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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-6. アニスとシズアは武具屋に尋ねたい

ヴィクトルの店を出て街中を歩き始めると、アニスが心配そうな表情で口を開いた。


「ねぇ、シズ。ヴィクトルに話しちゃって良かったのかなぁ」

「私達が賢者様を言い訳にしていること?どう考えたってヴィクトルは勘づいていたと思うのよね。だから今更よ。それに、世界を動かすなら、まず一人を動かせないとでしょう?」


シズアは悪戯な笑みを浮かべる。


「シズ、世界を裏から操るとかエルザに言ってたの、本気なんだ」


アニスが(おのの)いた表情でシズアを眺める。


「本気か冗談かどちらかと尋ねられたら本気と答えるわね。でも、そんなに簡単な話とも思っていないわよ。ただ、そういう目標を持っていた方が楽しいじゃない?」

「楽しい?うん、まあ、そうか。シズが楽しんでいるのを見ると私も楽しいと思えるから、それは良いことなのかも知れない」


「何言っているのよ。アニーはアニーで目標を持てば良いじゃない」

「いや、私の目標はシズに楽しい人生を送って貰うことだから」


腕を曲げ、力拳(ちからこぶし)まで作って力説するアニスの顔をちらりと見るシズア。


「まあ良いけど、私だっていつまでアニーの傍にいられるか分からないわよ」

「嫌だぁ、シズ。そんなこと言わないでよぉ」


涙目でシズアに(すが)りつくアニス。


「分かった、分かったから。アニーはいつまでも私が世界を操るのを手伝って頂戴」

「うん。ドンと任せておいて」


シズアの言葉を受け、あっという間に立ち直ると、アニスは胸を叩いてみせた。


「頼りにしているわ。私ももっと女を磨かないと」

「いや、シズはまだ女ってところまで行ってないよ。まだ十歳なんだからね」


「そんなこと言われなくても分かってるって。ちょっとした言葉の綾よ。でも、いずれはエルザみたいになりたいわね。あの人の瞳に見られたら、ゾクッと来ちゃったもの」

「それ、自分を裸にされたような感じってこと?シズも感じたんだ。エルザの目力もあるとは思うけど、あの人、鑑定眼持ちだからねぇ」


え?っとシズアはアニスを見る。


「エルザって鑑定眼が使えるの?」

「使ってたよ。だから目に魔力を送っていたし、その魔力の一部が目から放出されて目力に感じた部分もあると思うんだよね」


「だったら私も目に魔力を送れば、目力が強くなるのかな。っと、ちょっと待って」


シズアは慌てた表情になる。


「エルザに私が転生者だって分かっちゃった?」

「いや、鑑定眼でシズの過去や記憶が見えるなんて聞いたことないから、それはないよ」


「それじゃあ、アニーがどんな属性の魔法も使えるって言うのは?」

「魔法関係は、魔力眼の領域だよ。鑑定眼は知識神スキレウスの加護で、魔力眼は世界神とも呼ばれる魔法神ザナウスの加護。スキレウス神がザナウス神の領域を冒すことはないから鑑定眼では魔法のことは分からない。ただ、例外的に物に付与された魔法の効果は分かるんだったかな。身体強化とか、防御強化とか、速度増加とか」


「じゃあ、エルザには私達の秘密はバレてないってことね」

「そう、大丈夫。エルザの眼には私達はただの冒険者になりたての姉妹にしか見えて無かった筈」


アニスの言葉にシズアはほっと胸をなでおろす。


「と、話してたら着いちゃった。ここだよね?ヴィクトルが教えてくれた武具屋って」


そうシズアに語り掛けつつ、アニスは店の扉の前に立ち、脇にある武具屋の看板に目を向けていた。


「多分ね。この辺に武器と防具の両方を扱っているお店って、ここしかなかったと思うから」

「じゃあ、入ろう」


アニスは率先して扉を開け店の中へと進んでいき、シズアがそれに続く。


店内は、想像以上に質素なものだった。武具屋なので、所狭しと武器や防具が並べてあるかと思いきや、入って右側の壁には剣と槍と弓が一つずつ飾られているだけ、左側には展示用の人を模した骨組みに取り付けられた革製の防具一式と、金属鎧一式、それに盾が並べてあるだけだ。値札は付いておらず、売り物ではなさそうに見える。


奥にカウンターがあるが、そこに人の姿は無い。


「誰もいないね。奥の部屋にいるみたいだけど」


アニスはイヤリングに付与したウィンドサーチの魔法で店の奥を探り、そこに人影を見付けていた。


「このハンドベルを鳴らすのかな?」


シズアが指さしたのは、カウンターの上に置いてある取っ手の付いた小さな鐘。


「そうだね、私が鳴らしてみる」


アニスが取っ手を持ってハンドベルを持ち上げ、軽く振る。すると、リーンと高い音が鳴り、店中に響き渡った。


「今行く」


店の奥から男性の声が聞こえ、暫くすると一人のドワーフがアニス達の前に姿を現した。

ドワーフは、二人のことをしげしげと眺めている。


「儂を呼んだのは、お嬢ちゃん達か?」

「はい。私、アニスって言います。こっちはシズア。ヴィクトルに聞いて来たんですけど、貴方がゴードン?」


「いかにも。ゴードンとは儂のことだが。もしかしてお嬢ちゃん達は、ヴィクトルのところに出入りしている姉妹か?」

「私達のこと知ってるんですか?」


アニスは驚いた表情でゴードンを見るが、ゴードンは薄く笑みを浮かべただけだった。


「ここら界隈の職人で知らんものはおらんだろう。見たこともない乗り物を作りたいと言ってきたとな。賢者様から聞いたとのことだったが、賢者様はどうしてお嬢ちゃん達に教えたんだ?」

