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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-20. アニスとシズアは竜人族の里に向かいたい

アニスとシズアは竜人族の里に向かう山道を歩いていた。


試練の門の二つ目の扉は、ダリアの働きによって(ひら)くことに成功。

そして、その扉の先はドワランデの街の外、試練の門はそれで終わりだった。


その時、目の前にあったのは山に繋がる斜面と、その中を進む山道。

話に聞いていた通り、馬車では進むのは無理なのがひと目でわかる。


「登るのは無理でも、下りは二輪車で行けそうね」


そんなシズアの(つぶや)きがアニスの耳に入って来た。

確かに下り斜面を二輪車で一気に駆け降りるのは、シズアが好みに合いそうだ。

が、同乗は遠慮しておきたいところ。


まあ、今は登りだし、峠を越えたとしてもダリア達を置いて単独行動するとは思えなかったので取り敢えず気にしないことにする。


アニスとシズアはダリア達と共に竜人族の里を目指して登り始めたが、登山に対する適性は、山道を歩き始めて割とすぐに明らかになった。

ダリアとケビンの二人の体力値が低い。


冒険者は普通に依頼や鍛錬(たんれん)を毎日こなしていればある程度の体力は付くものだ。

しかし、ダリアもケビンも旅商人であって冒険者ではない。商売のために動き回ったりするのは良くあっても、登山となると勝手が違ってくる。


最初はアニス達のペースに付いて来ていたダリアとケビンだったが、じきに離されるようになってしまっていた。

負けん気の強いダリアも、ダリアに黙って付いていくと決めているケビンも、どちらも弱音は吐かないものの、明らかに疲労の色が濃い。


そんな二人の様子に、アニスは黙って軽い治癒魔法を掛けてやる。

治癒し過ぎると体力が付かなくなってしまうので、ごく軽く。

これからのことも考えれば、二人には体力を付けて貰った方が良い。しかし、なるべく早く移動したい。それらを何とか両立させたいと考えた末のこと。


アニスが魔法を掛けたことに二人が気付いた様子はない。

でも、顔色は少し良くなり、歩く速度も少し上がった。

疲労が軽くなっても速度を変えずに楽しようとは考えないダリアの姿勢に、アニスの好感度が上がる。


隊列の殿(しんがり)を務めるジャコブも、アニスの魔法には気付いていなさそうだ。

背後から魔獣などに襲われないようにと、周囲の警戒に余念がない。

常にダリア達より一定の間隔を空けて、後ろを付いて来ている。


アニスもシズアも風の探知魔法を使っているが、地面の下から出てくる土モグラなどは探知できず限界がある。だからアニスは魔女の力の眼も使っているが、一人ですべてに注意を向けるのは大変だし、鼻が利く人狼族のジャコブがいてくれるのは心強い。


そんな感じで、アニスと一緒にいるシズアも合わせ、五人はダリアとケビンの歩調に合わせて山道を進む。

その一方で、隊の先頭はその体力を完全に持て余していた。


「うおっ、獲物を発見っ、狩りにいくぞー、アタシに続けーっ」


バウッ。


カーラとアッシュが山道から外れて森の中へと入っていった。

二人、いや一人と一匹の行く先に注意を向けてみると小動物の気配がする。


「アニー、カーラたちは何を追い掛けに行ったの?えーと、(うさぎ)にしては大きいわね」


イアリングに付与した風の探知魔法(ウィンドサーチ)では、大きさは分かっても、それ以上の情報を得るのは難しい。


(いたち)だと思う」


名目上、アニスの方が魔法の熟練度が高く、形や動きまで分かるので対象物が何か推測できることになっている。

いや、それは嘘ではないのだが、アニスは魔女の力の眼も使っている。


魔女の力の眼でも、最初の頃は凄くぼんやりとしか周囲の状況を把握することができなかった。

だが、繰り返し使ううちに練度が上がり、段々と細かい部分まで視えるようになり、遂には色まで区別できるようになってきている。


当然、視える距離の制限はあって、数百メートルを過ぎると段々とぼやけてくるし、1キロ(キロメートル)を越えると生体反応を捉えるのがやっとになる。

サラによれば遠くでも詳細に視る(すべ)もあるそうだが、アニスはまだ教えて貰えていない。


「ただでさえ過ぎた力だ。まずは今の状態で他人に力のことを気取(けど)られないよう振舞う(すべ)を身に付けろ」


力の使い方をもっと教えて欲しいとアニスが願った時のサラの言葉だ。


魔女の力は、黒魔獣や魔導国にいる邪神の使徒と戦うための物であって、魔獣や人に向けてはいけない。だから日頃は使わないに越したことはないのだが、とも。


しかし、黒魔獣はいつどこに現れるか分からない。それに黒魔獣には魔法を打ち消す力が働いているために魔法では探知できない。

魔女の力を魔力に変換して行使した探索魔法では探知できるが、それなら魔女の力の眼を使うのと大差が無い。


だからサラも絶対に使うなとは言わなかった。

使うにしても他人に知られることが無いように、それがサラの妥協点なのだ。


アニスもそれは理解しているので、サラの言葉に逆らうようなことはしていない。

今も、魔女の力の眼でははっきり(いたち)であることは分かっていたが、わざと曖昧(あいまい)な表現を使っている。


「鼬って、またすばしっこいのを獲物に選んだわね。捕まえるのに時間が掛かりそう」

「それで沢山走り回れるんだから、カーラ達には丁度良いんだよ」


アニスは試練の門を出たところでアッシュを召喚してダリア達に紹介した。

カーラに紹介したのもその時なのだが、二人、ではなくて一人と一匹はやけに気が合った。

その上、互いに相手の考えが分かるらしい。


アッシュと意志疎通ができるのは自分だけだと考えていたアニスは、自分だけではないと知って少し寂しい気分になったものの、一緒に楽しそうに獲物を追い掛ける姿を見てからは良い出会いだったのだと思えるようになった。


