8-4. アニスとシズアは学園都市の裏組織と同盟を結びたい
幽暗。
その名は王都の中央神殿でザナウス神の巫女をしているリリエラに教えて貰った。
学園都市グラナデミアの裏の組織。
ボスはシズア達の目の前に座っているメリッサ。
リリエラから母方の従姉なのだと聞いていた。
つまりは、リリエラの母の姉であるメリッサの母親が、パルナムからグラナデミアに来て、幽暗の先代ボスと結婚したのだとか。
そしてメリッサが生まれ、先代ボスが怪我をした折りにボスの座を娘のメリッサに引き継いだのが数年前。
メリッサはリリエラより少し年が離れており、既に結婚して娘もいるらしい。
アニスとシズアからすれば、母親のサマンサとほぼ同年代の感覚だ。
「それで、そこのお嬢様が代表なのは良いとしても、アンタ達姉妹はどうしてここに来たんだい?さっきの話じゃ貴族の娘には聞こえなかったし、それなら貴族学校にも通っていないんだろう?」
メリッサの疑念の矛先がこちらを向いた。
そうとなればこちらの物。
だが焦ってはいけないと、シズアは慎重に口を開く。
「年末の神殿の儀式に襲撃があったのは知ってますよね?」
「あぁ、王都の祭りの最中にリリエラが狙われたって話だろう?まったくあの子も災難だよな。でも、襲撃者は捕まったんじゃなかったのかい?」
首を傾げるメリッサに、シズアは首を横に振ってみせた。
「実行犯は捕まりましたけど、首謀者はその場にいなくて、捕まえられていません」
「ふーん、その話は聞いてないね。アンタ達はどうしてそれを知っているんだい?」
腕組みをするメリッサ。
「私達はあの時、神殿の警備を手伝ってましたから」
「そうかい、なるほど。だからリリエラのことも知っているんだね。けれど、それが今のアンタ達の立場とどう関係しているんだい?いや、まさか、その首謀者とやらがこの学園都市に居るとでも言うのかい?」
メリッサの目が少し険しくなる。
「それは分かりません。ただ、学園都市の中で怪しい動きがあるようでしたから」
そう言うと、シズアは胸のペンダントを手に取って見詰めた。
以前は、サラから貰った青色のペンダントをしていたが、今シズアの手の中にあるのは赤色の物。
赤色のペンダントヘッドは火属性の魔石で、その中ではシズアが契約している火の精霊イェリが眠り続けている。
イェリは先日シズアがマルコの家で呼び出した後、一度も目覚めていない。
シズアはイェリが早く回復するようにと、しばしば自分の魔力をペンダントに流し込んでいた。
イェリから話を聞ければ、ずっと楽にシズアの契約精霊を痛めつけた犯人を見つけられるのだが、起きない物は仕方がない。
分かっていることは一つだけ。
眠りに入る前、イェリはグラナデミアにいたと言っていた。
だからこの学園都市で沢山の情報を集め、イェリに何があったのか、そして犯人が他にも良くないことをやろうとしているのなら、それを止めたい。
シズアは顔を上げ、真剣な表情で改めてメリッサに目を向けた。
「もう少し具体的に話して貰えないかい?」
どうやら興味を持って貰えたらしい。
「魔法大学の特別教室に所属している学生のうち、第二王子派の人達が魔法都市の中で隠れて何かをしているらしいです。確証はありませんが、貴族学校の生徒の関係者が行方不明になっています」
「それでお嬢様も動いていると言う訳かい」
メリッサの視線がアリシアに向けられた。
アリシアにとって聞いたことのない話が含まれているものの、兄が行方不明なのはその通りなので否定するところではない。
「そうですね」
「行方不明になったのは街中で、貴族学校の外のことでしたから、メリッサのところと同盟を結んで協力し合いたいとお考えです」
アリシアにも何となくシズアの思惑が分かってきた。
ただ単に情報をくれと言っても応じて貰うのは難しい。
しかし、組織間での同盟とすれば協力を得られると考えたのだ。
「話は分かった」
メリッサは組んでいた腕を解き、ずいっと前へと乗り出す。
「一つ確認しても良いかい?」
「何をです?」
今度はシズアが首を傾げた。
「この山、結構危険なんだが、そのことは理解していると思って良いんだよね?」
「一応分かっているつもりですけど、何のことかお尋ねしても?」
「あまり口にしたくないんだけどね。神々に対峙しようとする存在のことなんて」
「だからと言って、存在している事実から目を背けて良いものでもないとは思いませんか。ねぇ、アリシア様?」
