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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
156/303

番外2. トキノは夫の後輩に挨拶する

冒険者パーティー春告草(はるつげくさ)の男性メンバーの一人であるカズは、酒が好きだが酒に弱かった。

なので、旅の途中でも酒は飲むが、ほどほどの量に抑えることにしている。


だが、デンゼンの街に来た昨晩は違った。

久しぶりの街だったこともあるが、アニス達と別れたので心置きなく飲めると思ったことが大きい。

流石(さすが)に子供の前で飲み過ぎるのは大人として恥ずかしいと言う想いもあって、アニス達と一緒の食事の席では酒量を控えていたのだ。


その反動で飲み過ぎた。

いや、理由の分析はどうでも良い。

飲んでいる時は気持ちが良かったが、その後がいけない。

翌朝、まだ息は酒臭く、頭がガンガンしていた。


宿から出て馬車に乗り込んだ時点で一向に直らない。


「辛いのか?水ならあるぞ」

「ああ、ありがとうございます」


木製のコップをランから受け取り、中の水を一気に飲み干す。

だが、それだけで直ぐに良くなる訳でもない。

カズはコップをランに戻すと、馬車の床に横になる。


「すみませんが(しばら)く寝かせて貰えますか?」

「それは構わんが。治癒魔法は掛けなくて良いんだな?」


念押しのように確かめるランに、カズは首をゆっくりと横に振った。

治癒魔法に頼ると(くせ)になってしまい、後で困ることになる。

カズはそう考えていて、これまでの二日酔いの時も治癒魔法は断って来た。

ランもそれを知っているから強要はしない。


「なら睡眠魔法だな。沢山寝れば早く治る」

「そうですね。お願いします」


治癒魔法が駄目で、睡眠魔法なら良いというカズの判断基準が良く分からないながらも、ランはカズに睡眠魔法を掛けてやる。

スヤスヤと眠りについたカズを見て、ランは微笑んだ。


「目が覚めたら二日酔いが抜けていると良いな。お休み、カズ」


そんなランの言葉もカズの耳には届いてはいない。


けれど、カズにとっては嬉しいことに、目が覚めたらその言葉通りとなった。


「うーん、良く寝た」


カズが目を覚ました時、馬車は揺れていた。

移動中らしい。

だがともかく、頭痛は収まっている。気分が良い。


まずは現状を把握せねばと横になったまま目を開ける。

目の前には先輩のリョウが座っており、その隣には女性が一人。

手にした何かを読んでいる。


ん?誰?


この馬車に乗っている女性と言えば、ランとエイミーだ。

しかし、そのどちらでもない。

しかも若い。自分よりも若い。


街道を歩いていた旅人でも乗せてあげたのだろうか。

いや、それならば、この距離感はおかしい。

一人旅の女性なら、他人を警戒して距離を置く筈なのだ。

なぜリョウの隣にくっついている?


これは一つ、リョウに説明を求めるしかない。


そう考えながらカズは身体を起こした。


「カズ、目が覚めたのか。気分はどうだ?」

「お陰様で良くなりました。それよりも先輩」


「何?」


既にカズの目線は隣の女性を捉えていたから、言わんとしていることは分かっているだろう。

だが、リョウは黙ったままだ。

仕方なく、カズはハッキリと口に出すことにした。


「その女性(ひと)は誰です?」

「あぁ、そうだな」


リョウは(ひど)く言い難そうにカズから目を()らし、指で頬をポリポリと()く仕草をする。


「何と言うか、その、俺の(よめ)だ」


その言葉がカズの脳に()み込むのに、(しば)しの時間を必要とした。


「はい?」


言われた言葉の意味は分かるが、訳が分からない。


「あの先輩。昨晩、飲みながら(ひと)り身は寂しいよなって話してましたよね?どうやったら恋人ってできるんだろうって言ってませんでした?」

「言ってたよ。お前、酔っ払っていた()りにはよく覚えているな」


「僕は記憶は飛ばない方なんです。って、そんな話はどうでも良いんですよ。今朝だって、と言うか、馬車に乗った時だって何も変わってなかったですよね?僕が二日酔いでずっと寝てて道中のことを何も知らないからって、揶揄(からか)ってるんですか?」

