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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第八章 アニスとシズア、学園都市で暗躍する
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8-6. アニスとシズアは男爵令嬢と建物内を調べたい

「えーっと、アニー、いつまで私を見てるつもりなの?そろそろ中に入らない?」


ショールに付いた汚れを払い、肩に掛け直し終えたシズアが、自分を見つめ続ける姉に提案する。


うん、照れた様子のシズアも可愛い。


とは言え、シズアの言う通り、何時までもこうしては居られない。


「うん、よし、行こ。アリシア様は私から離れないで」

「努力します。ただ、あの…」


「何?」


アニスは後ろを振り向きながら、首を傾げた。


「少し明かりを付けても良いですか?」

「あー」


自分達は風の立体視魔法(ウインドビジョン)を付与したイアリングを使っているから周りが見えているが、アリシアはそうではない。


「あれ?でも、アリシア様、私たちのことは見えてるよね?何か魔法を使ってる?」


アニスの魔力眼には、アリシアの瞳に魔法の紋様が見えているのだが、分からない振りをして尋ねてみる。


「光の暗視魔法ナイトビジョンを使っています。それで人の顔は見えますけど、建物内の壁や階段は見えなくて明かりが必要なのです」

「そか」


確かにアリシアの瞳に見える魔法の紋様の色は光魔法の黄色だ。

暗視魔法のことは初耳で、その呪文に興味があるものの、それは後回しにして、当座必要なことを確かめておく。


「少しの明かり、ってどれくらいの明るさなの?」


なるべく人目に付かないように暗ければ暗いほど良いのだけどとアニスは考えていた。


「普通には見えない明かりです」

「へ?見えないのに明かりなの?」


予想外の返事に、アニスの理解が追いつかない。


「暗視魔法を発動している人にだけ見えるのです」

「そんな明かりがあるんだ」


「それって、赤外の明かりだと思う」

「赤外?」


アニスは口を挟んできたシズアに目を向ける。


「赤外って、大雑把に言えば赤よりも暗い色で普通には見えないのよ。で、体温のある私達の体は赤外の光を出していて、暗視魔法でそれが見えるのね。建物は赤外の光を出してないから、赤外の明かりで照らす必要があるのよ」

「はぁ」


シズアが楽しそうに知識を披露(ひろう)してくれるが、アニスの頭に入っていかない。

しかし、アリシアは目を輝かせていた。


「赤より暗い赤外の光、まったくその通りです。ダークライトの詠唱の中に『赤よりも暗き光の子らよ』ってあるのですけど、その言葉が使われている理由が分かった気がします」


