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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-33. アニスとシズアはパレードの中に色々な物を見る

祭り好きエルフの姿が見えなくなると共に、屋敷の使用人達の声量も下がる。


「ここの人達、本当に熱心に応援してたね」

「あ奴は領民達に人気があるからな」


アニスの言葉に、サラは腕組みをしながら微笑んでみせた。


「ねぇサラ。ノルトランデ辺境領って、北の辺境のことよね?」


アニスの反対側からシズアが声を掛ける。


如何(いか)にもな。この王都から川下側に進んだラウール川の河口とその一帯を中心とした王国の北端の領域すべてが北の辺境領だ。名目上は、お主達の故郷のあるザイアスの北西にある精霊の森も、ここから北東にある古の精霊の森も北の辺境領の一部と言うことになっておる。ところで、ノルトランデの名を何処で聞いた?皆、北の辺境領としか言わんだろう?」

「父さん達が冒険者をやっていた頃にノルトランデにも行ったって話を聞いたことがあったの」


「なるほどな」


三人が話している間にも、パレードの隊列が目の前の道を進んでいく。

揃いの服を(まと)った踊り子と楽隊がひとまとまりとなっていて、前後の一団とは少し間が空いているため、どこからどこまでが一つの集団か見ている者からも明らかだ。


「踊りも演奏も皆上手だね」

「誰も彼も気合いが入っておるからな。近隣の街や村から祭り好きを集めたり、地区によっては踊り子や楽士など専門の人間を助っ人として雇うこともあると聞くぞ」


「どこまで気合いが入っているんだろ?」


アニスが若干ため息交じりに感想を口にする。


「それぞれ面子(めんつ)もあるからな。他所(よそ)に比べて見劣りするような物は出せんと考えておるのだ」

「そんなんで楽しめるのかな?お祭りだから楽しまないとだよね」


「祭り好きにとっては、そうしたことも含めて楽しいんだ。だからほれ、(みな)楽しそうな笑顔をしておる」


まあ確かに、とアニスは思う。

パレードの出発地点からそう離れていないとは言え、どの人も汗が光って見える。

それだけ大変なのだ。楽しくなければ笑顔は続かないと言われれば、その通りだ。


一つ、また一つと集団が通りすぎていく。

辺境伯家の使用人達は、それらの人々にも温かい声援を送っていた。

観覧席が用意されているものの、サラが言っていた通り、(さく)沿いに立って見物している人が多い。


「ん?」


十を超える集団が通過したところで、それまでとは雰囲気の違う集団が登場した。

宙に火の玉を飛ばしたり、色とりどりの光の球を点滅させたり動かしたり、魔法を使っている。


「ここからは貴族街の代表者となる。魔法を多用しておるからすぐに分るよな。魔力量の多い者を集めたり、魔石を使ったり、貴族の威厳を示したいのだ。まあ、平民側も分かっておるから、魔法をほとんど使わんのだがな」


長いことやっている祭りだ。最初の頃のことは分からないが、繰り返すうちにそうした棲み分けになっていったのだろう。


だが、シズアには別に気になったことがあった。


「貴族街の代表なら、辺境伯様もここに入らないの?」

「辺境伯様?あぁ、ハヤトのことか。あ奴のことはハヤトと呼んで貰った方が、分かりが良くて助かるんだがな」


「それならハヤト様、が貴族街の代表の中にいないのはどうして?」


別に呼び捨てで構わんのだがと、ぶつぶつと(つぶや)くサラ。


「ハヤトはな、勿論(もちろん)、最初はこちらの中にいたんだ。でも分かるだろう?あ奴の熱の(こも)った踊りは貴族街の集団の中で浮いてしまってな。それで運営が気を回して先頭にしてくれたんだ」

