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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第三章 アニスとシズア、ダンジョンに潜る
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3-2. シズアはマヨネーズを食べたい

フンフフンフン。

シズアは鼻唄を歌いながら、泡立て器でボールの中の材料を混ぜていた。


「ご機嫌だね。何か良いことがあったのかい?」


ミランダがシズアに尋ねる。


「ううん、別に。何となく」


シズアは微笑みながら答える。実は理由があるのだが、それをミランダに説明するのは(いささ)か差し障りがあるので、シズアは無難な回答を選んだ。


ここは街の中、マーダル組の事務所の上の階にある、ゴンゾロフの家の台所。

ゴンゾロフ・マーダルは、マーダル組の組頭。サラからはゴンゾーと呼ばれていた厳つい顔の男だ。

ミランダはゴンゾロフの妻。組員からはお袋と呼ばれている。


シズアは姉のアニスがマーサの宿の仕事をしている間、ミランダのところに来ていた。

久し振りに食べたくなったお昼の食事の準備をするために。勿論、前世の時の好物だ。

だから、家では作れなかった。それまで殆ど家を出ることがなかったシズアが、母の知らない食べ物を知っている筈がなく、説明に困ることは間違いなかったし、母に嘘を吐きたくもなかった。


だから必然的に調理するなら家の外になる。

直ぐに思い付くのは伯母のマーサの宿だ。だが、マーサの宿に行ったら手伝わないと気まずいと思われるし、マーサもシズアのことは小さい頃から知っているから結局は嘘を吐くことになり、それが必然的に母に伝わってしまうだろうことを考えると、気乗りしなかった。


そんな時に思い付いたのが、ミランダのことだった。

マーダル組の面々には先日絡まれたものの、アニスが守ってくれたし、サラに口添えして貰ったことで組員のシズア達に対する態度は柔らかくなったこともあり、シズアは最初から悪い印象を持っていなかった。


加えて、ゴンザロスは二輪車を二台買うと言ってくれた。自分達のちょっとした移動に丁度良いと。

アニスとシズアは予想外の臨時収入を得られることになり大いに喜んだが、最初に製作した二輪車はシズア達に合わせて作った試作品だったので、大人の男向けには設計の見直しが必至だった。


なのでそれ以降、アニスとシズアは何度かマーダル組の事務所を訪れ、ゴンザロス達と二輪車をどういった形や色にするか話し合いを重ねた。ミランダとは、そうした中で知り合ったのだ。


ミランダは、シズア達を事務所二階の家に招き、手作りのマフィンやクッキーなどを食べさせてくれたりもしたし、偶に食事もご馳走してくれた。明るく優しくて人柄が良いミランダとシズア達が仲良くなるのに、大した時間は掛からなかった。


「それで、シズアは何を作っているんだい?」


ミランダが興味深そうにシズアの手元を見る。


「これはね、卵黄ドレッシング」

「卵黄ドレッシング?聞いたことが無いね。一体誰に教わったんだい?」


首を傾げるミランダに、シズアは微笑みながら返事をする。


「賢者様。野菜に掛けて食べるととても美味しいって」


これは予め考えていた答えだった。他にも考えはしたのた。例えば、母の弟で商会を営んでいる叔父のモーリスに聞いたとか。


しかし、神殿学校にも通っていないこれまでのシズアの知り合いと言えば、詰まるところ両親の知り合いしかおらず、誰の名前を使うにせよ、後で両親に嘘が露見する恐れがあり、下手に名前を使えなかった。


唯一の例外が、賢者様。両親は賢者様とは会ったことが無い。今後のことは分からないが、賢者様は何人もの転生者と話をしたそうだから、異世界の料理を知っていてもおかしくはない。いや、もしかしたら、長く生きている間にこの世界のどこかの地方で同じ料理に巡り合っている可能性すらある。


それに、賢者様の名前は、この前アニスが使っていて、それを見ていたサラも何も言わなかった。それはつまり、サラにしても、困った時に賢者様の名前を使うのは止むを得ないことだと黙認してくれるつもりだと捉えられた。

だから、シズアもそれに習うことにしたのだ。


「まあ、賢者様なら私達の知らない料理を知っていてもおかしくないけれど。だけどこれは、ドレッシングにしてはまた随分とねっとりしたものだねぇ」


ミランダは、シズアが手にしている泡立て器から零れ落ちずに引っ付いている卵黄ドレッシングの塊を見ていた。


その、シズアがミランダに卵黄ドレッシングと言ったもの。

材料は、その名の通りの卵黄に加えて、塩と酢を適量、それと植物油。

最初に卵黄と塩と酢を良くかき混ぜて、そこに少しずつ植物油を加えていけば完成。それ即ちマヨネーズのことである。


シズアはこの国の言葉でのマヨネーズの呼び名を知らず、まさか異世界の言葉で「マヨネーズ」とは呼べないので、無難そうな名前を選んでみたのだった。

ただ、名前はどうあれ、マヨネーズはマヨネーズ、シズアは前世で食べ慣れていたマヨネーズをそのまま再現していたので、ドレッシングと呼ぶにはかなり硬めに仕上がっているのも当然の結果である。


「ま、まあね。これはそういうものらしいから」


アセアセと言い訳をするシズア。ともかく味を知ってもらった方が話が早いと、マヨネーズの材料と一緒に買ってきたレタスを一枚千切り、出来立てのマヨネーズを乗せてミランダに差し出した。


