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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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番外4. リョウとトキノは待ちに待った日を迎える

番外3.までのあらすじ


結婚相手を探していたトキノはリョウと出会い、結ばれる。

二人は風竜の案内で、熱帯の孤島に新婚旅行にやってきていた。


カン、コン、と辺りに音が響き渡る。

リョウが斧で(たきぎ)を割っている音だ。

そこから少し離れたところでは、トキノがせっせと食事作りに(はげ)んでいた。


二人がいるのは島の高台にある(ひら)けた土地。

前方には海が見え、横には大きな岩山が(そび)えていて、海とは反対側の島の奥の側には森がある。


島に来た当初は海岸沿いで寝泊まりしていた二人だが、雨風(あめかぜ)(しの)ぐのに苦労したため、新たな場所を求めて探し歩いた末に、この場所を見つけた。

岩山の壁に最初から開いていた横穴は水が流れ込みやすい形をしていたため、トキノが魔法で改良を(ほどこ)した。


水場もそう遠くなく、暮らしていくのに十分な環境であったことから、二人はそれからずっとこの場所で落ち着いている。

日中は食料探しと、道具作りなど。

朝や昼は、焼き魚など簡単な物で済ませておいて、夕食は手の込んだものを作る。


その食事作りは当初リョウがやっていた。

トキノに料理の経験が無かったからだ。


ただ単に肉や魚に塩コショウを掛けて焼くくらいのことはできた。

しかし、毎日それでは飽きる。

幸いにもリョウは一人暮らしで自炊をしていた経験があったし、手持ちの荷物と言うか収納サックの中に調理道具も一通り入れてあった。


こちらの世界に来てからも、旅の道中で(たま)に料理を作ってもいたリョウにとっては、熱帯の孤島と言うか、無人島で手に入る食材でも何も問題はない。

有り合わせの材料で食事を作ったところ、トキノが料理を習いたいと言い出し、それからトキノに料理を教えることも、日課の一つになっている。


「さて、これで終わりだな」


用意していた(まき)をすべて割り終えたリョウは、立ち上がって背中を伸ばす。


「あら、終わりましたか?丁度(ちょうど)こちらも食事の準備ができましたよ」


リョウの様子に気付いたトキノが声を掛けてきた。


トキノの横のテーブルには、いつもより多くの料理が並んでいる。

随分とおかずの種類が豊富になったなと思いつつも、見慣れない(しな)に不安を覚えなくもない。


「この葉っぱで巻いてあるのは何だ?」

「それはこの前に海で釣った白身魚の切り身を香草で巻いて焼いてみたの。美味しくできていると思うわよ」


「その葉っぱは、不味くないんだよな?」


リョウは恐る恐る尋ねてみた。


「えぇ、それは大丈夫よ。一度()でて味見してみたもの。私だって、この前みたいな失敗はしたくないから、きちんと確かめてるわ」

「そうか。なら良いが」


この前の失敗と言うのは、トキノが食べられると判断して()って来た草が、火を通しても青臭くて食べられたものではなかったことを指している。

トキノが食べられるかどうかの判断基準は、体に毒かどうかだけでしかなく、それも生のまま(かじ)ってみた上で、鑑定眼で毒性のありなしを確かめるだけだった。


鑑定眼は万能ではない。

自分の知識の中から合致するものを教えてくれるだけだ。

だから、知識を増やさなければならない。


食べ物に関して、知識を得る早道は口にすることだ。

つまりは食べ物の効果を身を以て体験してしまうこと。

例えそれが毒であろうが、魔女の力で無効化してしまえば良い。


そうやってトキノは、この島の植物の見極めをしてきた。

しかし、鑑定眼では味の見極めは付かない。

最初はそれが分かっておらず、毒がないからと、安心して口にして後悔したことがあった。


なのでリョウは、初見の植物については、どうしても味見したかを確かめたくなるのだ。


「これは刺身?一度凍らせてあるのか?」


刺身は前にも食べた。

寄生虫対策でトキノの氷魔法で凍らせたのだが、解凍したら少し柔らかく水っぽくなってしまった経験がある。

しかし、目の前のこれはそうした水っぽさが見られない。


「えぇ、氷魔法の解き方を教えて貰ったのよ。だから、上手に解凍できるようになったわ。ちょっと味見してみたら、身がしっかりして美味しかったわよ。これでお醤油があれば良かったのだけれど、無い物は仕方がないから塩で我慢してね」

「うん、まあ、塩は良いけど、教えて貰ったって言わなかったか?この島に誰かいたのか?」


「人がってこと?いいえ、人はいないわ。でも精霊はいるのよ。ここは海が近いから水の精霊はよく見かけるわね。好奇心旺盛で話し掛けてくる子もいるのよ。そうした子達と話してる中で、氷魔法の解き方のコツを教えて貰えたわ」


