスター席に向かって起立した状態で、ケビンはダリアの左後ろに控えている。

そのギルドマスター席には、上質な服に身を包んだ腹の突き出た男性がふんぞり返って座っていた。商業ギルドのギルドマスターであるファルスだ。


ファルスは、ダリアから聞かされた内容を頭の中で吟味していた。


「未成年者が商会を設立するには、後見人が必要だったな。誰が後見人になっている?」


当然調べているのだろうな、と言わんばかりの態度でダリアに尋ねる。


「商会の設立当初は彼女達の母親でしたが、その後、エバンス商会のモーリスに変わっています」


きっちり答えるダリア。その辺りは卒がない。


「エバンス商会のモーリス?あぁ、カリムの息子か。しかし何故またモーリスが後見人になったんだ?」

「モーリスは、最初の後見人の弟だそうですよ。領都で商会を営んでいる弟の方が、より強固な後ろ盾になると考えたのだと思います」


「モーリスが弟?カリムの娘?もしかしてサマンサか。あの子は聡明な子だったなぁ、良い商人になると思っていたのに冒険者になると言って家を出たと聞いていたんだが。そうか、サマンサの娘達か。どうだった、その二人は。サマンサの血を引いて賢かったか?」


残念ながらダリアはサマンサとは会ったことが無い。なので、二人を見て感じたことをそのまま伝えるしかなかった。


「そうですね。姉のアニスは普通そうに見えましたが、妹のシズアは何と言うか常軌を逸している感じでしたね」

「常軌を逸している?それはまた穏やかではない評価だな。どの辺りがそう思わせたんだ?」


「取引の話合いでの立ち振る舞いも立派でしたし、二輪車の車体設計や算盤の試作に調整などもすべて一人で取り仕切っていたようです。ザイアスの街の人達は普通に受け入れていたみたいですが、私にはとても十歳の子にできることには思えなくて」

「そうか」


ファルスは、手で顎を撫でながら思考を巡らせているように見えた。


「知人の孫娘だからとここで情報を握り潰したとて、いずれ誰かが探り当ててしまうだろうな。ならば自分で情報を流した方が、まだ対処がし易いか」


その言葉は独り言のように聞こえたため、ダリアは反応せずに黙って立っていた。


そんなダリアをファルスの視線が捉える。


「他に伝えるべきことはあるか?」

「いえ、他には何も」

「であれば、ここまでだな。情報料はお前の商会の口座に振り込んでおけば良いか?」


ファルスの確認にダリアは俯き加減に暫し黙っていたが、意を決して顔を上げると背筋を伸ばした。


「はい、それなのですが、ギルマスに一つお願いが」

「儂にか?何だ?」


そこでダリアは依頼事項をファルスに伝えた。


* * *


「ねぇ、お嬢さん。シズアのこと、ギルマスに話しちゃって良かったんですか?」


ダリアとケビンは商業ギルドの建物を出て、ザイナッハの街中を歩いている。


「ケビンもギルマスの話を聞いていたでしょう?私達が話さなくたって、誰か他の人が伝えてしまうわよ。だったら私達が得した方が良いじゃない」


「それ、ギルマスが言っていたのと微妙に違うと思うんですけど」

「そう?些末なことを気にしても仕方が無いわよ」


ダリアは目先の自分の利益のことしか考えていないのだが、ファルスはもっと大局的な視点で語っていたようにケビンには聞こえていた。それは随分と大きな違いに思えるのだが、指摘をしても流されるだけの展開しか想像できず、面倒になったケビンは話題を切り替えることにする。


「ところで、お嬢さん。モーリスとの勝負、勝てると思いますか?」

「魔動二輪車の複製作りのこと?鍵は推進板と思うけど、どちらが先に複製を作れるか微妙なところね。だから急いでギルマスのところにも行ったし、こうして紹介状も書いて貰ったのだけど」


ダリアは収納ポーチから一通の封筒を取り出した。先程ギルマスのファルスに書いて貰った紹介状だ。


「今向かっている魔具工房がこの領都で一番と言う話ですから、モーリスもきっとそこを使おうと考えているでしょうしね」

「ええ、それに彼は親の代からここで商会を開いているから、工房と繋がりがあっても可笑しくない。あとはギルマスとモーリスとどちらの方が工房に対してより大きな影響力を持っているか。その競争になるわね」


「そうかも知れないんですけど、少し気になるのですよね。そんな単純な話なのだろうかって」


ケビンは、シズア達との話し合いのことを思い出していた。モーリスが参加して来たので、モーリスとの競争のようなことになっているが、元はシズア達がダリアの商会の実力を試そうと出してきた課題なのだ。


「所詮、未成年の子達が考えたことよ。大人がその気になったら、あっという間に片付くんだってことを教えてあげるのよ」

「そうですか。まあ、良いですけど」


先程、ファルスに対して常軌を逸している相手だったと言っていたのは誰だったのかを指摘しようか考えるケビン。いや、自分が指摘しなくても、魔具工房に行けばきっと何かが分かるような予感がする。だから、それに任せておけば良いだろう。


