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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-12. シズアは賢者に問い掛けたい

「大体この辺だったと思うんだけど」


シズアは二輪車を停めて片足を地面に立て、付近の様子を伺う。見えているのは草原と、その向こうにある精霊の森だけだ。

しかし、シズアの記憶に間違いが無ければ、この辺りに結界に隠された賢者の家が建っている筈だった。


「ねぇ。アニーの魔法で結界の入口の場所が分からない?」


シズアは後部座席のアニスを振り返る。


「ごめん、シズ。私、今考える気力が湧かないんだけど」


青い顔をしたアニスが、ぐったりとしながらシズアに返事をする。


「あら、アニー、顔色が悪いわね。どうかしたの?」

「い、いや、ちょっとだけ気分が優れないだけだから。少し休めば治ると思うよ」

「そう?なら良いけど」


アニスは乗り物酔いをしているのだが、シズアに責任を感じさせないように強がってみせていた。まあ、実際のところ、そこまで酷くはないのが救いではある。わざわざ治癒魔法を発動させるほどではない。


「アニスはそこで休んでいて。私が探ってみるから」


シズアは目を瞑り、呪文を唱え始める。


「ウィンドサーチ、ウィンドビジョン」


二つの探知系魔法を同時に発動する。ウィンドサーチは、風の流れで周囲の様子を探る魔法、ウィンドビジョンは風の流れで注目している箇所の立体構造を読み取る魔法。


それらを同時に使うことで、目では捉えられない相手の動きを追いつつ、周囲の状況を把握して不意打ちから身を守ることができる。そのために魔法の同時発動は必要だとアニスに説かれ、一所懸命に練習して会得した。目下のところは、別の二魔法の同時発動や、三魔法の同時発動を練習中だ。


