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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-15. アニスとシズアは試練の道に進みたい

「カマール様、お二人をお連れしました」


ドワーフ族の執事が扉を叩いてから声を上げると、扉の向こうから「通しなさい」と返事があった。


アニスとシズアは、目の前の扉の向こうがどんな場所なのかを知らない。

先程の部屋で二人が話しているところにやってきた執事は「辺境伯様がお呼びです」としか口にしなかった。

貴族の屋敷での勝手が分からないアニス達は、執事に対して何処へ行くのか尋ねて良いのかも分からず、大人しく付いて来たのだ。


だが、それも直ぐに分かる。


返事を聞いた執事は扉を開け、アニスとシズアに中へ入るようにと腕を振って示した。

促されるままに、足を踏み入れる二人。


そこは広々とした部屋だった。窓枠や調度品に施されている装飾は先程の部屋と似ていたが、こちらの方が物が少ない。

扉から入った手前にテーブルとソファ、その奥に執務机があるだけだ。執務机の後ろには大きな窓が並んでいる。


左右の壁は一面が作り付けの棚。

棚に並べられた物の多くは書物だが、一部に酒瓶やグラス、あるいは木彫りの置物が置かれていたりもする。


執事が部屋に入らず扉を閉めてしまったため、アニスとシズアは戸惑いつつ扉の前で立っていた。

二人の他には執務机にいるドワーフ族の男性が一人。執事にカマール様と呼ばれていたので、この男性が辺境伯のカマール・トラファードなのだろう。


ドワーフ族の割に背が高いなと思ってよく見ると、執務机の裏側に段が見える。なるほど、床を高くしているのだ。


男性は手にしていたペンをペン立てに戻すと、顔を上げてアニス達に目を向けた。


「君達が試練の道に挑もうと言う冒険者なのだね?」

「はい」


アニスとシズアは声を揃えて返事をする。

そんな二人の様子を見て、カマールの口元が綻んだ。


「君達のことは話に聞いているよ。黒魔獣に遭遇した冒険者達の救出、漆黒ダンジョンの探索に消滅までの見張りと最後まで協力してくれたと。一日も早く試練の道に進みたかったろうに、偉いんだな」

「いえ、私達は黒魔獣も漆黒ダンジョンも初めてだったので、どんな物なのか興味があっただけです」

「漆黒ダンジョンが消えるところを見たかったと言うのもあります。結局、眠ってしまいましたけど」


「ふむ、結構な好奇心を持ち合わせていると言うことかな。面白いな、君達は」


微笑みながらカマールは席を立ち、段から降りて執務机の前にあるソファのところまでやってきた。


「そこに座り給え。話をしよう」


カマールが腕で指し示したソファにアニスとシズアが座ると、カマールはその向かい側に腰を下ろし、優しそうな目で二人を見る。


「さて、試練の道についてだが、その前にこれを返しておこうか」


カマールは手にしていた封筒をアニス達の目の前のテーブルの上に置いた。

アニスがそれを手に取って見る。

先日役所で渡した試練の道の案内状だ。


「その案内状には私が署名(サイン)をしておいた。最初の試練の入口でそれを見せると良い」

「ありがとうございます」


「あの、最初のと言われるからには試練は幾つかあると思うのですけど、実際に幾つの試練があるのですか?」


案内状を仕舞うアニスの横で、口を開いたのはシズア。


「そうだな。試練と言われているものは全部で三つだ。だが、問題なのは試練ではなく、道中に現れる魔獣の方だと思うよ。試練は一定の規則(ルール)の中で行われるが、知能の低い魔獣は本能の赴くままに襲い掛かって来るからね。そうしたことから、貴族が試練を受ける際には、大勢の護衛を引き連れて行くもんだが、君達は二人だけで行くつもりなのか?」


逆に問われ、アニスとシズアは顔を見合わせるが、互いに微笑み合うとそのまま前を向いた。


「ええ、そのつもりです」

「私達、ずっと二人で戦って来たからね」


「そうか。ならそうすれば良い」


カマールは軽く頷くと、姿勢を変え、テーブルの上で両手を組んだ。


「それで最初の試練だが。試練の道の入口にある門を開けることだ。門の先には竜人族の里に続く道がある。そこに行けば第二の試練を受けられるし、それに合格すれば通行証が貰える。通行証があれば、試練の門を通ること無く竜人族の里と自由に行き来できるようになる」


