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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-25. アニスとシズアは王都の祭りで買い食いしたい

祭りが始まった。


王都の祭りは三日間。

ザナスの月(十二月)の半ばの光曜日(ヴィルディ)から日曜日(ザンディ)まで。


期間中は、王都中の街路が飾り立てられ、通行人の目を楽しませてくれる。

街角の広場には屋台が出て、昼間から宴会をしている者達がいたり、楽器を持ち寄り音楽を奏でる者達、その音楽でダンスを踊る者達など、皆、思い思いに祭りを楽しむのだ。


「お祭りだけあって、色んな食べ物の屋台があるわね」

「だね。シズが食べたいものはある?」


「そうね。お祭りと言えば、焼き(めん)とかたこ焼きが定番だけど」


シズアの言葉にアニスが目を丸くする。


「たこ焼き?たこを丸焼きにしたものってこと?」


聞いたことがない名前にアニスが喰い付いた。


「いえ、そうではなくて、一口(だい)に丸めた小麦粉の生地(きじ)の中に(たこ)の切れ端などを入れて焼いたものよ」


シズアはアニスに分かるように説明したいが、なかなか難しい。


「小麦粉の生地?パンケーキみたいなの?それともパイ生地?」

「どちらとも違うの。うーん、似たようなものが無くて説明に困るわね。実際に作ってみせた方が早い気がしてきたわ」


「だったら、今度作ってよ。シズがどんなものを食べてたのか興味あるから」

「別にいつもたこ焼きを食べていたのではないからね」


アニスが勘違いしていないか心配になり、言葉を付け足すシズア。


「うん、だいじょぶ(大丈夫)、分かってるって」

「そう?」


本当に分かっているのかと、シズアは疑いの眼差しを向ける。


「そうそう」


アニスは明るく頷いてみせた。


「でさぁ、焼き(めん)はどんな食べ物なの?スパゲッティの麺を焼くの?」

「麵は麺でもスパゲッティとは違うのよ。でも、たこ焼きに比べればまだこっちの方が説明し易いわね。アニーは、パルナム(南の公都)のベティの食堂を覚えてる?」


「え?あぁ、珍しい食べ物が沢山あったとこだよね?」

「そう。あの食堂で拉麺(らーめん)を食べたことがあったわよね?」


「うん、あった。スパゲッティよりずっと細くて縮れた麺が味噌のスープに浸かっていた奴だよね。あれは結構美味しかったなぁ」

「その拉麺(らーめん)の麺をお肉や野菜と一緒に炒めて味付けしたものが焼き麺なのよ」


「それ、美味しそうに聞こえるけど、ここで焼き麺を売ってる屋台ってないよね?」


アニスがキョロキョロと辺りを見回すが、焼き麺らしきものを売っている屋台は見当たらない。


「無ければ無いで良いわ。今度パルナムに行った時にでもベティに作って貰えば」

「シズがそれで良いなら、良いけどさ。じゃあ、今は何食べる?あそこで肉の串焼きを売ってるみたいだよ」


「お肉も良いけど、私は海鮮が良いかな?イカ焼きはない?」

「それって、たこ焼きの蛸を烏賊に変えたもの?」


似たような言葉に、アニスは混乱する。


「ただの烏賊(いか)の丸焼きよ、串に刺した。たこ焼きから離れて貰っても良い?」


シズアが軽く(ほお)を膨らませた。


「えーっ。呼び方が似てるんだもん。でも、烏賊ってあったかなー。あっ、あれは?」


アニスが目に付いた物を指差す。


「ほら、あれ。貝じゃない?」

「貝?」


アニスの見ている方に目を向けると、屋台の店主が客に手渡している串焼きの串に刺されたものが貝に見える。


「あの屋台、他に売ってるのは獣肉(けものにく)とか山の物の串焼きなのに、貝だけ海の物があるっこと?」

「うーん、そだね。屋台の人に聞いてみよか」


スタスタと歩いて、アニスは屋台の前に立った。


「ねえ、教えて欲しいんだけど、今の人に渡してたの、貝の串焼き?」

「貝?あぁいや、あれは貝じゃなくてマイタグイの串焼きだ。貝と言うよりカタツムリだな、食用の」


「カタツムリ?牧草地とか森の中にいる殻のついたあれ?食べられるの?」


アニスの頭の中には、葉っぱの上をゆっくり進む殻をつけたぶよぶよした生き物の姿が思い浮かんでいた。


「これは、食べるために育てられた奴だからな。そこらにいる奴は硬くて不味いから食べようとしない方が良いぞ」

「へーえ。シズ、どうする?」


串に刺さった物が、アレだと思うと気が乗らないアニス。

若干引き気味に妹の方を見るが、シズアは澄ました顔でいた。


「どうするって、食べましょうよ。アニーが要らないなら、私だけでも食べるけど」

「あっいや、食べるって。おじさん、マイタグイの串焼きを二本で」

「あいよっ」


アニスは代金と引き換えに串を二本受け取り、そのうちの一本をシズアに渡す。

そして手元に残った一本を口まで持って行き、恐る恐る齧り付く。

弾力のある歯応え。嚙み切るのは難しいので、先端に刺さっていた一つを上下の歯で(はさ)んで串から外し、口の中に入れてモグモグと噛む。


「うん、まぁ、貝に似た味だね」

「えぇ、食用のカタツムリは前にも食べたことがあるけど、それと似ているわね」


「あれ?シズ、前にって、いつ食べたの?」

「昔の話よ。その時は串焼きではなかったけど」


「あぁ」


それはつまりシズアの前世のことだとアニスは察した。


「自分で捕まえて食べてたりしたの?」

