3-3. アニスとシズアは今後の計画を立てたい
「アニー、早かったね」
シズアは幾分ホッとしながら、アニスを迎え入れる。
「今日のお昼はシズが作ってくれるって言ってたから、お客さんが減ったら速攻で抜けて来ちゃった」
テヘヘとアニスは可愛く舌を出す。
「そんなことをしたら、マーサに悪くないの?」
シズアは心配になってアニスを見るが、アニスはポリポリと頭を掻いていた。
「いやさぁ、シズのお昼が待ち遠しすぎて、仕事に集中できなかったんだよね。そしたらマーサにさっさとシズのところに行きなって追い出されちゃったって言うか、何て言うか」
「アニー、それ駄目な奴だよね。一体何をやっているのよ」
想像以上に悪い事になっていた。シズアは溜め息を吐いて立ち上がる。
「まあ、楽しみにして貰えたのは嬉しいんだけどね。すぐ作るから、手を洗って待ってて」
「はーい」
「ミランダも食べるよね?」
「ああ、喜んでお相伴に預かるよ」
シズアは先ほど作ったサンドイッチを二人前用意し、ミランダとアニスの前に置く。そしてミルクは自分のも含めて三人分。
「これがシズが言ってた卵黄ドレッシングの味かぁ。確かに美味しいね」
早速サンドイッチにパクつきながらアニスが感想を洩らす。
「分かる?何に掛けても美味しいんだから。サラダは勿論、お肉のソテーとか、ハンバーグとか、串焼きとか。あと、フルーツとかも」
「え?串焼きにフルーツ?そんなのにも掛けるものなの?」
「私はアリだと思っているけど、人によって意見は別れるかもね。そこは好みの問題だから」
「やっぱり、そうだよね」
自分には強要されないと分かり、アニスは胸を撫で下ろした。
「ところでだけど」
「ん?」
アニスはサンドイッチを頬張ったまま、取り敢えず相槌を打つ。
「そろそろ火の精霊を探しに行かない?」
「むぐっ」
唐突なシズアの提案に驚いたアニスは、食べ途中だったサンドイッチを喉に詰まらせてしまう。
息が詰まって焦るアニス。急いでミルクを口に含み、サンドイッチごと胃に流し込んで事なきを得た。
「シズってば、そこら辺に散歩に行くような感覚で言ってるよね」
「そうよ、違うの?」
澄まし顔のシズアに、しかめっ面をするアニス。
「違うよ、全然。シズ、精霊と契約するのって、そんなに簡単じゃないんだから」
「でもこの前、私、迷いの森で精霊に契約しないかって言われたよね」
「あれは本当に偶然だから。だけどあの時、シズが契約するって言ったら契約できちゃったのかな?その気があれば、精霊との契約ってあっさりできちゃうもの?」
話しながら、一人で勝手に混迷の森の奥深くへと迷い込むアニス。
実のところ精霊契約は難しい。その理由は幾つかあるが、大きなものとしては、精霊と出会う機会が少ないこと、精霊になかなか興味を持って貰えないこと、それにある程度の魔力量がないと契約できないことが挙げられる。
シズアの場合は普通の人より魔力量が多いために精霊に興味を持って貰い易く、魔力量の少ない他の人に比べて有利なことは確かだ。
「精霊は魔力の濃いところにしか居られないから、魔力量が多い人が気に入られ易いのは分かるんだけど、じゃあ、私の場合は?」
精霊にだって個性はありますからね。すべての精霊が魔力量を基準に判断すると考えるのは浅慮ですよ。と言うか、魔力量で人間を判断する精霊は二流だと思いますね。
「ふーん。あれ?もしかして私の魔力量だと契約できないんじゃないの?」
はい。確かに貴女の魔力量は、精霊契約するには足りません。しかし、十分な魔力が必要なのは契約時だけなので、両者にその気があれば契約手段はあるのです。
「アニー、どうしたの?話の途中から一人でブツブツ言い出して」
シズアが怪訝そうな顔でアニスを見る。
「あ、いや、何でもない。ちょっと考えごとをしちゃって」
アニスは惚けた表情で誤魔化そうとする。
「どんなことを考えてたの?」
「ほら、精霊と契約するにも、できるだけ良い精霊と契約したいじゃない。どうしたら、良い精霊と契約できるかなぁって」
咄嗟の思い付きではあったものの、シズアの喰い付きは悪くなかった。
「まあ、確かに良い精霊と契約したいけど、そんなに都合よくできるものなの?」
「うーん、そうだねぇ」
改めて問われると、考えがまとまっていないことに気付かされる。
