表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
40/329

3-14. シズアは詰め寄られたくない

シズアはアニスの隣でエルザのポーション作りの実演を見ている最中、店に人が入ってきたのに気が付いた。

客が来たのだろうと思い、そっとその場から離れる。


そしてカウンター裏の扉から店内に入ったシズアは、二人の若い男女を目にした。

若いと言っても、二人共アニスよりも年上なことは間違いない。大人の雰囲気を感じる。


女性の方は、白いブラウスにロングのキュロットスカート、ロングの髪を二つに分けてお下げの形にまとめている。身綺麗ではあるものの、高級なものを身に付けていないことから貴族では無さそうだ。とは言え、きつめの表情からは意志の強さを感じる。


男性は犬人族だった。シャツとズボンに薄茶色のチョッキを着ている。背は女性より高いが、肩を落として気の弱そうな感じだ。女性の動きにつき従っている様子は、女性の友人と言うよりも荷物持ちのように見えた。


女性は店内を軽く眺めると、シズアのいるカウンターへとやって来た。


「貴女が店番?エルザはいる?私はエランツェ商会のダリア、エルザとはたまに取り引きさせて貰っているのだけど」


ダリアの話し振りからして、一般の買い物客では無さそうだった。


シズアはエルザを呼びに行こうかと瞬間悩みつつも、アニス達の邪魔にならないように、まずは一度自分で受けてみようと考えた。


「申し訳ありません。店主は只今取り込んでおりまして、私が代わりにお受けしてもよろしいでしょうか。私はシズアと言います」


シズアの受け答えに、ダリアは驚いた表情になる。


「貴女、シズア?随分としっかりしているわね。何歳?神殿学校はもう卒業したの?」

「私は十歳ですよ。神殿学校には通っていません」


返事を聞いたダリアは更に目を丸くする。


「十歳で神殿学校にも通っていないのに、店番ができるの?読み書きは両親に教わったとか?」

「はい、読み書きも計算も両親に習いましたから、大丈夫です」


シズアはダリアに微笑んでみせる。


「あら、ご両親もしっかりした方なのね。商人かお屋敷勤めでもしているの?」

「いえ、村で農業をやってます。その前は両親とも冒険者でした。でも、読み書き計算はできないと駄目だって教えてくれました」

「へー、この地方は識字率が高いって言われているけど、皆意識が高いんだね」


ダリアは感心していた。


「貴女も偉いと思うんだけど、私、エルザとお話がしたくて。ここで待っていても良いかしら?」

「少しお待たせしてしまうかも知れませんが、それでも良ければ」

「構わないわ。待つのは慣れているから」

「それでしたら、この椅子にでも座っていてください」


シズアはカウンター内でエルザが使っていたと思われる椅子を持ち出して、カウンター横の邪魔にならなさそうな場所に置いた。


「あら、気が利くわね。ありがとう、座らせて貰うわ」

「あの、すみません。これ一つしか無くて」


シズアは隣の男性に申し訳なさそうな表情で弁解する。


「ああ、僕は大丈夫ですよ、立っていますから。お嬢さんが座らせて貰えば十分です」


やはり男性の方が従者か何かだったようだ。


そのまま二人がぽつぽつと話を始めたので、シズアはカウンター内へと戻る。

やることもないので、帳簿でも確認しようかとカウンターの背後の壁沿いの棚から、店の売上記録用の帳簿を取り出して中を開いてみる。

と、そこへ男性客が一人やってきた。


冒険者姿のその男性には見覚えがある。確か伯母のマーサの食堂の常連だ。


「あれ、シズアだよな?マーサのところだけでなく、ここでも働くことにしたのか?」

「いえ、今はエルザが手を離せないから店番を頼まれただけです」

「そうか、一人で店番とは偉いな。それでなんだが、初級の魔力回復ポーションを一本と治癒ポーションを二本欲しいんだが頼めるか?」

「初級の魔力回復ポーションを一本と初級の治癒ポーションを二本ですね。お待ちください」


シズアは冒険者に笑顔を振りまいて返事をしたあと、商品の準備に取り掛かる。

まずはカウンター下のガラス棚から注文された数のポーション瓶を取り出し、後ろを向いて壁沿いに設置された収納箱を開く。実はガラス棚に陳列されているのは在庫を表す空き瓶で、売る時にはそれと引き換えに収納箱で保管している中身の入った瓶を出すようにと言われていた。


