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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-18. シズアは上手に交渉したい

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」


シズアが話し始める。

時は光曜日(ヴェルディ)の午後の昼下がり、マーサの宿の食堂にあるテーブルの一つを出席者が囲んでいる。


長方形のテーブルの長い辺の片側にはシズアとアニス、その向かい側にダリアとケビン、そしてモーリスは、どちらとも違う立場を表明するかのようにシズアとダリアの側の短い辺に一人で着席していた。


既にそれぞれ挨拶は済ませている。初対面だったのはモーリスとダリア達二人だったが、それでも互いの商会のことは耳にしたことがあるらしい。


「先日、エランツェ商会のダリアから算盤の販売を手掛けたいとの希望をいただきまして、今日はそれについてどうするかを話し合いたいと思います」


「それなんだけど」


ダリアが手を挙げて、シズアに発言の許可を求めてきた。


「何でしょう?」


「取引の対象を算盤以外にも広げたいんだけど」

「え?」


シズアは可愛く首を傾げる。


「算盤以外に取引できるものはありませんよ?」


「そんなことは無い筈よ。貴女達、あの魔力で動く二輪車を売っているんでしょう?それも扱わせてほしいわ」

「―――」


新たな要求をして来たダリアをじっと見詰めつつも、シズアは暫し口を開かず無言で応じた。


「それでは算盤の取引についてですが」

「ちょっと待ってよ」


シズアが話を再開しようとするのをダリアが遮る。


「何か?」

「何か、じゃないでしょう?私の話を聞いてないの?」


「えーと、あー、そうですね。想定に無いご意見を頂戴しまして、こうした話し合いに不慣れな私としましては、取り敢えず聞かなかったことにして話を先に進めるのが楽だなぁと」

「無かったことにしちゃ駄目だってば」


ダリアがテーブルに両手を掛けて、懸命に突っ込みを入れる。


「どうしてもですか?」

「どうしてもよ」


ダリアがそう簡単に引き下がりそうもないことを見たシズアは、小さく溜息を吐いてから口を開く。


「では、その二輪車は、もう見られているってことで良いですか?」

「良いわよ」


シズアが二輪車の話題に応じたことで、ダリアは機嫌を良くしたようで、力を抜いて席に深く座り直していた。


「なら構造は説明しなくても分かると思いますけど、あの二輪車が魔力で進むのは、空気を吹き出す魔法が付与された推進板が取り付けてあるからです。それもお分かりですよね?」

「ええ」

「こちらとしてできるのは、推進板以外の部分をご提供するところまでです。推進板については賢者様と直接交渉して入手してください」


真剣な表情で真っすぐに自分を見詰めるシズアの視線を、ダリアは余裕の表情で受け止める。


「交渉するのは構わないけど、その賢者様との話し合いの場を用意するくらいはして貰えるわよね?」


腕を組み尊大な態度で要求を突き付けて来たダリアに、優位な立場にいる筈のシズアの側が動揺の色を見せた。


「えっ?何でそこまでやらないといけないんです?こちらからお願いしている話でもないのに」

「貴女達に教えて貰ったサラという冒険者に連絡が取れないのよ。冒険者ギルドがどこまできちんとやってくれているのか分からないけど、貴女達が自分で賢者様に会いに行けと言うのなら、冒険者ギルドにクレームを入れまくるしかなくなるわ。それでも良いのならどうぞご自由に」


