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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-15. アニスとシズアは両親に相談する

家での夕食後、アニスとシズアはリビングのソファに両親と向き合って座っていた。

テーブルの中央には算盤が置いてある。


「話は大体分かりました。それで、この算盤を売りに出すにあたって、卸し先の商会を見付けたいと言うことね」


母のサマンサが二人に理解を示す。商売の話は、元々商会の娘であったサマンサの方が強い。


「そう、それでモーリスに相談したいのだけど」


シズアは上目遣いに話を持ち掛けると、サマンサが頷いた。モーリスはサマンサの弟で、領都で店を構えている。


「ええ、この件はモーリスに相談するのが良いと私も思うわ。確か、先々週くらいにこちらに来るようなことを連絡してきていたから、そろそろザイアスの街に着くのではないかしら。途中の街で引っ掛かっていなければだけど」


サマンサは頬に手を当て不安げな表情だ。商売熱心なモーリスが途中の街に長居するのはありがちなことなのだった。


「モーリスが街に来れば、マーサの宿に泊まるよね。だから来れば直ぐに分かると思う」

「そうね。モーリスが街に来てマーサのところに顔を出さないことはないでしょうし、顔を出したら泊まることになるでしょうね」


アニスの意見にサマンサも同意する。


「それで母さんは、エランツェ商会のダリアって人は知ってる?」

「いいえ。アニー、聞いたことないわ。その方、旅商人なのでしょう?本当に(たま)にしか街に来ていないのではないかしら。エルザの知り合いなら変な人ではないとは思いますけれど。マーサには聞いてみたの?」


問われたアニスは首を横に振る。


「ううん、まだ。今度行ったら聞いてみるつもり」

「それが良いわ。あと、モーリスにも尋ねてごらんなさいな。一応、モーリスには一日でも早く街に来てくれるように連絡を入れておくから」

「うん、ありがとう、母さん」


アニスが微笑み、サマンサも笑みを浮かべる。


そんな時、それまで沈黙していたライアスが口を開いた。


「それでお前達、これからは冒険者よりも商会に力を入れていくつもりなのか?二輪車を作ったり、算盤を作ったり、商売の種を増やそうとしているように見えるんだが」

「ううん、そんなつもりじゃないよ。私達は冒険者を目指しているんだから。ねえ、シズ?」


「アニーの言う通りだよ。二輪車は必要に迫られて作っただけだし、算盤は皆のためになればと思ったからだけど、作るのはヴィクトルの工房に任せるし、売るのも誰かに任せて、私達は冒険者を目指していくつもり」


二人の言葉を聞いたライアスは、嬉しそうな笑顔になる。


「そうかそうか。まあ、お前達自身のことだから、お前達のやりたいようにやれば良いが、若いうちは冒険をするのも悪くはないからな」


「うん、分かっている。それで私達、水曜日(マレディ)にアームドバッファローを狩りに行くつもりなんだけど、狩り方を教えて貰える?」

「ああ、良いぞ。アームドバッファローか、あいつは皮が堅いんだ」


その言葉をきっかけに、ライアスはアームドバッファローの狩り方について嬉しそうに話し始め、二人は熱心にその言葉に耳を傾ける。


そのうちに、ライアスの話はアームドバッファローから外れて、昔の冒険者だった頃の武勇伝へと切り替わりそうになったが、程よいところでサマンサが口を挟んでくれたお蔭で、二人は欠伸が出そうになる前に解放して貰えた。


「うふふ、父さん面白かったね」


子供部屋へと戻ると、シズアはベッドの上に座り、楽しそうに微笑んだ。


「何?狩りの話をしたら元気になったこと?」


一方、アニスは収納サックを持って机の前の椅子に腰掛ける。


「それもだけど、その前に私達に思いきり冒険者をやって欲しそうな顔をしていたのが可笑しくって」

「あー、父さんは商会の話になると、いつも母さんに負けちゃうからね。寂しいんだよ、きっと」


「父さんのそういうところ、子供っぽくて可愛いよね」


シズアが口に手を当てて嬉しそうにしているのを見て、アニスの胸も暖かくなる。


「私から見れば、シズの方が可愛いよ」

「アニー、私のことは言わなくて良いから」


頬を赤らめながらシズアは苦言を呈する。


「だって、本当のことだもん」


アニスは頬を膨らませるが、目は笑ったままだ。


「分かったわ。ありがとう、アニー」


言い合っても仕方が無いと、早々にシズアは妥協した。


「ところで、アニー、ポーションの作り方は分かったの?」

「うん、まあ大体は。一つだけ分からないところがあって、それをこれから調べてみる」


「えっ?調べるってどうやって?エルザのところから何か盗んで来たりしてないよね?」

「んー、まあ、物は盗んでないよ。でも、これは持って来ちゃった」


アニスは収納サックから取り出した魔石を掲げてみせる。


「その魔石はアニーが準備した物よね?」


シズアが首を傾げると、アニスは微笑みながら空いた手で魔石を指差した。


「私が取って来たのは付与魔法の紋様だよ。この魔石の中に焼き付けてきた」

「わざわざ焼き付けたの?アニーはいつも目で見て覚えていなかった?」

「うん、そう。ガザックのウィンドビジョンの魔法も紋様が見えたから真似できたんだし、錬成器だって、『溶解』と『安定化』は見るだけで覚えられた」


シズアの確認に、肯定しながら説明を補足する。


「だけど、『強化』の紋様だけは多層化されていたから、見ただけだと全部は分からなかったんだよね」


アニスの説明を聞いても、シズアには何のことか分からない。


「多層化って?」

「え?うーんと、魔法の紋様は普通は平面に描かれているんだけど、それだけだと見て覚えば真似できちゃうよね。だからその平面の紋様を一つの層として、その表と裏に別の紋様を重ねて見ただけでは覚えられなくするのが三層化。それでも足りないと思えば、さらに紋様を重ねて五層化とか七層化とか。それらひっくるめて多層化って呼ばれてるんだけど、それで分かる?」