「まさか。これと同じように食用に育てられたカタツムリしか食べられなかったわ。それにいつも手に入るものでもなかったし、食べたのは数回よ」


「そか」


今とあまり違わない食文化のようで、何となくホッとしたアニス。


「マイカブリは、たまに食べるくらいで良いよね」

「そうね。今度はハーブとバターで焼いたものを食べてみたいかなぁ。食材として手に入れられると良いわね」


「そ、だね」


アニスとしては、マイタグイにそれほどの思い入れは感じていない。

シズアがより美味しく食べる(すべ)を知っているなら、試すのも悪くはないかも知れないのだが、何となく別の話題に切り替えたくなってきた。


「ねぇシズ、何か飲まない?レモネードはどう?」

「ええ」


祭りにレモネードは付き物だ。飲み物を扱っている屋台なら、大抵レモネードは置いている。


アニスは目に付いた屋台に行き、レモネードを二本頼んだ。

そしてマイタグイの串を口で(くわ)えつつ、代金と引き換えに両手でレモネードの瓶を受け取る。


「我にもレモネードを一本頼む」


隣から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「サラ」


アニスは横を向き、目に入った人物の名前を口に出す。


「奇遇だな、アニス。夜に宿で話すつもりだったが、ここで会えれば用が早く済んで助かる」


屋台の親父からレモネードの瓶を受け取りながら、サラはアニスに笑ってみせた。


「アレ、手に入った?」

「あぁ。そこで話をしようか」


道端に並べられたテーブル席の一つにサラが座ったので、アニス達もその向かいの席に腰を下ろす。


「あら?サラが食べてるのはチーズドッグ?」


シスアがサラの手にあるものに目を付けた。


「あぁ、ここに来る途中の屋台で売っていた。結構美味いぞ」


そう言いながら、サラは美味そうに一口頬張(ほおば)る。


「私も食べたいから、後で屋台の場所を教えてくれる?」

「勿論、構わんぞ。でだ」


サラは腰の収納ポーチからペンダントを一つ取り出した。

ペンダントヘッドは無色透明な石だ。


「これを用意して貰った。何か分かるか?」

「魔力補助の魔具に見えるけど」


アニスの鑑定眼にはそう見えていたし、魔力眼でも魔力補助の付与魔法の紋様が視えている。


「その通りだな。そして、ある条件を満たした時だけ、発動する魔法が邪神の力に対抗できるようになっておる」

「ある条件って?」


「魔術眼を持っていることだ。魔術眼持ちでなければ、ただの魔力補助の魔具としてしか機能せん」

「何でそんな条件が付いてるの?」


「考えたくはないが、心無い者に奪われてしまうやも知れんからな。そうなってしまうと大変なことになるから、安全のためだ。リリエラには使えるのだから、問題あるまい?」


確かにサラの言う通りなので、頷くしかない。


「でも、その条件なら、私の分も欲しかったな」


アニスは呟く。


そんなアニスにサラが笑みを向けた。


「そう言うだろうと思って、これも持ってきてやった」


続けてサラが取り出したのは、アニスがしているのと同じ色、同じ形のペンダント。

違うのはリリエラ用と同じで魔力補助の付与が(ほどこ)されていることだけだ。


「これは、今お主が付けている物と同じで水属性以外の属性を隠蔽する機能も付けてある」

「わっ、サラ、ありがとう。とっても助かる」


これがあれば、邪神の力を籠めた魔具に対応するときに魔女の力を使わずに済むし、魔力補助が付いているから、魔術眼を持っていることを明かさずに上級魔法も使える。


あ、いや、魔術眼が使えるのが条件であるとは他人(ひと)に言えないので、そこの言い訳は考えておく必要がありそうだ。

でも、ともかく有用なことには違いがない。


「えー、アニーだけ?私も欲しかったなぁ」


()ねたように口を尖らせるシズア。


「お主には、アニスの後ろにいて貰った方が嬉しいんだがな」

「どうして?邪神の力に対抗できる人は多い方が良いと思うけど?」


シズアの言い分にも一理ある。

それが分かっているのだろう、サラの眉がピクリと動く。

だが、渋そうな表情には変わりがない。


「考えてやらんでもないが、お主については、もう少し成長してからだな。今しばらくは辛抱せい。その代わりと言っては何だが、チーズドッグを(おご)ってやろう」


対するシズアも浮かない顔。


「あー、なんだろうな。食べ物を与えておけば良いだろうって思われるのは凄く(しゃく)なんだけど、ごねたところで変わらないと思うし。まぁ良いわ、今日のところはチーズドッグで手を打ってあげる。ただし、二つね」

「むむっ、そう来たか。まあ良い。それで大人しくして貰えるのなら安い物だ。分かった、チーズドッグを二つにしてやろう」


「交渉成立ね」


シズアとサラが微笑み合う横で、自分のチーズドッグは自腹で買うしかないかな、と考えるアニスだった。


焼きそばのことを焼き麺と書いたのは、アニスとシズアが「そば」に該当する言葉を知らないからです。


それにしても、パルナムにいるキョーカ達はベティに色々異世界の料理のレシピを教え込んでいるようですね。


あ、あと、チーズドッグはこの世界に普通にあります。本文には出てきませんでしたが、ホットドッグもです。

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