シズアは指示された通りのことをして、ポーション瓶を三つカウンターの上に置き、帳簿に内訳と総額を記録する。


「初級の魔力回復ポーションは一本で1,000ガル、初級の治癒ポーションは二本で2,400ガルなので、合わせて3,400ガルになります」

「お、おう」


冒険者は、肩に掛けていた収納サックを下ろして中を開いた。


「悪い、今、細かいのが無いんだ。これで頼む」


カウンターの上に置かれたのは、一枚の金貨。


「金貨一枚、10,000ガルですね。お釣りは6,600ガルになります」


シズアは背後の棚に置いてある鍵の付いた小さな収納箱を開いて、受け取った金貨を入れ、代わりに小金貨(5,000ガル)大銀貨(1,000ガル)中銀貨(500ガル)銀貨(100ガル)を一枚ずつ取り出した。

そしてそれらをカウンターの上に並べて置く。


しかし、相手はそれを受け取ろうとしなかった。


「えーと、悪い。どういう計算なんだ?」


困惑した表情で告げられ、シズアはハタと考える。もう少し分かるようにしないといけなかったのだろうか。


見て分かるように計算すれば良いのかもと、シズアは自分の収納サックから算盤を取り出して、カウンターの上に置いた。


「ポーション三本で3,400ガルなのは良いですよね?」


そう言いながら、千の桁に3、百の桁に4を入れる。


「いただいたお金が10,000ガルなので、まず3,000を引いて7,000になって」

と、千の桁を7に。

「さらに400を引くので6,000と600になります」


千の桁を6に、百の桁も6にした。


「はぁ」

「ちょっと待って」

シズアと冒険者の会話に割って入って来たのはダリアだった。


「シズアだっけ?貴女、お釣りの渡し方が悪いのよ。足して10,000になるのが分かるようにするの。代金が3,400ガルだったら、まず600ガルを置いて4,000ガルにする」


ダリアは一旦すべてのお釣りを手に取ってから、中銀貨と銀貨を一枚ずつ置いた。


「で、いま4,000ガルだから、これに6,000ガルを足せば10,000ガルになる。これで良いでしょう?」

「おう、助かった。これで良い。ありがとうな」


冒険者は明るい顔になり、ポーションと釣銭を収納サックに入れると店を出て行った。


「なるほど。足してみせないといけなかったんですね。勉強になりました。ありがとうございます」


シズアが素直に礼を言う。ダリアは満更でもない表情だ。


「貴女は頭の中で計算できるみたいだけど、普通、お店ではさっきみたいに足しながらお釣りを確認して渡すから、お客様は計算をしないのよ。そこは注意した方が良いわ。まあ、それは良いんだけど」