カーラは身体を動かすのが好きそうだし、素直な性格だ。

成人したての十五歳。二つ年上にしては無邪気だよなと思うアニスにしても、他人(ひと)のことを言えた義理ではない。


そんなカーラとアッシュが分かり合えている理由は謎。

アッシュの方は言語魔法の色が少し見えるので、それのお蔭だろうが、カーラの得意属性は火属性のみ。

人狼族固有の特技なのか。でも、ジャコブにはアッシュの気持ちが分かっているようには見えない。うむ、やっぱり良く分からない。


ともかくも、カーラとアッシュは連携して上手い具合に(いたち)を追い詰め、見事に仕留めた。

そして、カーラが片手で(いたち)の後ろ脚を持ってぶら下げながら、意気揚々とアニス達のところへと戻ってくる。


「これ、ご飯のおかずにしよっか」


皆の前に獲物を掲げてみせるカーラ。


「いや、アッシュにあげるでお願い」


(いたち)は前に食べている。あまりアニス好みの味ではなかった記憶があった。


「あ、そ。そう言われちゃったけど、アッシュ食べる?」


バウッ。


「ふーん、素直だね。その時はアタシも一緒に食べよっかな」


バウッ。


「うん、そう。アタシ達は仲間だからね」


嬉しそうに微笑み合うカーラとアッシュ。

やはり話が通じている。


最初、ダリアの良く分からない理屈で商会の傘下に入れることになった時は、この先どうなるかと不安を覚えていた。でも、こうして接してみた結果、何となく良い方向に向かいそうに思えてきている。


このまま順調に竜人族の里まで行ければだけど、と思うアニス。

その期待とは裏腹に、先程から気になる動きが視えている。


「ねぇアニー」


シズアが心配そうにアニスを見る。


「うん、分かってる」


アニスが頷く。


「何の話?」


話が見えないダリアが尋ねてきた。


「大きいのがね、移動してるんだ。まだ遠いんだけど」

「大きいのって?」


「良く分からないんだけど、多分、地竜」


アニス達の位置から1キロ以上離れているので、実のところ定かではない。

でも、形と言い、動き方と言い、地竜だろうと想像される。


「地竜、狩りに行くっ」


バウッ。


「駄目だ。準備もなしにB級魔獣に挑もうとするな」

「ふぁーい」


バウッ。


ジャコブに(たしな)められて、しょげるカーラとアッシュ。


「それで、そいつはこっちに向かっているのか?」


問われたアニスとシズアは首を横に振る。


「今のまま行けば、この道を横切るけど、それはもっとずっと上の方だから私達は大丈夫。ただ、私達の前にいるパーティーがぶつかりそうなんだよね。気が付いている様子がなくって」


ここにいるシズアが気付いているように、探知魔法を使っていれば見逃す筈がないのだ。

そして、地竜と分かれば急いで避難しそうなものなのだが、その動きが見えない。

となると、地竜の存在に気付いていない可能性が高い。


「今から伝えに行って間に合うのか?この上なんだよな?」


ジャコブが斜面の上を仰ぎ見る。

樹々が沢山立ち並んでいるため、肉眼では地竜も先行しているパーティーも確認できない。


「アタシが行こうか?」

「いや、カーラの足でも間に合わないよ。私の方がもっと速く移動できるから私が行って来る。カーラはシズ達を守ってて。地竜の位置はシズが把握してるから、シズの指示に従ってね」


アニスはカーラを引き留めながら、自分の(ほうき)を取り出した。


「アニス、貴女箒なんて出してどうするつもり?」

「ん?これには風の飛行魔法(フライ)が付与されてるから、これに乗って飛んでく」


箒に跨ったアニスが魔力を籠めると箒が浮き、そのままアニスが箒を前に飛ばすと直ぐに見えなくなった。


「えっ、何?もしかして、貴女達が最初からあれに乗っていたら、あっという間に竜人族の里に着いていたってこと?」


いなくなったアニスの代わりにシズアに詰め寄るダリア。


「ええ、まあ、そうなるかな」

「貴女達、推進板について(かたく)なだったから、もっとずっと利己的で計算高いと思ってんだけど、私達に付き合って歩いていこうと考えるなんて、想像以上にお人好しなのね」


「え、ああ、どうも」


()められている状況の(わり)には、怒られているような気がしないでもない。


「それに何?飛行魔法の付与とか聞いたことが無いんだけど。貴女達、どれだけ隠し玉を持っているのよ」

「それは言えないと言うか」


「そうよ。秘密なんだから人には言えない物なのよ。でも、だったら見せびらかすような真似をしないようにしなさいよ」

「そ、そうします」


実際に(ほうき)を持ち出したのはアニスであって、シズアもアニスを止められなかったという点では同罪とも言えるにせよ、どうして今、自分だけがダリアのお説教をくらっているのだろうかと途方に暮れるシズア。


一方のダリアは、言いたいことを言い終えてスッキリしたか、両手を腰に当てたまま身体を起こして胸を張る。

そして、ホッと溜息を一つ。


「まったく危なっかしくて、目が離せないわ、もう」


そう言うダリアも結構お人好しなんだね、とシズアは思うのだった。


ダリアはお人好しと言うか、この集団の中では苦労性なのではないかと思います。


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