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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-23. アニスとシズアは火の山に近付く

「何だか、火の山っぽくなって来たね」


周囲を見渡しながらアニスが感想を()らす。


アニスとシズアは朝、竜人族の里ドラゴノウトを後にして、試練の道を火の山に向けて進んでいた。


竜人族の里の近隣には、まだ普段見掛けるような樹々が生えた森があった。

峠を一つ越え、しばらく下ってからまた上りとなり二つ目の峠を越えたあたりから、目に見えて植生が変わってきた。


高い木が減り、ヤシやシダ、ソテツなど熱帯で見るような植物が増えている。

そもそも高いところに進むほどに気温が下がるのが普通なのに、ここは違う。


前の峠より次の峠のほうが高い位置にあるのに、暑くなっているのだ。


「アッシュ、暑くない?」


バウッ。


「そか、大丈夫なら良いけど」


もう少し暑くなったら、風魔法で風を当ててやろうかとアニスは考えた。


そのアニスの方はと言えば、まだそれほど暑さを感じていなかった。

(ほうき)に乗って飛んでいて、身体が温まっていないので当たり前と言える。


「いけない?」


駄目とは言ってませんよ。事実を述べたまでです。


「アニー、どうしたの?」

「いつもウロチョロしてる精霊が、(ほうき)に乗らずに身体を動かせって言うから」


それは言い掛かりではないでしょうか。


「そう?何か非難めいた感じに聞こえたけど」


気のせいですよ。

貴女が楽してアッシュを走らせようが、貴女の自由です。


「そう言う言い方が気になるんだけどね」


捉え方の問題ですよ。

貴女を非難する理由がありません。


「何も感じないってこと?」


そんなことはありません。

貴女達は観察していて面白いです。


「面白い?面白いから私の(そば)にいるってこと?」


傍にいる理由は別ですが、見ていて面白いと傍にいるのが()になりませんね。


以前に会ったことのある土の精霊は、(あり)の巣作りの様子を観察するのが面白くて、年がら年中ずーっと蟻を見続けていましたよ。


「精霊ってそう言うもんなの?」


そう言うものですかね。


「え?アニー、精霊が何?」

「ん?シズが火の精霊と契約したければ、蟻にならないといけないって」


「そうなの?って言うか、どう言うこと?」


曲解(きょっかい)(はなは)だしいから、シズアが混乱してますよ。


「興味を持てば、付いてくるんだって」

「ふーん。で、蟻がどう関係するの?」


「蟻に興味を持つ精霊もいるんだってさ。必ずしも人に興味を持つとは限らないみたい」

「あぁなるほど。まあ、火の精霊には興味を持って貰いたいけど、そのために何か無理するのは嫌ね。(あり)ではないアリのままの自分を気に入って欲しいかな?」


「あっ、シズ、上手い」


他愛のない会話を続けながら、アニス達は前に進んでいく。


箒に(またが)る二人の足下には試練の道が伸びていた。

道とは言っても、最初の峠を越えて以降は、片足の幅ほどの細い筋でしかない。

そうした細い筋のような道は、試練の道以外にも何本も走っている。


それらはすべて獣道なのだろう。

そうした獣道の中で、試練の道が一番太く見える。


「ねぇアニー」

「何?」


「ここには滅多に人が来ないのよね?」

「そだね。竜人族の里からこっちは、試練の道に挑もうと言う人しか来ないって話だったよね。年に数人くらいだっけ?」


竜人族の里の長ドレクから聞いたことを思い出しながら、アニスは答える。


「そんなに通る人が少なかったら、道なんて残らなくない?獣道として使われているとしても、他の獣道よりも太いのはどうしてかな?」

「それは多分だけど、小動物にとって安全な道だからじゃないかな」


アニスは自分が視えている範囲の情報も加味した推測を伝える。


「安全?どうして?」


シズアにはアニスがそう考えた理由が分からない。


「この道には所々に魔物避けの結界が張られているんだよね。だから魔物が近付けない。小動物はそれが分かっていて、なるべく結界が張られた場所を通っているんだと思う。他の獣道が交わっている部分も大体が結界のあるところだしね」


アニスの魔力眼なら結界を捉えられる。

獣道と結界の位置関係が視えていれば、そう推論するのは可能そうだ。


「でも、本当に安全なのかな?」

「どゆこと?」


「だって、小動物はよくそこを使うのよね?それに、獣道のすべてが結界に(おお)われているのでもない。なら、獣道の中でも結界で守られていないところで魔獣が待ち構えるのはできるってことよね」

「うん、そだね。結局は、天敵の存在にいち早く気付けて、逃げ足の速いのが生き残れるんだと思うけど、少なくともこの道を進んでいれば結界は近くにあるんだから、生き延び易いんじゃないかな」


