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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-11. アニスとシズアは調査に向かいたい

二輪車が二台、街道を走っていく。


それぞれに二人ずつ、つまり全部で四人。

運転しているのはアニスとシズア。

アニスの後部座席にいるのはトニーで、シズアの後はラウラだ。


ラウラ達は結局、食事後もアニス達の調査に付き合いたいと言って来た。

まだ話し()りないらしい。


アニス達を引き留めるより、アニス達の仕事を手伝いながら話をしたいとラウラに言われた時、もしかしたら気分転換がしたいのではないかと考えたアニスは、難色を示すこともせずに、その申し出を受け入れた。


移動手段は当初の予定通り二輪車。移動時間を考えるとそれが一番。

アニスとシズア、それぞれ一台ずつ持っているので四人で移動するにも問題はない。

ただ、(くみ)分けには少しの葛藤(かっとう)があった。


できればアニスはシズアと一緒に乗りたかったのだが、ラウラもトニーも二輪車に乗ったことは無く、加えてトニーがラウラと密着するのは畏れ多すぎると辞退したので、残念ながらその案は消えた。


では、シズアと一緒に乗って貰うのはラウラかトニーか。

男性のトニーは無いなと思い、ラウラを選んだ。

必然的にアニスの後ろはトニー。


そうして一行は二輪車で移動を開始。

街中を抜けて王都の外に出た後は、二輪車の後を追うグレーウルフの姿が加わる。

勿論(もちろん)、二台が魔獣に(おそ)われているのではなく、アニスが召喚した契約魔獣のアッシュだ。


アッシュはアニスの言うことをよく聞く賢い魔獣。

人を襲うことは無い。

とは言え、外見は魔獣そのものなので、先頭を走らせられない。

シズアも自由にさせると速度をガンガン上げてしまう。


なのでアニスの二輪車が先頭に立ち、シズアの二輪車とアッシュは、状況に合わせてアニスの横に並んだり、後ろに付いたりしながら進んで貰った。


そして王都を出てから一時間と数十分。

道中で厄介事が起きることも無く、すんなりと調査対象の南の森に到着した。


「いやぁ、前から便利そうだとは思っていたが、本当に良いな、この二輪車は」


実感が十分に(こも)った感想を口にしつつ、ラウラが後部座席から腰を下ろす。


「欲しいとか言わないよね」


二輪車を仕舞いながら、警戒した表情でラウラの様子を伺うアニス。


「これを体感しながら欲しがらない奴がいると思うのか?」

「でも、売り物じゃないんだよね」


問い返された内容に否定の言葉が見付けられず、仕方なく別の言い訳を引っ張り出してみる。


「そうらしいな。理由もなく無理に売って貰うと、真似(まね)する(やから)が現れんとも限らないから止めておこうと思うが、かと言って(あきら)めるには惜しいのだよな」


腕組みをして考え込むラウラ。


王族なのだから、その気になれば献上(けんじょう)を求めることもできるのに、そうはしないでこちらの都合を考えてくれる。

ラウラのそうした姿勢が好ましい。


少しは妥協しても良いのでは、と思う気持ちがアニスの心の中にむくむくと湧いてきた。


「ねぇ、ラウラは二輪車を何に使いたいの?ラウラなら、馬車とか馬とか使いたい放題だよね?」

「それはそうなんだが、馬車にしろ馬にしろ準備が必要だろう?二輪車は収納袋から取り出すだけで良いからな。だから、例えば護衛を振り切って城から抜け出すのに重宝すると思うんだ」


「えっ、何?そんなことに使うつもりだったの?ラウラの逃亡を手助けしたとか、罪にならない?」

「そんなことで罪には問われん。それにしても逃亡って何だ?人聞きの悪いことを言うな。お忍びで人々の生活への理解を深めているんだぞ」


と、そこでラウラは森の方へ身体を向ける。


「まあ、それはともかく、調査に向かわないか?二輪車は欲しいが、今ここで時間を使うほどの話ではないからな。それに、お前達と話したいことは他にもあるんだ。しかし、まずは森へ入ろう。話は歩きながらで良い」

「そだね」


もともと調査のためにここに来たのだ。アニス達に異論はない。


話の流れから、ラウラを先頭に森へと入る。

アニス、シズア、トニーの順で後に続いた。

アッシュは、単独で先に行ってしまった。森の中だから自由にさせても問題はないが、調査対象の魔獣と勘違いされるのを避けるため、他の冒険者に不用意に近付かないように言い聞かせてある。


と言うのも、この森の中で大型の魔獣が目撃されたとの話があり、その事実関係の調査が依頼なのだ。

アッシュがその魔獣と思われると混乱を招くので、それは避けなければならない。


その目撃証言だが、実際に人が襲われたことはなく、何か姿が見えたかと思うと直ぐに消え、見失ってしまうのだそうだ。

だから危険性は低いと考えられるのだが、怖がっている人もいるので調べて欲しいとのことだった。


この森には普段は危険な魔獣はおらず、近くにある村の住民たちの憩いの場としても使われているらしい。

確かに、長閑(のどか)な雰囲気が漂っているような気がする。


「さっき、他に話したいことがあるって言ってたよね」


森の中を(しばら)く進んだところでアニスはラウラに問い掛けた。

(あゆ)みは止めず、話しながらも風の探知魔法(ウィンドサーチ)と魔女の力の眼の両方を使い、周囲への警戒も(おこた)っていない。


「え?あぁ、リリエラのことを聞きたくてな。お前達、リリエラに会ったのだろう?」

「会ったけど、良く知ってるね。クラインから聞いたの?」


「いや、神殿の連中は私に直接接触(せっしょく)したりはしないさ。特に神官長派は王族の後継者争いに巻き込まれるのを恐れているからな。その割にはお前達の後ろにクロードがいると知ると、リリエラとの面会に許可を出した。まったく都合が良い話だ」


