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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-25. アニスとシズアは試練の穴の門番に出会う

追加の(えさ)を求めて来たワイバーン達も、十分な量の肉片を()いてやることで大人しくなり、アニスとシズアは(ようや)く落ち着いて洞窟に向かえるようになった。


「シズ、それにアッシュも、私の後ろにいてくれる?」


バウッ。


素直に後ろに下がるアッシュ。


「洞窟に何かいるの?探知魔法(ウィンドサーチ)では分からないけど?」


シズアの方は疑問に思ったか、アニスに説明を求めてきた。


「風魔法だと分からないんだけど、魔力眼には見えるんだよね。洞窟の奥に結構な魔力を持った何かがいるのが」

「精霊ではないの?」


「違うよ。精霊は実体がないけど、目の前のアレは立派な実体があるから。まあ、まったく動かずにジッとしてるせいで探知魔法には引っ掛かってないんだけど」

「さっきから黙って私達を観察してたってこと?何か不気味ね」


不安そうな表情をみせるシズアを安心させるように、アニスはにっこり微笑んでみせる。


「大丈夫だよ、シズ。何があってもシズには手出しさせないから」

「ええ、ありがとう。でもそれでアニーに怪我をされたら(かな)わないから、何事(なにごと)もないことを祈るわ」


「そだね。じゃあ、入るよ」


洞窟の前で一旦立ち止まったアニスは、洞窟の入口を見上げる。

これから入る洞窟はとても大きい。入口の穴の高さは、アニスの背丈の四、五倍程度ありそうだ。

もっとも、奥にいるアレの大きさを考えれば当然の大きさではある。


アレがどう出てくるのか分からないにしても、ともかく相手は一体だ。面と向かい合ってみてから考えるでも何とかなるだろうとアニスは楽観視していた。


アニスは灯りの光魔法(ライト)を発動して光の球を作り、それを肩の上の方へ飛ばす。

灯りの準備ができたところで、洞窟の中へと歩き始める。


洞窟の内部も、洞窟に入るまでと同じように(ゆる)やかな登り坂になっていた。

その坂は、奥に進むにつれて段々と水平に近付いていき、洞窟の天井も同様の曲線を描いていたために、入口の明るさが奥までは届かない。


洞窟の中には他に光源(こうげん)もなく、段々とアニスの光の球の灯りだけが周囲を照らすようになっていく。


そのまま少し進むと、洞窟の壁が横に広がると共に、前方に紅い(かたまり)が見えて来た。


アニスは、その塊の前で歩みを止める。

それから(しばらく)くそこでじっと立っていたが、何の変化も起きないことから、腕組みをして首を傾げた。


「死んでるのかな?」


アニスが呟く。


「勝手に殺すな。我は死んではおらん」


顔は見えず、返事だけが聞こえた。


それから、もぞもぞと紅い塊が動き出す。

全体を(おお)うように広げられていた羽が持ち上がり、中から角の生えた頭が出てきた。

そして目を開き、頭を持ち上げると羽を(たた)んでアニスの方に目を向ける。


それでようやく(かたまり)だった物の形が見て取れるようになった。


「火竜?」


洞窟の前にいたワイバーンよりずっと大きく逞しい身体付きをしている。

地面の上に(うずくま)った状態で頭だけを起こしているのだが、それでもアニスの二倍くらいの高さのところに顔がある。

これだけの大きさの羽のある魔獣となれば、(ドラゴン)で間違いない。


その上で、火の山にいて、かつ真紅(しんく)の体色となれば、火竜だろうとは思うのだが、如何(いかん)せん初めて見るので確信がない。


「その通りだ小さき者よ。我は火竜アギウス。この洞窟の(あるじ)にして、試練の穴の門番なり」


名乗りを上げた火竜は、じっとアニスを見詰めていた。


(おそ)って来ないんだ?」

「どうして襲わねばならんのだ?我は(しょく)には困っておらんぞ?」


「あー、洞窟の前でワイバーンを飼ってるもんね。いつでも食べ放題かぁ」


アニスが納得をみせると、火竜は怒ったように息を吹き出した。


「誰が逃げもしない獲物を狩るものか。我は誇り高き火竜だぞ、失敬(しっけい)な。餌は自分で狩りに行っとるわ」

「え?食べるために飼ってたんじゃないの?」


「あれは我の仕業(しわざ)ではないぞ。まったく迷惑な話だ。で、小さき者は名乗らんのか?互いに名を明かすのが小さき者の礼儀ではなかったか?」


魔獣に人としての礼儀を()かれるとは想定していなかったアニスだが、言われていることは正しいので申し訳ない気持ちになる。


「そだね、ごめん。私はアニス、こっちは妹のシズア、それから契約魔獣のアッシュ」

「初めまして」


バウッ。


「うむ、よろしい。それで小さき者達は試練を受けに来たのだな?」

