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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-9. アニスとシズアは接触を試みたい

「ねぇシズ、本当にやるの?」


キョーカ達との話を終えた後、アニスとシズアは朝市(あさいち)に来た。

そこで買い物をした二人は、そろそろ次の目的地へ向かおうかと通りに向けて歩いているところだ。

アニスは朝市で買い込んだ、蜜柑(みかん)が口まで一杯に詰め込まれた袋を大事そうに手で抱えていた。


「今更何を言っているのよ。あのロリ小母さん(リリエラ)から依頼を受けたのはアニーよね?依頼をこなすには情報が必要よ」

「確かにそだけどね」


アニスはまだ踏ん切りがつかないでいた。

リリエラの依頼とシズアの安全とを天秤にかけると、やっぱりシズアの方かなと思えてしまうのである。


だが当のシズアは話を進めたがっているように見える。

スイから魔導国のことを調べている人達との接触方法を聞き出したのもシズアだ。

シズアがやりたいことならアニスとしては精一杯応手伝わないといけない訳で、シズアの安全確保とどう両立できるのかが悩ましいところではある。


と、アニスのお腹がグゥと鳴った。


「ねぇ、お昼はどーしよか?」


思い悩んでも解決しそうもなく、取り敢えずシズアの安全に最大限に配慮しながら調査を進めることとして、後はお腹の虫に忠実になろうかと考えたアニス。


「まだ少し早いし、冒険者ギルドで用事を済ませてからにしない?」

「おけ」


それほど時間が掛かる用事ではないだろうから、シズアの好きにさせよう。もう(しばら)くなら我慢できる。


少しして、二人は大通りに出た。

そこでシズアは収納サックから二輪車を取り出した。


「ねぇこの蜜柑(みかん)の袋、シズの収納サックに入れておいて貰っても良い?」

「ええ、勿論(もちろん)。袋の下に収納サックの口を持って行くから、そこで手を離して」

「あい」


シズアの誘導で蜜柑(みかん)の入った袋を収納サックの中へと収めると、二人は二輪車に(またが)った。

前に座ったのはシズア。

流石のシズアでも、王都の街中で無謀な運転はしない。アニスは安心して後部座席に腰掛ける。


二人はこれまで、街中では二輪車に乗らないようにしていた。

それは他に二輪車の姿がなく、どうしても目立ってしまうからだった。

だが、王都では様子が違っていた。


王都の街中では二輪車に乗っている人が、まだ少ないもののチラホラとはいるのだ。

それらの二輪車は、二人の乗っているものとまったく同じ物ではなかった。

その違いを簡単に言えば、アニスの作った風の推進魔法(エアブースト)の推進板が付いていない。


推進板の代わりの動力は様々だ。

自分で推進魔法(エアブースト)を発動している風属性の魔法使い、二輪車と同じ形をしたゴーレムに跨っている土属性の魔法使い、果ては漕ぎ板(ペダル)を取り付けて自分の足で()いでいる者。


それらを見たシズアは、二輪車自体の発明登録もしてある筈のにとブツブツ呟いていた。

どうやら二人の乗っている二輪車を商業ギルドに登録した時、シズアは推進板付きの物だけでなく、推進板の無い形の物も登録しておいたらしい。


なるほどシズアは抜け目が無いなとアニスは感心したが、となると、今この目の前の状況が説明できない。

そんな中、たまたま二人の近くで二輪車を降りた人に話を聞いたところでは、二輪車は部品で売られていたらしい。部品を買った人が自分で好きなように組み立てることになっているのだそうだ。


「やられたわね」


話を聞いた後で、シズアが言った。


「確かに完成品でなければ発明登録には引っ掛からないから、損害(そんがい)賠償(ばいしょう)を訴えるのは難しいわね。できて抗議(こうぎ)するくらい。上手(うま)くしてやられた感じがするわ」

