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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-26. アニスとシズアは試練の穴を探検したい

「ここが漆黒ダンジョンの中なのね。大気の中にまったく魔力を感じないわ」


魔力の扱いに習熟すると共に、シズアの魔力に対する感知能力も高まっていたようで、漆黒ダンジョンに入った途端、肌で捉えていた魔力の感じがスッと消えたことに気が付いた。


「うん、ここには魔力が全然ない。身体の中の魔力が漏れないように、注意してね」

「ええ。もうコツは掴めているから大丈夫。けど、魔力があっても使いようが無くない?」


「まあ、漆黒ダンジョンの中だと身体強化くらいにしか使えないのはそうだけど。あー、そだ、精霊を連れてもいけるみたいだよ」


アニスがポンポンと右手で胸を叩く。


「えっ、アニー、もしかして精霊を連れてきてるの?身体の中にいれて?契約もしてないのに?」

「そうなんだよね。頼んでも無いのに勝手に身体の中に入って来た。いつもの五月蠅(うるさ)い奴」


語り手が一緒にいなくてどうするのですか?


「そう言えば、昔プラナラの神殿で精霊が死体を動かしたって話があったわよね?それと同じことなのかも知れないわね」

「私、死体じゃないんだけど。いや待って、私の身体も勝手に動かされちゃうってこと?」


精神(こころ)が宿っている身体は動かせませんよ。


「いざという時にアニーが身体を乗っ取られていたらと思うと怖いわね」

「乗っ取られるってことはないみたいだから安心して。こいつが嘘を()いてなければだけど」


主神に(ちか)って本当のことです。


「何にしても、そうまでしてアニーと一緒にいようとするなんて、物好きな精霊ね。私もそんな精霊に出会いたいものだわ。で、そのためにはこの勇気の試練を片付けないとだけど」


シズアは手にした角灯(ランタン)で先の方を照らしてみる。


風の探索魔法(ウィンドサーチ)を使い慣れてしまったせいで、角灯(ランタン)の明かりしか頼りにできない状況には心細いものがあるわね。いつどこから黒魔獣が(おそ)って来るか、気が気じゃないわ」

「私がいるから、ね。二人で注意していれば大丈夫だよ」


アニスはシズアを少しでも安心させたくて、にっこりと微笑みかけた。

なお、アニスの場合、探索魔法(ウィンドサーチ)は使えなくもない。魔女の力を変換させた魔力を使えば良いのだ。

だが、この状態で魔法を使えばシズアに変だと思われるのは避けようもないので、アニスは魔法を使うつもりがない。


それに魔法を使わなくても、魔女の力の眼がある。

黒魔獣が近付けば分かるし、不意打ちを受けることもないだろう。


もっとも、魔女の力の眼も万能ではなく、地形は把握できても、地面や壁に埋め込まれている罠が見抜けるかと言えば必ずやそうでもないのだ。

例えば、地盤が(もろ)くて足で踏んだら崩れてしまうようなところまでは、魔女の力の眼では分からない。


ただ、まったく役にたたないこともなく、普通に目で見た地形と魔女の力の眼で捉えた地形とに差があれば、大抵そこには魔法で隠された何かがある。

そうした確認は常日頃からやっていて、アニスにとってはごく当たり前の行為であり、試練の穴である漆黒ダンジョンに入っても何も考えずに続けていた。


なのでシズアに安心するように声を掛けた後、いつもより注意深く周囲を観察する時にもそうしていたし、だからダンジョンの通路の窪みの一つに偽装が施されているのを発見できた。


