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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-4. アニスとシズアは弟子入りしたい

それまでカウンターの前でしゃがんでいたアニスが、立ち上がりながらシズアの様子を眺めると、シズアは両手を胸の前で組み、瞳をキラキラさせて前方を見ていた。

その視線の先に目を向けると、髪の長い美女がカウンターの中に立っている。歳の頃は二十代半ばだろうか。切れ長の目からは理知的で強い意志の力が感じられたし、その艶やかな姿には、人を惹きつける魅力がある。


だからと言って、初対面でいきなり弟子入りを申し込むのはどうなのだろうか。

アニスは戸惑ったが、美女の方はそうでもないらしく、至極冷静な目付きでシズアを見ていた。


「貴女、お名前は?」

「シズアです」


「そう。それでシズア、貴女は私に弟子入りして何を学びたいの?ポーションの作り方?それともお店を手伝ってくれるのかしら?」


美女は優雅に首を傾けて微笑みんでみせる。物静かな動きでしか無いのに、アニスは彼女から圧を感じ取った。何か、自分が丸裸にされているような、そんな感覚だ。彼女の目の前にいる以上、どんなことをしたところでその感覚から逃れることは叶わないにも関わらず、思わず彼女から目をそむけたい衝動に駆られる。


しかし、シズアは目を逸らさずに相手のことを見詰め続けていた。


「女の磨き方を教えてください」


シズアの願いを聞いて、美女は興味深げに目を細める。


「貴女は女を磨いて何をしたいの?」

「私に近付く人達を手玉に取って振り回すの。そして、私の思うように世の中を動かしていくのよ」


瞳を輝かせて美女を見るシズアが口にした願望は、アニスにとっては初耳で、かつ、想定外に大それた内容だった。

アニスは目を丸くしたが、一方で、美女は口元を緩めてシズアを見詰める。


「世の中を動かすって、この国の女王様にでもなろうと言うの?」

「まさか」


シズアはぷるぷると首を横に振る。


「女王様になっちゃったら、この国の人達すべてに対して責任が生じちゃうよね。そんな面倒なことはやりたくないし、私の美学にも反するから。私がなりたいのは、世界を裏から操る影のマダムのような存在ね」


初対面の人に向けて、シズアは何を言ってくれているのだろう。目の前の美女に出会えたことがシズアの何かを突き動かしたのかも知れないが、そこまで堂々と宣言してしまうのは不味いのではとアニスはあたふたした。

けれど慌てているのはアニスだけで、美女は楽しそうに微笑んでいる。


「シズア、貴女ってとても面白い子ね。ともすると不敬と取られかねない発言が含まれていたようだけど、女たるものそれなりの野心を持たないとね。そうした意味で、貴女はとっても良いわよ」

「ありがとうございます。それで私、弟子にして貰えますか?」


シズアは果敢に申し入れるが、美女は首を縦には振らず、片頬に手を添える。


「そうねぇ。貴女の場合、私に教えを乞う前にやるべきことがあると思うわ。貴方、歳は幾つ?」

「十歳です」


「それなら丁度良いわ、十二歳になったら中等学校に入りなさい。それから大学ね。良い女になるには知識が必要よ。経済と地理と歴史。国や商人達がどうやってお金を得て増やしているのか、各地の気候の特徴や特産品、国の成り立ちや国の勢力図がどう変わったのか、それは何故なのか。世の中を動かしたいのなら、まずそうしたことを理解しておかなければいけないわ。できれば、貴族学校に通って、貴族のことも知っておいた方が良いのだけれど、貴女のご両親は爵位を持っていて?」