「ほら、ミランダも食べてみて」


シズアはさっさと手にしたレタスをミランダに渡し、もう一枚千切ってマヨネーズを乗せると、早速頬張ってみた。


「んー、美味しい」


求めていた味が口の中に広がり、幸せな気分で満たされる。


「確かにこれは美味(うま)いね」


シズアの言葉に半信半疑だったミランダも、味見をしたら納得したようだった。


「この味なら、どんな野菜にでも合いそうに思えるよ。キュウリや人参やセロリなんかもね。それで、そのブロッコリーも買ってきたってことかい?」

「うん、そう。本当は茎ブロッコリーが良かったんだけど、ここには無いみたいだから代用で」


「茎ブロッコリー?そんな野菜があるのかい?」

「ブロッコリーに似ているんだけど、蕾の下の茎が長くてコリコリしているの。マヨ、じゃなくて卵黄ドレッシングに良く合って美味しいんだ。って賢者様から聞いたから」


好きな食べ物のことになると注意力が疎かになるのか、シズアは余計なことを喋って自ら墓穴を掘りそうになる。


「ふーん、そうなのかい」


しかしミランダは、シズアの様子を気にする素振りもなく、相槌を打つと自分の作業に戻っていった。


シズアもホッとして調理を続ける。

マヨネーズは完成したので、次はマヨネーズを使う料理だ。

料理と言っても火は使わない。まずは簡単なサンドイッチを作るつもりだった。


シズアは俎板の上に白パンを乗せて包丁で薄く切る。

白パンは普通のパンより値段は高いのだが、普通のパンよりは柔らかい。薄く切れば、サンドイッチに十分使える。


薄切りを二枚作ったところで、一枚にマヨネーズを塗りたくる。

その一枚の上に千切ったレタスを乗せ、もう一枚の薄切りパンに手を伸ばそうとするが、できれば肉が欲しいなと思い直す。


そして母のサマンサに作って貰ったフォレストボア肉の自家製ハムのことを思い出し、収納サックから取り出して、パンよりさらに薄く二枚を切り出して、レタスの上に乗せた。

それからハムの上に、軽くマヨネーズを垂らしてから、もう一枚のパンを被せる。


「味見しても良いよね」


本来なら、アニスが来るのを待つべきとは分かっていても、サンドイッチの美味しそうな見た目に我慢ができなくなったシズアは、両手でサンドイッチを持ち、大きく口を開けてかぶり付いた。


「んー、やっぱりこれだよね」


サンドイッチは偶にサマンサも作ってくれるが、やはりマヨネーズ入りのサンドイッチが一番だとシズアは満足な気分に浸った。


「あー、駄目だ。数字が合わない」


シズアの隣で、テーブルの上に広げた帳面を前にして、ミランダは苛立たしげに頭を掻きむしる。

シズアがその帳面をちらりと覗いてみると、表らしきものが見えた。


「ミランダ、どうかしたの?」


シズアが首を傾げてミランダに視線を向けると、ミランダもシズアを一瞥した。そのまま無視されるのかと思いきや、ミランダは帳面を指差して口を開いた。


「マーダル組の経費を整理しようとしているんだけど、計算が合わなくてね。どこかで間違えているんだろうけど、それが中々見付けられないんだよ」

「えーと、どれどれ見せて」


食べかけのサンドイッチを皿に置き、シズアはミランダの方に乗り出して帳面をまじまじと眺め始めた。

帳面に書かれた表は、左側に支出項目名が縦に並び、上には年月が並べて書いてある。そして、それ以外の欄には数字が丁寧な字で記されていた。


「ふむふむ、右端と下の端が小計で、右下が合計ね。それじゃあ、一つずつ確認するか。ミランダ、ペンを貸してくれる?」


そう言いながら、シズアはミランダが握っていたペンを奪い取り、左上の欄を左手で押さえて数字を確認すると、その手を順に右側の欄にずらしながら、順番に数字を黙読していく。


その行の右端の欄まで進んだところで最後の数字を見てニッコリ微笑み、その横にチェックの印を入れた。

そして、次の行の左端から同じことを繰り返す。結果、右端にチェックの印が並んだが、一箇所だけシズアが数字を書いた場所があった。


横の列が一通り終わると、シズアは縦の列も同様の作業をした。


「ミランダ、確認したよ。餌代の小計と、ハダスの月(二月)の小計が違っていたよ。これで大丈夫だと思うけど」

「え、あ、ありがとう。でも、計算式も書かずに合計を出せるなんて凄いわね」


ミランダは表を見てサッと計算してしまったシズアに驚きながらも感嘆した。


「これくらい、訓練すれば誰でもできるようになると思うんだけど」


シズアにしてみれば、そこまでのことをやったつもりがなく、戸惑いがあった。

もしかしてやらかしてしまったのかと居たたまれない気持ちになり、できれば話題を変えたいと思ったところで部屋の扉がバンと開く。


「やっほー、シズ。宿の仕事が終わったよ」


満面の笑みを湛えたアニスが入ってきた。


マヨネーズはシズア達の住んでいる地域にはなさそうですが、別の地域に行けばあるかも知れません。


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何となく行けそうな気がして来たので更新を。


ゴールデンウイークも終わってしまったので、これからはゆっくり更新になろうかと思いますが、お付き合いいただければ幸いです。


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(2024/1/27追記)


文中にある「茎ブロッコリー」を見たことがないという方向けに写真を撮ってみました。


挿絵(By みてみん)

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