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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-16. アニスとシズアは小ダンジョンに潜りたい

水曜日(マレディ)の朝少し遅い時間、アニスとシズアは街から西へと向かう街道を歩いていた。

二輪車を使っていないのは、同行者がいるからだ。


「ねえ、イラ。神殿学校の他の子達は、ダンジョンには行かないの?」


前後を見渡しても街道を歩いているのはアニス達しかいない。

しかしこの時間、イラ達は神殿学校をサボっているのではなく、授業の一環だと聞いていたので、他にも誰か居そうなものだと思ったのだ。


「この時間は校外実習の時間なだけで、何をするかは割りと自由なのよ。私達みたく冒険者パーティーを組んでいる人達もいれば、商店や工房で下働きしたり、神殿で神官を手伝ったりなど色々ね。ともかく、決まっているのは何かの仕事をしなければならないと言うことだけ。実地での社会勉強の時間とでも言えば良いかしら」


「だったら、イラは他の仕事もしてみたの?」


アニスはイラの目を見て尋ねたのだが、イラの方が目を逸らす。


「興味はなくも無いにせよ、ちょっとした事情がありましてよ。それに、今のうちにできるだけ冒険者ランクを上げておきたくて」


「イラって今でもD級じゃない、C級になりたいんだ」

「できることならB級でもA級でも。とは言え、今の私の実力では神殿学校卒業までにC級になるのは難しいかしらね」


イラの目は寂しげに遠くを見ている。


「確かC級以上は、魔物の討伐実績だけで決まるんだよね」

「ええ、そう。C級以上の魔物を決められた数だけ討伐しなければならないのだけど、単独で挑むにせよ、パーティーで挑むにせよ、必要以上に危険を冒す訳にもいきませんし、悩ましいところ。本当、もっと強くなりたいわ」


「ふーん」


アニスは手を後ろで組み、前屈みになってイラの方に顔を向ける。


「イラはどうしてそんなに強くなりたいの?」

「自分の力で生きていけるように。でないと、流されてしまいますもの」


「生きていくだけならD級冒険者でも良い気がするけど」


呟きのような声を漏らしたアニスに顔を向け、イラはふっと笑みをこぼす。


「そうね。ただ生きていくのなら。でも私、『その他大勢』にはなりたくはなくてよ」

「歴史に名を残すような何をやりたいってこと?」


「そこまで大層なことは言わないにせよ、やりたいことはあってよ。それが叶うのかは分からないけれど」


イラの表情が少し翳るが、逆にアニスは明るい顔になって手を広げてみせた。


「できるか分からないけどやりたいこと?それって夢ってことだよね。そか、イラにも夢があって、そのために強くなりたいんだ。だったら私、イラのことを応援するよ」


アニスの言葉に、イラの顔も明るさを取り戻す。


「貴女の応援に感謝を、アニス。それで貴女には何か夢があって?」

「ん、私?私はシズの夢を手伝うだけだから」


アニスは陽気に応じるが、イラは目を細めた。


「アニス、他人に依存した生き方はお勧めではなくてよ」

「うん、分かってる。でも、イラじゃないけど、私にもちょっとした事情があってね」

「あら、それは失礼」


イラは、アニスの笑顔の裏に何かを感じ取ったのか、素直に謝罪の言葉を口にする。


廃墟ダンジョン入口の看板の手前で街道から外れて南へと進むこと暫し、アニス達は目的地へと到着した。


「ここが小ダンジョンの入口?確かに廃墟ね」


シズアが素直な感想を漏らす。

目の前にあるのは、手入れをされず朽ちた家屋の並びだった。どれも屋根が落ち、木製だったと思われる窓枠は無くなり、蔦が蔓延(はびこ)っていて、とてもではないが人が住めそうにない。


小ダンジョンの正式名称は、ザイアス廃墟ダンジョン。その昔には小さな村があったらしいが、そこにダンジョンができたから村が廃棄されたのか、村が廃棄された後にダンジョンができたのかも分かっていない。


学者によれば、後者の説の方が有力らしい。と言うのも、ダンジョンが先なら、装備や道具などダンジョン探索用の物が見付かっても良い筈だが、それがまったく見付かっていないのだ。であるならば、村が廃棄されたのが先だろうと言うことなのだ。


「ねえ、淡々と解説しているけど、本当はどっちか知ってるんじゃないの?」


皆から少し離れたところで小さく呟くように発せられたアニスの声は、誰の耳にも届いていないようだった。


「その唯一聞こえている存在に向けて話し掛けているんだけど」


だから語り手に話し掛けないで貰えます?


まあ、実際のところ、ここにはダンジョンができた後にしか来たことがありませんから、それ以前のことは知りませんよ。


「ふーん、そか。それは残念」


どうしてそんなことを気にするんです?昔のことだから関係ないですよね?


「何となくここにダンジョンがあるのが不自然な気がしたから、人工ダンジョンかもと思って」


へー、それは面白い視点ですね。魔具職人としての好奇心ですか。

何にしても知りませんから、ご自分で調べてみてはどうです?


