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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-14. アニスとシズアはお願いを持ち掛けられる

「それでは我々はここで失礼しようと思う」


王都の城門を入ったところでラウラが切り出してきた。


「うん、今日はありがとう」


アニスは手を挙げて、別れの意思を示す。

冒険者仲間のように接してくれているとはいえ、相手はこの国の第一王女なのだ。

忙しいだろうことは容易に想像がつくので、引き止めはしない。


「では、また。何か分かったら連絡する」

「え、あ、うん。よろしく」


プラムの事があって、ラウラに調べ物を頼んでいたことを忘れていた。


アニスとシズアにプラムの三人は、去っていくラウラとトニーを手を振りながら見送る。

プラムの父親トラジはいない。


森の中でアッシュを見て逃げ出したトラジだが、アニスが追い掛けて捕まえはした。

しかし、街中にも犬がいるかも知れないからと同行を嫌がったので、今日のところはと置いてきた。


こんなことではプラムを王都の誰かに預けてもトラジが会いに行けないので、いずれ何か考えなければならない。が、ともかく、プラムのことが決まらなければ始まらない。

なので、プラムを街に連れて行くことの了解だけを取りつけて別れてきた。


そうしてトラジが欠けたお蔭で、移動は楽になった。

二輪車は二台しかなく、四人しか乗れないからだ。

プラムは宙に浮いているのは魔力的に問題なさそうだったので、宙に浮いた状態でシズアの二輪車から伸ばした縄に捕まってもらい、シズアの二輪車で引っ張っていった。


アッシュは森にいたいと望んだので、森の入口で別れている。


「さて、まずは冒険者ギルドに行く?」

「そうね。依頼のことを終わらせてしまわないとね。その後、商業ギルドに行くわよ」


商業ギルド?

