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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-35. アニスとシズアは行き先を決めたい

シズアがノッカーで扉をトントンと叩くと、(しばら)くして中から「だぁれ()?」と言う声が聞こえてきた。


「シズアよ。あとアニスも」


返事をすると、(さら)に一言。


「今日の気分は?」

「最悪ね」


すると、玄関の扉が内側に開き、開いた扉の隙間から小さな(つの)の生えた顔が現れた。


「シズア姉、やっほー」


嬉しそうに迎えてくれたプラムを見て、シズアも嬉しくなる。


「プラムちゃーん、抱っこー」


扉を(くぐ)り、勢いよくプラムに抱き付くシズア。


「わぁ、シズア姉、苦しいやん。電撃ぃー」


プラムが発した電撃がシズアに襲い掛かる。


「うぉぉー、耐えてみせるぅー」


ビリビリと電撃を受けながらもシズアはプラムを抱きしめたままだ。


「だからシズア姉、苦しいってばぁ。あ、(ゆる)まった。今度は重くなったぁ」


自分にのしかかってきたシズアの重さにプラムが潰れそうになる。

と、シズアの後ろから伸びてきた手が、シズアの肩を掴んで引き留めた。


「あーあ、結局また気絶してるよ」


アニスはシズアの身体を起こし、幸せそうに気絶しているのを呆れ顔で見る。


「シズア姉、大丈夫?」

だいじょぶ(大丈夫)だいじょぶ(大丈夫)。少しすれば目を覚ますよ。私が抱いてくから部屋に行こ?」


「はーい」


魔力で身体強化をしてシズアを抱き上げているアニスを先導するように、プラムが廊下を先に進んでいく。


「マルコは、ここにいるんだよね?」

「うん、まだ書斎かな?」


プラムを先頭に居間に入るが、そこには誰もいなかった。

マルコはまだ仕事をしているらしい。


「マルコ、呼んで来るん」

「いや、良いよ。急いでないし」


シズアを居間のソファに寝かせながらアニスが答える。


「でもウチ、できるだけ仕事をさせるなって、マリアに言われてるんや」


それだけ言ってプラムは部屋を出て行った。

マリアって、あぁ。

以前、魔具師ギルドを訪れた時に出会った口煩(くちうるさ)そうなマルコの秘書の顔を思い浮かべるアニス。


マリアが家のある三階まで上がってきているのか、プラムが仕事場の方に降りているのかは分からないが、交流があるのは良いことだ。

プラムは明るくて人懐(ひとなつ)っこい性格だから、マリアにも気に入られているのではないだろうか。


「早く行くよぉ、マルコ(じい)

「家の中なんだから、急がずとも問題なかろうに。それからワシの名は、マルコ・ジルニスだぞ。間違えるのは最悪だからな」


廊下から二人の声が聞こえた。

段々大きくなっている。


「マルコは、お爺さんやから(じい)なんやって。何度言うたら分かるん?」

「だからワシはドワーフの中では若造だと言っておろうに」


文句を言いつつも、プラムに手を引かれながらマルコが居間に入ってきた。


「よう、アニス、よく来たな。ん?シズアはどうした?」

「シズは、プラムの電撃で気絶しちゃったんだよ。もう起きると思うけど」


そう言いながら、アニスはシズアの頭を()でてやる。


と、シズアがウウンと唸って目を開けた。


「あれ?アニー?私、また気絶しちゃった?」

「そそ、気絶してた。そんなに長くはないけどね」


「うーん、どうしたら気絶しないで済むかなぁ。なかなか慣れないのよね」

「体質的な問題じゃない?」


「そうだったとしても、乗り越えたいわね」


少しだけ考え、すぐにシズアは顔を上げた。


「ねぇ、アニーのペンダントの魔力を私に流し込んで貰えば耐えられそうな気がしない?」


魔女の魔力はシズアに渡しても有効なのかと問われれば、有効そうな気はする。


「そだね。でもその話は後にしない?マルコが来てくれたからさ」

「え?えぇ、そうね。マルコ、ごめんなさい、気絶してて」


「いや、気絶したお前の方が最悪で、ワシは特に問題はないぞ」

「そう。ありがとう、マルコ」


そこでシズアはきちんとソファに座り直す。

アニスもその右横に収まった。


「それで今日は何の用だ?」


二人の向かいの席に座りながら、マルコが尋ねる。


「これからどこに行こうかって考えてるんだけど、マルコの意見も欲しくてさぁ」

「あん?祭りが終わったら、ザイアスに帰ると言ってなかったか?」


「そう思ってたんだけど、その必要が無くなったって言われたんだよね」


アニス達は帝国の第三皇子アルフレッドの護衛隊長であるジタンをザイアスまで連れていくことになっていたのだが、祭りの終わった翌朝、ジタンの問題は解決したからザイアスには行かないことになったとの手紙をラ・フロンティーナから受け取ったのだ。


ジタンの傷を治した時点で、そう言ってくるだろうなとアニスは予想していたが、それでもザイアスには戻ろうかと考えていた。

しかし、シズアから旅を続けたいと言われ、じゃあどこへ行くのかと言う話になったのだ。


「そうか。で、行き先の候補はあるのか?」

「東の方はどうかって考えてるんだけど。エストナか、ウァランビークあたり」


東の公都(エストナ)か、東の領都(ウァランビーク)なぁ」


マルコは腕組みをして考え込む。


「帝国の近くは最悪でお勧めできないんだがな。まあ、どちらかと言えば、エストナ(東の公都)の方がマシだ。しかし()(かく)、あっちの方に行くんだったら、きちんと情報を集めておけよ。そう言えばサラには聞いたのか?あそこら辺の事情ならワシよりあいつの方が詳しいぞ」

