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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-29. アニスとシズアは試練を達成したい

アニスは疲れていた。


体力的な問題ではない。

疲れた身体は魔女の力で()やすことができる。

問題なのは、精神的な疲れの方。


試練の穴とされている漆黒ダンジョンの中で倒した黒魔獣の数は五体。

大した数ではない。


だが、毎回シズアを前面に出していたのだ。

それがアニスの心への大きな負担になっていた。


確かにシズアは冒険者になった頃よりは戦い方が上達しているし、二人の連携も良くなって来た。

しかしそれは魔法が使えてアニスが前面に立つ戦い方についてであって、魔法が(ほとんど)ど使えずシズアが前面に立つ戦いは、この試練の穴に入ってから始めたことなのだ。


それにシズアの戦法もアニスの心臓にはよろしくなかった。

基本的にカウンター狙いなのだ。

ギリギリまで黒魔獣を引き付けて、その攻撃を避けながら反撃する。


体格が小さく非力なシズアにとって、有用な戦法であることはわかる。

だが防具を着けていると言っても、下手に攻撃を受ければ怪我だけでは済まないかも知れない。

なのに、どうやらシズアはそのスリルを楽しんでいるフシすらあった。


見ている側のアニスは気が気ではない。

いつもなら自分の視界の中にシズアがいることを喜ぶアニスも、この時ばかりは精神がゴリゴリ削られる気分を味わっていた。


「ねぇシズ、どうかな?」


戦いが終わる度、同じように声を掛けるアニス。

興奮状態にあるシズアに、もう終わりにしようとも言えず、お伺いを立てるに留まっていた。


「私、何かを掴みつつあると思うわ」


目を輝かせてアニスを見る。

そんな目をしたシズアを止められる気がしない。


「また次を探さないとね。その前に、治癒(ちゆ)して貰える?」

「おけ」


シズアが差し出した手をアニスが両手で包むように握る。

試して分かったことだが、互いに触れ合っていれば漆黒ダンジョンの中でも治癒魔法は使えるのだ。

それが黒魔獣狩りが終わらない原因にもなっている。


だからと言ってシズアの頼みは断れない。

アニスは手を通してシズアの魔力を受け取り、その魔力を使って治癒魔法を発動する。


「どう?」

「すっかり疲れた取れたわ。ありがとう、アニー」


「なら良かった」

「それじゃ、次ね」


そうして再び黒魔獣を探しに出る二人。


シズアはなかなか黒魔獣狩りに飽きない。

黒魔獣がなかなか見つからなくてもへこたれない。


結局、打ち止めになったのは、非常に単純な理由からだった。


「お腹が空いたわね」


そうシズアが呟いたから。


二人は食料を持ってきていなかった。

食料は収納サックに入れていて、それは試練の穴に入る際に置いてきた。

持って入ったのは、水を入れた水筒だけ。

もともと、それ程ダンジョン内に長居するつもりではなかったのだ。


それなのに何時間もダンジョン内を歩き、黒魔獣と戦ってきた。

当然のように腹も減る。

既に黒魔獣を四体倒した後のことだ。


なのでアニスはさっさとシズアを五体目の黒魔獣のところへ連れていき、これが最後と戦いに臨んだ。

勿論、シズアが戦いで負傷しないかと冷や冷やしながら。


五体目を倒した後、二人は出口を目指す。


そのために、まずは手近にある表示板へ向かう。

表示板にさえ辿り着いてしまえば、後はそこから壁伝いに進めば出口に辿り着くのはシズアも知っていることだ。


そうしてアニス達は試練の穴から外に出た。


「随分と長かったな」


火竜アギウスの声がした。


バウッ。


アッシュからも心配していたと訴えられる。


「黒魔獣を見付けるのが大変だったからね」


疲れたようにアニスが答えた。


「わざわざ黒魔獣を探していたのか?物好きもいたものだな。そんなことをするのは掃除当番と称する者たちだけと考えていたが、ん?その頭にあるものは掃除当番の物ではなかったか?」