どうやらアリシアは意味を知らずに詠唱していたらしい。


「ねぇアリシア様、その光を出して貰っても良い?出来るだけ低い位置でお願いしたいけど」

「分かりました」


アリシアは右の掌を足元に向けて、詠唱を始める。


「赤よりも暗き光の子らよ、集いて闇を照らし給え」


描かれた魔法の紋様に魔力を注ぎながら、続けて力ある言葉を叫ぶ。


「ダークライト」


アニスの眼には魔法が発動しているのは見えても、光自体は見えない。

魔女だからと言って何でも見えやしないのは頭では分かっていても、赤外の光を見てみたいと言う欲望(よくぼう)もある。

アニスはアリシアには悪いと思いつつ、アリシアの瞳にある魔法の紋様を真似て、自分の瞳に描いた。


力ある言葉は「ナイトビジョン」だろうが、魔術眼があれば、力ある言葉を叫ぶ必要もない。

黙ったまま魔法を発動させると、いきなり明るい光の球が目に入ってきた。

周囲を見回すと、光に照らされた建物の様子がよく見える。


これは便利だ。

ただ、ナイトビジョンの使い手が相手側にいる時には利用できないが。


理屈はともかく、どんな物かを理解したアニスは、アリシアを見た。


「確かに普通には見えないけど、ナイトビジョンを使ってる人には見えちゃうから、今くらい低くしとくのと、出来るだけ弱くしてね」

「分かりました」


「じゃあ、行くよ」


アニスを先頭に三人は扉を潜って建物の中へと足を踏み入れた。

すぐ先に下へと降りる階段がある。

アニスは物音を立てないように三階まで降りたが、そこで立ち止まった。


(ほこり)だらけだね」


アリシアの光の球に照らされた床面は階段も含めてすべてに埃が積もっている。

なので降りてきた階段には、三人の足跡が残ってしまっていた。

屋上に戻る時に風魔法で足跡を消すかなと思いながら、アニスはこの先の行動について考える。


「この階は使われてなさそうだから、下に行こうと思うけど」

「そうね」


三人は二階に降りるが、そこも同じように埃だらけ。

互いに顔を見合わせ、同じ気持ちでいることを見て取ると、アニスは黙って一階への階段を降り始めた。


一階の半分まで降り、階段の向きが変わって一階の廊下が見えたところで再びアニスが歩みを止める。


「一階は使われてるね」


掃除が行き届いていないので、隅には埃が溜まっているものの、一階の廊下は明らかに人が使っている形跡が残っていた。

ただ、人がいる気配は無い。


警戒しながら一階まで階段を降り切り、そこで辺りを見回したアニスは、左右に伸びている廊下の一方の先を手で指し示す。


「あそこの部屋、扉が開かないようにされてる。誰かが閉じ込められてるかも」

「兄かも知れません」


アリシアが直ぐに反応した。

その後ろからシズアがアニスを見る。


「アニー、どうする?その部屋を見るのが先か、それとも他の部屋を先に確かめておく?」

「そだねぇ」


シズアの問いに、アニスは考える素振りを見せた。

実を言えば、魔女の力の目で視た時に、この建物内での人の気配があるのは一箇所だけしかない。

しかし、それを明かす訳にもいかず、どういう理由でどう動くと言うのか、悩ましいところなのだった。


まぁ、物事の判断に絶対的な正解はないのだし、(もっと)もらしく言えば二人は反論するまいと、腹を決める。


「メリッサの言ってた通り、ここには人のいる様子が全然ないし、まずはあの扉を開けてみない?」


自分の言葉に二人共が頷いたのを確かめたアニスは、先に立って問題の扉の前へと足を運ぶ。

その扉は、見るからに開けようとする者を拒んでいた。


扉の把手(とって)を上下二本の金属棒で挟んで針金で固定しており、その金属棒が扉の両脇まで張り出している。

扉は部屋の内側へと開くものだが、これでは動かしようがない。

ただ、そこまで綿密に封印しようとされているものでもなく、針金を外せば普通に開けられそうにも見える。


そこでアニスは収納サックを(あさ)り、工具を取り出すと、針金に取り付いた。

針金は多少複雑に絡み合っていたものの、それ以上ではない。

じっくり観察しながら緩めていけば、問題なく外せそうだ。


「悪いけど、二人ともそこの棒を持ってて貰える?」


針金を緩めると共に棒が動くと作業がし難い。

頼まれた二人は、アニスの両脇に立ち、金属棒を手で支える。

その状態でアニスは針金を最後まで(ほど)き切った。


「ありがとう。棒は床に下ろしといて。あ、静かにね」


外の誰かの耳に入らないとも限らないので、物音は立てたくない。


「鍵穴が付いてますね」


金属棒をそっと下ろしたアリシアが、把手の下にある鍵穴に気が付いた。


「鍵、掛かってるかな?あ、駄目だ、開かない」


アニスは再び鍵開けに取り組む。

然程(さほど)時間が掛からずに鍵は開き、アニスが把手に手を掛けた。

鍵は開いたが、(わな)が無いとも限らず、魔女の力の目と魔術眼とを併用して怪しい動きが無いかを確かめつつ、ゆっくり扉を開けていく。


「人がいた」


真っ暗な部屋の床に、横たわっている人の姿が見えた。

(かす)かだが体が動いているので、息はありそうだ。


「誰かいるのですか?」


アニスの声を耳にしたアリシアが(そば)に来た。


「あそこ」


アリシアの光の球が、入口から部屋の中を照らす。

それによってアリシアの目にも、横たわっている人の姿がハッキリ見えた。


「ユーリ兄様?」


アリシアはその人物しか目に入らない様子で、周囲を警戒することもなく、その人物のところへと歩いていく。

アニスは、魔女の力の目や魔術眼で一通り部屋の中を調べ、罠は無さそうと判断してアリシアの自由にさせた。


アリシアはその人物の頭の(そば)で立ち止まると、ドレスが汚れるのも構わず膝を突いて座り、顔を覗き込んだ。

それから首筋に手を当て、次にその手を鼻先へと持っていく。

そして後ろを振り返り、真剣な笑顔をアニスとシズアに見せた。


「大変です。兄が」

「どした?」


一瞬、その場の空気がぴんと張り詰める。


「スヤスヤと寝てます」


うん、分かってるよ。


しかしアニスはそうとは口にせず、「見付かって良かったね」と言うだけに留めた。


復習になりますけど、アニスとシズアのイアリングは、片方にウインドサーチ(風の探知魔法)、もう片方にウインドビジョン(風の立体視魔法)が付与されてます。


途中、シズアの解説に出てきた「赤外」は、もちろん赤外線のことです。

なぜ「赤外」と言っているかと言えば、シズアはこっちの世界での赤外線の言葉を知らずに、「赤の外で赤外」みたく造語しているからなのです。


そういう意味では「赤外」を「赤より暗い」と表現したこともシズアなりの表現ですね。たまたま、魔法の呪文と同じ表現になったようですけれど。



と言うことで、なぜか連日の更新に。自分でも謎でありまして、少なくとも一日前の時点で、この状況は予測出来てなかったです...。


次回は月曜日の夜でしょうか。


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