シズアは残念そうにかぶりを振る。


「あら、そう。でも、貴族学校に入ることは必須ではないから大丈夫よ。何等かの形で貴族と関わりを持って、彼らの行動原理を理解しておいた方が良いと言うだけだから」


美女は優しそうに微笑むが、それすらアニスにはゾクリと来るものがある。


「分かりました。頑張って勉強して、それからまた弟子入りに来ます」


シズアはやる気に満ちていた。しかし、アニスはそんなシズアをポカンと見るばかり。


「ねえシズ。何を言われたのか分かったの?私にはさっぱり。歴史は分かるけど、地理?経済?」

「アニーには後で詳しく教えるわ。とても簡単に言っておくと、物の動きとお金の動き、それに人の心の動きとその関係性について学びなさいって言われたのよ」


「へー」


アニスにはそうとしか言いようがなかったが、美女がたおやかに頷いているのを見ると、シズアの説明は正しいようだ。


「そうなんだ。シズ、当座目指すものが見付かったってことかな?」

「うん、そんな感じ。あ、お姉さんの名前を教えてくれますか?」

「エルザ。エルザ・サルトレイよ」


「このお店の店長の」

「ええ。オーナー兼店長」


これだけの存在感のある美女がただの店員ではないだろうとは考えていたが、やはりミランダに教えて貰ったエルザ当人だった。


「あの、質問しても良いですか?私はアニス、シズアの姉なんですけど」

「ええ、貴女の噂は聞いているわ。冒険者試験の時にガザックを相手に一本取ったのよね」

「はい、まあ、何とか」


エルザはあの場にはいなかったが、当然のように耳に入っているようだ。


「それに見たこともない二輪車を乗り回しているとか」

「あれは移動手段が欲しくて、賢者様に相談して教えて貰ったんです」


情報通のエルザに通じるかは不明だったが、取り敢えず用意していた答えを返す。


「それが不思議なのよね。賢者様なら魔導国の噂を知らない筈は無いのに」

「人攫いのことですか?その話なら賢者様から聞きましたけど」


その言葉に、エルザは目を丸くしてアニスを見る。


「あら、貴方達、分かった上でのことなのね?まあ、良いわ。それで、私に質問があったのよね?」


アニスにとって嬉しいことに、エルザは本題を忘れてはいなかった。


「はい。ここにある魔具やポーションはどこで作られているのかなって」

「魔具は領都の工房から仕入れたものね。この街にも魔具職人が一人だけいるけれど、忙しいみたいで余り品物が入ってこないのよね。それと、ポーションは私が作っているわ」


何気なく付け足された最後の一言が、アニスの琴線に引っ掛かった。


「あのっ、私も弟子にしてください」

「え?何でアニーまで弟子入り志願しているのよ」


今度はシズアの方が驚いた。


「ポーション作りを学びたいと私の職人魂が叫んでる」

「いや、アニーは職人じゃないよね?私と冒険者やるって言ったよね?」

「も、勿論、冒険者はやるよ。でも、ポーション作りも覚えたいんだけど」


シズアに反論されて弱腰になるアニス。

二人のやり取りを楽しそうに眺めているエルザ。


「貴女達、ポーションがどういう風に作られるのか、まったく知らないのよね?」

「全然知らないです」


アニス達は二人揃って首を横に振る。


「だったら、まず一回、簡単な初級ポーションの作り方を見せてあげるわ。その先どうするかは、それを見てから考えなさいな」

「えっ、嬉しい。ありがとう、エルザ」


アニスは目を輝かせてエルザを見る。


「お礼を言うにはまだ早いわよ。作り方は見せてあげますけど、その前に一つやって貰うことがあるのだから」

「何ですか?」


首を傾げるアニスに、エルザは微笑んだ。


「素材集めよ。『ポーション作りはまず素材集めから』と言いますからね。初級ポーションの素材は、魔力草と魔石。魔石はE級の物で十分。魔力量が大きい人は魔石は無くても構わないくらい。そして魔力草だけど、貴女達、魔力草のことは知っていて?」