クロードとは、南の公都パルナムを中心とした領地を治めるファランツェ公爵、クロード・デル・ウォーレンのことだ。

パルナムに滞在中、とある出来事をきっかけにアニス達の商会を後見して貰うことになった。


南の公爵が第一王女派なのは(みんな)が良く知っていることなので、アニス達も第一王女派の一部だと捉えられたのだろう。だからクラインはアニス達にリリエラとの面会を許可したのだと思われるが、それがラウラには気に入らないらしい。


「でも、南の公爵様のことが無かったら、リリエラには会えなかったんだから良いんじゃない?」

「それはそうなんだがな。まぁ、良い。それで、リリエラは元気な様子だったか?」


「元気だったよ。困りごとはあるみたいだったけど、ってラウラはリリエラのことを知ってるの?」

「パルナムにいた頃、同じ神殿学校に通っていたんだぞ。と言っても、私が入学する直前にリリエラは卒業してたから、知り合ったのはティファを(かい)してのことだ。ティファはリリエラと仲が良かったし、リリエラのことを心配して私に様子を確認できないかと相談したりもしてきていてな」


なるほど、それでラウラはリリエラのことを気にしているのだとアニスは納得した。

ティファとは、クロードの娘のティファーニアのことで、今はザナウス神の巫女として南の公都の神殿で暮らしている。


そう言えば、ティファーニアから頼まれたリリエラへの渡し物もあるのだが、リリエラの周囲がざわついているこの状況の中で渡してしまって良いものかの判断が付かず、まだ渡せていない。


それはそれとして、今のラウラの一言で分かったことがある。


「リリエラって若く見えるけど、ラウラよりも五つも年上(としうえ)なんだ」

「そうだな。私の誕生月がバカント(11月)で、リリエラは確かスキレス(5月)だったから、正確には四つと半分だがな」


「そか、やっぱり立派なオバさんだったんだ。ん?ラウラ、今月誕生日なの?」

「8日だから、もう過ぎたがな」


「あー、私達が試練の道に行ってた時かぁ。ラウラのより一層のオバさん化をお祝いしたかったのに」

「そうなのか?だったら来年は呼んでやろう。貴族達が集まる堅苦しいパーティーで良ければだが」


貴族達の堅苦しいパーティー。そう聞いただけで自分の居場所が無さそうに思えたアニスは思いきり首を横に振る。


「ごめん、止めとく。私はシズと陰ながらお祝いするよ」

「そうか、それは残念だな」


口では惜しそうに言いながらも、アニスの反応を楽しんでいるのか、ラウラの眼は笑っていた。


「それで話をリリエラに戻したいのだが、リリエラの困りごととは呪いのことか?」

「ティファーニアから聞いたの?」


「あぁ。ただ、詳しいことは教えて貰えていないがな」


返事を聞いてアニスは考える。

ティファーニアが呪いの詳細を教えなかったのは、ラウラに頼る気がなかったからだろう。

ザナウス神でも解呪できなかったことを考えれば、アニスも同意見だ。


「呪いのことは、そこまで困っていないと思う。それとは別に、ラウラが知ってたら教えて欲しいことがあるんだけど」

「何だ?」


「今度、祭りの時にやる予定の儀式が狙われてるって話があって、神殿の貴族派に繋がってる貴族達に変な動きがないかどうかを。リリエラが気にしてたから」

「貴族のことなら、確かにこちらの領分だな。分かった、調べておこう。ところでアニス」


「ん?何?」

「さっきから分かれ道で迷いなく行く先を選んでいるが、この先に何かあるのか?」


そろそろ指摘を受けるだろうとは思っていた。


「あ、いや、何となく決めてるだけだよ」


嘘である。

魔女の力の眼では存在を捉えられているのに、風の探索魔法(ウィンドサーチ)では捉えられないものがあることに先程気付き、そちらの方に向かっているのだ。

でも、魔女の力のことは言えないため、「何となく」で誤魔化すしかない。


「まぁ、お前の勘なら何か見付けそうだしな」

「あはは。期待してて」


内心では冷や汗を掻きながら、ラウラに笑顔を向けるアニス。


このまま真っ直ぐ向かうかどうしようか、悩みが深くなっていた。


アニスとしては会話しながら何となく誘導することで誤魔化したかったようですが、ラウラ相手では無理でしたね。


ところで、この後しばらく公私ともに忙しくなり、これまでの投稿間隔を守るのが厳しくなりそうです。

その場合にはなるべく活動報告に書きますので、あれ?と思われた場合には活動報告をご覧いただけますでしょうか。

申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。

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