と、ダリアの視線がカウンターの上を向く。


「それは何?」


ダリアの指差した先にあったのは、先程シズアが冒険者への説明に使っていたもの。


「これは算盤(カラレクトル)と言って、計算に使う道具です」


シズアはニッコリ微笑むが、ダリアの目は細められている。


「貴女、何でもないことのように説明してくれたけど、見たことも聞いたことも無いわ。一体どこで手に入れたの?」

「あー、いえ、計算する道具が欲しいなぁって賢者様に相談したら教えてくれて、それで試作してみたのですけど」


嘘を吐く(やま)しさから、シズアは目を逸らして言い訳する。


「えっ?何これ、試作品?どうやって使うのかを教えなさいよ」


ダリアが思い切り喰い付く。

興味を持って貰えたならと、シズアは算盤の使い方を簡単に説明した。


「とても便利そうね。でも実際に試してみないと」


ダリアは後ろに控えていた犬人族の男性を振り返る。


「ケビン、うちの帳簿を出して頂戴」


ダリアはケビンから帳簿を受け取ると、カウンターの上でシズアに対して広げてみせた。


「このページを検算して貰える?」

「はい」


と、シズアは開かれたページの上から順に計算していく。


「結果はこうですが、合ってますね」

「当たり前よ、時間を掛けて何回も計算して確認しているんだから。それじゃあ、こっちのページは?」


再びシズアは算盤を弾く。


「合ってます」

「貴女、計算が早いわね」

「それはまあ、何度も練習しましたから。ダリアも練習すればできるようになると思いますよ」


シズアが顔を上げてダリアを見ると、ダリアは目を輝かせていた。


「そうね、私も使えるようになりたいけど、それよりこれは商売になるわ。ねえ、貴女、これどこの商会に卸すつもり?私のところに卸しなさいよ」

「え、そんなことを急に言われても」


引き気味のシズアに対して、ダリアはカウンターの上に乗り出していく。


「悪いようにはしないから、私と組みなさいよ」

「えええ」


シズアが返答に困っていると、裏からアニス達が戻って来た。


「ちょっと、シズ、どうしたの?」


困っている様子のシズアを見て、アニスが声を掛ける。


「あっ、アニー。丁度良かった。この人に言い寄られてて、困ってたの」

「なぬぅ、私のシズに手を出そうとは良い心掛けだぁ」


アニスは勢い良く前に出て、女性に掴み掛ろうとするが、そんなアニスをシズアが押し留める。


「手を出そうとしているのはアニーの方だよね。駄目だって、それは。落ち着こうよ」

「うー。でも、シズがそう言うなら止めとく」


アニスが力を抜くと、シズアもホッとしてアニスから離れる。


「それで、シズ、何があったの?」

「このダリアって人が、算盤を自分のところに卸せって」

「ん?どこかの商会の人?」


アニスは首を傾げた。


「ダリアは拠点を持たない旅商人よ。この街に来たのは暫くぶりなのではないかしら」


エルザが説明する。


「エルザの言う通りよ。それにしてもエルザ、久しぶりにこの街に来たけれど、面白いことを考える子がいるのね」

「面白いのはシズアだけではないわ。こちらはアニス、シズアの姉よ。この二人で一緒に商会を立ち上げていて、代表はアニスの方になるわ」


エルザに代表と商会されたことで、ダリアのアニスを見る目付きが変わった。


「あら、そうなの。アニス、私はエランツェ商会のダリアよ、以後お見知りおきを」

「コッペル姉妹商会のアニスです。よろしくお願いします」


挨拶はしたものの、シズアとのことが気になっていて、アニスはまだ警戒していた。


「早速だけど、その算盤、私の商会に卸して貰えない?」

「その申し出は嬉しいんですけど、考えさせてください。ダリアはまだこの街にいますか?」

「そうね。この街は久し振りだし、一週間くらいはいると思うわ。宿を教えておくから、私に会いたくなったら宿に伝えて貰える?」

「はい、そうします」


それでその話は終わりになった。

ダリアはエルザと話があるとのことで、用事が済んだアニス達が先に店を辞去することにした。


エルザに別れの挨拶をして店を出て行こうとするアニス達に、ダリアが後ろから声を掛ける。


「そう言えば、貴女達、賢者様に会っているのよね?私も賢者様に会いたいのだけど、どうすれば良い?」


アニスは仕方なく立ち止まって、後ろを振り返る。


「冒険者ギルドで、サラと言う名の冒険者に連絡を取ってみてください。ただ、会って貰えるかは分かりませんよ」

「ええ、それでも構わないわ。情報を提供してくれてありがとう」

「どういたしまして」


情報料でも貰えば良かったかなと思いつつも、会って貰えなければ金を返せと言われかねないし、止めておいて正解かと考え直す。


「ねえ、シズはダリアのことどう思った?」


店を出たところでアニスはシズアに尋ねてみる。


「そうね、親切そうな人だなって。算盤に喰いついて来るあたり、結構商売上手なのかも」

「ふーん」


そんなに悪い人ではなさそうなのか。

情報通のエルザとも知り合いみたいだし、だったら取引しても良いのかな、とアニスは思うのだった。


お釣りの渡し方って国によって違ったりするんですよね。


ところで、遂にダリアが登場です。3章の最初の話から、随分とお待たせになってしまいました。

これからアニス達にどう絡んでいくのか楽しみです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