「話では聞いたことがあります。そのままでも薬草として使えるとか、魔素の多い森の中だと夜に光って見えるとか」


アニスは懸命に以前耳にした話を思い浮かべる。


「ええ、その通りだけど、実物を見て貰った方が良いわね」


エルザはカウンターの奥に設置されている収納箱を開けて、何種類かの草を取り出し、カウンターの上に並べた。


「魔力草にも種類があるの。左から、魔力回復草、身体強化草、感覚強化草、治癒草、毒消し草、月光草、解呪草ね。葉の形や付き方で区別できるから、よく見て覚えると良いわ。この辺の地上で良く生えているのは魔力回復草に感覚強化草、治癒草、毒消し草あたりかしら。ダンジョンの中だと、階層や場所によって生えているものが変わるわね」


エルザは丁寧に教えてくれる。


「普通の草も生えている中で見付けられるかなぁ」


アニスは独り言のように呟いたが、それにもエルザは反応した。


「最初は大変かもしれないけれど、慣れてくれば簡単に区別できるようになるわよ。それに、判断がつからない時は、少し魔力を当ててみれば良いから。こんな風に」


そう言って、エルザは魔力草に手を翳し、手から魔力を放出してみせる。すると、魔力草が淡く光を放った。


「あ、光った。ねえ、アニー。これなら私達だけでも見付けられるよね?」

「うん、そうだね。沢山採って来よう」

「余分が出たら、買取りもしますよ。でも、採り過ぎには注意しなさいね。魔力草は多年草だから枯らさない限り、何度でも収穫できるのですから。それもあって買取りも一定以上の大きさものしか引き受けないことになっていのよ。ほら、こんな風に」


エルザが一枚の厚紙をカウンターの上に置いた。厚紙の左側には葉っぱの絵、右には魔力草の種類と枚数ごとの引き取り額の表が書いてある。


「この絵の葉っぱの大きさ以上のものを引き取ることになっているのよ。大体貴女達の掌の大きさ位だと思うのですけれど」

「うん、そうだね」


アニスは葉っぱの絵に、自分の手を重ねてみている。


一方で、シズアは違うところを見ていた。


「ねえ、エルザ。何でこの買取表、1から10の全部と20、30、40、50とが書いてあるの?数が増えたときに一枚当たりの値段が変わるのでもなくて、全部枚数で掛けてあるだけに見えるのだけど」


「そうよ。枚数で掛けてあるだけ。でも、それを書いておけば買い取る時に計算しなくて済むでしょう?例えば15枚を引き取る時は10に書いてある金額と5に書いてある金額をお支払いすれば良いのですから」


「あー、なるほど。でも、帳簿を付ける時には計算しないといけませんよね?」

「ええ、そうね。面倒ですけれど、帳簿を付ける時には、気合を入れて計算しているわ」

話を聞いたシズアは、納得するように頷いた。


「計算って気合を入れないといけない話なんだ」


シズアの呟きは、他の人には聞こえなくくらい小さなものだった。


シズアの話が終わったと見たアニスが、手を挙げてエルザに別れを告げる。


「じゃあね、エルザ。今度、魔力草を取って来るから。ポーションの作り方、教えてよ。約束だからね」

「ええ、約束ね」


アニスはシズアを引き連れて上機嫌で店を出た。


そして二人は街中を進んでいく。


「いやぁ、良かったね、シズ。これでポーションが作れるようになるよ」


アニスはシズアに笑顔を向けるが、シズアは思案顔になっていた。


「計算ってそんなに面倒なことなのかなぁ」

「え?計算?シズ、何の話?」


「あ、ごめん。考え事してた。えーと、ポーションの作り方だっけ。分かると良いね」

「うん、良く見せ貰って自分で作れるようになりたいんだ」


それが結構な楽しみなのか、元気よくスキップするアニス。


それにしても、二人共、エルザの店に行った目的を忘れてしまったようである。


「え?何だっけ?」


自分で思い出してください。


二人共、当初の目的を忘れてますが、そういうことってありますよね。



さて、今のところ順調に書けている気もしますが、今後も更新は不定期になりますと言わせてください...。


なお、評価を入れてくださりありがとうございます。


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(2023/12/30追記)

上記の最後の文を前書きから後書きに移動しました。って、そんなこと敢えて言わなくても良かったですかね??

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