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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-5. シズアはヴィクトルに口止めを依頼する

エルザの店を出た後、アニスとシズアは行く当ても無く街の西門の方へと歩いていた。

このまま西門に着いたら村に帰っても良いかな、とアニスは考える。

そんな時、シズアが歩みを止めた。


「ん?シズ、どうかした?」

「ヴィクトルの工房に行っても良い?」


シズアが若干上目遣いにアニスを見る。シズアに可愛くお願いをされて、首を横に振れるアニスではない。


「良いよ。でも、どうして?」

「作ってみたいものがあって、相談したいの」

「二輪車みたいな奴?」


アニスが両手を広げて二輪車の車体の大きさを示す。


「ううん、今回のは小さいよ。これくらいかな」


シズアは両手を体の幅くらいに広げる。


「そうなんだ。なんだろうな?でも、ともかく行こ」


シズアの考えていることが分からないのは良くあること。なので、アニスは気にせず先に工房の方へと歩き出す。

そんなアニスをシズアが追う。


二人がヴィクトルの工房の近くまで行くと、いつものようにヴィクトルが店先で作業しているのが見えた。


「ヴィクトル、それも修理?」


アニスがヴィクトルに声を掛ける。


「ああ。店としては新しい物を買って貰えると嬉しいんだが、作り手としては大事に使って貰えると嬉しいもんだ。修理して使える物なら、まずは修理だな。これもまだまだ使える」


そう言って、ヴィクトルは修理中の荷馬車を手で叩いた。


「それで、俺に何か用か?」

「うん、シズが作りたい物があるって」

「あの、ごめんなさい。突然来ちゃったので、図面が何もなくて。書くものを貸して貰えますか?」


シズアがヴィクトルの様子を伺うように見ると、ヴィクトルは笑顔で答えた。


「ああ、それなら奥に行こう」


ヴィクトルは二人を工房の奥へと導く。

途中、工房の職人が作業している脇を通る度、アニス達は軽く挨拶をする。二輪車を作る時に出入りしていた際に見知った職人達だ。


そうした作業場の先に大きなテーブルが置いてあった。

二輪車作りをしていた時には、そのテーブルの上に図面を広げて議論していたのが思い出される。


「シズア、紙の大きさはどれくらいが良い?全形か?」

「ううん、今度のはずっと小さいから八ツ切かな?」


八ツ切とは、全形の紙を長い方で四等分、短い方で二等分した八分の一の大きさの紙のことだ。

ヴィクトルはシズアに言われた通りに八ツ切の紙を何枚か棚から取り出してテーブルの上に放り、羽ペンをインク壷ごと、それから定規をシズアの右前に置いた。


「これで良いか?」

「うん、ありがとう」


シズアは紙を一枚取って自分の前に置き、羽ペンと定規で図面を描き始める。


「なあ、アニス。シズアは何を作ろうとしてるんだ?」

「分かんない。小さい物としか言ってなかった」


「小さい物?靴の下にでも取り付けるのか?」

「靴の下?ああ、かんじきみたいなってこと?いや、どっちかと言うとショートスキーかな?でも、真四角に書いているから違うんじゃない?」


シズアの作業を見ながらアニスとヴィクトルが話をするが、それにシズアは反応することなく、黙々と手を動かし続けている。


「何だこれは?枠の中で何本も軸を渡して、その軸に玉を通しておくのか?何のためだ?」

「玉は動くようにしておくみたいだね。これ、楽器かな?振ってカチャカチャ音を鳴らすもの?」


図面は完成しつつあるが、二人にはそれが何か分からない。


それから少しの時間を掛けて、シズアは三面図と俯瞰図の二つの図面を描き上げた。


「ふう、できた。取り敢えず形を分かって貰えるように描いただけだから、細かい調整は試作品ができてからね。ただ、できればこの木枠は重めのものにして欲しいのと、玉は滑らせやすく、滑り難くして欲しいな」

「おい、シズア。サラッと難しい注文を入れやがったな。何だよ、滑らせやすいのに滑り難いって。矛盾しているだろうが」


「それはつまり滑り加減が重要ってこと。途中で引っ掛かったりするのは絶対に駄目だからね。軸は節のない滑らかなものを使って、でも玉が勝手に滑らないように穴は大き過ぎないようにして欲しいのだけど」