嬉しそうにトキノが微笑む。


「それは助かるな」


リョウには精霊は見えないし、精霊が話し掛けてくることもない。

こっちに来てからの話し相手はトキノだけだ。

風竜は二人をこの島に下ろすと、直ぐに帰ってしまっている。


まあ、元々口数は少ない方だから、話し相手がいなくても苦ではない。

それに引き換え、トキノは時と共にお喋りになってきている気がする。

精霊達がトキノと話していてくれるのなら、それはそれで助かると言うものだ。


そんなことを考えながら、リョウの目線は刺身の隣へと移る。


「これは(いわし)の素揚げか?いや、何かまぶしてあるな?」

「ほら、前に片栗粉をまぶしてから揚げると美味しいって言ってたじゃない?だから、草の種を()り潰してまぶしてから揚げてみたのよ。香ばしさが加わって良い感じにできたと思うわ」


「確かに良い香りがするよな。で、後はご飯とスープか?」


テーブルの上に並んだ器から、(およ)そそんなところだろうとリョウは推察した。


「えぇそう。スープは貝と若芽(わかめ)ね。貝の出汁(だし)がよく出て美味しいの。ご飯の方は、豆ご飯にしてみたわ。本当は小豆が良かったけど、ここには無さそうだから」

「小豆?あぁ、赤飯か。祝い事か何か――って、もしかして、そうなのか?」


リョウは赤飯の意味することに気付き、トキノの腹に視線を向ける。


「そうよ。赤ちゃんが宿ったの。待ちに待った赤ちゃんが。新婚旅行に来れば赤ちゃんができるって本当だったのね」

「いや、それは新婚旅行から帰って(しばら)くしてから赤ちゃんができていることに気付いて『あ、新婚旅行の時にできた赤ちゃんなのね』と言う話であって、赤ちゃんができるまで新婚旅行をしてると言うことではないぞ」


「あら、そうなの?まぁ、赤ちゃんができるなら、私は何でも構わないのだけれど。ともかく座って。食事にしましょうよ」

「あぁ、そうだな」


トキノがあれだけ欲しがっていた赤ん坊。できたのなら良かった。

が、リョウにはまだ実感がない。

若干気の抜けた様子で、トキノに促されるままにテーブル席の前に座り、いただきますと食べ始める。


「魔女の子供か」


ご飯を少し食べたところで、リョウがポツリと口にした。


「そうよ。それがどうかしたの?」


トキノがリョウを見ながら首を傾げてみせる。


「いや、思い出したんだ。うちの先祖の家の離れに魔女の親子が住んでいたって話を。その話を聞いた時には、まさか自分が魔女と結婚して子供ができることになるとは思ってなかったよ」

「それって、いつ頃の話?」


「えーと、大体四百年くらい昔の話だったと思う」


リョウの返事を聞いたトキノが目を見開く。


「貴方のそのご先祖様は、その時魔女の協力者で、魔女の里に住んでいたのよね?」

「あぁ、そう聞いている。離れに住んでいたのは母親と娘二人だったが、娘達のうち、妹の方は全然外に出てこなかったから、皆、妹の顔も名前も知らなかったらしい。でも、里のすぐ近くに漆黒ダンジョンが出来た時に、妹の方が家から飛び出してきたので、それで(ようや)く知ったそうだ」


「ふーん。四百年掛けて語り継がれてきた割りには、随分と正確に伝えられているのね」


妙なことを感心されたなと、リョウは感じた。


「正確なのか?」

「えぇ。他には聞いてないの?母親のこととか、娘達のこととか」


「母親は魔女達の中でも地位が高いようで、長とか里長とか呼ばれていたらしい。娘達のうち、姉については器量良しで優しい娘だったそうだ。妹の方は、数多くの黒魔獣を物ともせずにあっという間に倒してしまい、漆黒ダンジョンもあっさり消すほど強かったって。それを最初に聞いたのは、まだ小さかった頃なんだけど、その話で魔女に(あこが)れのような物を感じたんだよな」


幼い頃の話なので、恥ずかしい。

なので幾分照れた表情で告白する。


「憧れたのは過去の話?今は何とも思わない?」


トキノの目が幾分か細くなる。


「そんなことはないさ。魔女って長生きだって話だろう?今の仕事を選んだのも、仕事をしている中で、その魔女の親子と出会えたらなって気持ちがあったからだし」

「そう。なら、貴方のその望みは叶ったと思うわ」


「そうなのか?」


不思議そうに自分を見るリョウに対して、トキノは満面の笑みを向けた。


「そうよ。だって、私がその魔女の親子の妹の方だから」


そういう出会いも良いですね。リョウが羨ましい。


これはアニス達が王都に行く直前くらいの時期の話です。


さて、次から第八章に入るのですが、色々とバタバタしておりまして一週間くらいお時間いただくことになりそうな予感がしています。


引き続きよろしくお願いいたします。

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