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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
151/303

6-30. シズアは火の精霊と契約したい

シズアは一人で洞窟の奥に向かい歩いていた。


光魔法(ライト)で光の球を出しているので足元も含め辺りは良く見えている。

シズアは風属性の魔法と相性が良く、それ以外でも初級魔法なら発動できる。ただし、威力のことは置いておいて。


威力はなくとも光魔法(ライト)による光の球は十分に明るい。

威力はなくとも火魔法(ファイア)()き火の火をつけることができる。

だが、シズアは威力のある火魔法が使いたかった。


前世で生きたのは魔法の無い世界。

なので前世のシズアは魔法が使えなかった。


そんな前世の世界にも「魔法」と言う単語は存在した。

それは基本的に空想の世界の中で使える物として。

前世のシズアはそうした空想物語を幾つも読んだことがあったし、魔法が使えればなと思ったことも一度や二度ではない。


特に火魔法。

思い切りよく大威力の火魔法を放てば、さぞかし気持ちが良さそうだと(あこが)れのような想いを持っていた。

勿論(もちろん)、街中など他人の迷惑になるところで使うつもりは更々(さらさら)ない。


半年前の十歳の誕生日にそうした前世の記憶を思い出したシズアは、当時は夢でしかなかった魔法が現実に存在し使えることを喜んだ。

ただ残念だったのが火魔法の適性がなかったこと。

しかし、それも火の精霊と契約すれば手に入れられると分かった。


そしてアニスと始めた火の山への旅。

最終目的地まであと少し。

契約できるかはともかく、間もなく火の精霊に()える筈だ。

そう考えると胸が高鳴る。


「川だ」


シズアの歩いていた洞窟内の道の隣に水の流れが現れた。

そこから先、道と川とが隣り合って伸びている。


川の流れは向こうから手前。

シズアのいるところで川は歩く道と分かれて別の隧道(トンネル)内へと流れ込んでいく。

洞窟に入ってここまで下り坂だったが、川に合わせるように道も緩やかな登り坂になっている。


光の球の明かりが川の水面で反射して、キラキラしているのが楽しく見飽きない。

先に進めば進むごとに、洞窟の天井が上がったり下がったり、川の流れも変化して新しい姿を見せてくれる。


そんな洞窟内の光景に見とれながら、(とき)を忘れて先へ先へと歩いて行くシズア。

気付けば相当奥まで進んでいた。

だが道はまだまだ先へと続いている。


更にしばらく歩くと空間が広がった。


「ここは地底湖?」


自分の背丈ほどの幅でしかなかった川が、大きな水面に変わっている。

光の球の明かりは暗闇に吸い込まれ、向こう岸がどこにあるのか目では見えない。

風の探知魔法(ウィンドサーチ)によれば、数百メートルくらい先に洞窟の壁があるようだ。


地の底にこのような場所があるなんて。

自然の造形とは面白い。


道の端に立ち、湖を眺めるシズア。

光の球を明るくすれば、もっと遠くまで見えるだろうかと光の球に籠める魔力を増やそうとするが、光の球の明るさは変わらない。


ならば、光の球を増やせないだろうか。


これまでやったことはないが、アニスがやっているのは見たことがある。

既に現れている光の球を意識しながら、別の場所を意識して魔法を唱えて力ある言葉を叫ぶ。


「ライト」


と、光の球がもう一つ生まれた。


だが。


「暗い?」


新しい光の球は、最初のよりも暗く感じる。

そう思って、もう一つを見ると、そちらも同じように暗い。

どうやら、光の球を増やしても、光の総量は変わらないようだ。


ガックリと項垂れるシズア。


そんなシズアの耳に、笑い声が届く。


「誰?」


顔を上げて周囲を見回しても何もいない。

しかし、空耳ではなく、笑い声ははっきり聞こえている。


ならば、考えられることは一つ。


「精霊ね」


普通には目に見えない存在。

意志を持った魔力の(かたまり)とも言われるが、実際にはただ魔力が集まっているだけなのではなく、人と同じように魔力を生み出す(みなもと)を持っているらしい。


アニスのように魔力眼を持っていれば、視るのは簡単だったろうが、無い物を(なげ)いても仕方がない。


それよりも、これまでは見えないと諦めていた精霊を見る方法がないのか考えてみよう。


精霊は魔力の塊で、魔力は感じられる。


漆黒ダンジョンである試練の穴の中で魔力が消えたあの感じと、そこから出てきて魔力に触れた時の安堵感。

魔力の無い試練の穴でアニスと魔力をやり取りした感覚。


これまではいつも当たり前のように触れていたために明確に認識できていなかった魔力について、漆黒ダンジョンに(もぐ)った経験から、はっきり意識できるようになったと思う。


