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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第二章 アニスとシズア、冒険者になる
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2-14. アニスはサラと取引したい

アニスは力を抜いて、草原の上で仰向けに寝そべる。


「サラ、ありがとう。私の負けだよ」


サラはアニスの敗北宣言を聞くと、剣を鞘に納めた。


「お主は何ゆえ我に挑もうとした?」


アニスは、そう尋ねて来たサラに一瞬視線を向けた後、再び真上に目をやり何も無い宙を眺めた。


「私ね。前に聞いたことがあるんだ、魔導国のこと。転生者(リインカネラント)や発明家を狙っているようだから気を付けろって。その時は、転生者(リインカネラント)の意味を知らなかったからテンセイシャと言う単語と結びつかなくて忘れてたんだけど、賢者様の話を聞いて思い出した」


アニスの言葉はサラの質問への直接的な答えではなかったが、サラはそれを指摘することなく、別の問いを投げ掛けた。


「お主、その話は誰の入れ知恵だ?」

「私に魔具の作り方を教えてくれたお爺さん。そのお爺さん、昔は王都の魔具職人だったらしいんだけど、引退して生まれ故郷の村に帰って来たんだって。それが、私が住んでいる村だったんだよね」


「それで出会って魔具作りを教えて貰ったと言うことか。誠に奇遇な縁だな」


サラは剣帯から剣を外し、アニスの隣に座り込んだ。その様子を見たアニスも上半身を起こす。


「サラもそう思う?まあ、お爺さん自身もまさか自分が他人に教える気になるとは思わなかったって言ってたけどね」

「お主が初めての弟子だと言うのか?お主の師匠は優秀な魔具職人のように見受けたが。ヘルフレイムの付与など初めて見たぞ」


その言葉にアニスは笑った。


「ヘルフレイムは付与じゃないよ。単に魔法の紋様を焼き付けただけ」

「付与とはどう違うのだ?」


サラの顔には戸惑いの色が浮かんでいる。


「力ある言葉が必要無くて、魔力を注ぐだけで発動するのが付与だよ。ヘルフレイムはそうじゃなかったよね」

「確かにな。しかし、何故焼き付けた?お主ならば、魔法の紋様を描けは済む話、いや、駄目なのだな」


改めて確認するようにサラがアニスのことを見る。


サラの視線を受けたアニスは、寂しげな表情で首を縦に振った。


「そう、私は魔力量が足りなくてヘルフレイムの紋様は描けない。だから焼き付けておく必要があったんだよ。焼き付けられた紋様なら、魔力量が少なくても時間を掛ければ発動に必要な魔力を籠められるから」


「手合わせを始める前から剣に魔力が籠められていたのは、そのためか。だが使えても一回こっきりでは、それほど役に立つとも思えんが」

「普通の戦いならね。でも、今日のためには必要だった」


そこでアニスはサラを真っ直ぐ見詰める。


「私ね、最初にサラに会った時から変な感じがしていたんだ」

「何がだ?」


「サラは魔力量が多いんだけど、安定した感じがなくて。シズは上限まで魔力量が溜まるとそこで変化がピシッと止まるんだよね。それはマーサの宿に来ている人達も同じ。皆、魔力量の上限で止まってる。でもサラは違う。もっと言っちゃうと賢者様も。二人だけが変。いつも魔力量が揺らいでる」

「そうか」


サラは一言だけ口にして黙ってしまった。アニスはそれを話の先を促しているのだと解釈した。


「それで、どうして魔力量が揺らぐのか考えたんだけど、理由の一番目は『魔力量に上限が無い』のだろうなって」

「上限が無ければ、際限なく魔力が増えることになると思うのだが」


サラは反論するが、アニスは動じない。


「だから二番目の理由、『魔力は自然には増えない』」

「自然に増えなければ、一定量のままになるのではないか?」


サラが言い募るが、アニスは首を横に振る。


「それは三番目の理由が関係するんだよ。三番目は、『魔力は放っておくと少しずつ拡散して減ってしまう』」

「それでは逆に魔力が無くなってしまうではないか」


「だから最後の理由、『魔力はその気になれば自由に作れる』」


それを聞いたサラは溜息を吐いた。


「お主、そうした存在に心当たりがあるのだな」

「魔導国の話を聞いた時に思い出したんだ。お爺さんの話にあった反魔導国勢力の中心にいる女の人達のことを。魔力量に上限がなくて、自由に魔力が作れる虹色の魔法使い。その人達は、『魔女』って呼ばれている」


「お主は我が魔女ではないかと考えた。それでヘルフレイムを使って試そうとした」


確認するサラの言葉に、アニスは頷く。


「そう。大きな魔法で攻撃すれば、大きな魔法で迎え撃つしかない。その時の魔力量の変化を見れば分かると思ったから」

「それで分かったのか?」


「サラは、魔法を発動させるために魔法の紋様を描いた時には魔力量の調整をしてなかった。だから、その時だけ体内に余った魔力が少しずつだけど減ってたんだよ。それを見て、やっぱりなって。ただ、一つ分からないことがあるんだけど」