「そだね」


そのままアニスは小走りに皆の方へ向かい、何事もなかったかのように合流した。


アニスが合流したとき、シズア達はある建物の前で立ち止まっていた。


「この建物だけ窓も屋根もあるね」

「これはねぇ、その昔、祈祷所だったそうなのだけど、今はこの中にダンジョンの入口があるから、今もこの建物だけは整備しているって聞いてるの」


シズアとリンダが話しているのが聞こえる。


周りの建物と異なり、目の前の建物だけ屋根や窓がある分、多少は小綺麗に見える。しかし、蔦が生い茂り、石の壁が腐食しているあたりは、周囲の建物と同年代のもと伺える佇まいだ。


「アニスも来ましたし、中に入るわよ」


イラは一旦全員を見渡してから、建物の扉に手を掛け開いた。

アニスとシズアは扉の向こう側がダンジョンかと身構えたが、見えたのは普通の室内だった。


「あれ?ダンジョン、ではない?」

「ああ、ダンジョンは、この奥にある階段を下りたところからだ」


(ほう)けたようなアニスの声に、クラウスが返事をくれた。


「うぅっ、私の緊張を返せー」


アニスはいきり立つが、後から来たジャンにまあまあといなされる。


「ごく偶に、扉を開けたら魔獣が出て来ることもあるらしいっすよ。だからオイラ達も扉を開ける時はいつも警戒してるっす」


ジャンのフォローに、ああそうなんだと、機嫌を直すアニス。


イラから順に部屋に入った一行は、そのままイラを先頭にして奥へと進み、階段を下りて地下へと向かう。


「これがダンジョンの一層なんだ」

「ええ。このダンジョンの一層は、すべてが石壁の通路と部屋になっているのよ。地図は頭に入っていて?」

「うん。でも、聞いてはいたけど、ここは本当に明るいんだね」


地上から降りて来る階段は暗かったのに、ダンジョンの一層に入ったところからは明るくなっている。見たところ照明器具が設置されているのでもなく、しかし不思議なことに明るいのだ。


「ダンジョンは自然の魔法の産物と言われている通り、不思議なところは色々あるわ。驚くのは構わないけど、警戒は怠らないでね」

「分かった。って、あの先の隅に何かいる?」


イヤリングに付与した探知魔法を起動しているアニスが、早速蠢いているものを見付ける。


「スライムね。核を壊せば倒せますけど、核の中にある魔石は壊さないように」

「何か、難しい注文だね」


アニスはぶつぶつ言いながらも、スライムに近寄り、剣でスライムの核のなるべく端を突き刺す。すると、スライムは簡単に潰れた。


「魔石が取れた」


スライムから魔石を取り出して立ち上がったアニスは、その魔石をまじまじと眺めたが魔獣を倒したという実感が湧いてこない。


「ええ、おめでとう、アニス。でも、残念ながらスライムには頭も耳も無いので、討伐実績にはならないわ。この階層には他にもE級の魔獣はいますから、そちらを狙いなさいな。貴女方ならそれで簡単にE級冒険者になれましてよ」


「うん、そだね」


昇級できるのは嬉しいが、かと言ってこの通路を魔獣を求めて徘徊するのも違う気がする。

と、アニスは良いことを思い付く。


「手伝ってくれるかな?」


アニスが気持ちを伝えようと念じると、直ぐに承諾の返事が来た。

なのでアニスは手近なところに魔法の紋様を描いて力ある言葉を叫ぶ。


「サモン、アッシュ」


すると魔法の紋様が膨らみ、アッシュの姿が現れた。


「アッシュ、来てくれてありがとう」


バウッ。

アッシュは尻尾を振って喜びを表しながら返事をする。


「それ、グレイウルフよね?貴女の契約魔獣なの?」

「そうだよ。アッシュって言うの、よろしくね」


バウッ。

アニスの紹介に合わせて挨拶をするアッシュ。


「よろしく、アッシュ。それにしてもこの子、随分と賢そうね」

「イラにも分かる?アッシュはとっても偉いんだ」


アニスはイラに向けて微笑むと、アッシュの方を向く。


「ねえ、アッシュ。この階層にいる魔獣を狩って来て貰っても良い?二層に降りたらまた呼ぶから」


バウッ。

返事をするなり、アッシュは通路を奥の方へと走って行った。


「こうしてアッシュに魔獣を狩って来て貰えば、冒険者ランクを上げられるよね?」


アニスは嬉しそうにイラに話したのだが、イラは頭に手を当てている。


「ねえ、アニス。別にこのダンジョンでなくても、あの子に魔獣を狩ってきて貰っていれば、とっくの昔に冒険者ランクを上げられていたのではなくて?」


イラの言いたいことを理解したアニスは、手を叩いて大きく頷いた。


「まったくそうだね。今まで思い付きもしなかった」


しかし、そこでシズアが異を唱える。


「ねぇ、アニー。こんなやり方で冒険者ランクが上がっても、私ちっとも嬉しくないよ」


「えっ、ガーン」


アニスは通路の床に突っ伏した。

大好きなシズアに否定されて打ちひしがれるアニス。


そんなアニスの許に早速魔獣を狩ったアッシュが意気揚々と戻ってくるが、これ、収拾がつくのだろうか。


契約魔獣が魔獣を倒しても契約者の成績になるので、アニスは戦わなくても昇級できます。

でも、アニスはそこまで昇級には拘っていないようですね。


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(2023/12/30)

後書きに書くべきものが前書きにあったので、後書きに移動しました。


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