「そだよ。そう言えば、さっき、試練の穴の門番って言ってたけど、この洞窟が試練の穴?でも、洞窟が試練の穴だったら、穴の中にいるのに門番って言うのは変だよね?」


アニスは火竜の言葉に(まぎ)れ込んでいた違和感を口にした。


「そうだな。だからこの洞窟は試練の穴なのではない。試練の穴は、ほれ、お前達の右後ろにあるそれだ」

「はい?」


振り返って後ろを確認すると、確かに入ってきた通り道とは違う方向に別の穴が開いている。

それまで火竜のことばかり気にしていたために気付かなかったが、この穴はもしかするともしかするのではないだろうか。


「これ、漆黒ダンジョン?」

「ほう、良く分かったな。そうだ、その穴は漆黒ダンジョンの入口だ」


アニス達は、ドワーフの街ドワランデの近くに現れた漆黒ダンジョンを見ている。

その時に感じた気配と同じものが、目の前の漆黒ダンジョンからも感じられた気がしたが、肯定(こうてい)されたことで自分の感覚に少し自信が持てた。


「漆黒ダンジョンが試練の穴ってことは、これに入るのが勇気の試練ってこと?でも、これの中だと魔法が使えなくて、黒魔獣もいるんだよね?」

「そうなるな。まあ、入ると言っても第一層だけだ。危険が皆無(かいむ)とは言わんが、それくらいでなければ勇気を試すことにもなるまい。油を燃やす角灯(ランタン)は持って来たのだろう?」


ドラゴノウト(竜人族の里)で必要だって言われたから、持って来たよ。漆黒ダンジョンに入るためだとは思わなかったけど。それでここ、一人ずつ入れとか言わないよね?」

「一人ずつでも二人一緒でも好きにすれば構わぬよ、小さき者。だが、魔獣を連れて入るのは止めておいた方が良いぞ。魔獣は魔力が使えてこその魔獣だからな」


それは確かにその通りだ。

アッシュは風属性が得意だから敏捷だし、敵の位置を捉えることにも長けている。アニスと意志の疎通ができているのも、魔法が関係していると思える。


そんなアッシュが漆黒ダンジョンに入れば大変なことになりそうなのは容易に想像が付く。

自身の身体に作用する身体強化系の魔法は使えるかも知れないにせよ、後はまったく駄目だろう。

攻撃の連携も上手く行かず、足手まといにすらなりかねない。


「アッシュ、悪いけどここで待っててくれる?」


クゥーン。


いつもは素直に返事をするアッシュだが、置いていかれるとなると流石に悲しいらしい。


「餌を置いてくから、それでも食べてる?」


バウッ。


餌を食べている間なら出掛けて良いらしい。


「それで、私達は試練の穴の中に入って黒魔獣でも狩れば良いの?」


アッシュに気を取られているアニスの代わりに、シズアが火竜に問いを投げ掛けた。


「黒魔獣を狩る必要はない。漆黒ダンジョンの中に、文字が刻まれた金属板が5枚設置されている。それらは5枚まとめることで一つの質問文になる。質問文が分かったら、ここに戻ってきて答えを教えて欲しい。金属板は第一層にしかないから、二層以下には行かぬようにな」


やるべきことは分かった。が、引っ掛かることがある。


「ねぇアギウス。アッシュと同じように貴方も試練の穴には入れないのよね?」

「ああ、そうなるな」


「なら、誰が漆黒ダンジョンの中に金属板を設置したの?」

「それはな、小さき者の仕事だ。そして、試練の道を作ったのもその者達になる。一時期、火の精霊との契約を求めて人が押し寄せたことがあってな。何とかできないかとその者に相談したところ、ドワーフや竜人と協力して三つの試練からなる試練の道を作ってくれたのだ」


アギウスの声色には昔を(なつ)かしむ色が垣間見(かいまみ)える。


「それほど難しい試練ではなかったと思うけど?」

「試練の道に対して資格制限やら、人数制限をしたのだよ。試練の道を作る直前は小さき者が殺到し過ぎて、精霊が姿を消してしまったくらいだった。試練の道に制限をかけ、人の数を減らしたお陰で精霊達も戻ってきてくれたのは、何よりだったな」


「私もその愚かな人々の一人になっていたかもと思うと、複雑な心境ね」

「後ろを向いても前には進めぬ。これから心しておけば良いのではないか?」


「ええ、そうするわ」


火魔法が使えるようになりたいと考えてここに来たシズアは、アギウスの言葉に少しホッとしたような笑みを見せた。


「シズ、話は終わった?そろそろ行く?」


話が途切れたと見たアニスが、シズアに誘いをかける。


「ええ、そうね。早く終わらせてしまいましょう」

「おけ。じゃ、アッシュ、私達行ってくるから」


アッシュに手を振りながら、試練の穴に向けて歩き出そうとするアニス。


バウッ。


「あ、ゴメン。餌をあげなくちゃだね」


しっかりアニスに要求するアッシュなのだった。


火竜アギウスは長生きなので、色々達観してるようです。

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