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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-18. アニスとシズアは南の森の奥にある家を訪問したい





アニス達は、二輪車で王都の南の森に向かっていた。

目指しているのはプラムの家。


マルコから、プラムを預かるのは良いがプラムの両親と一度話がしたいと言われ、プラムを送り届けると共に、それを伝えに行くのだ。


シズアは後ろにプラムを乗せ、アニスはサラと。

前に座っているのはサラの方。

宿での朝食の時、アニスがプラムの家に行くつもりと話したところ、二輪車で行くなら運転してみたいとサラが言い出したから。


サラは二輪車に乗るのは初めてと言っていたが、すぐにコツを飲み込み、アニスを後ろに乗せて走れるようになった。


「これで、あの双子にでかい顔をされずに済む」


街道を走り出してから(しばら)()った後、鼻歌まじりにサラが口にした言葉だ。

どうやら、パルナムにいるキョーカとスイが、サラに二輪車を乗り回していることを自慢していたらしい。


魔女達が二輪車のことで張り合うなんてと思わないでもないアニスだったが、そうしたやり取りを楽しんでいるのなら、水を差すのは野暮(やぼ)と言うもの。


ただ気になる一点は(くぎ)を刺しておきたい。


「速さを競おうとしないでよ」

「そんなこと分かっておる。ただの少女相手に勝負を(いど)んだりせんわ」


「そうそう、そうしておいて」


今、シズアはサラの後に大人しく付いてきている。このままなら、問題ない。

下手にサラがシズアに勝負を持ち掛けたら、どうなってしまうか分からず、心配で仕方がない。


正直、シズアとサラとどちらが速く走れるかは分からないが、問題はそこではない。

競い合って速度を上げた結果、事故に至らないとも限らない。

アニスはそれが心配なのだ。


サラが分別のある大人として振る舞ってくれていれば問題はないだろう。


「だが、もう少し速くするのは構わんよな」


アニスが返事をする間もなく、サラは二輪車の速度を上げる。

急に距離を開けられたシズアだったが、直ぐに挽回してサラの後ろに付けた。


街道とは言え路面は真っ平らではなく、(わだち)などで凸凹(でこぼこ)している。

馬車より少し速い程度ならともかく、それ以上となるとそうした凸凹に車輪を取られて運転が難しくなってしまう。


「ねぇサラ、あまり速くしないでくれると嬉しいんだけど」


アニスか後ろから声を掛けた。


「どうした?酔ったか?」

「そんなことはないんだけど、シズが心配なんだよ」


「シズアか?まったく危なげなく運転しているように見えるがな。この二輪車の性能もあるだろうが、この程度の速度なら問題なかろうて」

「そなの?二輪車のことは良く分からないんだよね」


二輪車を作っている時、ヴィクトルの工房でシズアが盛んに話し合っていたのは見ていたが、話の中身は理解できていないアニス。


「例えばだが、取り付けられている車輪は硬い木ではなく、弾力性のある素材で作られているよな?それに加え、街なかで走っている(まが)い物より車輪が太くしてある。さらに車輪の取付部に仕込まれている緩衝バネ(サスペンション)が良い具合に路面の変化を吸収してくれている。お主だって運転し易いとは思うだろう?」

「うーん、私はあまり運転上手(うま)くないから」


「そうか?乗り比べればすぐに分かると思うんだがな。ともあれ、こいつは悪路を走ることを前提に作られておるから、街道で多少速度を出しても問題にはならんさ」

「そか」


サラの話で少し安心したアニス。

言われてみれば、路面の凸凹(でこぼこ)ほど二輪車の座面は上下していない。

それが走り易さに繋がっているのはなりよりだが、それでも速度を上げると乗り心地は悪くなるし、そこまで急がなくてもとも考えてしまう。


と、南の森が見えて来た。

そこに着いてしまえば後は歩きだから気楽だ。

そうしたアニスの期待を後押しするように、サラが速度を緩めていく。


ところが、その横にシズアの二輪車が並んだ。


「森の中の道はプラムちゃんが知ってるから、ここからは私達が先に行くわね」

「ウチらに付いて来てねー」


言いたいことだけ言ってシズアは二輪車を前に出し、プラムは片手でシズアに掴まりながら後ろ向きに手を振って来た。

そして、そのまま森の中へと突入していく。


「あー」


アニスにできたのは(うめ)くことだけ。


「おいコラ、アニス。どうした?まったく、この世の終わりが来たかのような声を上げおって。前の二人を見てみろ、楽しそうにしておるだろう?」


サラが話している間に、二人の二輪車も森の中へと入った。

街道のような整備が行き届いていない上に、木の根なども張り出していて、それまで以上に上下動が激しくなる。


だが、確かに前の二人は楽しそうだ。

プラムなんかは、二輪車が跳ねるたびにキャッキャと声を上げていた。


「心配し過ぎってこと?」

「そうさな。いつ何が起きるか分からんと、お主が心配する気持ちも理解はできるが、かと言って押さえつけ過ぎると、鬱憤(うっぷん)()まり、いつ爆発するとも限らん。(ゆえ)にある程度は自由にさせつつ、本当に危険な時は止めさせるなり全力で手助けするなりの減り張り(めりはり)を利かせるのが良かろうて。まあ、シズアは無茶をしそうではあるから、お主がきっちり見ていてくれると我としては助かるのだがな」


