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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-22. アニスとシズアは予想外の人物に出会う

ラ・フロンティーナとのお茶会の後、アニスとシズアは王城の出口に向かって歩いていた。


と言っても、まったく勝手の分からない城の中、二人だけで動ける筈もない。


「ラウラ、良いの?王女様は忙しいんじゃない?」

「来客をお見送りするのも立派な王女の仕事ですから、気にすることはありませんよ」


「そなの?」

「そうです」


首を傾げるアニスに、ラ・フロンティーナは力強く肯定(こうてい)してみせる。


王女は召使いに頼むのではなく、自らアニス達を案内することを選んだ。

そして今、王女とアニスが隣り合い、その後ろをシズアとトニーとが並んで王城内の廊下を歩いている。


「王城の中は幾つもの勢力が動き回っていますから、貴女方(あなたがた)がいつどんな()(ごと)に巻き込まれるやも知れません。いえ、貴女方の場合、自分から首を突っ込み兼ねません。私がきちんと見ていないと心配です」

「あー、つまり、監視ってことね」


「貴女方の身の安全の確保と言っているのです。まったく、貴女と言う人は」


ラ・フロンティーナは大きな溜息を()いた。


「まぁ、ザイアス子爵領からの使者にちょっかいを出そうとする(おろ)か者はいて欲しくありませんけれど、ここには様々な人間が出入りしていますからね」

「子爵領ができた時の話を知らない人ってこと?」


アニスが尋ねると、それまで前を向いていた王女が横目でアニスを見やる。


「ええ。王族や有力貴族に知らない人はいませんが、その取り巻きや関係者すべてが知っているとは思わない方が良い――勿論(もちろん)、他国の人間も」

「?」


ラ・フロンティーナの最後の言葉は、前方に向けて放たれたように見えた。


そこでアニスもまた、その瞳の見詰める先へと視線を伸ばす。

と、真っ直ぐな廊下の向こう側から、こちらへと歩いて来る人影が目に入ってきた。


良く見れば、人影は一つでは無く二つ、二人の男性だ。

若く溌剌(はつらつ)としている男性と、髪に白い物が混じった年配と思われる男性。

どちらも良い身なりで腰に剣を帯びている。


十中八九、貴族に違いない。

とは言え、王女の眼に警戒の色が見えるので、第一王女派の貴族では無さそうだ。


だとした時に、自分はどう動いたら良いのだろうか。


貴族が通るときには道を開けるようにと教わった。

この廊下は広いので、()けずとも擦れ違えるものの、王女の隣で真ん中寄りを歩いていることから、気が引けなくもない。


「貴女は私の客人なのだから、そのまま堂々としてなさい」


アニスの心中を゙察したか、ラ・フロンティーナが前方に向けた視線を動かさずに、声を掛けてきた。


「おけ」


自分を鼓舞(こぶ)するように、気合を入れて返事をする。


「ねぇアニス、あの二人のことは知っていて?」

「知らない」


王女が前を向いたまま自分を見ていないのを分かっていたアニスは、首を振らずに言葉を口に出すだけで答えた。


面識のある貴族など、ほとんどいない。

王都に来てからの知り合いの中にも貴族は一人もいない。


「だったら、どちらの方が身分が上か分かる?」

「それ、間違えたら不敬罪になる奴じゃない?」


「問題ないわ。ただの(たわむ)れよ」

「なら良いけど」


ラ・フロンティーナに言われる前から、男性二人の違いは気になっていた。


若い男性は力を抜いた自然体だが、年配の男性はと言えば、見た目は普通に歩いているものの、身体中に魔力を薄く広げている。

何かあれば、即座に魔力を満たして対応できるようにしているのだろう。


それに、左耳に付けたピアスは魔法付与された魔具だ。

魔力の色からして風属性。鑑定眼を起動すると探索具と出た。

アニス達のイヤリングと同様に、風の探索魔法(ウィンドサーチ)が付与されているらしい。


「お爺さんの方が護衛みたく見える」


素直に感想を漏らしたところ、ラ・フロンティーナが笑った。


「そう、あの人も貴女に掛かればお爺さんなのね。うふふっ」


王女は咄嗟に手で口元を隠す。


「となると、そのお隣の男性は小父(おじ)さんと言うことに?」


問われたアニスは、キョトンとした顔をラ・フロンティーナに向ける。