「まあ、そうか。確かにそんな気がするわね。何にしても、私達も魔獣の待ち伏せに気を付けないといけないってことよね」


アニスなら間違うことはない筈だが、それでも念のためにと注意喚起(かんき)を促す言葉を口にした。


「私達は小動物ほど弱くないけどね」


アニスが応じる。

それに待ち伏せに気付けないほど(おろ)かでも無い筈、と続けたかったが控えた。

丁度いま、魔女の力の眼で(とら)えている相手を考えると、魔法だけでは「絶対に気付く」とも言い切れず、悩ましいと思えたからだ。


いや、その悩みは後回しにして、取り敢えず、目先の危険に対処せねば。


「アッシュ、少し下がって」


バウッ。


アニス達の先を進んでいたアッシュだが、指示を受けると素直に下がり、宙を飛んでいる(ほうき)の横に並ぶ。


「アニー、どうかしたの?」


アッシュを単独で先行させないのは、危険が迫った時であることを知っているシズアが心配そうに尋ねた。


(うわさ)をすれば何とやらだよ。シズには分かる?この道の先で待ち伏せしてる奴」

「この先?うーん、もしかして、(つぶ)した団子のように地面が盛り上がってるところ?」


若干、当てずっぽうで答えてみる。


「そそ。巧妙に隠れているから分かり難いけど、カラードジャガーだよ」

「カラードジャガー?カメレオンジャガーとも言われてる?」


「うん、そだよ」


カラードジャガーは大型の猫に似た魔獣だ。光魔法で自分の姿を周囲の景色に埋もれさせて見えなくできる。

その特徴からカメレオンジャガーとも呼ばれる魔獣が、アニス達の進む試練の道の前方、魔物避けの結界の手前の地面に伏せて、獲物が来るのを待ち構えていた。


カラードジャガーの光魔法は自分の身体のごく近くだけ、しかも魔物避けの結界と言う強い魔法の直ぐ傍らであることから、魔術眼ですら認識(にんしき)するのが難しい。地面に伏せて動かずにいるため、風の探知魔法(ウィンドサーチ)にも引っ掛かり難い。


アニスが間違いなく見付けられているのは、魔女の力の眼で生命反応を捉えているからに過ぎない。


「どうやって攻撃しようかなぁ」

「魔法で遠隔攻撃は?」


「カラードジャガーが身を隠すのに使っている光魔法は、魔法攻撃への耐性もあったと思うんだよね。となると、私一人で突っ込むしかないかなぁ」


そう言いながら箒を下ろして地面に降り立つ。


「カラードジャガーの場所が分かり難いと思うから、シズとアッシュはここで待ってて」

「分かったけど、アニー、慎重にね」


バウッ。


二人の声援を受けて、アニスがそろりそろりと前に出る。

カラードジャガーに動きが見えないものの、殺気を()めた視線を感じる。


このまま前に進もうか、どうしようか。

いや、少し試してみよう。


アニスは地面に右手を突き、突いたところに氷魔法の紋様を描く。


「フリーズ」


(てのひら)の先から地面が凍っていき、カラードジャガーが伏せている場所へ凍った部分が到達する。

と、カラードジャガーがパッと横に跳んで立ち上がった。

直接的な魔法攻撃ではなく、冷気を地面に伝わらせればもしやと考えたのだが、そう簡単には凍ってくれないらしい。


仕方がないかとアニスは剣を抜き、カラードジャガーと対峙(たいじ)する。


カラードジャガーが真っ直ぐ自分を見ているのが分かる。

アニスも負けじと見詰め返す。


それからアニスは剣を構え、前傾姿勢を取りながらカラードジャガー目掛けて走り出した。

そして走った勢いも合わせてカラードジャガーに剣を振り下ろす。が、そこでカラードジャガーは前に踏み出し、前脚をアニスの剣の(つか)に当て、押し戻してきた。


そこで無理に剣を押し込もうとすれば、カラードジャガーの前脚の爪で引っ掛かれ兼ねず、アニスは一旦後ろに下がる。


「凄い」


カラードジャガーはC級の魔獣だ。

アニスはこれまで何度もC級の魔獣とは戦ってきているが、目の前のカラードジャガーは、それまで戦って来た魔獣とは戦い方が違う気がする。


闇雲に攻めてこない。

慎重なのか、戦い慣れしているのか。


それでも、魔法を併用して攻撃すれば勝てるだろう。


そう考えたアニスが魔法の発動をしようとしたところで、それまでカラードジャガーから感じていた殺気がフッと消えた。


「え?」


カラードジャガーは光魔法も解除し、黄色()に黒い模様が描かれた(なま)の姿をアニス達の前に(さら)す。

そして、唖然としたままのアニスに背を向けると、その場から走り去ってしまった。


「アニー、逃げちゃったってこと?」

「そだね。勝てないって判断したんだろうな。でも、(いさぎよ)かったなぁ。契約して欲しいくらいに賢いよね」


バウッ。


「えっ?勿論、アッシュの方が賢いってば」


バウッ。


「いや、追い掛けなくって良いよ。でも、匂いを覚えたんなら、今度会ったら分かるよね。また会う時があるかは分からないけど」


アッシュみたいに賢い魔獣は他にもいるのかも知れないと、アニスは思うのだった。


今は火の山を目指しているので、アニスは深追いを避けたのでした。


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