何かしないといけないことがあったっけと、アニスは首を傾げる。


だがその疑問は、冒険者ギルドを経て、商業ギルドの受付に到着したところで解消した。


「商会の住所を知りたいのですけど」


シズアが商業ギルドの受付嬢に要件を告げる。


「どちらの商会になりますか?」

「エバンス商会。王都にあるお店の方を」


エバンス商会とは聞いたことがある名前だ。

アニスは記憶を探り、それが誰の商会なのかを思い出した。

なるほど、確かに知り合いだ。


「でも、王都にいるかな?」

「祭りで人が集まる時期だから、いそうに思うけど、そればかりは行ってみないと分からないわね」


受付嬢から答えを聞いたアニス達は、商業ギルドを出て二輪車で教えて貰った場所へと向かう。

アニスが前に座ってハンドルを握り、シズアは後ろ。プラムはシズアの背中にしがみついている。


いつもならハンドルを握りたがるシズアだが、プラムにひっつかれるという役得を(のが)(はず)がなく、積極的にアニスに前を譲ってきた。


目的とする商会は王都の中でも西の側。

ザイナッハに向かう船が西の川岸から出ているからだろうか。


アニスが二輪車を店の前に着けると、シズア達は二輪車を仕舞っているアニスを待つことなく店の中へと入っていった。


「あの、商会長はいますか?」


シズアがその場にいた男性店員に話し掛ける。


「はい。失礼ですが、どちら様でしょうか?面会のお約束はされていますか?」

「いえ、急に来たので。ザイアス領コッペル村のアニスとシズアが来たと伝えて貰えますか?」


「確認しますので、少しお待ちいただけますか?」


店員が奥に引っ込んだところで、アニスが店に入ってきた。


「シズ、どうだった?いた?」

「分からない。今、確かめて貰ってる」


「ふーん、あぁ、来たみたい」


アニスの言葉が店員が一人で戻ってきたのか、商会長を連れて来たのかどちらの意味かは不明だ。

しかし、それを尋ねるより前に店員と、続いて男性がもう一人出てきた。


「やぁ、こんなところで会うとは奇遇だね」

「お祭りがあると聞いて来たの。モーリスがいるか心配だったのだけれど」


もう一人の人物は、エバンス商会の会長であるモーリス。

彼はシズア達二人の母サマンサの弟にあたる。つまりは叔父だ。

以前、ザイナッハで家に泊めて貰ったが、王都にも店を構えていると聞いたことがあり、(たず)ねてみたのだ。


「確かにあちこち動き回っているから、ここにいるのは珍しいかな。それで、僕に何か用かい?そちらの可愛らしいお嬢さんは?」


モーリスの視線が、シズアと手を繋いでいる鬼人族の少女を捉えた。


「この子はプラムちゃん。両親と一緒に南の森の奥に住んでいるの。それでこの子のことで相談があって」

「相談?まぁ、ともかく中に行こうか。僕も君達とは話したかったし」


アニス達はモーリスに案内され、店の奥の応接間に入った。

丁度三人掛けのソファがあり、プラムを間に挟む形で並んで座る。


「ここまで良く来たね。君達に会ったのはザイナッハ以来かな?」


三人の向いに座ったモーリスが口を開いた。


「そだね。あれからパルナムを通って、火の山まで行ってきたよ」


アニスが応じる。


「火の山からは真っ直ぐここに?」

「そそ、数日前にね。それで今日、プラムちゃんに会った」


「それで何か問題が起きたのかい?」


モーリスの問いにアニスの目がこちらを向いたのを見て、シズアは話を引き継ぐことにした。


「プラムちゃんは七歳になったから学校に行きたいのだけど、できれば宿舎ではなくて通いにしたいらしくて」

「王都の中で両親と住む家を探したいと?」


「それが両親は森から出るつもりはなさそうで」

「となると、この子を預かってくれる家を探したいんだ」


「えぇ、そうなるわね」


用件を聞いたモーリスがどう反応するのか、不安そうな表情で見詰めるシズア。


「親類縁者(えんじゃ)ならともかく、まったく関係のない子を預かってくれるところとなると難しいかも知れないなぁ」


モーリスは(あご)(さす)りながら、勿体(もったい)ぶった物言(ものい)いをする。


「まぁ、難しいとは思っていたわ」


シズアは落胆の色を見せた。


「いや、結論を出すにはまだ早い。ただまず聞きたいんだが、君達がその子のために行動しているのはどうしてだい?何か特別な理由があってのこと?」

「ちょっとした成り行きね。でも、学校に行きたいって子がいたら、行かせてあげたいとは思わない?」


「その気持ちは分かるけどね。ただ、誰かに何かを願う時には、その代償が求められるものだとは思わないか?」

「モーリスにも代償が必要?」


叔父の発言からすればそう考えられるが、改めて尋ねる。


「そうだな。今回はちょっとした情報しか渡せそうにないから、僕からもささやかなお願いをさせて貰おうかな?」

「ささやかなお願いって、何?」


どんな要求が飛び出してくるのか分からずに怖いが、聞くだけ聞いてから、応じられるか考えれば良い。


「実は君達に聞きたいことは色々あるんだけどね。どうして南の公爵様の後見を得たのかとか、パルナムの貧民街にある商会をどうやって傘下におさめたのかとか。そう言えば、ダリアの商会も傘下に入ったらしいね。先日連絡が来たよ。君達の商会の傘下に入ったので、勝負から降りるって」

「そんなことがあったの」


勝負を仕掛けたのはダリアだったから連絡するのは当然とは言え、その話はダリアから聞いていなかった。

シズアに(うなず)いてから、モーリスは先を続ける。


「推進板のことも調べたよ。あれの魔法の紋様は複製できていないが、分かったこともある。あの紋様にはゼペックの印があった。ゼペックは以前はこの王都の魔具工房で働いていた職人だ。年を取って引退したらしい。そんなゼペックの印の入った魔具を何故君達が持っていたのか?多分、彼の弟子がいるんだろう」


そこでモーリスは言葉を切って、アニスとシズアを交互に見た。

モーリス相手に下手な反応をすれば勘づかれる恐れもあり、アニス達は二人ともじっとモーリスを見続けた。


「あれは賢者様に貰ったものだよ」


視線に耐えかねたアニスが、これまで言ってきたことを繰り返す。


「ザナウスの賢者のことだろう?あの賢者は気まぐれで、なかなか会えない。商人は特にな。だが、君達は商会を立ち上げても会って貰えているみたいで羨ましい限りだし、その理由も気になる。だがそれらの疑問はすべて君達の商売に関係しているし、商売の秘密を明かしてくれと頼むのは僕の自尊心(プライド)が許さない」


そこでモーリスは目尻を下げて微笑んだ。


「でも君達は面白い。この王都でも何かやってくれそうな気がする。だからもし王都でやろうと思ったことがあれば、僕も一枚()ませて欲しい。例えば物資が入用(いりよう)になった時に声を掛けてくれる、とかね。どうだろうか?」


モーリスの申し出は、悪い話には聞こえなかった。

二人は一度顔を見合わせたが、どちらも同じ気持ちであると分かるとモーリスに(うなず)き返す。


「分かったわ。何か欲しいものができたら相談させて貰う。それで良い?」

「ああ、十分だ。じゃあ、僕のちょっとした情報を渡そうか」


二人はモーリスから話を聞き、さらに近況について軽く話をした。


それほど長居をした訳でもなかったが、話を終えてモーリスの店を出る頃には、空は暗くなっていた。

街中には明かりがあったし、風の探索魔法(ウィンドサーチ)を使っていたので、二輪車の運転には支障がなかったものの、プラムを遅くまで連れ回すのはよろしくないと宿に急いで戻る。


宿も丁度夕飯(どき)で、表の扉から食堂に入ると、どのテーブルも人で埋まっていた。

ただ、一つのテーブルだけ一人しか座っておらず、その一人がアニス達に手を振っている。


「サラ!」


アニスが自分より背丈の低いツインテールの女冒険者に気付いて近寄っていく。


「アニス、久しぶりだな。元気だったか?」

「うん。サラもお祭りを見に来たの?」


「まあ、そんなところだが、こんな物を貰ってな」


サラは収納袋から何かを取り出し、アニスの目の前に掲げてみせる。


それはアニス達が朝市で手に入れ、冒険者ギルドに差し入れた蜜柑(みかん)のうちの一つだった。


モーリスが最後に出てきたのは、第三章の最後の3-19.でしたよね。随分と久々の登場です。


さて、ここまでは順調に更新できましたが、この先はどうでしょうか。


この後の展開もですが、いつも通りに更新できるかも気になりますね。

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