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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-8. アニスとシズアは交渉したい

「イラ、待っててくれたのね。ありがとう」


イラの姿に少しうっとりとしていたシズアの方が先に語り掛ける。


「私も貴女方とは話がしたいと思っていたから丁度良いところだったのよ。それに私達は今さっき来たばかりだから何も気にすることは無いわ」


イラの用件に心当たりがない二人は、それを嬉しいことと捉えて良いのか判断が付かずにいた。しかし、ともかく話をしなければだ。


「待たせていないなら良かったけど。それでこれからどうしようか?立ち話もなんだし、座りたいよね。そこでも良いけど」


と、アニスはギルド内に置いてあるテーブルを指す。


「外に出ないこと?ここは落ち着かないわ」


イラの一言で、一行は街へと繰り出すことになった。


アニスの心当たりにあるのはマーサの宿くらいだったが、そのことを伝えるまでもなく、イラは先に歩いていた。


「どこに行こうとしているか分かる?」


アニスは隣を歩いていた猫人族の少女に語り掛ける。


「いつものところだと思うの」

「いつものところ?」


「いつもダンジョンから帰ってきた後に皆で行く喫茶店」

「ああ」


どうやら行きつけの店があるらしい。

アニスは安心して付いていくことにした。


「そう言えば、貴女の名前は?私はアニス」

「リンダはリンダって言うの。アニスはこの前、クラウスを軽くあしらっていた人なのよね?」


「そうだね、覚えていてくれてたんだ」

「クラウスはあの後、悔しがって練習を頑張っていたの」


クラウスはアニスに負けるつもりが無かったと言うことなのか。でも、神殿学校で一番強い生徒ということでもない筈だ。


「イラにも負けてるんじゃないの?」

「イラは学校の中でも強い方だから。学校に通っていない人に負けたのが嫌だったらしいの」

「まあ、そう言われてもね」


神殿学校に通っているだけで、そうでない人に対して絶対的な優位性があると信じてしまっているのだろうか。もしそうならば、視野が狭いんだよなとアニスは思うのだった。

これまで、そうした考えを覆すような出会いが無かったからなのだろうが。


「でも、アニスがギルマスに一本入れたって話を聞いて、クラウスも考えを改めたみたいなの。アニスって凄い奴なんだって、言ってたの」

「そうなんだ。認めて貰えたなら嬉しいかな」


思い返してみると、先程ギルドで会った時、クラウスの表情に尊敬の色が見えていた気がしなくもない。


そのクラウスはと言えば、今はアニス達の後ろでジャンと二人、男の子同士で話しながら歩いていた。

ちなみにシズアは、珍しくアニスではなくイラにくっついている。まあ、イラは美人だし、物腰も上品だからシズアが憧れるのも無理はない。


そうして一行は、イラに引き連れられて神殿のほど近くの店に到着する。

イラが先に入って人数を告げると、店員が四人用と二人用のテーブルを繋げて、六人で座れるようにしてくれた。


そこへまず、アニスとイラがテーブルの端の席に向かい合って座る。続いてアニスの隣にシズア、その隣にジャン、イラの横はリンダ、クラウスの順に腰掛けていった。


「さて、何から話しましょうか?」


そうイラが切り出したのは、各々(おのおの)が注文を終えた後になってからだ。


「イラの話って何?私達は、小ダンジョンに一緒に行って欲しいってことなんだけど」

「貴女達、ダンジョンに入ったことはあって?」


アニスとシズアは二人揃って首を横に振る。


「ないよ。今度が初めて」


「何かダンジョンに入りたい目的ができたのかしら?」

「うん、そう。アームドバッファローを狩りたいんだよね。小ダンジョンの二層にいるらしいって聞いたから、そこに行きたいって考えてる」


アニスはここで下手に出ようかとも考えたのだが、冒険者同士、持ちつ持たれつのところはあるし、イラからも何か話がありそうなことから、対等に胸を張って話そうと真っ直ぐイラを見詰めてやりたいことを告げる。


「そう。二層に行きたいのね」

「駄目かな?」

「まあ、私達からすれば造作もないことではあるのだけれど」


目線を下げて話をしていたイラが、そこで言葉を切った。


「けれど?」


イラの態度に成り行きが不安になったアニスが言葉を重ねる。

少しだけ考えたイラは、顔を上げてアニスに微笑んでみせた。


「いえ、ここはフェア(公正)に行きましょう。私からも貴女方にお願いしたいことがあるの」

「さっきイラが話したいって言ってたことだよね?」


アニスの確認に頷くイラ。

しっかりとアニスの目を見て、口を開く。


「貴女方の乗っている魔力二輪車と同じものを、私に売っていただけないかしら」


その話かぁ、とアニスは思った。

過去、行き掛かりでマーダル一家に二輪車を売ったことはあったが、それ以降、街中で乗り回すのを控えたこともあってか、二輪車を買いたいと言われたことは無い。

なので、こうして面と向かって売ってくれと言われるとは予想していなかった。


「二輪車は余り広めるなって言われてるんだよね」


まず一度は渋ってイラの様子を伺ってみる。

イラの様子からして、それくらいで諦めるとも思えなかったが。


「広めたくないと言っている割には貴女方は毎日乗り回しているのではなくて?あれだけ大っぴらに走っていたら、噂にしてくれと言っているようなものよ。きっともう領都にも、いえ王都にすらも話は広まっているに違いなくてよ」

