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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第二章 アニスとシズア、冒険者になる
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2-4. アニスとシズアは移動手段が欲しい

シズアが夕食の後片付けを手伝って子供部屋に戻ってみると、アニスがベッドの上の段で壁に背を持たれかけて座っているのが見えた。

どこか上の空で、シズアが部屋に入って来たことに気が付いたかも怪しい。


「アニー、どうしたの?考え事?」


声を掛けられて漸くシズアが部屋にいることを認めたようで、アニスはシズアの方に目を向けた。


「うん、少し考えてた。冒険者ギルドでロナウドが言ってたじゃない、食堂の仕事を辞めるのかって。私もね、そこは迷っていたところだったんだよね」


そして再びシズアから目を離すと、膝を立てて両腕で抱えた。


「宿の仕事を続けるとなると、冒険者の仕事は午後になるけど、そうなると帰りの移動手段が問題なんだよね。今迄みたいに誰かに村に連れて帰って貰うとなると宿の仕事時間を削らないと冒険者の仕事ができない。でも、冒険者としてやっていけるか分からないうちに宿の仕事は辞めたくないし、どうしたものかなって」


「確かにそれは悩ましい問題ね。ねえ、アニー、下に降りてきて二人で話さない?一人だと考えがまとまらないでしょう?」

「うん、まあ、そうだね。じゃあ、降りる」


アニスは素直にベッドの上の段から梯子を伝って下に降りた。そして、ベッドの下の段に二人で横に並んで座る。


ただ、横に座ってもアニスがなかなか口を開かないので、シズアがアニスに話し掛けた。


「最初に聞いておきたいんだけど、宿の仕事って、どれくらの収入になるの?辞めたくないくらい?」


シズアの問いにアニスは頷く。


「そうだね、辞めたくないくらい。具体的に言っちゃうと、お給金が一日250ガル(約2,500円)、それにチップが同じくらいある」

「え?一日500ガル、そんなに?」


宿の食堂のお昼のメニューは、定食が90ガル。大体チップに10ガルくれるので実際には100ガル支払うことになる。夕食はもう少しお金が掛かるし、朝食のことも考えても500ガルあれば一日の食事には困らない。それを半日で稼いでいるのだから実家で暮らしている未成年としては十分な収入と言える。


「お給金の分は母さんに渡しているから、自分で使えるのはチップの分だけだけどね」

「それでも結構な額じゃない。でもそれ、何に使っているの?」

「ん?あんまり使ってないよ。家を出た時に困らないように貯めてるから」


アニスは何の気なしに返事をしたのだが、シズアはそれを聞いて目を丸くした。


「家を出るって、結婚資金ってこと?でも普通、結婚資金は旦那様になる人が用意することになっているよね?何でアニーが貯めてるの?」


シズアの勘違いにアニスは笑う。


「違うって。私、結婚なんて考えて無いから。そんなことしたら、シズと離れちゃうじゃない。そうじゃなくて、この家を出て暮らすようになった時の準備ってことだよ」


「アニーはこの家を出て行っちゃうの?父さん達が出て行けって言ってるの?」

「違う違う。今は私も未成年だし、特に困っていないから出て行けとか言われて無いって。だけど、不作続きで飢饉になったらどうなるか分からないよね。シズがまだ小さい頃にあったんだよ、飢饉が。あの時、私は大丈夫だったけど、近所のお姉さんとか女の子の友達が外に出されていてね。だから私だっていつかそうならないとは限らないし、準備はしておこうって思ったの」


