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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第二章 アニスとシズア、冒険者になる
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2-9. アニスとシズアは賢者と対面する

「賢者様、話していた二人を連れてきました」


サラに紹介され、アニスとシズアが順に挨拶をする。


「ようこそ二人共。私はタキです」


タキがにっこり微笑む。ショートの髪で長い耳が良く見えるため、エルフ族だと一目でわかる。その髪型ゆえ、性別が分かり難いが、服装と胸の膨らみから女性だろうと思われた。


エルフ族は長命だから、パッと見では年齢の判断が付かない。しかし、青年と言うより、アニスの両親と同じくらいに見える。と言うことは、相当の歳を経てきているのだろう。であれば、沢山の魔法を知っているに違いない。しかも、アニスの見るところ、タキは全属性の魔法が使える虹の魔法使いだ。

エルフは長命だが人口は少ない。そんなエルフの中で、更に数の少ない虹の魔法使いとか、流石に賢者を名乗るだけのことはある。


「それで、今日は魔法を教えてほしいと言うことでしたね」

「はい、風魔法を教わりたくて」


アニスは、移動手段が欲しいと考えたこと。そのために二輪車を用意したが、動力を付けなかったので、それを動かすための魔法を探していることを伝えた。


「事情は分かりました。使えそうな魔法に心当たりがあります。でも、タダでとはいきませんが、そのことはご存知なのですよね?」


賢者に何かを教えてもらうには対価が必要なことは、サラからも聞いていた。だから、アニスは首を縦に振る。


「対価はお金じゃなくても良いと聞いたのですけど」

「ええ、私が価値を認められるものであれば何でも構いませんよ。物でも、情報でも」

「私達が出そうと思っているのは、情報です」


アニスは至極真面目だったが、タキは面白がるように微笑んだ。


「貴女達はどのような情報を私にくださると言うの?」


言外にそんなに価値のある情報を持っているのかと問われた感覚に襲われて自信を無くしかけたアニスだったが、交渉しなければ始まらないと腹をくくって切り出した。


「賢者様は異世界があると信じられますか?」

「異世界?」


タキが眉を動かした。もしかすると興味を持って貰えるかも知れないと元気が湧いてくる。


「私達の暮らしているのとは、まったく違う別の世界のことですけど」

「ええ、それは分かります。でも、異世界と言われても実在するかは分かりませんよね。ただの夢物語かも知れませんから」


それはまったくその通りで、アニスもシズアの話でなければ信じていたかどか怪しいものだ。タキの言葉にどう反論すれば良いのか分からず黙っていたら、タキの方から話を進めてくれた。


「貴女はなぜその異世界のことを知ったの?」

「知り合いから聞いたんです」


シズアのことを伏せたのは、交渉の時は情報源を明かすべきではないとのシズアの入れ知恵によるものだった。


「その知り合いが、ゼンセの記憶を持ったテンセイシャだって言ったんです」

「ゼンセ?テンセイシャ?」


アニスの言葉の中から、二つの言葉だけを拾い出して繰り返した賢者タキ。

その反応をどう解釈したものか分からず、黙ってタキを見つめるアニスとシズア。


「その異世界がどんなところか、聞いたことは?」


アニス達は見つめ合い、そしてシズアが口を開いた。


「良くは覚えていないんですけど、そこの世界は魔法がなくて、科学が発展した世界だって聞きました。大都市には何千万もの人が住んでいて、何十階建ての建物が並び、人々は鉄の箱に乗って移動していたのだそうです」


シズアが上手いことぼやかして話をする。


「大都市の名前は聞いていませんか?」


タキが真剣な表情で尋ねてきた。


「えーと、確か、トウキョウって言ってたような」


(とぼ)けながら返事をするシズア。


「いつの年代だったかについては?」


シズアの答えにタキは更に質問を重ねてくる。


「うーん、セーレキ?1990年だったかな」


タキはアニスが考えもしない質問をしてくるので、アニスが説明役にならなくて良かったとホッとしていた。ただ、どうしてタキがこんな質問をしてくるのかは疑問だった。


「そうですか、ありがとうございます」


シズアの話に満足したらしく、タキが礼を言ってきた。


「今日のところは、転生者(リインカネラント)がいると言う情報だけで十分です。本当ならその人にお会いしてもっと色々聞いてみたいのですが、そうなるとこちらの対価が釣り合わなくなってしまいますから」