「あー」


ハヤトの踊りを思い出し、シズアはサラの説明に納得する。


「なら、あの法被(はっぴ)をどうやって手に入れたかも知ってる?」

「あれなぁ」


サラの目が微妙に泳いだ。


「迷い人が着ていた物を譲り受けたんだったかな?」

「ふーん」


迷い人とは、異世界からこの世界に迷い込んだ人、つまり転移者のことだろう。

確かに転移者がいないとは言い切れない。

しかし、祭りの法被を着た転移者なんてハヤトにとって都合の良い話が起き得るのかは(はなは)だ疑問だったりする。


サラはシズアの方を見ていないし、最大級に怪しいが、シズアはそれ以上、突っ込もうとはしなかった。

少なくとも異世界から持ち込まれた物なのは確実そうであったから。


貴族街の行列も幾つかの集団に分かれていたが、その後ろもまた(おもむき)が異なっていた。

踊り子達の両脇を、騎士が乗った騎馬が進んでいく。


「サラ、もしかして王族?」


集団の後ろの方に馬車が見えている。

王族は馬車に乗っていると聞いていたので、そうではないかとアニスは考えたのだ。


「その通りだ。王族の先頭は第一王子だな。音楽隊は近衛兵だし、貴族街と同じく魔法を沢山使っている。貴族達を重んじている日頃の姿勢そのままだな」

「なるほど、そか」


これは祭りだが、王族にとっては自己を民衆に知らしめる場でもあると言うことらしい。


(みんな)と混じって楽しく踊るだけじゃないんだね」

「そうできれば良いのだがな。しかし、今は後継者争いのこともあるし、難しいだろうな」


「あぁ、後継者争いかぁ」


そうだ、第一王子は保守派の貴族達の支援を受けているのだ。

その支援者のことを考えたから、こうなったのだと理解した。


そんなことを考えていたアニスの前を、馬車が通過する。

屋根の無い馬車に二人の男女が座っていて、見物人に手を振っていた。


「あれが第一王子だよね」

「そうだな。そして隣が王子妃だ」


「そか、初めて見た」


第一皇子はアニスの目には、凛々しく利発そうな青年に見えた。

パッと見、良い王様になりそうな気がする。


「手強そうだね」

「何がだ?」


「王女様にとって」


サラとラウラが会ったことってあったかなと考えるが思い当たらず、アニスは無難な呼び方を選択する。


「確かに、人物的には隙が無いよな。あ奴の最大の弱点は、後ろ盾になっている貴族達だと思うぞ」

「どゆこと?」


「貴族達が変な動きをして足を引っ張られる可能性があるということだ」

「そう言う攻め方もあるんだ」


第一王子の馬車が去り、次に来たのはより華やかな集団だった。

第一王子の集団と同じように騎馬に乗った兵士がいるが、装備は軽装になっている。

踊り子や音楽隊の服装には軍隊を思わせるような要素は何もなく、心から祭りを楽しんでいるかのようににこやかだ。


「王女様の集団だね」

「民衆と一体になりたいって気持ちが表れているわね。魔法も少し使っているから、貴族のことも忘れていないと言うことよね」


アニスの言葉に反応したのはシズア。


「貴族も平民もって難しそうだけど、祭りの踊りは綺麗だよね」

「ええ。この踊りのように上手くやりますよって言いたいのかも知れないわね」


二人が話していると馬車がやって来た。

御者台には御者ともう一人、トニーが座っている。

後ろは同じように屋根が無く、ラ・フロンティーナが一人で座り、周囲に手を振っていた。


と、アニスの目がラ・フロンティーナの目と合った。

一瞬、ラ・フロンティーナの動きが止まる。

だがすぐに復活し、アニスから目を()らせると、再び人々に向けて愛敬を振りまき始めた。


「アニー、ガン見されてなかった?」

「された。何でここにいるんだって思ったんじゃないかな?王女様はここがどこか知ってるんだよ」


「ハヤトは中立を貫いとるから問題ないと思うがな」

「なら良いけど」


まあ、話せば分かる人だから問題ないとは思うけど。

アニスは心の中で考えた。


そして今は、もっと重要なことがある。


ラ・フロンティーナの馬車の後に間を開けてやって来た集団。

順番から言って第二王子の集団だ。


「サラ、あの服装は何?」

「ん?あれは魔法大学だな、確か、第二王子が金を出して特別教室を開いたのではなかったか?その宣伝を兼ねているのかも知れんな」


シズアの問いにサラが答える。


第二王子の集団は、騎馬に乗っている者も、踊っている者も、音楽隊も皆、同じ意匠の服を着ている。

全員が本当に魔法大学に通っているのかは分からない。

何しろ、これは祭りのパレードで、仮装するのも自由だからだ。


でも、もしかしたら関係するのか。


アニスが悩んでいるのは、この集団の中に、先日、神官長補佐のクラインを襲撃した者達に指示を与えていた二属性使いがいたため。

アニスは先日の襲撃の際、逃げる二属性使いに魔女の力でマーキングしていた。

それが今日、そのマーキングを付けた人間が城の中にいると気付いてからずっと気にしいたところ、この集団の中で騎馬に乗って表れたのだ。


先日王城に行った時には居なかった。

その頃は、魔法大学にいたのかも知れない。

魔法大学は王都の外にあってアニスの探知の範囲外だから、可能性はある。


だとしても、マーキングのことはシズアに教えられないし、理由もなく魔法大学に調べに行きたいとも言えない。

取り敢えずは頭の隅に置いておくくらいしかできなさそうだ。


「第二王子は、まだ若いって感じね。ねぇ、アニー」

「え?あ、うん」


アニスが考え事をしている間に、第二王子の馬車が目の前を通過していた。


最後に(きら)びやかな集団、つまり国王の集団が通ってパレードが終わりを迎える。

王様の馬車を見送ると、屋敷の使用人達は三々五々、持ち場に戻っていった。


「我らも早々に立ち去るかの」

「そだね」


サラに促され、二人は観覧席を下りていく。


「トビアス、我らを迎え入れてくれたことに感謝する」

「サラ様に喜んでいただければ幸いです。ところで、ハヤト様は待たなくてよろしいのですか」


「奴とはいつでも会えるからな。今日のところはよろしく伝えておいてくれ」

左様(さよう)ですか」


残念そうな表情のトビアスを後に置いたまま、サラはやってきた森の小径に入ろうとする。

が、その小径の向こう側から猛烈な勢いで駆けてくる人影があった。


「ママーン」

「げ」


その長身の人影は、森から飛び出すと(ひざ)を地に付けてサラに抱き着いた。


「ママーン、会いたかったよぉ」

「何度も言うとるだろう、我はお主の母親ではないわ」


「だけど母親を亡くして生きる道を見失っていた僕を導いてくれたのはママンだよ。だから、ママンは僕のママンなんだ」

「我はそんな大層なことはしておらんのだがな。ほらしっかりしろ、ハヤト。お主はここの(あるじ)だろうに」


サラに(さと)されて、北の辺境伯であるハヤトはサラから体を離して立ち上がる。


「そうそう、今日もママンのくれたこの法被を着て踊ったんだよ。見てくれたたんだよね?どうだった?」

「よく踊れてたな」


「そう言って貰えると嬉しいよ。やっぱりお祭りって良いよね」


楽しそうにはしゃぐハルトに、仕方なさそうにしながらも目元が笑っているサラ。


しかし法被について、さっきは違うこと言ってたよね、何で簡単にバレる嘘を()いたの、と(あき)れて半眼でサラを見るアニスとシズアだった。


サラもハヤトにマーキングすれば位置を把握できる筈ですが、どうやらそういうことはしない主義のようです。




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