シズアは一層目を丸くした。


「凄い、アニーがそこまで考えているとは思わなかった」

「え?何?シズ。偉い言われようなんだけど。私ってそんなに考え無しに見える?」


半眼になったアニスに、シズアはプルプルと首を横に振る。


「い、いや、そういう意味ではなくて、私はそこまで考えたことが無かったから」


慌てるシズアに、アニスは微笑みを見せた。


「大丈夫だよ、シズ。少し冗談を言ってみただけ。シズが私のこと悪く言うとは思ってないから」

「本当に?」

「本当だって。何、シズ、私の言うことが信じられない?」

「ごめん、アニー、信じてる」


漸く話が落ち着いた二人は、互いに微笑み合う。


「でも、アニー。良くお金を貯められるわね。買いたいものとかはないの?」

「いやあ、あるにはあるけど、買い始めちゃったら止まらなくなりそうだからさぁ。特別な時だけにするって決めてるんだ」


「特別な時って?」

「ん?例えば、シズの誕生日」


「どうして私?」

「だって、買いたいものってシズのものばかりだから。シズの洋服とか、シズの靴とか、シズの髪飾りとか、シズのパジャマとか、シズの下着とか」


「いやいや、アニー、自分のものも買いなさいよ」

「私のは良いよ。間に合っているから。あ、でも、冒険者になるから防具は必要だね。勿論(もちろん)、シズのも買わないと。やっぱ、シズのは可愛いのが良いかなぁ」

「私は悪女っぽいのが良いわ」


シズアの予想外の要望に思考が追いつかないアニス。そう言えば、前にも悪女の話をしたことがあったなと記憶を掘り起こす。


「悪女っぽいってどういうの?」

「そうねぇ、妖艶で魅惑的な感じ。例えば、ピッタリしたスカートにスリットが入っているとか」


シズアはうっとりとした表情だが、アニスは額に手を当てる。


「あ、あのさ、シズ。妖艶って大人の女の魅力だと思うんだよね。とぉーっても言い難いんだけど、シズの容姿とは方向性が違うんじゃないかなぁって」


アニスはシズアの機嫌を損ねるのではと恐る恐るだったが、シズアは改めて自分の手足をしげしげと眺め、胸からお腹にかけてのラインを確認すると、あっさりと前言を撤回した。


「そうね。妖艶さで攻めるには十年くらい早かったわね」

「え?年数の問題?」

「何よ、アニー。私の悪女になる夢を砕こうと言うの?」


反射的な突っ込みがシズアの機嫌を損ねてしまったと後悔してももう遅い。アニスは必死に挽回を試みる。


「い、いや、そうじゃないんだけど。ねえ、シズ。悪女って妖艶じゃないとなれないものなの?」

「言われてみれば、そうね。明るく他人を翻弄するタイプの悪女もいるわね。そっちの方が私に合っているかな」


「うんうん。きっと、明るい方が合ってるとと思う」


シズアの機嫌が直って来てホッとするアニス。最早自分が何を悩んでいたのかを忘れている。

逆にシズアの方が本題を覚えていた。


「ともかく、防具のことも考えないといけないけど、私はやっぱり冒険者としてやっていけるようになるまで、アニーは宿の仕事を続けた方が良いと思うな。だから、移動手段をどうするかを考えようよ」

「えっ?あ、そうだね」


シズアの指摘で自分の悩みを思い出したアニス。その事が既に頭から抜けていたとは言えない。


「シズはどうしたら良いと思う?」

「そうねぇ、一番簡単なのは馬よね」


「家には私達が使える馬はいないよ」

「ええ。買うとなると高いし、買うなら馬でなくても良いわよね」


アニスは頷いて同意を示す。


「アッシュがもう少し大きければ乗れたんだけど」

「グレイウルフって、そこまで大きくなるのかなぁ?」


「どうだろうね。アッシュがどうなるか見てれば分かるだろうけど、ともかく今は乗れないよ。都合よく他の魔獣がテイムできるとも思えないし」


今度はシズアが頷く。


「となると、何か乗り物を手に入れたいところだけど」

「シズ、乗り物って?荷馬車は馬がいないと動かないよ」


アニスが怪訝な表情になる。


「私のゼンセには、自動で動く乗り物があったのよ。こっちにはそう言うものがまったくないよね。魔法で動く荷車とかあってもおかしくなさそうなのに」


「私達が知らないだけで、あるかも知れないよ。一度、街の工房に行って聞いてみない?」

「確かに、ここ悩んでいるより知ってそうな人に聞くのが早いわね」


シズアが同意するとアニスか嬉しそうに立ち上がるった。


「それじゃあ、ついでに防具も見に行こうよ。どんなのがあるのか知っておきたいし」

「ええ。悪女な私に似合うものがあると良いな」


相変わらず悪女を目指すシズアだった。


アニスはずっとシズアと一緒にいるために、色々と考えているんですね。

家を出ても、近くに住んでいるつもりみたいです。



この後も色々不定期です...。


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(2023/12/30)

この後書きの最初の二文を追記しました。


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