アニスが首を傾げる。


「何だ?」


「サラの魔力は火属性の魔法使いに見えるんだよね。虹色ではなくて」

「ああ、そのことか。それはこのペンダントをしているからだ」


サラは両手を首の後ろに回し、ペンダントの鎖を外してみせた。


「これでどうだ?」

「あ、本当だ。サラの魔力が虹色に見えるようになった」

「お主のペンダントにも同じ効果が付いておるぞ」


指摘をされたアニスが驚いて自分のペンダントに手を掛ける。


「え?そうなの?これってそんな効果も付いてたの?」

「虹色の魔法使いは目立つからの。お主も水の魔法使いに見せかけようと努力していたみたいだが、我の目は誤魔化せん」

「そうだったんだ。私はもうとっくにサラに助けられてたんだね」


溜息を吐くアニス。そんなアニスにサラが微笑み掛ける。


「それで、(われ)が魔女だと知って、お主は何とする?」

「お爺さんは言ってた。一人で魔導国に立ち向かうのは無理だって。そんな時には魔女を頼りなさいって」


アニスの言葉に、サラが頷く。


「うむ。だが、こうは言われなかったのか。魔女の正体は秘中の秘、その秘密を暴いた者は亡き者とされると」

「でも、例外はあるよね?お爺さんはシエルという名の魔女と付き合いがあったって言ってたし。ねえ、サラ。シエルって人のこと知ってる?」


サラはアニスのことをまじまじと見、それから大きな溜息を吐いた。


「お主、我に何と答えろと?それだけのことを知っておるとなれば、その魔女の容姿についても聞いておるのだろう?」


半ば諦めた表情のサラに対し、アニスは笑顔で口を開こうとしたものの、声を発する前にサラが手を挙げて遮った。


「いや、いい。言われずとも想像が付く」


サラはそこで一呼吸入れてから、次の言葉を吐き出した。


「ツインテールの」「「ロリ(ばばあ)」」


後半、アニスの声がハモるように重なる。


「やはりな。それで奴は今どうしておる?」

「二年前にお迎えが来て、今はお墓の中だよ」

「そうか」


サラの目が遠くを見る。


「我はまた置いてかれたのだな」


感傷に耽るサラを、アニスは黙って見守っていた。


魔女にまつわる話は、今ここで口にした以外にも様々なことをゼペックから聞かされている。それらには憶測や噂話の(たぐい)も含まれており、真偽のほどを検証したいところではあったが、正直に答えて貰えるかも定かではなく、疑っていると取られると今後の活動に支障が生じると考え、サラ達の振る舞いを見て判断するつもりでいた。


それにしても、とアニスは思う。


魔女はいつでも心の無い殺戮者になり得るとゼペックは言っていたのだが、目の前で黄昏(たそが)れているサラを見ていると、聞いていた話との大きなずれを感じずにはいられなかった。

だが、まだ付き合いは浅い。一時(いっとき)の印象だけで思いこむのは危険だと自らを戒める。


先程手合わせしただけでも十分に理解できた。戦ったら絶対に勝てない。しかし、味方にできればこれ以上心強いものはない。

怖れるべきは魔導国であって魔女ではなく、だからアニスはサラ達とは良好な関係を築いていくのだ。


「それでお主は、我を手助けしてくれると言うことで良いのだな?」


心の整理がついたのか、サラは話の本題に戻りアニスに確認する。


「うん。その代わりに魔導国と戦わなくちゃいけなくなったら助けて欲しいんだけど」

「そこまで魔導国を気にするのは、お主の妹が理由か?」


「まあね。シズは転生者だから」

「なるほどな。しかし、今日一緒におらんのは、妹には内緒でと言うことか?」


アニスは両手を高く上げて大きく伸びをした。


「そう。シズには余計な心配をして欲しくない。シズは私が守る。私だけでは足りないときは、サラに手伝って欲しい」


サラは大きく息を吐く。


「一番良いのは目立たないようにしていることなのだがな」

「シズにはやりたいことを好きなだけやって貰いたいんだもん」

「まったくお主もとんだ姉バカだな」


サラは苦笑し、アニスは笑う。


時はラウタスの月(六月)の初め。初夏の爽やかな風が小さな同盟の成立を祝福するかのように、二人の身体を軽く撫でていったのだった。


二章はここまでです。


次は三章なわけですが、頭の中を整理したいので少しお待たせしてしまうかも知れません。


催促の折には、ブックマークや評価やいいねをポチッとしていただけますと幸いです。やる気が湧いてきますので...。


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(2023/12/30追記)

本章は後書きを追記した話が多かったですが、上記の後書きは投稿当時のもののままです。

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