「そだよ。見付けたから借りてた。だから黒魔獣を狩ってきたんだけど、やっぱり掃除って黒魔獣を狩ることだったんだね」


荷物を見張ってくれていたアッシュをなで、置いてあった荷物を取り上げる。


「そうだな。ここに掃除に来たと言う者たちは皆、黒魔獣を狩っていく。つい最近も来ておったから、黒魔獣は少なかったのではないか?」

「今日が多いのかどうか分からないけど、私達が狩ったのは五体だよ」


アニスは話しながら、黒魔獣を試練の穴専用収納袋から、自分の収納サックに黒魔獣を詰め替えていく。

丁度五体を詰め替えたところで、「ね、これで終わりだよ」と収納袋の口を開けてみせた。


「我もその数の多寡(たか)は知らん。ただ、試練の穴の第一層は、いつもそれ(ほど)黒魔獣の数は増えないと言っておったな」

「そなんだ。あ、私、清掃用具を片付けて来るね。シズ、帽子貸して」


アニスはシズアから保護帽を受取り、一人で再び試練の穴に入ってしまった。


「まめな奴だな」

「アニーは面倒見が良いから」


地面にうずくまったままアニスが入っていった穴の入口を見詰めるアギウスと、後ろを振り返りながら同じ入口に目を向けるシズア。


少ししてシズアは前に向き直り、アギウスを見る。


「ねぇアギウス、貴方、試練の穴の門番として挑戦者から答えを聞くのよね?」

「あぁ、そうだ。それがどうかしたのか?」


「正しい問題文も知ってるの?」

「『正しい』とはどう言う意味だ?五つの金属板の文を組み合わせていれば、すべて正しいのだが」


「そう」


アギウスの口調には変化がなく、顔を見ても竜ではないシズアには表情を汲み取れない。


「知らないのなら良いわ」


漆黒ダンジョンを試練の穴とした人は何を考えてあの金属板を設置したのだろうか。

何か手掛かりが得られないかと考え尋ねてみたものの、収穫は無かった。


「シズ、お待たせ。片付けて来たよ」


そんなところにアニスが戻って来た。


「もう試練の答えの話はしたの?」


アニスの確認にシズアは首を横に振る。


「まだよ。アニーを待ってたから」

「そなんだ。じゃあ、アギウス、私達の答えを言えば良い?」


アニスはアギウスの方に視線を移して問い掛ける。


「まずは見付けた問題文から教えて貰おうか」


アギウスもアニスの目を見て言葉を返す。


「良いよ。問題文は、えーと、

『最初に名もなき神がいた。

名もなき神は世界を作り、そこに世界を()べる神が生まれた。

神に対峙(たいじ)する存在として、青と緑の邪神が現れた。

邪神もまた世界の人々に神と名乗る。

(なんじ)はいずれの神を(あが)める者か』

だったよね」


口にしながら首を傾げてシズアを見ると、シズアが頷いたので安堵(あんど)するアニス。


「良かろう。それで、その問いに対する答えを聞かせて貰おうか」


アニスはもう一度シズアを見て、そしてアギウスに向き直ると口を開いた。


「私達の答えは決まってる。私達が(あが)めるのはこの世界を()べる十柱の神々だよ」

「そうか、良く分かった。これで勇気の試練も終りだ。お前達は試練の道を踏破したことになる。火の精霊の(つど)う洞窟への入口は、この洞窟を抜けた先の右側だ。好きに行くと良い」