「そうですね」
シズアに振られたので、アリシアは仕方なく相槌を打つ。
メリッサとシズアは分かりあえているようだが、アリシアは取り残されている。
話の内容からするに魔導国の邪神のことを言っているようだが、邪神は魔導国に閉じ込められていて、王国には手出しできないのではなかったか。
先ほどから黙ったまま会話を聞いているだけのアニスはどう考えているのだろう。
そう考えたアリシアが目を向けた時、アニスが丁度口を開くところだった。
「アジトが何処にあるのか知ってたら教えてよ。中に入って調べるのは私達がやるからさ。少しくらいおかしな魔法を使われたってだいじょぶだから」
「そうかい。そう言ってくれるなら心強いね」
「なら、同盟は成立で?」
逸る心を抑えてシズアが確かめる。
「そうだね。それで結局、アンタ達姉妹は何なんだい?その恰好とさっきの話から冒険者に聞こえたけど、パーティー名はあるのかい?」
「自分達でやってる商会と同じにしてますよ。コッペル姉妹商会です」
「コッペル姉妹商会?はて、何かで聞いたような。本拠地は何処になるんだい?」
「ザイアスですね」
「ザイアス?いや、そっちの話ではなかったな…」
メリッサは首を捻って思案する。
「商会の支店がパルナムにありますけど?」
そのシズアの言葉に、メリッサの表情がハッとなった。
「パルナム。そうだパルナムだ。貧民街のコーモン一家をぽっと出の商会がいつの間にか傘下に入れてしまったと母さんが言っていた。確かその商会の名前がコッペル姉妹商会――」
そこでメリッサの目が半眼になる。
「アンタ達が、コーモン一家を従えているってことなのかい?」
「そう言うことになってますね」
対するシズアは笑顔。
「なら、うちも傘下に入れようって腹なのかい?」
自分達が疑われていることに気付いたシズアは、慌てた表情で首を横に振ると同時に、両手を小さく振る。
「まさか。そんなつもりはないですよ。私達は同盟したいんです。幽暗と黒薔薇の会と」
「まぁ、そう言うことにしておこうかい。何かおかしな動きを見せたら、同盟は即解消だよ。お嬢様のところもそれで良いかい?」
「そうですね」
アリシアは同意の気持ちが伝わるようにとの想いを籠めつつ、声に出す。
シズア達には尋ねたいことが沢山できたが、今は兄の消息を確かめるための情報を得るのが先だ。
「なら決まりだな。私達の持っている情報を教えてやるよ。その代わりと言っては何だが、今の話とはまったく別でお嬢様に調べて欲しいことがあるんだが、頼まれてくれるかい?」
「そうですね」
アリシアはそれしか言えない。
「何を知りたいんです?」
余計なことが言えないアリシアに代わって、シズアが尋ねる。
「他愛のない話なんだけどね。貴族学校の中のことだから私達が調べるのは少し面倒なのさ。きっとお嬢様ならすぐに調べが着くと思うよ。だが、詳しいことは後にしようか。まずは特別教室の怪しげな動きをする連中のことだな」
「ええ」
「そうですね」
シズアとアリシアの同意の声を聞いたメリッサはソファから立ち上がり、壁際の収納箱から大きな紙を取り出して、テーブルの上に広げる。
「これが何か分かるかい?」
「グラナデミアの市街図ですね?」
「その通り。それで私の側が北、アンタ達の方が南になるね。北地区の中央寄りに貴族学校、東地区に魔法大学、西地区に王立大学があるのは知っているね」
メリッサは地図の上で一つ一つ指差しながら、説明していく。
「で、アンタ達の言っていた連中のアジトらしき場所は幾つかあるんだけど」
「西地区にある奴は?」
アニスが地図の上に乗り出してきた。
「西地区だとこの辺りにあったんだ。けれど、最近動きが無くなったと聞いているよ。もしかしたら、何かがあって放棄されたのかも知れないね」
「シズ、どう思う?」
「一度調べてみた方が良さそうな気がする。ね、アリシア様?」
「そうですね」
シズアに良いように言わされている気がするものの、調査自体は賛成なので明るい声で応じてみせたアリシアだった。
アリシアさん、頑張りました。
儀式の襲撃の話と、魔法大学の特別教室の話の関連性を示す証拠はないのですが、シズアは上手く誤魔化して同盟にこぎつけましたね。
さて、予定より一日早く更新できましたが、予定が色々あって次の更新予定日の見極めて付けられていません。
今回のように早く投稿できればする前提で、木曜日になってしまうかもと言わせてください。
よろしくお願いいたします。