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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-19. アニスとシズアは王都一の魔具職人に依頼したい

「で、用件は何だ?」


ここは、王都随一(ずいいち)の腕前を誇ると言われているストゥラトゥール工房の応接室。

ソファに座ってアニス達と対しているのは、工房主のアルカム・ストゥラトゥールその人だ。


流石に約束なしでは会えず、前日にできたのは面会の約束を取り付けるまで。

そして今日、ようやく対面できた。


応接室に通されたアニスとシズアは今、アルカムと挨拶を交わし、マルコの紹介状を渡したところだ。

アルカムは、マルコと同じドワーフ族。

マルコは見るからに穏和であったが、アルカムは険しい顔つきで、頑固そうな印象を受ける。


「魔法攻撃を無効化する魔具を探しています」


アニスが丁寧な口調で切り出す。


「魔法攻撃の無効化だ?この前も神殿から同じ話が来たぞ」


アルカムがアニスをジロリと睨む。


「私達も神殿から依頼を受けました」


アニスは素直に答える。


「どうしてここに来た?お前たちが乗ってきた二輪車や着けている装備の魔法付与には腕の立つ職人の印がついているじゃないか。そっちに頼めば手に入るんじゃないのか?」


アルカムはゼペックの印のことを言っている。

ゼペックの名前を出さなかったのは、アニス達がゼペックを知らないと考えてのことだろう。


しかし、実際に魔法付与しているのはアニスなのだ。


「私達のツテでは無理です」


取り敢えず、自分とは明かさずに返事をする。


「そうなのか?モーリスが推進板を持ち込んできた時に聞いたが、大元(おおもと)は精霊の森の賢者なのだろう?その裏にはそれなりの組織があるはずだぞ」

「組織?」


「あぁ。お前達、シエルと言う名に心当たりはあるか?」


シエルとは、サラのことだろうとは想像がついたが、アニスはどう反応したものか悩み、動けなかった。

それを知らないと捉えたのか、アルカムは勝手に話を進めていく。


「お前達の装備に魔法付与した(やつ)は、うちの職人だったんだ。そいつはうちの仕事以外に個別に依頼を受けることがあった。その依頼主がシエルだ。どうやらお前達は知らんようだがな」

「個別の依頼なら、シエル以外からもありそうですけど?」


話せずにいるアニスの代わりにシズアが尋ねる。


「だから言っただろう?奴はうちの職人だったんだ。基本的には個別の依頼を受けたりはしない。工房を通してしか仕事を受けないんだ。だが、シエルからの依頼だけは違った」

「それには何か理由が?」


シズアの問いにアルカムが頷く。


「奴はシエルのことを好いていたんだよ。一時期は付き合ってもいたが、結局は別れた。シエルの方から別れを切り出されたそうだ。その時の奴は凄い落ち込みようで掛ける言葉もなかったな」

「別れたのに、付き合いは続いたってこと?」


今度は、アニスの方が質問を投げる。

アルカムは職人の名前を伏せているためか、饒舌(じょうぜつ)だ。

アニスにはそれがゼペックのことだと分かっていた上に、これまで聞いたことのない話で興味深々(しんしん)だった。


それに、サラを揶揄(からか)うネタにもなりそうだ。

アルカムの話がどこまで真実を突いているかは不明ではあれ、聞けることは全部聞いてしまいたい。


そんなアニスの思惑を知らないアルカムは、昔を思い出すような表情をみせながら口を開く。


「そうなんだよな。後腐れなく、すっぱりきっぱり別れちまえば良かったようにも思えるが、奴はその道は選ばなかった。何でもあの女(シエル)は、とある組織の一員で、それがために普通の家庭を築くことが叶わないから身を引きたいと考えたらしい」


まあ、シエルと言うかサラは魔女だから、普通の家庭は望めないだろう。


「そして奴はそんな彼女を助け続けたいと申し出て、特別な友人としての付き合いを続けることにした」


アルカムはそこで一旦話を切り、アニス達の方に目を向ける。


「だから奴はシエルの依頼だけは個人的に受けていたんだ。それはうちの工房が、シエルの所属する組織と関係を持たないようにとの配慮もあった。そうした依頼の時は、奴は工房の印は絶対に使わなかったからな」


個人的な依頼を受ける際、工房の印の代わりに使ったのがゼペックの印と言うことらしい。


「その組織と関係があると不味いってこと?」

「いや、そう言う話じゃなくて、その組織は偉く閉鎖的なんだ。組織の中では付与魔法の研究もやっているが、研究で得られた知見も門外不出になっている。だが、奴は外に漏らさないことを条件に、シエルを通じて特別に知らされていた」