「サラにも聞きたいんだけどね。今は捕まってるから」


「は?あいつが捕まってる?どうしたらそんな最悪なことになる?」


アニスの言葉が信じられず、マルコはシズアを見るが、シズアも困ったような表情を見せていた。


「ノルトランデ辺境伯様がね。マルコはノルトランデ辺境伯様を知ってたりするの?」

「ノルトランデ伯爵ってハヤトか?あのお祭りとママンが大好きなエルフの。サラがあいつのところに行ったんなら、そりゃ捕まるわな。(しばら)くはあいつの屋敷から出てこられんだろうな」


「そうよね。私達も引き留められ掛ったけれど、サラが帰してくれたのよ。だから、もう一度あの屋敷に行こうとは思えなくて」

「ハヤトは悪い奴じゃあないんだがな。しかし、サラに教えて貰えないとするとどうしたもんかな?」


マルコはどうしたものかと考える。


そこへ、お茶(紅茶)のカップをお盆に乗せたプラムがやってきた。

プラムはお盆をテーブルの上に置くと、それぞれの前にカップを並べる。


「うち、マリアにお茶の入れ方を教わったんや。飲んでみて貰えん?」


「うん、美味しいよ、プラムちゃん」


早速、一口味わったシズアが感想を告げる。


「そだね、美味しい。上手に入れられてる」

「二人とも、ども」


嬉しそうに笑うプラムと、優しく微笑みかけるアニスとシズア。


だがそこで、シズアの顔色が急に変わった。


「ねぇアニー、何か変」


不安そうな表情をしたシズアが、アニスの左腕を強く(つか)む。


「シズ、どしたん?」


アニスはシズアを落ち着かせようと、腕を掴んだままのシズアの右手の上に、自分の右手を乗せた。


「何か繋がりが切れたような、そうイェリが感じられない。どうして?」

「シズ、落ち着いて。調べるから」


契約精霊との繋がりが突然切れたと言う話は、聞いたことが無い。

アニスは魔術眼を起動して、シズアの魔力的な繋がりを探る。

イェリ(契約精霊)との繋がりはまだある。完全には切れていない。

しかし、とても弱くて今にも切れそうな状態だ。


繋がりの先を調べようと魔術眼で辿(たど)ってみる。

すると、壁のような物にぶつかった。

何だろう、普通の魔力ではない。


「邪神の力の結界?」


アニスは知らずに口にしていた。


「アニー、ペンダントの魔力でどうにかならない?」

「やってみる」


右手を胸のペンダントに当て、魔力補助の付与魔法を起動させて出てきた魔力を左腕からシズアに流し込み、イェリとの繋がりを強くしようと試みる。


「シズ、どう?」

「えぇ、さっきよりもイェリを感じられるようになったわ」


アニスの魔術眼でも繋がりは先ほどより強くなったように見えていた。

だが、このままでは駄目だ。


「ねぇシズ、イェリをこっちに呼べない?」

「そうね、やってみるわ」


シズアはイェリのことを強く念じつつ、召喚魔法の詠唱を始めた。


「我と契約せし火の精霊よ、我の許へと参れ」


何となくだが手応(てごた)えがある。

上手くいきそうな気がする。

シズアはアニスから貰っている魔力をなるべく召喚魔法に注ぎ込むように意識しつつ、力ある言葉を叫ぶ。


「サモン、イェリ」


魔法に魔力が吸収されていく感覚がある。

アニスの眼には召喚魔法の紋様が輝きながら(ふく)らんでいくのが見えていた。

それから紋様はパッと(はじ)け、その跡に火の精霊が姿を現す。


「イェリ、シズアよ、分かる?」

「シズ……ア……」


シズアの眼にもイェリは見えているものの、いつもより光がずっと弱弱しい。


「やや。これは不味い状態だぞ、最悪だ。アニス、火属性の魔石は持っているか?なるべく大きい奴だ」

「おっきいのって言われても、これくらいだけど?」


アニスは急いで収納サックから火の魔石を取り出した。

大きさは、アニスが片手で包める程度。


「それでも何とかなるだろう。シズア、その魔石に魔力を込めて精霊に差し出せ。精霊の寝床にするんだ」

「はい」


シズアはマルコに言われた通りに魔石をイェリの前に差し出す。

と、イェリの光が魔石を包んでから消えた。


「何とか間に合ったな。(しばらく)く、その魔石の中で休ませてやれ。シズアの魔力に当たるようにしてやると、治りが早いぞ」

「ありがとう、マルコ」


シズアはマルコに礼を言うと、手の中の魔石に目を向ける。


「ねぇイェリ、今どこにいたかだけでも、教えて貰える?」

「グラ……ナ……デ……ミア……」


「グラナデミア?聞いたことあるけど、どこだったっけ?」


アニスは首を(かし)げた。


「学園都市グラナデミア。ここから馬車で一日の距離だ。しかし、王都からそう遠くないところに精霊を捕まえようとしている連中がいるってことか、最悪だな」

「学園都市には魔法大学があるわね。第二王子の特別教室も」


シズアの眼が燃えている。

こうなったら止められない。

アニスは止める気もなかったが。


「じゃあ、シズ。グラナデミアに行ってみよか」


そうして二人の行き先が決まった。


以前に書いたかもですが、家の扉は内側に開くようになってます。


さて、第七章が終わりました。正確には、おまけが一話付きます。


その後は、第八章になろうかと...。


なお、必ずしも三日で更新できるとは限らない状況は、まだ続いております。

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