暫く歩いて、工房の建物の前まで来たダリアとケビンの二人。

ダリアはさっさと扉を開けて店の中へ入っていった。


「ここの親方はいるかしら?話がしたいのだけど」


ケビンが慌てて後から店に入った時には、ダリアは既に奥のカウンターの前で男性の店員に話し掛けていたところだった。


「工房長は、只今取り込んでおりまして。あの、面会のお約束はされているでしょうか?」

「いえ、約束はしてないわ。でも、商業ギルドのギルドマスターに紹介して貰ったの。これが紹介状だから確認して貰える?」


ダリアから封筒を受け取ると、店員は中に入っていた紙を取り出し、書かれている文面を確認した。


「はい、確かに紹介状ですね。少々お待ちいただけますか、確認して参りますので」

「分かったから、早く話を通してきて頂戴」


店員は紹介状を持ったまま店の奥へと消え、五分と経たずに再び店内に戻って来た。


その店員の表情が奥に向かう前と同様に申し訳なさそうな顔のままなのを見たダリアは、この後言われることについて(おおよ)そのところを察した。


「申し訳ございません。やはり工房長は本日既に予定が入っておりまして、お話できるのは早くて二時間後になるとのことでした」


「二時間後ね」


やはり直ぐには会って貰えないらしい。

しかし、ダリアとしては、物分かり良くハイそうですかとは言いたくなかった。悪足掻きかもしれないにせよ、できる限り粘っておきたい。


「それはギルドマスターからの紹介よりも優先しなければならない予定ってことで良いの?」


念押しのようなダリアの問いかけにも、店員は頷いた。


「はい、紹介状には緊急対応が必要であるとは書かれていませんでしたから、先約が優先します。そうでないと、店の信用に関わりますので」


店員の答えは筋が通っている。ダリアが無茶なことを言い出さないかと後ろでケビンが心配そうにソワソワしているが、ケビンに言われずともダリアも分かっている。


これから世話になろうとしている店と良好な関係を築きたいと考えれば、ここら辺が潮時だ。

ただ、もう一手くらい無いものか。

ダリアが踏ん切りを付けられずにいるところに、背後で店の扉が開いた音がした。


「おや、エランツェ商会のお二人ですか。奇遇ですねと言いたいところだけど、まあ、ここに来るのは必然だよね」


ダリアが声のする方を振り返ると、そこにはモーリスが立っていた。


「あ、モーリス、いらっしゃい。工房長がお待ちです。奥へどうぞ」


男性店員はダリアに向けていた表情とは違い、笑顔でモーリスを出迎える。


「ああ、ありがとう。それと、この二人も同席させたいからよろしく」

「は?」


ダリアは怪訝な表情でモーリスに突っかかる。


「私達は競争相手ですよ。何で敵に塩を送るようなことを言い出すんです?」

「別に君達のためを思っているんじゃないんだ。工房長のエドガーに二度手間を掛けさせたくないんだよ」

「どういう意味です?」


首を傾げるダリアに、モーリスは笑顔で答える。


「話を聞けばわかる。そこに突っ立ってないで付いて来なさい」


モーリスに促され、仕方なくダリア達は一緒に店の奥へと入る。


店員に通されたのは、応接室だった。

モーリスとダリアが来客側のソファに座り、ケビンはダリアの後ろに立つ。

間を置かずに、二人のドワーフが入って来て、モーリス達とは反対側のソファに座った。

そして、若いドワーフは手に持っていた金属板を中央のテーブルに置く。


「それって推進板」

「そうだ。昨日、彼らに渡して調べて貰っていた。あ、そうそう、僕の前にいるのが工房長のエドガー、隣が若手のホープのコルヴィン。エドガー、僕の隣はエランツェ商会のダリア、後ろはケビンだ」


モーリスに紹介されて「よろしく」と言いながら、ダリアは一日遅れを取った悔しさを心の中で噛み締める。


「それでどうだった?」


モーリスの問い掛けに、二人のドワーフは揃って首を横に振った。


「やはり駄目だな。俺達の手には負えん代物だ。王都に持って行けば、もしかしたらどうにかなるかも知れんが、可能性はかなり低いだろうな」

「そんななのか?」

「ああ、コルヴィン、説明して差し上げろ」


エドガーの指示でコルヴィンが詳しく説明してくれたが、複雑度やら多層化やら、ダリアにはまったくチンプンカンプンな内容だった。


「うむ、まあともかく、僕達はしてやられたようだね」


モーリスはダリアに苦笑いしてみせた。


「こうなることが分かっていたと?シズアが?」


ダリアの言葉にモーリスはかぶりを振る。


「あの時の話の流れを思い出すと良い。この勝負を持ち出したのはアニスだよ。シズアはアニスの言うことを信じただけだ」


あの話し合いの時、殆ど発言をしなかったアニスの方が推進板のことを良く知っていた?

ただ姉と言うだけで商会長になっているのかと考えていたが、もしかして、私はファルスに間違った情報を与えてしまっていたのかも知れない。


ダリアは心の中でアニスに対する評価の見直しをかけつつ、あの二人には負けたくないと静かに闘志を燃やしていたのだった。


勝負はアニスの勝ち?いや、ダリアはこれくらいでは諦めなさそうですよね。


ですが、3章はここまでです。次からは4章になります。


引き続きお読みいただけると嬉しいです。



(2024/5/4追記)


「魔道具」ではなくて「魔具」でしたので、修正しました。

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