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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第七章 アニスとシズア、王都の祭りに参加する
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7-2. アニスとシズアは王都の中央神殿で面会を求める

王国の首都である、王都シン・ラフォニア。


ラウール川とレモーネ川の二つの大河の合流地点に位置するこの都は、地形的な制約から二重の扇形になっている。

扇形の円弧の中心に建っているのが、王族が住まう王城。


その王城を象徴する存在が、高く(そび)える白い塔。

「祈りの塔」とも呼ばれているそれは、高いことから物見の役目も果たしているが、内部には祈りの間が(しつら)えてあった。


祈りの間は王族専用の祈祷所のようなもので、神殿ほど大きなものではないものの、十柱の神々の像が設置されている。

中央神殿よりずっと高い位置にあり、そうした理由は天にある神々の世界に少しでも近付くことで、強い祈りを送るためとか、神の声を届き易くするためと、言われていた。


祈りの塔の周囲には、王族の居住区画や、執務区画があり、内壁で囲われたそれらの外側には、行政府の建物や軍部の施設など国の主要な機能が集められている。

それらすべてが王城の中なのだ。


王城の外側は、王城の正面を中心に放射線状に道が伸びており、一つ目の扇形の円弧を形作っている壁の内側までが貴族街となっている。

その貴族街を囲う壁の真ん中に接するように、中央神殿は建てられていた。


名目上、神殿は貴族と平民を区別しない。

なので中央神殿は貴族街の壁の外側にあり、壁とは反対側に正面玄関を構えて万人(ばんにん)を迎え入れるようになっている。


ただ、特別な行事が催される際には貴族街の側の入口を開き、王族などを直接神殿の桟敷(さじき)席へ通すよう便宜を図っていた。

それは王族を特別扱いしているのではなく、警備上の都合からだと言われている。


「神殿は神の手前、貴族と平民を区別できないけど、警備の都合だとか言って結局は区別しているのだから矛盾してるわよね」


中央神殿の礼拝堂のフロアから桟敷席を見上げながらシズアが呟く。


ここまでの知識はすべて冒険者ギルドで仕入れた物だ。


二人は王都について直ぐ、最寄りの冒険者ギルドへ向かった。

王都のこと、宿のこと、神殿のこと、冒険者にとって必要な情報は冒険者ギルドが提供してくれる。

もっとも、無料で教えて貰えるのは一般に知られている情報だけだが。


それでもアニス達には十分だった。


冒険者ギルドの近くに宿を取り、そこで一泊。

翌朝、ギルドで貰った地図を頼りに中央神殿までやってきた。


目的はリリエラに会うため。しかし、その前にと礼拝堂の中を見物している。


桟敷席は、正面から入って奥に立っている十柱の像を眺める向きに対して、その左右の二階部分に並んでいた。

今は立ち入り禁止になっているのか、桟敷(さじき)席に人の姿はない。


「うーん、シズの言うように矛盾してるのかな?十柱の神々は、別に王族がいてはいけないとか、貴族がいてはいけないとは言ってないよね?」

「まぁ確かにね。でも神々はお告げを下すのに貴族か平民かを区別していないし、神殿の中では貴族か平民かの区別はないことになっているわよね。神官や神の巫女は、王族や貴族出身であっても、平民と対等とか。本当に区別が無いのかは怪しいけど」


「そこは都合の良いようにやってるんじゃない?それで良い気がするんだよね」

「そうね。神と貴族社会の板挟みになっている神殿としては、その状況を好きに活用する権利があると思うわ。で、アニー、話を持ち出しておきながら悪いけど、そろそろこの話は打ち切りにして、神に祈りを捧げない?折角(せっかく)、王都の中央神殿に来たのだし、火の精霊と契約できた私としては、火魔法を(つかさど)るアグニウス神にはお礼も含めて念入りにお祈りしたいと思うのよね」


と、シズアはアグニウス神の像に目を向ける。


「それも良いけど、風のゼピュロウス神にも祈らないと駄目だよ。神との相性は、持って生まれた得意属性がすべてだって話なんだから」

「えぇ、分かっているつもり。ゼピュロウス神にも感謝の祈りを捧げるわ。でも、そうならアニーはすべての神々の声が聞こえてもおかしくなさそうだけど、どうしてザナウス神の声だけが聞こえるのかな?」


シズアは、アニスが生まれた時から全属性持ちであったことを言っている。全属性持ちならすべての神と相性が良い筈だろうと。


「魔力眼の属性が一番神に声が届き易いからだと思うけど?」

『その考え方は間違ってはおらんのだが、(なんじ)について言えば外れだな。(なんじ)の声はすべての神々に届いておる。だが、複数の神を相手にするのは大変だろうから、我が代表して語り掛けているだけなのだ』