「シズって良いと思う精霊って、どんな精霊?」
「そうね。火魔法がドドーンって使えれば良いかな。後は気が合えば十分と思う」
「精霊と気が合うとかあるのかな?」
「さあ、どうかな?暫く一緒にいれば分かるんじゃない?」
「うーん、どうだろうね」
シズアは割りと簡単に考えているようだが、心配性なアニスは簡単にはウンと言えずにいた。
「あんた達は火の精霊を探しに行くのかい?」
それまで二人の話を横で聞いていたミランダが口を挟む。
「うん、できれば私は直ぐにでも行きたいんだけど、アニーはそうは思っていないみたい。ねえ、ミランダは火の精霊がどこにいるか、知ってる?」
シズアの問いに、ミランダは手に持っていた羽ペンの羽を頬に当てながら考えを巡らせる。
「そうだねぇ、いるとしたら火の山かねぇ」
「火の山?えーと、王都の南の方にある?」
「そうそう。ただ、火の山にはドラゴンもいるって話だから、あんた達だけで行くのは危ないと思うよ。でも、私に思い付けるのはそのくらいだね。もっと情報が欲しいんなら、冒険者ギルドで聞いてみるか、でなければ薬屋のエルザのところに行ってみたらどうだい?」
「薬屋?何で薬屋なの?」
シズアが尋ねる。
「この街にポーションを扱っている薬屋が一軒だけあるんだよ。それがエルザの店さ。そこには冒険者が良く行くし、情報が集まるんでエルザは色んなことを知っているんだよ。冒険者ギルドでギルマスをやっているガザックにも話は行くんだろうが、あと男は大雑把なところがあるからね、詳しいことを知りたいなら薬屋のエルザの方がお勧めなのさ」
「へえ、良いこと聞いた。アニー、行ってみようよ」
「うん、行こ」
お昼のサンドイッチを食べた後、アニス達は早速、ミランダに教えて貰った薬屋へと向かう。
薬屋と言っても実際には雑貨店だ。薬以外にも乾燥させた食材やら、小物などまで扱っている店もある。
エルザの店の佇まいはこじんまりとしていて、街にある他の薬屋と似たり寄ったりの外見だった。だが、冒険者がよく使うだけあって、冒険者ギルドの近くに位置している。
扉を開けて中に入ると、両側の壁一杯に商品を並べた棚が据え付けてあった。入口近くの棚を眺める限りは、他の薬屋と大差ないように見える。
しかし、奥の棚には乾燥した薬草などポーションの材料と思われる物に加えて、魔具もあり、明らかに他の薬屋とは違う品揃えになっていた。
そして、店の奥のカウンター下のガラス棚には、ミランダの言っていたあの商品が並んでいる。
「本当にポーションを売ってる」
アニスはカウンターの前で膝を折ってしゃがみ、並んでいるポーションの品揃えを確認する。そこに並んでいたのは、治癒ポーションに、解毒ポーション、魔力回復ポーション。それぞれ初級、中級、上級の三種類が並んでいる。
「いやー、どれも高いなぁ」
それぞれのポーションの前に、そのポーションの名前を書いた札が置いてあるのだが、そこにはポーションの価格も表示されている。アニスはその値を見て、素直な感想を漏らした。
一番安い初級ポーションでも1,000ガル、アニスが宿で働いた時の二日間の稼ぎに相当する額で、手が届かないものではないが、気軽に手を出せるものでもない。
そもそもアニスは光の治癒魔法のヒールも、水の治癒魔法のキュアも使えるし、シズアがいればハイヒールも使える。なので、回復ポーションが必要になるかは効果次第だ。解毒にしても光魔法のアンチドータルがある。魔力回復もアニスの魔力量と回復速度を考えると有効性に疑問ありだ。いや、もしも自分の魔力量以上に魔力が増えるのであれば一考の余地がある。
いずれにしてもその効果が分からないと有用性の判断が付かない。
なので、店員に尋ねようかと立ち上がろうとした。
しかし、アニスが腰を上げるよりも早く、アニスの隣に立っていたシズアが店員に声を掛けていた。
「あのっ、お願いします。貴女の弟子にしてください」
何がどうしてそうなった?
(2023/12/30追記)
アニスはシズアが好きですが、シズアが好きなマヨネーズは、それほどでもないみたいです。
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本話は、元は後書きが無かったため、改訂作業に合わせて書きました。