「シエルの元恋人ってだけで?」

「いや、奴ほどの腕を持つ者が、組織の中にいなかったからだな。その腕を見込まれて、手伝いを頼まれていたわけだ」


「ふーん。でも、そんな閉鎖的な組織だったら、私達が頼んでも、魔具を作ってくれるか分からないよね」


アニスはアルカムからの情報を踏まえて発言したつもりだったのだが、逆にアルカムに怪訝(けげん)な顔をされた。


「お前達は推進板なんかを出して貰っているんだろう?それらだって普通には手に入らないんだぞ。だから、お前達なら攻撃魔具無効化の魔具だって作って貰えると思うんだがな」

「それはどうかなぁ」


もしかしたらアルカムの言う通りかも知れない。

魔女の里にある学究の楽園に行けば、作り方が分かる可能性がある。

だが、できればそれには頼りたくない。


「アルカムのところでは作れないの?」

「作れなくはないが、あれは調整に時間が掛かる。それにその調整のために、使用者に工房へ来て貰わないといけないんだが、神殿はそれはできないと言うんでな。まぁ、それでも奴がいれば何とかなったかも知れないが」


「今はこの工房には、いないんだよね?」


言葉尻を濁したアルカムの言葉をアニスが補足すると、アルカムがこくんと頷いた。


「あぁ、奴はもういない。ここを辞めたあと、故郷に帰って暫くして、この世を去ったと話を聞いた。惜しい話だ。奴は(きわ)めて優秀だったからな。せめて弟子を取ってくれれば良かったんだが、奴のお眼鏡に(かな)う者は出てこなかった。ん?」


そこでアルカムが首を捻る。


「そう言えばお前達、冒険者になったのは何時(いつ)頃だ?」


「半年と少し前になるけど」


アニスの答えを聞いたアルカムが、腕組みをしてアニス達の顔から少し下に目線を向ける。


「そうだよな。装備もそれほど草臥(くたび)れてないし、そもそも素材に劣化(れっか)も見られない。最近に作られた物だ」


そこで再びアニスの顔を見るアルカム。


「じゃあ、どうしてお前達の装備に奴の印が付いてるんだ?推進板は作り置きしていたとも考えられたが、その装備は違うよな?奴はまだ死んでいないのか?」


アルカムの疑問に、アニスが首を横に振って答える。


「ゼペック爺は二年前に亡くなってるよ」

「だな。と、(わし)、奴の名前を言ったか?」


「言ってないけど、付与魔法に付いてる印はゼペック爺の物だから」

「そうか、知っていたのか。なら、奴の印がお前達の装備に付いている理由も知ってるんだな?」


「そだね。結構、単純な話だよ」


アニスは収納サックから金属製のジョッキと小さな魔石を一つ取り出した。


そして右手で小さな付与魔法の紋様を描き、左手で魔石にそっと魔力を流し込んで流動性のある平衡状態にしてから描いた紋様へと流し込む。

さらにその紋様をジョッキの内側、丁度(ちょうど)把手(とって)の付け根の裏側部分に押し当ててから魔力を抜いて定着させる。


「はい、これ」


アニスは出来たばかりのジョッキ型の魔具を、アルカムへと差し出す。


「ゼペック爺がね、言ってたんだ。『アークの奴は魔法で出した物だろうが何だろうが強い酒が大の好物で、すぐ飲みすぎちまう。だから、こいつを作る時は普通より早く紋様が消えるように細工をしているんだ』って。これも同じように細工しといたから」

「あ、ああ」


アルカムは把手(とって)を握ってジョッキを受け取ると、それを手元に引き寄せた。

その状態で把手に魔力を流し込むと、魔法の紋様の部分から出た酒でジョッキが満たされていくのが見える。


ジョッキが溢れる前に魔力を止め、溜まった酒をぐびぐびと飲んだ。


「あぁ、懐かしい味だ」


感慨深げにアルカムがジョッキを机の上に置いたところに、アニスが一通の封筒を差し出した。


「これ、マルコからの追伸」


アルカムは黙って封筒を受け取り、紙を取り出して中身に目を通す。


『こいつは本物だ、ワシが保証する。ゼペックの頼みでワシがこいつの面倒を見ることになった。最悪だ』


「私への苦情は全部マルコによろしくね」


呆然(ぼうぜん)としているアルカムに、アニスは笑ってみせた。


ゼペックは自分の色恋沙汰を幼いアニスには話さなかったようです。




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