それはともかく、シズアはそれらの探知系魔法で結界の入口を探してみるが、何の手掛かりも得られなかった。


「うーん、風魔法じゃ駄目かぁ」


肩を落とすシズア。


「私の魔力眼でも何も見えないし、魔法で見付けるのは難しそうだね」


復活して来たらしいアニスが声を掛けてきた。


「でも、賢者様の家はある筈でしょう?どうやって隠しているのかなぁ。幻影を見せているのなら、周りの様子を変えちゃえば分かったりしないかな」

「周りの様子を変えるって?」


シズアの意図が掴めず、アニスは首を傾げた。


「例えば火魔法で辺り一面の草を燃やしちゃうとか。それで燃えずに残っている場所があれば、そこに結界があるって分かったりとか?」

「いや、そんなことしちゃって本当に結界の場所が分かるようになっちゃったら、賢者様に叱られるって」


魔女相手に喧嘩を売るようなことをしたら、後がどうなるか分かったものではないと、アニスは焦って止めに掛かる。


「例え結界の場所が分かるようになったとしても、どうせ私達が貰ったペンダントが無ければ結界の中には入れないんだし、問題なさそうな気がしない?」

「問題だって。結界があるって分かっちゃったら、色んな人が調べに来るようになるよ。終いには王国軍が来ちゃうかも知れないし、そんなことになったら大騒ぎだよ」

「そうかなぁ」


シズアは頬に手を当てて考える。


「そうだって」


アニスは懸命に反論する。


「あ、ほら、賢者様なら魔法で元に戻せるよ、きっと。だから誰かが調べに来ても、どこに結界があるのか分からなくできるんじゃない?」

「賢者様に尻ぬぐいしてもらう前提?」


その発想は無かったアニス。いや、感心している場合ではない。


「私達、どちらかと言うと賢者様にお願いしに来たんだよ。なのに私達がやらかした後始末までやって貰うとか駄目だって」

「でも会えないとお願いできないよね。だから仕方がないと思ってくれるよ。『他に方法が無かったんです、ごめんなさい、エヘ』ってやれば」

「いやいや、シズアにエへってやられて許しちゃうのは私だけだから。賢者様は違うから」


どうにも止まる気配のないシズアに、アニスは途方に暮れかけていたが、もう一つ悩ましいのはここでシズアを止めても他に打開策が思い付けていないことだった。

シズアと会話しながらも、何は良い方法はないかと思案を巡らせるアニス。

しかし結局、解決策を提示したのはアニスでもシズアでも無かった。


「二人してそこで何を議論しておるのだ?」


二人が声のする方を見ると、森と草原との境界にサラが立っていた。

これでシズアの暴挙を止められるとアニスはホッとする。


「サラ、助かったよ。結界の位置が分からないから、シズが草原を燃やしちゃおうって言って困ってたんだ」

「草原を燃やしたところで結界の位置は分からぬぞ。それに結界を攻撃したら、反撃を受けるとは思わなかったのか?」

「え?反撃されちゃうの?」


驚きながらも、シズアの考えに賛同しなくて良かったと安堵する。


「ここの結界は反撃はせぬが、そういう結界は実際にあるぞ。無暗矢鱈と結界を攻撃するような真似は控えた方が良いと思うがの」

「だってさ、シズ」


「うー。でも、そしたら私達はここでどうしたら賢者様に会えるの?」

「大声で呼び掛けるのだな。それで心配なら、ラウドの魔法を使えば良かろう」


ラウドは声を大きくして伝える風魔法だ。


「それだけで良かったのね。何だか一所懸命に考えて損した気分。それで、賢者様は今いる?」

「ああ、おるぞ。我のおる場所が結界の入口だ。その二輪車を仕舞ってこっちに来い」


サラは二人を手招きする。アニスとシズアはサラに導かれるまま結界の中へと入った。

賢者の家の玄関を潜った二人が通されたのは、先日訪れた時と同じ応接間だ。


「説明は分かりました。それでこの算盤(カラレクトル)を売りに出すにあたって、私の名前を使いたいと言うのですね」


サラと共に応接間に入った二人は、賢者タキに算盤の試作品を見せ、今回の訪問での用件について説明していた。


「はい。大っぴらには宣伝しませんけど、考案者の名前を尋ねられた時には『賢者様』と言わせて貰えないかと」

「それは、二輪車の時と同じように、お友達の安全のためですね?」


前回会った時と同じように、タキはおっとりと微笑んでみせた。


「図々しいお願いなのは分かっています」


シズアはソファに座ったまま頭を下げる。


「まあ、名前を使っていただくことくらいは構いませんけど、だからと言って安全が確保されるとは限らないと思いますよ」

「ええ、分かっています。商業ギルドへの発明登録のことですよね」

「その通りです。発明登録は無記名ではできませんから。勿論、登録しない手もあります」


商業ギルドに発明登録された物は、登録者に無許可で同じものを作れない規則になっている。シズアがヴィクトルに作成を依頼していた申請書が、正にこの発明登録の申請書のことだった。登録の際は権利者を書かないといけないが、流石にそれには賢者の名前は使えない。

実際、二輪車もアニスとシズアが代表として設立した商会を権利者としている。


「登録しないと粗悪品がばら撒かれるかも知れません。それは避けたいんです」

「貴女はこの王国に算盤を普及させたいのですね」

「ええ、筆算だけでは余りに不便ですから」


その言葉を発した時のシズアの目は、真っ直ぐタキを向いていた。


「でも、算盤は異世界の知識なのではないですか?それによって世界を変えてしまっても良いのかどうか考えたりはしませんか?」

「そうですね。それは考えもしますけど、算盤くらいでは大きくは変わらないと思います」

「それは何故?」


タキが首を傾げる。


「簡単に言ってしまえば魔法があるからです。魔法が無い世界なら、物はすべて物理法則に従います。しかし、魔法はその法則を歪めてしまいますよね。例えば、天文学は星の運行の観察から物理法則を見出す学問です。でも、その星の運行が魔法で歪められていたとしたら?ここでは太陽が二重に見えますけど、あんなに近くに二つの太陽があるのは物理法則では説明できないから、きっと魔法の影響ですよね?」