「シズ、そこの壁の窪み、何か変」

「えっ?どこ?」


アニスの指差した先が自分の後ろだったので、シズアは慌てて後ろを振り返るが、おかしなところは見当たらない。


「ここだよ」


前に進み出たアニスがその壁に向けて右手を差し出すと、アニスの腕が抵抗なく壁の中に突き刺さってしまった。


「ほら。壁があるように見えるだけで、実際には何も無い」

「どう言うこと?」


「何かを隠してるんだと思う。何だろ?」


壁に突き刺さったように見える右腕を左右上下に無造作に動かしてみて、そこに何も無いと判断したアニスは、意を決して壁に顔を突っ込んでみる。

結果、壁の裏側の様子が目に入ってきた。


「これ、隠し通路だ。シズも来てみる?」


アニスが差し伸べた左手をシズアが握ったので、アニスは自分の身体ごとシズアを壁の裏側へと引き入れる。


「本当、隠し通路ね。でもどうしてここに?」

「さぁ、どしてかな?もう少し奥に行ってみよ。っと、扉だ」


隠し通路は何歩も進まないところで曲がっており、曲がった先には通路を塞ぐように扉が設置されていた。


「『清掃用具入れ』って書いてあるように見えるけど」

「そだね、私にもそう読める。開けてみるよ」


アニスが扉の把手(とって)に手を掛け(ひね)ってみる。

どうやら鍵は掛かっていないようだ。

そのままそろそろと把手を引いて扉を開ける。


扉の向こう側には小さな空間があった。

左には棚があり、布の塊が畳んで置いてある。

棚板の一つに取り付けられた物干しには、くたびれた布が掛けられていた。


「『清掃当番お疲れ様です。規則を守って今日も楽しくお掃除しましょう』だって」


扉から入った正面に、文字が彫られた石板が()められている。

アニスが読んだのは、その一番上に書かれた文だ。


「その下が『注意事項』ね。

『試練の穴専用収納袋と保護帽は試練の穴の外への持ち出しは禁止、使い終わったらきちんとここに戻すこと』

『表示板を雑巾で良く磨くように』

『表示板の位置は下の地図で確認を』

『流し場の水は出しっ放しにしないこと』

流し場って、これね」


シズアは扉から入った右側に、壁から突き出ている蛇口を見つけた。

蛇口の栓を捻ると水がドバドバと流れるのを確かめた後、シズアは辺りを見回し始める。


「バケツは?」

「棚の下にあるこれじゃない?」


アニスが見つけた金属製の物体が、(まさ)に逆さまに置かれたバケツだった。


「本当に清掃用具入れね」

(ほうき)はないけど」


「いくらなんでも、ダンジョン内のゴミ(ひろ)いが目的ではないと思うわ。黒魔獣を狩って減らすのよ。きっとだけど」

「あー、そうしないと黒魔獣が増えて、漆黒ダンジョンから出てきちゃうってこと?けど、いくら魔法が効かなくっても、アギウスの敵じゃなさそうだけどね」


あの巨体なら、尻尾を振るだけで黒魔獣など倒せてしまいそうだ。


「いえ、それ以前に、黒魔獣が増え過ぎてしまうと試練の穴として問題なように思うのよね」

「そか、確かにそだね」


今この漆黒ダンジョンの内側を魔女の力の眼で確かめても、数えるほどしか黒魔獣がいない。

先日のドワランデ郊外に現れた漆黒ダンジョンには、もっと多くの黒魔獣が視えていた。


それを考えれば、試練の穴はそれなりに「掃除」がされているのだ。

誰が掃除をしているのかは不明だが、偉いなと思う。


「アニー、この保護帽、魔法の灯りが付いてる」


シズアは収納袋の下に置かれていた保護帽を手に取って、観察していた。

保護帽の正面には灯りが取り付けられ、後頭部の面には「試練の穴専用」の文字。

灯りの裏側あるツマミを捻ることで灯りが点いたり消えたりするのを見て、うんうんと頷く。


「収納袋もちゃんと使えるよ」


アニスの方は収納袋を手にしていた。

ただ試そうにも手持ちの中に適当な大きさのものがなく、その辺を物色して先程見つけたバケツを使い、出し入れしてみる。


因みに、アニス達の収納袋や魔双剣などの魔具は、漆黒ダンジョンに入れると劣化が早いと助言を受けたため、試練の穴の入口の脇に纏めて置き、アッシュに見張りを頼んであった。

なので、アニス達の持ち物は、身に付けている防具と剣と、角灯(ランタン)だけとなっている。


「丁度良いから使わせて貰おうっと」


シズアは保護帽を被ると、掛けてあった雑巾を取る。

それから、アニスが使っていたバケツを流し場に置いて水を溜め、雑巾を濡らしてからきつく絞った。


「シズ、雑巾も持ってくの?」

「ええ、だってここにあるのは全部清掃当番用だと思うから。保護帽や収納袋を使う以上、私達は清掃当番として働くべきと思うのよね」


「そういうもんなのかな?大体、清掃当番の道具を使って試練を受けるのも有りか分からないし」

「見つけた物を使うなとは言われなかったわよね?」


シズアはしれっとしたものだ。


「言われなければ良いのかなぁ」


まだ踏ん切りが付かないアニス。


「良いのよ。私は悪女なんだから」


そうか、悪女とは便利だな、とアニスは感じ入る。


しかし、悪女と言っている割りに、きちんと清掃当番の役目を果たそうとしているところは律儀なんだよなと思うのだった。

探検のはずが、清掃になってしまいましたね。

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