「そこは分かったけど」

「けど?」


説明を受けたところは理解できたものの、そこからさらに別の疑問が湧き出てしまう。


「別の紋様を重ねちゃったら、元の紋様の効果が消えたりしないの?」

「あー、それは確かにあるんだけど、重ねる紋様を工夫すれば効果を減らさずに済むんだよね」

「魔法の紋様には工夫の余地があるってこと?」


首を傾げるシズアに、アニスは微笑んでみせた。


「そうだよ。まあ、詠唱魔法も研究の余地はあるみたいだけど、付与魔法の方がもっとずっと奥が深いらしいよ」

「もしかして、それって魔法大学で研究されているの?」

「そうだと思うけど、魔法大学はどちらかと言うと詠唱魔法の研究の方が盛んなんだって」


シズアと話しながら、段々と不味い方向に話が行きつつあると思い始めたアニス。

実のところ付与魔法の研究が一番盛んなのは、魔女の里にある学究の楽園であるとアニスは教わっていた。でも、魔女のことをシズアには話せない。

かと言ってシズアに嘘は吐きたくないし、非常に悩ましい。


「どうして詠唱魔法の方が?」

「詠唱魔法は誰でも使えるけど、付与魔法は魔具職人にしか扱えないからだよ。魔法大学にも魔具職人はいるらしいけど、そうじゃない人の方がもっとずっと多いから」

「あー、なるほど」


取り敢えず、納得の表情になったシズアを見て、何とか乗り切れたかとアニスはホッとする。


「それで付与魔法はどこで研究されているの?」


あ、全然乗り切れてなかった。


「優秀な魔具職人達が集まって研究しているらしいよ」

「王都の魔具師ギルドとか?」


「そうそう、そんなところ」


私は今嘘を吐いているんだろうか。いや、ギリギリ大丈夫だよね、と心の中で確認してしまうアニス。

と、それまでの手に汗握る展開でアニスの手に脂汗が滲み出たのか、魔石がつるっとアニスの手から飛び出した。


「あっ、おっと」


咄嗟に椅子から腰を浮かし、何とか床に落ちる前にアニスは魔石を掴む。

魔石はそれほど脆くは無いが、剣を当てれば割れる。床とは言え当たり所が悪ければ割れたかも知れないのだ。


「あー、危なかった。せっかくエルザの目を掻い潜って焼き付けて来たのに、割れちゃったら元も子もないよ」


アニスは安心した表情を見せるが、シズアにはアニスの言葉に引っ掛かるものがあった。


「ねえ、アニー。魔法の紋様をそのまま焼き付けたら、エルザの鑑定眼に見付かってしまうよね?」

「うふふふふ、良く気が付いたね、シズ」


ドヤ顔で偉そうに胸を張るアニス。


「実はねぇ、多層化した付与魔法は、その紋様の一部を欠落させて機能しなくできちゃうんだよね」

「欠落させても壊れないってこと?」

「下手に欠落させれば紋様は壊れちゃうよ。でも、壊さずに機能を停止させる方法があるんだよ。そして機能しない紋様は、焼き付けても鑑定では分からない」


「何それ」


シズアにはそうとしか言いようがなかった。


「前にも言ったよね。鑑定で分かるのは物に付与された魔法の効果だけだって。だから効果の無い魔法の紋様は、鑑定では見分けられないんだって」


「それでアニーは、『強化』の紋様を欠落した状態で魔石に焼き付けて家に持って帰って、ゆっくり調べるつもりだったのね」

「そう言うこと」


アニスは椅子に座り直し、椅子の背にもたれかかりながら、魔石の中の紋様を観察し始めた。


「これ、複雑度2の三層構造だ」


その呟きはシズアの耳も拾ったのだが、シズアは既に諦めの境地に至っていた。


「複雑度って何よ。付与魔法は一体どこまで研究されているの?」

「複雑度って言うのはねぇ――」

「アニー、もう良いから」


手を挙げてシズアはアニスの説明を遮った。


「これ以上説明して貰っても、頭に入りそうにないわ。それより結局、錬成器は再現できそうそうなの?」

「できると思うよ。でも、エルザのところのみたいに複雑な構造の錬成器を作るつもりはないんだけど」


「複雑なの?」

「エルザの物よりもっと複雑な物もあるかも知れないけど、ともかく単純じゃないよね。一番簡単なのは、『溶解』『強化』『安定化』の三つをバラバラに付与した三つの魔具を作ることだから」


「あー、まあ、そっか。でもともかく錬成器が再現できてポーション作りができるようになっちゃったら、エルザに悪い気がする」


シズアは困惑した面持ちになる。


「あれ、シズにしては珍しいね。てっきり悪女っぽくて好きって言うかと思ってた」

「確かに悪女ではあるけれど、どこか違うような。他人の持ち物の複製を不正に作ったから?」


首を捻って考え始めるシズア。


「悪女って不正を気にするんだ?それに魔法を真似するのは不正じゃないんだね」

「そうね。それを言われてしまうと激しく悩むわね」


追い打ちをかけるように投げ掛けられた疑問を受けて、シズアはさらに考え込んでしまった。


そんなシズアも可愛いなと、アニスはほっこりしながら眺めていた。


シズアって悪女を目指す割りには真面目ですよね。


アニスは新しい物を調べたり作ったりするのが好きみたいです。


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