それに加えて分かったことがある。

魔力を感じられるのは自分の魔力の外縁、つまり自分の魔力と接している魔力だけを感じ取れるのだ。


例えば、自分の魔力をすべて体内に留めている時には、肌に接している魔力だけを感じられる。

自分の魔力をアニスに流し込んだ時には、流し込んだ先のアニスの体内の魔力が感じられた。

それと同じことで、自分の魔力を空中に放出すれば、放出した領域内に存在している魔力が感じられるのだ。


なのでシズアは、精霊の魔力を感じるべく、自分の魔力を空中に拡散させていく。

できるだけ薄く、できるだけ広く。

自分の周囲にある魔力の存在を感じ取ろうと試みる。


自分の魔力を広げれば広げるほど、感じられる魔力が増えていく。

精霊が集うと言われているだけあって、この空間には魔力が満ちている。


しかし、所々に魔力が感じられないところがあった。

そこだけ自分の魔力を広げられないのだ。

自分の魔力の広がりを妨げる何かがそこにある。


空中にある魔力を受け付けない見えない何か。


「見付けた」


シズアは微笑んだ。


精霊も魔力の源を持つ。

魔力の源に他の魔力を近付けても、その源に取り込まれてしまう。

逆言えば、自分の魔力を自分の物として他人の魔力の源に近付けることには限界がある。


自分の魔力が無いところには魔力は感じられない。

魔力の感じられない空間には魔力の源がある、つまりは精霊がいる。


シズアは精霊と(おぼ)しき物を包むように自分の魔力の層を作り、そこで光魔法を発動させる。


「ライト」


空中にふわふわと浮かぶ光の球が現れた。

こうすれば、目でも見える。


「貴方、精霊よね?」


シズアが尋ねると、光の球から声がした。


『そうだよ。キミはボクらが見えるんだ?』

「見ると言うより感じているが正しいと思うけど、ともかく貴方の存在は分かるわね。そして、ここには他にも沢山の精霊がいる」


『あぁ。それでどうしてキミはここに?ボク達と契約したいの?』

「そうね、私は火の精霊と契約したいと思ってるの」


シズアは素直に希望を()げた。


『なら、ボクらの中から契約したい相手を選んでよ。相性が良ければ契約できると思うよ』

「そう」


どうやら正しい相手を選ばなければならないらしい。

これもまた試練だ。

しかし選べと言ってもどうやって?


悩みに(しず)むシズア。


どんな物でも、これまでに解決の糸口になりそうな情報は無かっただろうか。

試練の道に関係した人々、ドワファラード辺境伯のカマールも、竜人族の里の里長のドレクも、人ではないが火竜アギウスも、参考になるような話はしていなかった。


そもそも彼らは試練の道を進むための情報もそれ(ほど)提供してくれてはいない。

基本的にアニスと二人で切り抜けて来たのだ。

ワイバーンの群れに出会った時以外は。


あの時はキョーカ達の情報が役だった。

そうだ、キョーカはワイバーンの話と一緒に精霊について助言してくれていた。

『火の精霊が選べるのなら、魔力の色が合うのを選ぶにゃ』


(まさ)に今、火の精霊を選ばなければならない。

しかし、「魔力の色が合う」とはどう言う意味だろう。

アニスは得意属性によって魔力の色が違うと言っていたが、自分には魔力の色は見えない。


なので真面目に色合いのことを考えても仕方が無い。

感覚で決めてしまおう。


シズアは先程から自分の魔力をこの地下空間に放出している。

それによって、自分の周囲にいる精霊達の魔力を感じることができていた。

それら精霊の魔力の感じは似たり寄ったりではあったが、少しずつ違っている気がする。


特に目の前にいる精霊の魔力は弱く感じられる。

いや、魔力が弱いのではない。

シズアの魔力で感じ取り難いのだ。


自分の魔力と区別が付き難く、良く馴染む。

実際に魔力の源に触れた感じはどうなのだろうかと、足を前に踏み出して精霊に触ろうとする。


が、踏み出した足の下に地面はなく、シズアは地底湖の中に落ちた。

幸い、足首くらいの深さしかなかったものの、盛大に倒れたので身体中がびしょ濡れだ。


『あははは、何やってんの?』


精霊が笑う。


「貴方に触れて魔力を感じてみたかったのよ」


シズアは湖の中で立ち上がり、頬を膨らませる。


『そうか。それは悪かったね』


まだおかしそうな声色だったが、素直にシズアの前にやってきた。

それを了解と受け取ったシズアは両手で精霊を包み、その魔力を感じようとする。


「凄く柔らかい魔力」

『ボク達は魔力の色が合っているようだね』


精霊の言葉を聞いたシズアは、キョーカの言った通りだったのだと理解した。


「私、貴方と契約したいと思うけど、貴方、火の精霊なのよね?」

『我が主神アグニウスに誓って火の精霊だよ。それでキミの名前は?』


「私はシズア。貴方は?」

『ボクは名前を持っていない。契約の証にキミがボクに名前を付けてよ』


「そうね」


シズアは考える。

優しさも感じる柔らかい魔力。

そんな魔力を持った火の精霊にふさわしい名前は何が良いだろうか。


「イェラでどう?」

『イェラ、「小さな焔」ね。良いよ。今からボクはイェラだ。よろしくマスターのシズア』


「マスター?」

『そうだよ。ボクの契約者だからキミはボクのマスターだ』


「分かった。こちらこそよろしくイェラ」


そう返事をしたところで、シズアはイェラとの間に繋がりを感じた。

何となくだが火魔法を使えそうな気がする。


「ねぇイェラ。早速だけど、一つお願いがあるのよね」

『何?』


「身体を乾かす魔法を教えて貰えない?」

『そんなのお安い御用だよ。でも、まずは湖から上がったら』


「ええ、そうね」


全身が濡れたまま湖の中で立っていたシズアは、そこで(ようや)く岸に上がる。


『熱で身体を乾かすことを想像して。ボクが魔法の紋様を描くから、マスターは一言叫べば良いよ』


言われた通りに頭の中で思い描くと、叫ぶべき言葉が浮かんで来た。


「ドライ」


その一言で、全身が乾いていく。

これが精霊魔法なのかとシズアは驚きと嬉しさで胸が一杯になる。


だが、その喜びは長続きしない。


真剣な表情になったシズアが洞窟の奥に目を向けつつ口を開いた。


「イェラ、攻撃魔法も同じようにできるのよね?」

『そうだね。まずは中級からになるけど。どうするつもりなの?』


「相手の出方次第かな?」


何かが来る。

風の探知魔法(ウィンドサーチ)がシズアにそう()げていた。


いつもは冷静なシズアも、火の精霊との契約となると注意が(おろそ)かになるようですね。


普通なら湖に落ちたりはしないと思います。


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