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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第八章 アニスとシズア、学園都市で暗躍する
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8-1. アニスとシズアは夜の学園都市に足を踏み入れる

「遅くなってしまったけど、門が()いていてくれて助かったわ」

「本当に良かったよ。この辺りなら魔獣も出ないだろうけど、野宿しないで済むならそれに越したことはないからね」


アニスとシズアは学園都市グラナデミアの北東の門を入ったところで、一息()いていた。

王都から学園都市へは二輪車なら一日あれば余裕で到着する筈だったのだが、途中、路肩で脱輪した荷馬車の手助けをしたために時間を(つい)やしてしまった。


聞けば、貴族の馬車が来たので道を()けようとしてのことらしい。

馬車が行き交うくらい問題無さそうな道幅ではあったものの、相手は真ん中をやってきたとのことだった。


「貴族だからって横暴が許される訳じゃないのにね」とアニスが(いきどお)りを見せても、その場に相手はいない。

そこにいたのは荷馬車が脱輪して途方に暮れた老人が一人きり。


荷馬車はシズアの風の浮遊魔法で道に持ち上げられたものの、困ったのは落ちた拍子に車軸に(ひび)が入ってしまったこと。


取り敢えず、車軸を応急処置的に補強した上で空荷にして馬に引かせ、積まれていた荷物はアニス達が収納サックに入れ、老人の住む村まで二人が同行して運ぶことにした。

二人の親切に、老人のみならず村人にも感謝され、村に一泊していけばとも誘われたが、先を急ぎたいからと遠慮をし、それからは真っ直ぐに学園都市に向かう。

しかし、学園都市に辿(たど)り着いた時には日が落ちていた。


「冒険者ギルドは閉まってるかな?」


学園都市にも冒険者ギルドはある。

それは王都の冒険者ギルドで聞いてきた。

しかし、どこの冒険者ギルドも、日が暮れれば閉まってしまう。


「無理そうな気がするわね」

「だよね」


冒険者として、加えて両親に居場所を伝えるため、街に着いたら冒険者ギルドを訪れることにしている二人だが、閉まってしまったなら仕方がない。

目ぼしい宿屋の情報は門番に聞いておいたので、早いところ寝場所を確保すべく、二人は宿屋を目指して学園都市の中心部へと向かうことにした。


二人が歩いている道は、門と中心部を結ぶ太い道で、街灯が設置されている。

それでも念のため、アニスは街の外にいる時と同じように風の探知魔法(ウィンドサーチ)だけでなく、魔女の力の眼も使って周囲を警戒していた。


「ねぇアニー、向こうからくる女の子、分かる?」

「随分と身なりが良いよね。貴族の家の子かな?」


「多分、そうだと思う。でも、問題はそこではないのよ」

「分かってる。その後ろのことだよね?」


アニスの問いに、シズアは頷いた。

シズアも風の探知魔法を使っているからアニスと同じように状況が視えているのだ。

貴族の娘と思われる少女から少し距離を取って、三人組の男達が歩いていて、彼らはどうも少女の後を付けている風に見える。


しかし、男達の前を歩く少女は、そのことに気付いていなさそうだ。


「どする?」

「どうするも、まだ何も起きていないし、何も起きないのかも知れないわ。でも、気になるわね」


「様子を見る?あ、曲がった」


少女は、アニス達と()れ違う前に右の路地へと入っていってしまった。


「アニー、取り敢えず知らんぷりして真っ直ぐ行くわよ」

「おけ」


アニス達は、少女には目をくれずに、少女が入った路地の前を通り過ぎた。

そのまま男達と()れ違う。

男達は、二人にちらりと目を向けたものの、腰の剣に目を留めると興味を失ったかのようにそっぽを向いてしまった。


「冒険者はお呼びではなさそうね。そして、あの子と同じ路地に入っていったわ。ねぇアニー、あの三人の魔法属性は?」

「火と水と、もう一人は魔力が少なくて、得意属性が分からなかった」


「そう。なら探知される心配はないわね」

だいじょぶ(大丈夫)じゃないかな?で、後を追う?念のため、別の路地から行く?」


アニスとしてはどちらでも構わない。

それに対して、シズアは少し考えた。


「街中だと建物が多くて、風の探知魔法(ウィンドサーチ)だと見失い易いのよね。だから同じ路地を後から付いていきたいかな?」

「おけ」


後を追うと決めたアニス達はもと来た道を少し戻り、同じ路地へと入る。

少し離れた前方に男達の姿があった。

その向こう側には少女が一人。


この路地の灯りは(まば)らで表道(おもてみち)よりも暗いからか、男達と少女の距離が近くなっている。