「賢者様がお望みなら、貸しにしても良いですけど」


タキを相手にシズアは不敵な笑みを浮かべる。しかし、タキは乗って来ず、首を横に振る。


「いえ、今は止めておきましょう」

「そうですか」


シズアは残念そうな表情をしたが、直ぐに切り替えた。


「ところで、転生者(リインカネラント)とはテンセイシャのことですか?」

「ええ、この世界の古い言葉で、生まれ変わりし者を意味する単語です。テンセイシャは、異世界の言葉ですね。同じ意味を表すこちらの世界の言葉を知らなくて、生まれ変わる前に使っていた言葉をそのまま発音したのでしょう。そう言う意味では、ゼンセも異世界の言葉で、こちらの世界では前世(ペラレフテ)ですね」


転生者(リインカネラント)は言葉が難しくてアニス達にはピンと来なかったが、前世(ペラレフテ)についてはなるほどと思った。「人生」を意味するレフテの前に、「前回」のを意味するペラルが組み合わさってできたのだ。

だが、そこで疑問が生じる。


「賢者様は異世界の言葉を知っているんですね」

「ええ、転生者は偶に現れるのです。そして以前にも、貴女方のお話と同じ世界からの転生者に会ったことがあります。その人達が前世で生きていた年代はまちまちでしたが、貴女方のお知り合いよりは古い年代でしたね」

「え?何人もの転生者に会っているんですか?」


驚くシズア。


「私も長いこと生きて来ましたから」


静かに語るタキ。エルフの言う長い期間がどの程度なのか見当が付かないが、相当な年月なのだろう。


「それでは、その人達は今は?」

「私の知る限り、一人を除いてお亡くなりになりました。残った一人がどこに住んでいるかは、その方の安全のためにお話できません」

「安全のため、ですか」


その言葉に不穏な空気を感じ取ったシズアが確認するかのように反芻する。

それに反応してタキが口を開くが、出て来た言葉はシズアへの直接的な回答ではなかった。


「貴女方は魔導国のことはご存知ですか?」

「この王国の東、帝国の北側にある国ですよね」


シズアが答える。アニス達の住んでいる王国の東側で国境を接しているのは、帝国と魔導国の二つの国で、帝国の方が北側だ。ただ、王国と魔導国が接している部分には高い山脈と(いにしえ)の精霊の森があって、人が往来できる道がない。実質的に魔導国と行き来できるのは帝国だけとなっている。


その程度の知識はシズアにもあった。


「その通りです。では、魔導国について何か知っていることは?」

「得体の知れない怖い国としか」


記憶を掘り起こしても、何も思い出せない。


「前に悪戯した時に、『悪い子は魔導国に連れていかれるぞ』って言われたことがあったっけ」


アニスが経験を語ると、タキが頷く。


「そうです。実際に連れ去られていたのは悪い子ではないのですが、魔導国が人を攫っているとの噂があります。その話が変化して悪い子への戒めに使われるようになったのでしょう」

「ふーん、そなんだ」


アニスは感心したように呟いたが、シズアは別のことを考えていた。


「もしかして賢者様が安全のためと言ったのは、攫われないようにってことですか?」

シズアの指摘にタキが微笑む。

「良く気が付きましたね。そうなのです。実際、その人は一度攫われかけたことがあります。事前にそれを察知した反魔導国勢力が阻止して事無きを得ましたが、それ以来、名前も住むところも変えてひっそりと暮らしているので、そっとしておいてあげたいと思うのです」


「魔導国がその人を狙ったのは転生者だったからなの?」


同じ転生者としてシズアは気になるのだろう。


「実は彼らの目的については分かっていません。欲しいと考えているものが異世界の知識なのか、この世界にはない新しい技術を作り出そうとする者なのか、別の物なのか。ただ、転生者や発明家と言った類の人達が狙われる傾向にあるようです」


そこで、タキは視線を巡らせる。


「貴女方が持ち込んだ二輪車もお知り合いが考え付いたのではないですか?これはまだ単純な形で動力もありませんから転生者が関わっていたと疑われることはなさそうに思いますが、魔導国の密偵は何処にいるか分かりませんので、気を付けてくださいね。貴女方のお知り合いには、魔導国に狙われないためにも、目立つことは避けるようにと伝えておいていただけますか」


心配そうな表情で警告を発するタキに対して、アニス達は只々頷くことしかできなかった。


シズアの前世の世界は、私達の知っている世界と似ているかも知れませんね。



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(2023/12/30)

後書きが無かったので追記しました。


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