「さあ、そこのところは私達にも分からないんだけど」


アニスは目を逸らし気味にしながら、返事をする。


「まあそうだな、それは賢者様の問題だからな。それで、今日はどうして儂のところに来た?武器か防具が欲しいのか?」

「そうだね、防具は欲しいんだけど、その前に聞きたいことがあって。ゴードンは世界中を旅したことがあるって聞いたんだけど」


「ああ、仲間達と冒険者のパーティーを組んで旅をしていたことがあった。それがどうかしたのか?」


ゴードンからの問い掛けにアニスは返事をせず、シズアの方に視線を向ける。と、シズアが前に出て口を開いた。


「旅をしている中で、計算に使う道具を見たことがあったのかを聞きたくて」

「計算に使う道具?」


「ええ、何でも良いのですけど、計算のために筆算ではなくて道具を使うのを見たことが無かったどうか」

「うーん、どうだったかなぁ」


ゴードンは腕を組み、手に顎を乗せて考え始める。


「そう言えば、一箇所あったな」


少ししてからゴードンが嬉しそうな表情で顔を上げた。


「南の海沿いの魚人族の集落では、赤ん坊が生まれた時に月齢などからその子の運勢を占う風習があってな。その時に貝殻から作った大小のチップを使って計算をしていたのを見たことがある」


「どんな風に計算してましたか?」

「詳しいことは忘れてしまったが、確か縦に二つに区切った浅い箱があって、手前にチップを入れておくんだ。それで計算したい数字に合わせて奥の方に桁ごとにチップを置いていく。大きいチップは五の代わりで、小さいチップは一。二つの数字を縦に並べて、桁ごとに十になるチップの組合せがあれば、それらのチップを取って、一つ上の桁に小さいチップを置く。そんな風にしていたと思う」


「それは占いの時だけだったのですか?」


シズアの問いに、ゴードンは頷いた。


「ああ、チップを使うのは儀式の時だけで、そこでも日頃は筆算を使っておったよ。その方が早いからな」

「確かに聞いた感じではそうかなと思いましたけど」


シズアは残念そうな表情を浮かべた。


「それがどうかしたのか?」

「計算するのに筆算は便利ですけど、道具を使ってもっと簡単に計算しようと考える人がいないのかなと思って。それでゴードンなら何か見たことがあるのではとお尋ねしたんです」


「そういうことか。だが、他には心当たりがないな。ん?もしかして嬢ちゃん達、そう言う道具を作ろうと考えているのか?」

「え、ま、まあ」


もじもじしながらシズアが言葉を返す。


「またヴィクトルから面白い話が聞けそうだな」


ゴードンがにやりと笑う。

あははとシズアが愛想笑いする。


和やかそうな雰囲気でありながら緊張感の漂う状況だなとアニスが思うが、その空気を切り替えたのはゴードンだった。


「それで先程、防具が欲しいと言っておったと思うのだが」


ゴードンの目がアニスを見る。


「そうなんだけど、店の中に売り物が置いてないよね?」


アニスは改めて店内を見渡すが、最初に見た展示物以外の物は見当たらない。


「ああ、この店はオーダーメイド専門だからな。普通に買おうとすると他の店より高価だが、素材を持ち込んでくれれば安く作ってやれるぞ」

「どんな素材を持って来れば良い?この皮の胸当てより頑丈だけど重く無くて動き易いのが欲しいんだけど」


アニスの言葉に、ゴードンは再び考える姿勢になる。


「そうだな。この辺で入手できて、要望に叶う物としては、アームドバッファローの皮なんてどうだ?」

「アームドバッファローって聞いたことがないんだけど、もしかしてダンジョン?」


「ああ、小ダンジョンの二層にいるだろう。魔石はD級だが、皮が堅いから討伐難易度はC級クラスだ。嬢ちゃん達、冒険者ギルドにホーンタイガーを持ち込んでいるよな?ロナウドが話していたのも嬢ちゃん達のことだろう?」

「うん、そうだよ」


ロナウドは、冒険者ギルドで解体を担当している。この前ホーンタイガーを持ち込んだ時、特に口止めもしなかったし、素材を集めるゴードンが解体を仕事にしているロナウドを知っているのは当然のこととアニスは受け止めていた。

だから、ゴードンの問い掛けにも、素直に頷いてみせた。


「ホーンタイガーはC級だ。それが狩れるならアームドバッファローは問題ないと思うが、安全のためには他の奴とパーティーを組んで行った方が良い。お嬢ちゃん達、ダンジョンに潜ったことはあるのか?」


アニス達は、首を横に振って答える。


「ダンジョン探索には独特の流儀がある。初めてダンジョンに潜る時には、必ず経験者とパーティーを組まないと駄目だ」

「私達とパーティーを組んでくれる親切な人がいるかなぁ」


「冒険者は仲間意識が高い奴が多いから探せば見付かるだろう。ただ、流石に男ばかりのパーティーは止めておけ。別の意味で危険な可能性があるからな」

「男共に私達が襲われてしまうかもってこと?そんなのアニーと私なら返り討ちにしてしまえるわ。あー、でも、ダンジョン内でそうなると帰って来るのが大変かぁ。確かに避けた方が良さそうね。私がもう少し成長していたら、私の魅力で男共をひれ伏させるのにな」


その自信がどこから湧いて出て来るのかが分からず、アニスはシズアの言葉に反応できなかった。

そしてゴードンも、ただ黙ってシズアを見詰めていた。


シズアはきっと成長すれば美人になります。ただ、今は「かわいい子」ですね。

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