ダリアは腕を組んでにやりを微笑んでみせる。


「まったく、まともに話をしようとすると面倒くさい奴だって聞いてたけど、本当にその通りね」


相手に聞こえないようにシズアは小さく呟く。


シズアは昨日、モーリスと会った時にダリアにまつわる噂話を教えて貰っていた。

だから最初に二輪車の話を持ち出された時に完全に無視したのだが、結局、上手くいかずに何故かこちらの方が譲歩しなくてはならない雰囲気になっている。


さて、どうしようかと思案しているシズアの耳元にアニスが口を近付けてきた。


「あのさ、シズ。私、思ったんだけど」


他の人に聞かれないよう、アニスは口に手を添え、小声で自分の考えをシズアに伝える。


「えっ、それで大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。だって」


アニスから追加の説明を聞いて、シズアは頷いた。


「私には良く分からないけど、アニーがそう言うなら」


シズアはアニスに向けてにっこり微笑むと、ダリアの方に視線を移す。


「賢者様との話し合いの場をご用意しましょう。ただし、条件があります」

「詰まらない条件だったら、乗らないわよ」


ダリアは相変わらず態度が大きかったが、シズアの表情には余裕が伺える。


「推進板付きの二輪車をこちらで一台用意します。その複製を作ってみてください。見事に作れたら、貴女に会ってくれるように私達から賢者様にお願いします。それでいかがでしょうか」


挑戦的な笑みを浮かべるシズアに、ダリアもニヤリと口角を上げる。


「ふーん、私を試そうってこと?面白いことを考えるじゃない。分かったわ、その勝負、受けてあげる」

「そう言って貰えると助かります。それで期限を設けたいと思うのですが、一台をお渡ししてから半年間ではどうでしょう?」


シズアの提案にダリアは首を横に振る。


「ううん、半年も要らないわ」


そして、右手の指を三本立ててから前に突き出してみせる。


「三か月あれば十分よ」


鼻息も荒く、自信満々に自ら期間を半分に設定してしまうダリア。

この課題は間違いだったかとシズアは横目でアニスを見るが、アニスもアニスで不敵な笑みを浮かべていた。


「お手並み拝見だね」


アニスも相当な強気だった。


「なぁ、その面白そうな勝負、僕も混ぜてくれないか?」


それまで黙ってシズア達のやり取りを眺めていたモーリスが口を挟む。


「もう一台用意して欲しいと?」


貸出用だろうと二輪車を用意するにはお金が掛かる。シズアは頭の中で算盤を弾いていた。


「減価償却費分くらいは払うよ。何なら普通にレンタル料でも構わないけど。ダリアもそうしたら?期間を延長したければ、その分のレンタル料を払うってことで」

「別に私は三ヶ月で十分だけど、その提案には乗ってあげても構わないわ」


ダリアは態度は大きいが、掛かる費用を渋る程図々しくはないようだ。


「ねぇ、シズ。減価償却費って何?」


会話に付いていけてないアニスが説明を求める。


「商会が保有している資産は、時間と共に価値が下がっていくと言う考え方があるの。その価値の減った分を商会の支出として計上するのだけど、その支出の名目が減価償却費。商業ギルドの手引き書に書いてあったと思うけど、アニーは読んでないの?」

「目は通したけど、難しすぎて全然頭に入らなかったよ」


実際には読み始めたら直ぐに眠くなって寝てしまっているので、読んだと言って良いのか疑問なところではある。


「アニーは商会長なんだからしっかりしてよ」

「お金のことは、シズに任せた」

「まったく、アニーってば」


シズアは軽く溜息を吐くと、モーリスとダリアの方に向き直る。


「それでは二輪車は貸出期間分のレンタル料をお支払いいただくで良いですね。貸出品を用意するのに一週間から十日くらい掛かると思います」

「ああ」

「ええ、良いわ」


漸く二輪車の話に決着が付いて、ホッとするシズア。


「では算盤の取引の話に戻りたいと思いますが、こちらとしては基本的にすべてモーリスのエバンス商会経由の取引にするつもりです」

「私のところは?」


「エバンス商会経由です」

「直接取引の条件は無いの?」


ダリアが不満そうな顔になる。


「考えてみたのですけど、メリットが思い付かなかったのですよね」

「メリットって貴女達にとっての?」

「いえ、ダリアにとってのです。直接取引するなら、ここまで来て貰わないといけませんけど、ここって凄く辺鄙な場所ですよね。領都ザイナッハからの往復でも二週間以上掛かりますし。それに私達は冒険者が本業なので、ここに居るかも分かりません。そうしたことを考えると、モーリスのところを窓口にした方がずっと効率的だと思うんです」