「なっ」

「アニー、どうかした?」


突然の声に驚いて跳び上がってしまったアニスを、シズアが目を丸くして見る。


「聞こえなくて良い物が聞こえた」

『おい、神の声を余計な物のように言うでない』


「アニー、何が聞こえたの?空耳ではないの?」


シズアが心配そうにアニスを見る。


「空耳の方がマシだよ。ねぇ、私の(まわ)りで魔力が光ってないかな?」

「私に聞かれても分からないわね」

『繋がりの強度を極力抑えておるから、他者に見咎(みとが)められることはないぞ。どうだ?この心配り、紳士(しん(神)し)であろう、神だけに?』


あぁ、この言い回しは間違いなく駄洒落神ザナウスだ。

アニスは溜め息を吐く。


「紳士的な神なら、いきなり声を掛けたりはしないと思うんだけどね」


シズアにも分かるように敢えて神と口にするアニス。


「お祈りも捧げていないのに何で声を掛けて来たの?」

(なんじ)の意識が我に向いたから我との繋がりができたのだ。汝、今日は我らに祈りを捧げるのを止めておこうかと考えていただろうが。王国の神殿の総本山とも言うべき王都の中央神殿に来たのに祈りを捧げんとは勿体無いからな、声を掛けたのだ』


祈りを捧げるのを止めようかと考えたのは、自分の祈りの声が神に届いて邪魔になるのではと想像したからなのだが、無用な心配だったらしい。

と言うか、そう考えるだけで繋がりができてしまうのも迷惑な話だ。


「アニー、お告げがあったの?」

「ううん、ない。でも折角だから、お告げが欲しいよね」

『そうか、そうだな。ならまずは他の神々に祈りを捧げよ。我のお告げはその後だ』


何だか時間稼ぎっぽい(にお)いがしなくもないが、素直に応じるアニス。


「先にお祈りを済ませなさいってさ。シズもお祈りするんだよね。神々の像の前に行こ」


アニスはシズアと共に、神々の像の前へと進み出る。

シズアは予告通りアグニウス神の像の前に、アニスはいつものように最初は中央左側のヴィリネイア神の前に。


ヴィリネイア神の次は左へと進み、水のマルレイア神、そして風のゼピュロウス神。

ゼピュロウス神とその隣のアグニウス神にはシズアをよろしくと願うのも忘れない。

左端の土のアルミティア神まで来たら、右端の闇のハデュロス神まで移動して、さらに順に左へ。

最後が中央右側のザナウス神の前だ。


そこでもアニスは真面目に日頃の感謝の祈りを捧げ、その上で最後に「お告げは?」と問い掛けた。


『うむ。神のお告げは強請(ねだ)られて出すようなものでもないのだが、まぁ良いか。汝、このあとリリエラとの面会を求めるのだよな?』

「そだよ。もしかして、リリエラを呼んでくれるとか?」


『神を伝令のように使おうとするな。我は有用な情報を提供するだけだ。良いか、リリエラに会わせてくれと頼んでも断られるだろうが(ねば)れ。以上、終わり』

「えっ、それだけ?」


『それだけ?ではないわ。十分に有難い内容だからな。後で我に感謝すること間違いなしだ』

「そなの?まあでも、それでリリエラに会えるんなら、その通りにやってみよっかな。ありがとね、ザナウス神」


立ち上がったアニスは、既に祈りを終えていたシズアを伴い、礼拝堂の左奥へ。

そこには扉があり、「御用の方は事務室へ」と書かれた紙が貼られていた。

扉を開けるとその先には廊下があり、部屋の扉が並んでいる。


幸いにも「事務室」と書かれた扉は一番手前にあった。

アニスは意気揚々とその扉を(くぐ)り、入ったところに設置されていた受付で、リリエラに会いたいとの用向きを伝える。


その反応は予想通り、「ザナウス神の巫女リリエラには、お会いになれません」だった。


そこでアニスは(ねば)った。

二度三度と断られても(ねば)った。

迷惑だと言われても(ねば)った。


とことん(ねば)った。


その結果。


「どうしてこうなった?」


アニスとシズアは中央神殿の地下牢の中にいた。


どうしてそうなってしまったのでしょうね...。


ところで、神との相性の話が出ましたが、5-10.でザナウス神が言ってたことをアニスがちゃんと覚えていたと言うことです。


それはともかく?段々とアニスとザナウス神が話す敷居が下がっているような。

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