「試練の門は何処にあるのですか?」


シズアの問いに、前屈みになっていたカマールは身体を起こして、ソファの肘掛けに両腕を乗せた。


「それに答える前に、軽く試験をさせて貰えるか?なに、大して難しいものではないし、第一の試練を受けるための心構えにもなるだろう」

「はい、何でしょうか?」


自分達はお願いする側の立場だ、試験と言われて拒否できるものでもなく、素直に聞く姿勢になる。


「これから問題を話すから、考えて答えて欲しい。君達二人のどちらが回答してくれても構わない。良いかね?」

「お願いします」


「うむ、よろしい」


カマールはにこやかに微笑むと、右手を上げて指を一本立てた。


「一つ目の問題。ある所に羊を育てている親子がいた。彼らは十頭の(ひつじ)と、一頭の牧羊犬を飼っていた。羊は昼間、放牧に出していて、夕方に牧舎に戻す。羊を牧舎に戻すのは牧羊犬の役目だったんだが、この牧羊犬は年を取っていてね、すべての羊を牧舎に戻せるとは限らないし、一度羊を追い立てて牧舎に戻す仕事をすると疲れてしまい、その日は動けなくなってしまうんだ。それで父親は、牧羊犬が戻って来た時に、牧舎にいる羊の数を数えて鐘で鳴らすことにした。鐘の数を確認し、必要に応じて息子は羊を追い立てに出掛けるんだ。良いかね?」

「はい」


つまりは、戻って来ている羊の数だけ鐘が鳴るということだ。


「では、鐘の間隔が三秒として、戻って来た羊が丁度半数だと息子が知るのは鐘が鳴り始めてから何秒後だろうか?」

「六つ目の鐘が鳴るかを確認しないといけないので、十五秒後ですね」


「なら、羊がすべて戻って来ていたと知るのは何秒後かね?」

「十番目の鐘が鳴った瞬間に分かるので、二十七秒後です」


シズアは即答した。


「あー、そう言うことかぁ」


アニスはシズアの答えで問題の意図が分かったらしい。


「うむ、良いね」


そこでカマールはもう一本指を立てた。


「二つ目の問題だ。商人の男がいた。その男は絵画の蒐集(しゅうしゅう)が趣味で、金が貯まると新しい絵画を手に入れていた。中には怪しい手段で入手したものが含まれていたらしい。そんな中、その男が事故で死んでしまう。男には二人の息子がいたが、二人共負けず嫌いでよく競い合っていた。男が死んで、息子達は残された絵画を分配しようとするが、素性の怪しい絵画があることは男から聞いて知っていたので、鑑定家に見せることができない。どうすれば二人共が満足いくように絵画を分けることができるだろうか」


「えー?じゃんけんして勝った方から順番に欲しい物を取っていくとか?」


アニスが首を傾げながら、思い付いたことを口にする。


「それだと負けた方に不公平感が残るでしょうね」

「そだけどさぁ。そんな公平に分けることってできるの?」


「客観的に公平である必要は無いのよ。互いに相手に負けたとさえ思わない結果になれば十分ってこと」


シズアの説明に、アニスはキョトンとした顔になる。


「えっ、シズはどうすれば良いか分かってるの?」


アニスに問われたシズアは、顔色を変えずに答えた。


「この場合は、どちらかに分けさせてしまえば良いのよ。例えば、弟の方に満足のいくように分けさせるの。そうして二つに分けられたどちらを取るのかをもう片方、つまり兄に選ばせれば、兄は満足だし、弟も自分が分けたから文句はないわよね?」

「うーん、そか。そだね」

「その通りだ。良く分かっているようだな」


感心するアニスにカマールも同意を示す。


「では、最後の問題。幅が100m(メートル)ある川があった。その川は流れが強く、技術的な問題から斜めに橋が掛けられない。つまり、川の流れに垂直か、川の流れの向きにしか橋が掛けられないと言うことだ。そんな川を挟んで二つの街があった。一つの街はもう一つの街の対岸の300m(メートル)下流にある。その二つの街が協力して川に橋を架けることにした。両方の街の代表者が工事屋に頼みに行ったのだが、その際、二つの街を最短経路で結ぶ橋にして欲しいと頼んだんだ。そして工事屋は、その要望を満たす橋を架けた。いったい、どんな橋を架けたのだろうか」


「ねぇ、シズ。川幅が100mで片方の街が300m下流だと、最短経路って川の流れに対して斜めになるよね?」

「そうね」


「でも、川の流れに対して斜めに橋は架けられないって言ってたよね?それでどうやって最短経路の橋を架けられるのかな?」


アニスには二つのことが矛盾しているように思えて混乱していた。


「アニー、これは思考の訓練なのよ。現実に囚われ過ぎてはいけないの。橋は川の流れに対して垂直に架けるしかない。その上で最短経路で進めるようにしたいのなら、橋の幅を300mにすれば良いのよ」

「は?100m幅の川に300m幅の橋?それ無駄に大きいよね?」


と、カマールを見ると、にこにこと微笑んでいる。どうやら正解らしい。


「えっ、何?最初の試練ってそう言うものだってこと?」

「そうみたいね。中々楽しそうとは思わない?」


不敵な笑みをしてみせるシズアに対し、自分の手には余りそうだなと思うアニスだった。


戦いならアニスですが、考えることはシズアの方に軍配が上がるようです。


しかし、ようやく試練の道の話に入りましたね。もう15話目なのですけれど...。


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