「どして?私から見るとお兄さんだけど」

「それは聞き捨てならないわね。私は彼とはそう歳は離れていないのよ。なのに彼はお兄さんで、私がオバさんってどういうことなの?」


それまでずっと前方に注意を向けていた王女が、半眼になってアニスを見た。


「初めましての挨拶代わりに火魔法をぶち込んで来るような失礼な人は、オバさんで良いと思うんだけど?」

「そう言えば、そんなこともありましたか。貴女も中々根に持つ性質(たち)なのですね」


「言い訳なくオバさん呼びしたら、不敬罪になっちゃうよね」

「王族相手に理由も何もないでしょう。お好みならいつでも不敬罪で(さば)いてあげますよ」


王女はアニスに向けて頬を膨らませてみせる。


と、前方からクククッと押し殺した笑い声が耳に入って来た。

見れば、若い男性が左手で腹を抱えながら口に右手を当てている。


「す、すまない。聞くつもりではなかったのだが、君たちの声は良く通るから」


目を細めた若者が言い訳を口にした。


「いえ、私達の方がはしたないことをしていたのですから、お気になさらないでくださいな」


王女が()まし顔で応じる。

素早い豹変(ひょうへん)ぶりだ。


「うむ、ではお言葉に甘えさせて貰おうか。それでだが、ラ・フロンティーナ王女、そちらの少女を紹介いただいても?あぁ、失礼した、私は帝国の第三皇子(おうじ)、アルフレッド・スパナーズと言う」

「はえ?」


自分に向けて丁寧なお辞儀をしてくるアルフレッドに対し、アニスは(ほう)けた声を漏らしてしまう。

どうして王国の中心である王城の中に、帝国の皇子がいるのだ?


「こちらのアルフレッド皇子は、王都の祭りに際し、表敬(ひょうけい)訪問の形で王国に来られているのです」


口に出していないアニスの疑問に、王女が答えをくれた。

続けてラ・フロンティーナは皇子の方を向く。


「アルフレッド皇子、こちらは王国のザイアス子爵の使者アニス、私の後ろにいるのがシズアで、二人は姉妹なのですよ」

「アニスにシズア、初めてお目に掛かる。ザイアスの名は聞いたことがあったな。確か精霊の森の入口にあたる地域ではなかったか?」


「あら、良くご存知なのですね」


王女が驚くと、アルフレッドは照れたように(ほお)を赤らめた。


「知っていると言っても、少しばかり耳にした程度のことでしかない。ところでこの少女は単なる使者なのか?先程の会話では、もっと親密な関係に聞こえたのだが」

「えぇまあ、以前から面識はありましたから。二人は結構腕の立つ冒険者なのです」


「ほーお」


アルフレッドは腕を組み、アニスを上から下まで品定めするかのように目を動かす。


「君、(とし)は?」

「13」


「冒険者の級は?」

「D級」


「ふむ」


一旦、そこで口を閉じたアルフレッド。

何かを考えているようだが、それが何かは見当が付かない。


「13歳でD級なのは少し早いが、そこまで突出(とっしゅつ)したものでもないな。ジタン、お前はどう見る?」


アルフレッドが呼び掛けたのは、隣にいた年配の男性。

その男性、すなわちジタンは、一歩前に出ると、アニスのことを(ため)めつ(すが)めつ(なが)めた。


「そうですな。外見的には普通ですが、何かしら芯のような物を感じます。後のことは手合わせでもしてみないことには何とも」

「そうか。と言うことなんだが、どうだろうか?」


「は?」


アニスは、自分に向けられたアルフレッドの言葉の意味するものが分からないでいた。


「ジタンは君と手合せがしたいと言っている。君に興味を持ったみたいだ」

「そなんだ」


まさかここで手合せを申し込まれるとは予測の範疇外(はんちゅうがい)だ。

どうしたものかとラ・フロンティーナに目を向けてみると、王女はニコニコと微笑んでいた。


「貴女の好きになさりなさいな。お断りしたいのなら、私が文句を言わせませんよ」


どうやら自分で判断しなければならないらしい。


アニスはジタンに目を向けて、良く観察する。

そして口を開いた。


「分かった。手合せを受ける」


どうしてここで手合わせなんだと思わないでもなかったのだが、実はジタンについては気になることが一つあった。


どうせだから、それを確かめてみよう。


アニスはそう考えていた。


ザイアス子爵領ができた時のこととは、4-21.でイラがアニスに伝えた話のことです。


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