「どゆこと?」


アニスには、サラが何を気にしているのかが分からない。


「あぁすまん、こっちの話だ。ただ、できればあ奴には宵闇(よいやみ)には関わらせたくはなかったな」

「でも、キョーカ達から宵闇への繋ぎの取り方を聞き出したのはシズアだよ?」


「それは聞いておる。だからお主にはあ奴の(そば)にいて、あ奴を守ってくれと願いたい」

「ん?シズを守るのを手伝って欲しいって頼んだのは私の方だったと思うんだけど?」


迷いの森の手前にある草原でサラが魔女だと知った時のことだ。


「確かにそうだったな。勿論(もちろん)、あの約束を(たが)えることは無い。お主だけでどうにもならん時は、迷わず我を呼べ」

「うん。ありがと、サラ」


そんな話をしている間にも、一行は南の森の奥へと進んでいく。


(しばらく)くすると、右手に大きな池が見えてきた。

その先は、また周囲が樹木だけになるが、ある程度進んだところで森が切れ、開けた土地に出る。


土地の一部には、野菜が整然と育っているところ、つまり畑があり、畑の向こうには丸太作りの家。


シズアとサラが家の前で二輪車を停めると、家の扉から女性が一人現れた。


短髪だが、色はプラムと同じ濃い緑。その髪の中から二つの角が生えている。

プラムに似た顔かたちから説明されなくてもプラムの母親であると知れた。


「おかん、ただいまっ」


二輪車の後部座席から降りたプラムが女性に駆け寄る。


「お帰り、プラム。良い子にしておったん?」

「ウチ、(ねえ)ちゃん達の言うこと、ちゃんと聞いとったよ」


「そか、そならええ」


プラムに話し掛けていた女性は、そこで顔を上げ、アニス達の方に目を向けた。


「プラムの母のライム言います。プラムのこと、面倒見ていただいてありがとうございます」

「初めまして、シズアです。プラムちゃんのお母さんも虎縞(とらじま)の服が似合いそう」


浮かれたように挨拶するシズア。


「はい?虎縞?」

「あっ、気にしないでください。シズ、いえ、妹は虎縞がお気に入りみたいで」


首を(かし)げるライムに対して、アニスが一所懸命言い訳をする。


「は、はぁ」


ライムは要領を得ず、戸惑いの色を隠せない。

そんなライムにプラムが話し掛けた。


「ねぇ、おかん。おとんは?」

「あの人は、あっちの森やけど」


ライムは、アニス達が通って来たのとは別の方向にある森を指差してみせる。


「そろそろ姿が見えそうやね」


アニス達にもライムの言いたいことが理解できた。

風の探索魔法(ウィンドサーチ)が、こちらに向かっている物があると知らせて来ているのだ。


それから間もなく、森の中からトラジの姿が現れた。


「うわぁー」


トラジは叫び声を上げながら、走っている。

一人で走っているのではない。その後ろにもう一つ。


バウッ。


「アッシュ!」


トラジの後ろに付いていたアッシュだが、アニスの声を聞くと向きを変え、アニスの(もと)へとやってきた。


「そか、やっぱりあんた達の魔獣だったんやね」

「おとんは、アッシュのこと知ってたと思うんやけど」


「あの人は、区別が付かん言うてたんや。でも、何となくあの人の犬嫌いを直すのを手伝ってくれそうな気がしてな、その魔獣に慣れるまで帰るなって家から追い出したん」

「おかん、すご」


事の経緯を聞いたプラムが絶句する。


「それって、もしかして一昨日のことじゃ?」

「そや。あれから一度も家の敷居(しきい)(また)がせておらん」


恐る恐る尋ねるアニスに、事も無げに返事をするライム。


「そうか、あんたアッシュ言うんか。悪いけど、あの人のこと、もう少し面倒見てや」


バウッ。


アッシュは元気よく返事をすると、再びトラジの方へと駆けて行く。

それを見たトラジが叫び声を上げながら逃げ出す。


「いい加減、あの人も腹据(はらす)えて向き合えば良いのにな。まったく意気地の無い」

「慣れるまであのまんま?」


「そや、中途半端に止めたらやらなかったのと同じやからな。こういうのは徹底してやらんと。結果を出すまでは家に入れん」


鬼だ。

いや、鬼人族だから鬼なのだが、そういう意味ではない。

あ、待った。鬼人族がそういう性格だから、似たようなことをする人を鬼と呼ぶようになったのか?なら、鬼人族だから鬼なのは当たり前?


頭の中がこんぐらかってしまうアニスだが、トラジが街に行けるようになるにはまだまだ時間が掛かりそうだと言う点だけはハッキリしていた。


アニス達と別れたアッシュの行き先は、まあご想像の通りかなと思います。


あと、シズアを守る手伝いをアニスがサラに依頼したの話は2-14.のことですが、覚えてますか?


そんなこんなで二週間のご無沙汰でした。

二週間あったのに、何でこんな時間かと言えば、二週間あってもギリギリになってしまう法則が働いているからですね。


お休みいただいている間に読み直して、7-4.を修正しました。魔力の色の件は、前話(7-17.)が正しいためです。


で、お休みをいただいたものの、今後もプライベートが落ち着かず不安定な状況は続きます。以前からお伝えしている通り、投稿できない時は活動報告に書きますので、あれ?と思われた時は活動報告を見ていただけますでしょうか。


では、引き続きアニスとシズアをよろしくお願いいたします。

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