そう告げると、アギウスは頭を体の上に下ろし、休みの姿勢を取る。


「ねぇアギウス。聞きたいんだけど、火の精霊の洞窟には魔獣もいるの?」

「おらんよ。入口に魔獣避けの結界が張ってあるからな」


「だったらシズ、一人で行って来なよ。精霊のところに余計な人は行かない方が良いと思うんだよね。私はここで待ってるから」


アニスはあっけらかんとしていたが、言われたシズアは戸惑いの表情を浮かべていた。


「アニー。精霊の洞窟の入口まで一緒に行って貰えない?何となく心細いのよね」


シズアに請われたアニスは少しだけ考えると、大きく頷いてみせる。


「おけ。私も確かめておきたいことがあるし。それじゃあ、アギウス、シズを送って来るから待っててね」

「我にはお前を待つ義理はない気もするが、好きにするが良いぞ、小さき者よ」


見送りなのか良く分からないアギウスの言葉を背に、アニスはシズアと試練の穴のある洞窟を抜けた。

そこで辺りを見回すと、少し先の右側に別の洞窟の入口らしきものが目に入る。


「確かに結界があるね」


入口を覆うように結界が広がっているのを魔力眼で確かめたアニス。

念のためにと洞窟の奥の方を魔女の力の眼で探ってみる。

アニスが探知できる範囲に魔獣の気配はない。


「シズ、大丈夫そうだけど、探知は切らさないで。火の精霊と契約できるように祈ってるから」

「ええ、ありがとう。行って来る」


シズアは手を振って洞窟の中へと入っていった。

すぐに明かりの光魔法(ライト)を発動したらしく、シズアの(そば)に光の球が現れ、シズアと共に洞窟の奥へと移動して行くのが見えた。


その様子をしばらく眺めていた後、アニスは試練の穴のある洞窟のアギウスのところへと戻る。


アギウス(火竜)は、アニス達を見送った時の姿勢のまま、目を閉じていた。


「アギウス、死んじゃった?」


アニスの言葉にアギウスは目を開け、アニスを睨み付ける。


「何故お前は我を殺そうとするのだ。少し休んでいただけだ」


不満気に鼻を鳴らす。


「だって、アギウスって動かないんだもん」

「我は無駄に体力を消耗するのを好まぬからな」


「そか。ま、いいけど。でさぁ、アギウスは誰かと契約してるの?」


手を後ろで組み、興味深げにアニスはアギウスを見上げる。


「それを聞いてどうする?」

「アギウスがこうして私と話せるのって誰かに教わったからだよね?それって契約者だったのかなって。だから契約してるかなと思ったんだけど、もし今アギウスが誰とも契約していないんだったら、私と契約してくれないかなぁともね」


「我との契約にお前は何を求めるのだ?我の力か?」


アギウスの声は真剣みを帯びた物だったが、それを聞いたアニスは笑った。


「力なんて要らないよ。契約すれば、アギウスの背中に乗って空を飛べるかなと思っただけ」

「我にお前の乗り物代わりになれと?」


「時々ね。アギウスは一緒に遊びたかった?それも(たま)になら良いよ」

「いや、だから我は無駄な体力の消耗は好まぬのだ。それにしても我の力を望まぬとは、珍しい奴だな。お前は面白そうだから契約してやっても構わぬところだが、生憎、我は既に契約を結んでいる身だ。お前との契約はできぬ。()が悪かったな」


謝罪とも取れるアギウスの言葉にアニスは首を横に振る。


「ううん、良いよ」

「そうか。ところでだが、お前達の言葉を契約者に教わったのかについては、その通りだ。だが、今の契約者にではなく、最初の契約者にだ。あの頃は我も若く、血気盛んだった」


「ふーん。その時の話を聞きたいな。シズが返って来るまで暇だし」

「我の話はお前の暇つぶしなのか。まあ良い。かなり忘れてしまっておるが、聞きたいと言うのなら話してやろう」


そこでアニスは地面に座り、アギウスの話に耳を傾けることにした。


そしてそんなことをしながら、同時にシズアの位置も追い掛けているアニス。だが、シズアはそろそろアニスの使う魔女の力の眼の範囲外に出ようとしていた。


アギウスは何だかんだ言って、アニスとの会話を楽しんでますね。


ところで、アニスが良く「おけ」と言いますが、これは「オッケー」を略したものです。が、それはアニス達の世界に「オッケー」と発音する単語があるのではなくて「オッケー」を意味する単語が存在しているだけのこと。


つまり、「おけ」は「オッケー」を意味する単語の省略で、実際に「おけ」と発音しているのではないのですが、そんな細かいことは気にせずに読んでいただけると幸いです。

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