「そ、そこまでかなぁ」


アニスは動揺を隠せない。

こんな田舎の街で、高々エアブーストの付与を掛けた二輪車が走っていると言うだけの話が、王都にまで届くようなものの筈がない。アニスはそう信じたかった。


「そこまでよ。何なら私の知り合いに調べて貰いましょうか?」

「いや、そんなことしなくて良いから」


強気のイラに弱腰な対応になってしまうアニス。


「でも、マーダル組を味方に付けたのは良かったわよね。あれでかなりの人達が貴女方に話を持ち掛け辛くなっているわ」

「えっ、そうなの?」


ここでマーダル組の話が出て来るとは思わなかった。


「意外かも知れないけれど、あの人達、商人には顔が効くのよ。店で起きたトラブルの仲裁に入ってくれたりするし、良くない相手に睨みを利かせてくれたりなどね。私達冒険者は、お世話になることが少ないから、彼らが何言っても気にしないけれど」

「知らなかった」


年下のイラの方が街のことを良く知っていると言う事実に、アニスは打ちのめされる。


「まあ、年長の冒険者達は、年下で級も下の冒険者に二輪車を売って欲しいとはプライドが許さないから言えないでしょうね。なのでそれは良いとして、魔女は大丈夫なのかしら?」

「魔女?どうして?」


何故ここで魔女の話が出て来るのかアニスは(いぶか)しんだ。賢者やサラが魔女であるとは知られていない筈なのに。


「あら、知らないの?魔女は魔力二輪車のような新しいものには敏感だって噂よ」


確かに魔女である賢者も二輪車に関して魔導国のことを気にしてくれていたが、イラは何を知っているのだろう。アニスが口を開けずにいると、隣から声が上がった。


「それって魔導国のことですよね?魔女って魔導国の人なんですか?」


シズアの問いにイラは優しく微笑みを返す。


「私の聞いた話によれば、魔女は魔導国とは無関係ね。そもそも魔女の話は噂話しかなくて、実在するかも不明だし、どこまで心配したものやらと言うところね」

「だったらどうして今、魔女の話を持ち出したんですか?」


アニスが聞きたかったことを、シズアが尋ねてくれた。

イラは微笑みを崩さずにいる。


「貴女方がどれくらい周りのことを気にしているのかを知りたくて。火のない所に煙は立たないと言われるし、噂話も莫迦にはできなくてよ。貴女方も注意なさいな」


「はい。ご忠告ありがとうございます」


イラは体よく話をまとめたが、その発言には裏がありそうだとアニスには感じられた。ただ、ここで魔女の話を深堀りするのも得策ではなく、黙っているしかない。


そんなアニスにイラが目を向けた。


「それで、魔力二輪車は売って貰えるのかしら?」


私に売っておけば後で何かと便利よとイラの目が語っているようにも見えた。


「簡単に手に入るとか言いふらさないでくれれば、考えないでもないけど」


アニスは少し譲歩する姿勢を見せて、イラの反応を探ろうとする。


それに対してイラは、アニスの目に向けていた視線を逸らすことなく微笑んでみせた。


「貴女方の立場からすれば、当然の心配よね。良いわ、貴女方には迷惑が掛からないようにすると約束しましょう」


何の迷いもなく毅然とした態度、それでいて相手の立場を思いやる真摯な物言い、それらはアニスにとって好ましく映り、イラになら売っても良いかなと思わせる。


「それで何台欲しいの?」

「そうね、取り敢えず、私達が使う分で二台ね」


「取り敢えず?」


一度だけのつもりだったアニスは、イラのその言葉に引っ掛かる。


「あら、気になった?」


イラは悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「先のことで少し考えていることがあるのよ。その時に魔力二輪車があると助かると思って。でも、まだどうなるか分からないし、本当に必要になった時にはまた交渉をお願いするつもりだから、今は気にしなくても良くてよ」

「また売るかは分からないよ」


アニスは念のためにと、釘を刺しておこうとする。


「でも、売らないとは決めていないのでしょう?その時の交渉が楽しみね」


それくらいのことで引き下がるイラではなく、余裕の笑みを浮かべたままだった。


「参ったなぁ、イラには。分かった、ともかく今回は二台ね。二輪車は結構高いけど大丈夫?」

「構わなくてよ。私はそれなりに冒険者としての活動をしているから、蓄えはあるわ。だけど」

「だけど?」


アニスが聞き返すとイラはニッコリと微笑む。


「お友達価格でお願いね」

「お友達?イラと私が?」


アニスは唖然とした。いつの間にそう言うことになった?


「そうよ。お友達だから、一緒にダンジョンに行ってあげるんじゃない」


相変わらず微笑んでみせるイラに、肩を落とすアニス。


「何だか割に合わない気がするよ」

「あら、私と対等のお友達になれるって結構価値のあることなのよ。分かって?」


アニスは自信満々のイラを見、そして諦めて溜息を吐いた。


イラは強く、アニスは何だかんでお人好しっぽいですね。


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