「危なさそうね」


シズアが小声でアニスに(ささや)く。


「声を掛けちゃう?」

「まだ何も起きていないのに声を掛けたら、こちらが損するだけよ。ことが起きてから介入する方が、貴族に恩を売れるしね」


「シズってば、悪い子だよね」

「悪女って言ってよ」


シズアがアニスを見てニヤついている。

悪女ぶっているらしい。


「小悪魔にしか見えないよ。で、あの子、貴族じゃないかもよ」

「そしたら人助けをしたと考えれば良いわ。――ねぇ、そろそろと思わない?」


少女と男達の距離がさらに詰まった。

それでも少女の動き方に変化はない。

相変わらず自分の置かれている状況が分かっていないようだ。


そして遂には男達が少女に接触し、全員の姿が路地から消えた。


「暗がりに連れ込まれた?シズ、行くよ」

「良いけど、慎重にね。不意打ちには()いたくないから」


「おけ」


魔女の力の目を持つアニスに不意打ちなど仕掛けようもないものの、油断をするつもりはない。

四人が消えた建物の端まで静かに足早(あしばや)に進むと、建物の影からゆっくり顔を出し、裏手を(のぞ)き込んだ。


「ふーん、嬢ちゃんは兄貴を探してるのか。偉いなぁ。でも、そんなことより俺達と良いことをしようぜ」

「だから、私はそれどころではないのです。貴方達には用はありませんから、そこを退()きなさい」


少女は果敢に男達に立ち向かおうとする。


退()けと言われたくらいで俺達が動くと思っているのか?ああん?」


「男達の一人が左手で少女を壁に押し付けつつ、右手で少女の口を押さえた」


「ここで魔法の詠唱をされると困るからな――っておい、そこのお前、どうして実況してるんだ?」

「あー、いや、ちょっと真似してみたくなって」


他人(ひと)の真似をしないで貰えませんかね。


「真似だぁ?何、訳の分かんねぇこと言ってるんだ?おい、こいつも(おど)して、っていや、冒険者か?」

「そだよ。これでもD級だけど」


既にアニスもシズアもC級の昇格要件は満たしているが、昇格を保留にしたままなのでD級で正しい。

とは言え、D級冒険者であるだけでも、一般人に対しては十分だ。

腰に剣を挿しているのも十分な威嚇になる。


「どうする、小父(おじ)さん達、私達と戦ってみる?」


アニスは建物の陰から出て、腰に手を当て仁王立ちしてみせた。

更にはシズアも姿を現し、アニスの横に立つ。


「戦うと言うのなら、この魔双剣の餌食(えじき)にしてあげるわ」


シズアは魔双剣を抜き、これ見よがしに宙に浮かせてみせた。


「き、汚ねぇよ。そんな飛び道具持ち出すとか卑怯(ひきょう)じゃないか。それに、俺達はまだ何もしていないからな」


男は少女から手を離し、逃げ腰になりながらアニス達から一番遠いところを通って路地へと出て行き、残りの二人もそれに続いた。

後に残されたのは、少女とアニス達二人。


「あのう、助けていただいた、のですよね?」


首を傾げる少女。


「そのつもりだけど」


もう少し危ない目に逢って貰った方が良かったのだろうか。


「貴女のお名前を伺っても?私はシズア、隣は姉のアニス。ザイアス子爵領で冒険者と商会をやってます」

「あ、申し遅れました。私はアリシア・レズモント。男爵家の娘です。助けていただきありがとうございました。でも、ザイアスのお二人がどうしてここへ?」


「祭りの見物で王都まで来たのですけど、折角(せっかく)なので学園都市(グラナデミア)にも足を伸ばそうってことで」


初対面のアリシアに魔導国絡みの何かがありそうだからなどとは言えず、シズアは言い訳気味に説明する。


「そうですか。でも、夜の学園都市には何もありませんよ。出歩いても面白くないと思いますけど」


何もない夜の街をふらふらしていたのはアリシアの方ではと、突っ込みたくなるアニス。


「私達はついさっき、学園都市の門を(くぐ)ったばかりなのです」


シズアは()まし顔で話を進める。


「そうだったのですね。宿もまだ?」

「えぇ、それで物は相談なのですが」


「はい、何でしょう?」


アリシアはにこにこしながら尋ねてきた。


「今晩、私達をアリシア様のところに泊めていただけないでしょうか?」


シズアは上目遣いに願いを()げる。


あー、これは相手の(ふところ)に入って、どんどん親密になっていくつもりだな、とアニスはシズアの意図を察した。


アニスはシズアのお姉さんですから、シズアの考えることは大体お見通しなのです。


と言うことで、第八章、学園都市グラナデミア編が始まります。


まだ、すべてが固まってはおりませんが、走りながら考えていこうかと。


それと、次話は土曜日の夜になりそうに思います。

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