「どーする?」


「今は何も。でも、機会があればやり返したいところだわ」


取り敢えず、その時の話はそれで終わった。


ともかくも、それから二人は街中での移動に二輪車を使うようになった。

何しろ王都は広い。

乗合馬車なども走っているが、どう考えても二輪車に乗って移動した方が楽なのだ。


朝市の会場への入口を出発したシズアは冒険者ギルドへと二輪車を走らせる。

きちんと安全運転で。

大通りは車道と歩道に分かれていて、二輪車は馬車と同じ車道を進んでいた。


馬車の速度はアニスが二輪車を走らせるよりも遅い。

それでもシズアは馬車が停まっている時に追い越すなど、無理をせずに走らせていたのでアニスは安心して運転を任せられた。


お蔭で、街の外で同じ距離を走るよりも余程(よほど)時間が掛かってしまったのだが、それでも歩くよりずっと早く、冒険者ギルドへと到着。

二人は二輪車を仕舞うと、冒険者ギルドの扉を(くぐ)る。


ギルドの中は広々としていた。

王都の中でも中心に位置しているギルド本部だから当然だ。

とは言え、冒険者達が(くつろ)ぐためのテーブルや椅子、依頼書を貼り出す掲示板や受付などは他のギルドの建物と同じように設置されている。


建物の内部を一通り眺めた二人は、掲示板の前へと移動して依頼書の確認を始めた。


「ねぇシズ、どの依頼が良いかな?簡単なのが良いよね」

「そうね。でも、どぶ掃除みたいな力仕事(ちからしごと)は嫌よ」


「うん、分かってる。ただ、なるべく簡単な物にしときたいけど。ねぇ、こっちの南の森の調査依頼とかどう?少し離れてるけど、私達ならすぐに行けるし」

「でも、魔物が見付からないと報酬が低いわね。この採取依頼も同じ森みたいだから、一緒に探してみるのはどう?」


シズアが指で示した先にアニスも視線を向ける。


「そだね。そっちのは森の中で依頼の物が見付けられてから、依頼を受けることにしよか。私達だと森の中のどこにあるのか分からないし。で、あと他には無いかな?」

「見当たらないわね」


「それじゃあ、これ持って受付に行こか?」


アニスは掲示板から調査依頼の紙を剥がし、受付に向かう。


「いらっしゃいませ。依頼をお受けになるのですか?」


アニスの手を見て用件を察した受付嬢がこにやかな笑顔を二人に向けてきた。


「はい、これをお願いします。冒険者証はこれで」


依頼書の紙と一緒に自分の冒険者証を受付カウンターの上に置く。

受付嬢は、それらを確認して依頼書に書き込みをすると、冒険者証を返してきた。


「受付しました。依頼が完了しましたら、またこちらにおいでください。以上でよろしいでしょうか?」


形式通りに対応を終え、再び笑顔を向けてくる受付嬢。


「あの、もう一つあるんですけど」

「何でしょう?」


おずおずと申し出るアニスに、受付嬢は首を傾げてみせた。


「これ、差し入れなんですけど、受け取って貰えますか?」


アニスは先程(さきほど)朝市(あさいち)で手に入れた蜜柑の袋をカウンターの上に乗せた。


「こんなにですか?」


驚き顔の受付嬢にアニスは首を縦に振る。


「皆さんで分け合って貰えれば。あと、三階の資料室の三人にも『三度もお世話になってありがとうございました。これからもまたよろしくお願いいたします』って伝えて貰えますか?」

「かしこまりました。差し入れは有難(ありがた)くいただきますね。それと、伝言は確かにお伝えします」


「はい、お願いします」


目的を果たしたアニスは、受付嬢に手を振ると身体の向きを出入口の方へと回転させた。


「アニー、上手くやったわね」

「スイの言う通りにしてみたつもりだけど、これで良いのかなぁ」


「大丈夫よ。スイに言われたのは『依頼を受けつつ果物を沢山差し入れて数字の三を三つ含めた伝言を残す』だったから、条件は満たされてるわ。後は連絡が来るのを待つだけね」


ともかく、魔導国を調べている組織に接触する方法は試してみた。

上手く行けば、向こうの方から二人に連絡が来るだろう。


でも、良く考えれば、裏でキョーカ達が連絡すれば済む話な気がする。

これって、謎の組織への接触の真似事(まねごと)をやらされただけで、実は無意味なことをやらされたのかも知れない。


スイから無理やり聞き出したシズアがどう思っているのか聞いてみたいところではあるが、アニスがキョーカ達の何を知っているのかを問われそうで踏ん切りがつかない。


そんな風に悩んでいたアニスに、前方から声を掛けてきた者がいた。


「あれ?アニスにシズアじゃないか、こんなところで出合うとは奇遇(きぐう)だな」


その人物はダークブラウンの髪を後ろにまとめた冒険者姿の女性だった。

アニス達に(さわ)やかな笑顔を見せている。


「こんなところでウロウロできるような暇人(ひまじん)じゃないよね、オバさん」


目の前にいる人物がラウラだと気付いて半眼になるアニス。ラウラの後ろには、いつもの様に金髪のトニーが控えている。


ラウラは冒険者でもあるが、それ以前にこの国の第一王女なのだ。

王都にいる彼女が忙しくないわけがない。

だから、アニス達に態々(わざわざ)会いに来たとしか思えなかった。


「私は冒険者だから、冒険者ギルドには(たま)に顔を出してるぞ。それから私はオバさんではない、お姉さんだ」


公務に飽きたラウラが時々(ときどき)城を抜け出して街中を歩いていると言うのなら、それはあるかも知れない。

それでも、ここで偶然に行き会うと言うのは出来過ぎな気がする。


「私達に何か用?」


駆け引きが面倒になったアニスは直接的な()いを投げた。


「いや、別に。でも、久し振りに会えたんだ、旧交(きゅうこう)を温めるのも悪くは無いだろう?どこかで休みながら積もる話に花でも咲かせないか?」


ラウラは二人に笑い掛けるが、その笑顔に何となくニヤニヤしたものを感じないでもない。


「私達、これから受けた依頼で南の森に行くんです」


シズアは、言外に「だから一緒に行けない」との意味を()めている。


「そうか?折角だからその依頼も一緒に行っても良いのだが、その前に食事はどうだ?昼はまだなのだろう?王都の上手い飯屋(めしや)なら色々知っているぞ?海の幸もなくはないにせよ、この辺りで獲れた川魚だって捨てた(もん)じゃない。それの飛び切り美味(うま)い店を知っているんだが食べてみたくはないか?」

「行きます」


即答(そくとう)するシズア。


シズアの魚好きは、パルナムで何度か一緒に食べていることからラウラも良く知っているのだ。

そのラウラの策略にまんまとシズアが引っ掛かってしまった。


まぁ、美味しい物が食べられるなら、それでも良いか。シズアが食べたいのなら、アニスに(いな)は無い。


「じゃあ、連れてってオバさん」

「お前だけ自腹ってことで良いか?」


「お願いします、ラウラお姉さん」


アニスは態度を豹変(ひょうへん)させ、猫撫(ねこな)で声で呼び掛ける。


「それで良いんだが、お前にそう呼ばれると何だかむず(がゆ)いな」


呼び方を強要(きょうよう)しながら何を言っているんだこのオバさんは、とアニスは心の中で(つぶや)いたのだった。


ラウラが出て来ましたね。まあ、王都は庭みたいなものですから当然ではあります。


本話の最初にシズアがリリエラのことをロリ小母さんと呼んだのは、周りの人にリリエラの名前を聞かれたくないとの配慮からです。

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