真面目な表情のシズアの眼差しをダリアがどう受け止めたのかは分からない。しかし、フッと口元を緩めてみせた。


「貴女がきちんと考えてくれたのは分かったわ。でも、私は旅商人。街から街へ移動するのが商売なの。だからそれについての気遣いは無用だわ。私は気に入った相手とは直接取引したいの。だから条件を提示して頂戴」


ダリアに引くつもりがないのを察したシズアは腹を括る。


「本当にダリアは面倒くさいですね」

「ちょっと、何を堂々と言い切っているのよ」


「あぁ、すみません。こうした話合いに不慣れなもので」

「不慣れと断れば、何言っても許されるとか考えている訳じゃないわよね。まったく、良い根性しているわ、貴女」


態度はともかく、感情的にはなっていないようだ。シズアにも段々ダリアのことが分かって来た気がする。


「お褒めに預り光栄です」

「全然褒めてないんだけど。ともかく、話を進めて貰える?」


おふざけもこれくらいで十分だろう。


「算盤の直接取引の条件ですが、取引単位を千台でお願いします」


シズアの提案にダリアの眉がピクリと動く。


「また随分な数を提示して来たわね。一体、どれだけ売るつもりなの?」

「目指すは王国の国民一人に一台ずつ、と言いたいところですが、必要度を考えると一割から二割くらいでしょうか」


「そうね。それでも大層な目標だと思うけど」

「そうかも知れませんけど、例えば神殿学校の教材に使って貰えれば、それだけでも結構売れるとは思いませんか?」


シズアの提案にダリアは腕を組んで考え始める。


「なるほど、教育現場を通じて普及させてしまうのも手ね」


そして組んだ手を解くと、改めてシズアに向き直る。


「分かった。直接取引は千台単位で。それより小口の場合はエバンス商会から仕入れるわ」

「ありがとうございます」


シズアとダリアは立ち上がって握手を交わした。

それからダリアはモーリスとも改めて挨拶してから、ケビンを伴い去って行った。


「シズア、見事なお手並みだったな」


ダリアを見送ったモーリスがシズアに振り返り、労いの言葉を掛ける。


「そう言って貰えると嬉しいですけど、ダリアもしつこくて面倒くさいところはあっても話せば分かる人でしたから」

「まあ、本人も口にしていたが、気に入られたのだろう。彼女はやり手との話だから、付き合って損は無いんじゃないか」


そう言うと、モーリスは体の向きを変える。


「それじゃあ、私は次の用事に向かうとするよ。アニスもまた今度」

「モーリス、家にも来てね」

「ああ」


二人に手を振り、モーリスも扉の外へと出て行った。


「さて、シズ、私達はどうしようか?」

「ヴィクトルに二輪車を追加で作るように頼みにいかないと」

「あー、そっか。そうだね。その後はどうしようか?アームドバッファローの皮で作った防具は頼んだばかりだしなぁ。いや、防具ができたら冒険の旅に出るんだから、その準備をしないといけないか。ん?あれ、そう言えばどこに行くつもりだったんだっけ?」


アニスは一所懸命に記憶を探る。

新しい防具が必要だと思ったのは、行こうとしていた場所が危険だったからのような気がする。その場所には、確かシズアのために行こうとしていたような。


「あっ」

「アニー、どうかした?」


突然声を上げたアニスをシズアが驚いた表情で見る。


「思い出したっ」

「何を?」


「エルザの店に行った目的だよ。火の精霊が居そうなところをエルザに聞くつもりだったんだよ、私達」

「確かにそんな話をしていた気がするわね」


「そうだよ。今度こそ忘れずに聞きに行こうよ」


アニスは宿の入り口まで走って行き、扉に手を掛ける。


「アニー、置いていかないでよ」

「私がシズのこと置いていく訳ないって。でも、早く行こう」


アニスが扉を開けて外に足を踏み出していく。

シズアも急いでアニスの後を追い掛けて宿から出て行った。


交渉ごとはアニスよりシズアの方が得意そうですね。でも、アニスもきちんと役に立ってました。


ところで、今回の部分でダリアが「魔動二輪車」と呼んだり、前にイラが「魔力二輪車」と呼んでいたりバラバラなのは、元々シズアが名称を決めていないからです。シズアは単に「二輪車」と呼んでますからね...。


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