「いや、揶揄ったりしてないんだって。本当に結婚したんだ。ちゃんと役所に行って、(せき)も入れて来た」


冗談を言っているような表情には見えない。

とは言え理解できないことだらけだ。


「その女性(ひと)とはいつ知り合ったんです?」

「今さっきだよ。街を出て街道を少し進んだところで馬車の前に出てきたんだ」


「そんな知り合ったばかりの人といつ役所に行けるんです?」

「まあ、普通そう思うよな。でも、行けるんだよ。どこにいてもピュッと行って、ピュッと帰って来れるんだ。あぁ、信じ難いのは良く分かる。だが、それが証拠に彼女が読んでいるのは役所の隣の売店に並べられていた雑誌の最新刊だぞ。なぁ、トキノ。興味深いのは良く分かるんだけど、それを少しの間、貸してくれるか?それと、カズに挨拶して貰っても良いかな?」


最後の方は、隣の人物に向けられた言葉だ。


「ん?何?あぁ、寝てた人が起きてる。おはよう?それから初めまして、トキノです」

「カズです、よろしく。それであの、リョウ先輩と結婚したって聞きましたけど」


半信半疑のカズに、トキノはにっこりと微笑んでみせる。


「はい。赤ちゃんを二人で育てることにしたので」

「はぁ、そうですか。おめでとうございます」


理由だか良く分からない理由だが、何にしても目出度(めでた)い。聞きたいことは色々あれど、当人達が合意の上で結婚したことに違いはなさそうなので、それらは飲み込み、素直に祝福の言葉を贈る。


そこへリョウが、トキノが読んでいた雑誌を差し出してきた。

カズはそれを受け取り表紙を眺める。

月刊の結婚情報誌だ。


こちらの世界に出発した日付と、こちらに来てから過ごしてきた期間とを頭の中で計算すると、ぴったり符合(ふごう)する。

今さっき役所に行って来たと言うのも本当らしい。


「それで二人は結婚式はするんですか?」


手にした結婚情報誌をパラパラと(めく)りながら、尋ねるカズ。


「うーん、今はそれどころじゃない気もするしなぁ。トキノはどう思ってる?」

「その本で初めて知ったけど、結婚式ってとても華やで楽しそうね。私がやるならマタニティウェディングが良いかな」


「そんな気はしてたよ。やっぱりトキノは赤ん坊が先なんだよな。まぁ、それも良いか。旅から帰る途中で妊娠して、向こうの世界に戻ったら結婚式でも」


こちらの世界の旅は安全とは限らない。ならば、子作りは旅の終わりの方が良い。


「確かにそうね。その時には二人目?いや、三人目かな?そう考えると子連れの結婚式になるわね。それってファミリーウェディングって言うのだっけ?」

「そうだと思うけど、旅の最中に出産するのは確定なんだね」


トキノが結婚を急いだのも赤ん坊のためだ。この先一日も待つ気は無いのは当然か。


「そうよ。赤ちゃんを産むために休みを貰ったのよ。三年経ったら戻る約束になっているから、それまでの間が勝負なの」

「ふーん、そうなんだ。って、あれ、俺達の旅が終わってなくても、トキノは三年経ったら帰ってしまうってこと?」


「えぇ、喧嘩をしてても約束は守らないといけないから」

「そしたら離婚?子供を連れて実家に帰らせて貰いますってこと?」


唐突にやって来た春が、また唐突に失われてしまう恐れを抱くリョウ。


「リョウも一緒に帰れば良いだけよね。この旅の目的をさっさと終わらせてしまって。私も手伝うから」

「そうだな。一緒に帰れるように頑張れば良いだけだよな」


(まこと)に頼りになる(よめ)だ。


しかし、結婚休暇に産前産後休暇と育児休暇とを合わせて取ってこちらの世界にやって来たトキノに、自分達の任務を手伝わせても良いのだろうかと思い悩むリョウだった。


子育てだけでも大変ですからね。


さて、二日酔いで寝ていたカズですが、24歳です。リョウの四つ年下です。

何となく本文中で言及できませんでした。


ところで、本エピソード、書いてみたら長すぎて分割しています。つまりこれは前半です。

なので、すみません、もう一話続きます。


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