「言いたいことは分からんでもないが」


ヴィクトルは腕を組んで考えこんだ。


「なあ、この話、隣のティニオンに相談しても良いか?木の加工はあいつが専門だからな」

「ティニオンって隣の木工所の親方だよね。良いよ、私の依頼ってことは黙ってて貰える?」


シズアは可愛く首を傾げる。


「俺は黙っていても、直ぐに分かっちまうぞ。どうせ完成したら持ち歩くんだろう?」

「うん、まあ。だったら、私が賢者様から教えて貰ったってことで」

「また賢者様かよ」


ヴィクトルは渋い顔をした。


「駄目かなぁ。賢者様がこれを知らないことはないと思うのよね」


頬に手を当て思案顔になるシズア。

そんなシズアにアニスが声を掛ける。


「ねえ、シズ。それで、これは何なの?」

「ん?計算するための道具だよ」


「名前は?」

「名前かぁ。うーん、私が勝手に名前付けちゃって良いのかな?」


「良いも悪いも何も、お前が持って来た話だろう?お前が名前を付けなくてどうする?」


シズアの背中を押すようにヴィクトルが言葉を掛ける。


「確かにね。まあ最悪、商品名にしちゃえば良いか」


踏ん切りが付いたのか、笑顔になるシズア。


「えーとね。計算する(カラレクテ)ための道具(クトル)だから、『算盤(カラレクトル)』でどうかな?」

算盤(そろばん)ね。良いんじゃない?ねえ、ヴィクトル?」

「ああ、簡単で分かり易いな。それでこれはどうやって使うんだ?」


ヴィクトルがシズアに目を向けながら、図面に描かれた算盤の絵を指差す。


「枠を左手で持って、あとは一つの軸を数字の一桁に見立てて右手で玉を動かしていくのよ。実際の計算方法については、試作品が出来てからで良い?口だけだと説明し難いから」

「ああ、それは構わんが。しかし、良く思い付いたな」


「え?あー、そうね」


シズアは一瞬ヴィクトルから目を逸らすが、直ぐにヴィクトルに向き直る。


「ねえ、ヴィクトルはこれに限らず計算するための道具があるかは知ってる?」

「いや、聞いたことがない」


「だったら、これまで計算はどうしてきたの?設計する時はどうしても計算しないといけないよね?」

「まあそうだな。計算が必要な時は筆算を使っている」


シズアはヴィクトルの言葉を頷きながら聞いていた。


「確かに筆算でも計算はできる。でも、筆算するには書くものが必要だし、書きながらだと面倒だし、間違えることもあるよね。だから何度も計算し直さないといけない」

「そうだ」


ヴィクトルの返事を聞いたシズアは腕を組んだ。


「それはヴィクトルに限ったことじゃない。母さんは毎日家計簿付けているけど偶に計算を間違える。だから、私が計算違いがないか確認してた」

「え?シズ、そんなことしてたの?」


アニスは目を丸くしてシズアを見る。


「アニーは母さんが家計簿付けているのに興味を持ったこと無いよね?」


シズアがジト目をアニスに向ける。


「うん、そうだね。一度も無い」


「だからよ。まあ、それはともかく、マーサだって宿の帳簿付けが大変そうだし、ミランダも苦労してるし、エルザも計算はなるべくしないようにしてたし。この辺は田舎だけど読み書きや計算ができる人が多いよね。神官学校では勿論教えてくれるだろうし、そうでなくても父さん達は私達に教えてくれたし、考えてみるとそれって凄いことだと思うのよ。そして、それだけ計算できる人がいて不便に思っていたら、誰かがこういった道具を考える方が普通かなぁって。逆にそれが無いなんて私が変と言うより、世の中の方が変な気がする」


「いや待てシズア。俺だってそんなにあちこちに出掛けた訳でもないから知らないことも多いんだ。それだけで世の中のことを決め付けない方が良いぞ」


ヴィクトルが慌てるように口を挟む。


「そうだ、俺より物知りな奴を紹介してやろう」


そう言うと、ヴィクトルは腕を上げて方向を指し示す。


「この店の前の道を東門の方に少し歩いたところに武具屋があるんだが見たことあるか?そこの店主はゴードンと言って、昔は冒険者として世界各地を回っていた奴なんだ。そいつなら何か知っているかも知れない」


「どう、シズ、行ってみない?」

「ええ、良いわね。それから試作品ができたら賢者様のところにも行ってみたいわ。算盤の使い方を知っているか確認したいし、もし知らなければ教えておきたいから。そしたら賢者様から教えて貰ったことにできるでしょう?」


「え?その話、まだ生きていたのか?と言うか、俺の前でそんな話をしていて良いのかよ」

「ヴィクトルにはこれからも協力して欲しいから。実を言えば、他にも作って欲しい物があるのよね」


シズアが上目遣いに見ると、ヴィクトルは両手を竦めてみせた。


「へいへい。お前に頼まれた物は、全部賢者様に教わった物だってことにしておいてやるよ。だが、賢者様とは話を付けておけよ」

「ええ、分かったわ」


シズアは嬉しそうにヴィクトルを見た。


読者の方々なら想像付くかと思いますが、シズアは前世の子供の頃に算盤を習っていて、達人級の腕前になってます。だから、パッと見て計算違いが分かるんですね。


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