シズアの問いに、賢者は答えずにいた。シズアも答えを待たずに口を開く。


「観察した事象に魔法が影響しているか否かが分からないと、物理法則を導き出すのは難しいのではないでしょうか。それに例え物理法則が導き出せたとしても、それを使う際に魔法の影響を受けてしまったら、期待通りの結果も得られませんよね。だからこの世界では科学技術を発展させるのは難しい、計算が多少簡単にできるようになったとしても、だからと言ってこの世界は変わらないだろうと思うのです。それが私の答えです」


「それは貴女の転生者としての意見と取って良いのでしょうか?」

「ええ、良いですよ。どちらにしても、賢者様の名前を使わせて貰うにあたっては、私が転生者だと明かすつもりでしたから」

「それは良い心掛けですね」


タキとシズアが微笑み合うが、どうしてかアニスには二人の間で火花が飛んでいるように見えた。アニスには二人の会話の内容がまったく理解できていなかったので、見えた通りだったとしても、どこに二人がぶつかる要素があったのか、皆目見当が付いていなかった。

アニスに分かったのは、シズアが転生者であることをタキに明かしてしまったことだけだ。


「転生者だと知っておいて貰った方が話をするのに楽ですから。私、賢者様にお尋ねしたいことがあるんです」

「私にお答えできることであれば」


タキは相変わらず、笑みを崩さずにいる。


「物理法則についてはさっきの話の通りなんですけど、だとしたら魔法には法則があるのかどうか。それを研究する学問があるのかどうか、賢者様は知ってますか?」

「魔法学と言うのがありますね。魔法大学に行けば学べるでしょう。ただ、まだ良く分かっていないことが多いようですよ。なので今も王立魔法研究所などで研究されていると聞いています」


タキの返事には(よど)みが無い。


「では、あと一つ。魔女について知っていることを教えて貰えませんか?」

「魔女ですか。貴女は魔女のことを何か耳にしたのですか?」


タキは直接の回答を避けたようにアニスには見えた。シズアの問い掛けは、タキが魔女であるとは知らないものに聞こえたが、それでも慎重になるのは理解できる。


「あの二輪車のことを魔女が気にするかも知れないとの話を耳にしました。でも、賢者様は魔導国の話はしていましたけど、魔女のことは言ってなかったですよね。魔女は魔導国とは違うらしいとも聞いています。何故賢者様は魔女のことに触れなかったのでしょうか?」


シズアの説明で意図が伝わったためか、タキの視線が柔らかくなったように感じられた。


「そのお話は古い噂のことですね」

「古い噂?」

「はい。昔のことですが、優秀な発明家や研究者は魔女に声を掛けられる、魔女に連れて行かれた先には、学究の楽園があるとの噂が流れていたのです。でも、魔導国ができてからは、その噂は聞かれなくなりました。なので私は貴女にその話をしなかったのです」

「なるほど、分かりました。ありがとうございます」


シズアは礼を言うとアニスの方に視線を向けた。話が終わったと言うことだろう。

二人は出された茶菓子の残りを食べながら暫く世間話をし、そして賢者の家を後にした。


村へと戻るときにはアニスにハンドルを譲ったシズア。大人しく後部座席に座ってアニスにしがみ付いていた。


「ねえ、アニー」

「ん?何?」


後ろから掛けられた声にアニスが反応する。


「賢者様、魔女について隠していることがあるね」

「え?そう?どうしてそう思った?」

「何か余り話したく無さそうに見えたから」

「ふーん」


シズアの勘の良さに舌を巻くアニス。タキが魔女であるという、この場面では無用の知識を持つがためにアニスはドキドキしてしまうが、それをシズアに悟られるのも不味い。幸いにも走っている二輪車の揺れの助けもあって、アニスのドキドキはシズアには伝わってはいまい。


今ここで下手に口を開くと何かをシズアに察せられてしまうかも知れず、アニスは余計なことを言わずに何も分からない振りをすることしかできないでいた。


シズアは前世の知識もあって、色々と考えてますね。

片やアニスは直感で動いているように思えます。


同じ姉妹でも人それぞれで面白いです。


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