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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-14. アニスはシズアの思惑を知りたい

漆黒ダンジョンが消えていることが確認された日の翌日、アニスとシズアは辺境伯の館に来ていた。


黒魔獣との戦いでシズアもC級への昇級要件を満たしたことから、意気揚々と役所に出向いたのが前日のこと。そこで、こちらを訪れるようにと案内され、一日待つこととなった。


館に入った二人は、応接間のような部屋に案内された。

もしかしたら控室なのかも知れないが、貴族の屋敷にすることなど滅多にないので区別がつかない。

何にしても貴族らしく。豪華な部屋だ。

ただ、ザイアス子爵の屋敷とは少し趣が異なっている。


「何ていうか、(おごそ)かな感じね」


シズアが感想を漏らす。

それを聞いたアニスも同意見だった。

金銀で飾り立てたような派手さはなく、そういう意味では質素なのだが、一つ一つの物が丁寧に作られている。扉や窓枠、テーブルやソファから絵の額縁や燭台まで、すべてに細かい細工が施されている。


綺羅(きら)びやかな装飾は控えめでありながら、細工の意匠には統一感があり、それがために貴族らしい高級感を漂わせつつも、落ち着きのある空間となっていた。


「上品だよね。あと、職人の心意気が伺える気がする」

「そうね。皆、細工も手が込んでいるものね。この格好でソファに座って良いのか悩むわね」


二人は、いつもの冒険者の格好でいる。

服装について役所で訪ねたところ、いつも通りで構わないと言われたためだが、この場の雰囲気にそぐわない気がしないでもない。


「それは気にしても仕方ないよ」


そう言うと、アニスは率先してソファに座ってみせる。


「アニーの言う通りかも知れないわね」


シズアもそれに続く。

ただ、落ち着かないことには変わりがない。


「辺境伯様(みずか)らが話したいことってどんなことなのかなぁ?」

「役所の人は、黒魔獣や漆黒ダンジョンのことも知りたがってたって言ってたわよね。そっちのことで何か聞かれるのかな?」


「うーん、聞かれても、答えられるか分からないよね。漆黒ダンジョンを消したのは私達ではないし」

「まぁ、それはそうね」


正確には、アニスは見物していたのだが、消したのは自分ではないので、嘘は言ってないよなと心の中で確認する。


「結局あの晩はダントンも含めて皆寝てしまったのよね。起きたら、アニーと一緒に毛布の中でくるまっていて驚いたわ」

「あれ、シズが先に寝ちゃったんだよ。私も眠くてテントまで行く気になれなくて、その場で毛布だけ出したんだよね」


「お陰で風邪をひかなかったから助かったわ。ダントンは鼻水を垂らしていたものね」


そう、ダントンの世話までしていると不自然に思われそうで、申し訳ないと思いながらもアニスはダントンを放置した。

なので、朝、鼻水を垂らしていたダントンに治癒魔法を掛けて治してあげている。


「ダントンは運が悪かったよね」

「そうね。でも、私達が見張りしてる最中に寝てしまったのは、あの人が来て眠らせたからよね。でなければ全員が寝てしまうとかあり得ないし」


「そだね」


実は一人起きていたとは言えず、気不味く相槌を打つアニス。


「あの時、探知魔法を発動させてたのに引っ掛からなかったのよね。探知魔法に引っ掛からない魔法を知ってたのかな」

「そうとしか考えられないよね」


サラは魔女の力を使ったのだろうけど、それも魔法の一種と言えなくもない筈。


「眠気に負けなければ話ができてたのにな。まあ、手紙は受け取ってくれたみたいだから、それで良しとするしかないわね」

「それでも良いんだ?」


「もし読めてなかったら、そこら辺に投げ捨ててるわよ。わざわざ持ち帰ったのは、中身が読めたからと思うのよね」


なるほど、そういう解釈になるのかとアニスは気付かされた。


「なら、もしかしたら、後になってシズに連絡が来たりするかも知れないね」


いずれ話をすると言っていたサラの言葉を直接伝えられないにしても、希望を持たせるくらいは構わないだろう。


そんなアニスの言葉にシズアは静かに笑みを浮かべた。


「そうね。そうなると良いわね」


あれ?と想像と少し違う反応に、アニスは戸惑う。

シズアの物憂げな笑みに(かげ)りが混じっているようにも感じるのは、どうしてだろうか。

気になる。


「ねぇ、シズはどんな話をするつもりだったの?」


シズアはアニスを見て、片方の眉を上げた。


「そうね。どうしたいと思っているのか、かな?」

「どうしたいって、何を?」


「何を、も含めて知りたいのよね」


良く分からない。

アニスが首を傾げてみせると、シズアがさらに続けた。


「私は悪女を目指しているのは知ってるわよね。で、私の目指す悪女は、裏で世の中の動きを操る存在なの。そのためには何がしかの大きな力を行使する。魔法の力かも知れないし、お金の力かも知れないし、或いは大勢の仲間の力かも知れない。何にしても、それらの大きな力を駆使して世の中を動かせば、いくら陰でと言っても、その動きを操っている人の影がチラつくものよ。そうでなくても、何か不自然に思えることがある。そこまでは良い?」


「まぁそれは何となく分かるけど、正直、シズの話がどこに行こうとしているかが分からないよ」


困惑顔のアニスに、シズアは目尻を下げる。


「ねぇアニー。漆黒ダンジョンを消す魔法ってどんなものか想像が付く?」


いきなり話題が変わった。

問いの意図が分からず、どう答えた物か悩む。


アニスは魔女の力を知っているが、シズアはそうではない。

ならば、魔法を使う前提と考えるのが自然に思える。

だとしたら、何の魔法と言えば良い?


「時空魔法かな?」


十柱のうち、そもそも空間への干渉力があるのはラウツァイア神の司る時空魔法くらいではなかったか。


「あ、深淵魔法もあるか」


闇魔法の上位である深淵魔法にも、奈落と呼ばれる異空間に通じる穴を開ける魔法があることが頭に浮かんだ。


「そうね。でも、きっと、どちらでもないのよ」

「へ?」


魔法を使う話と考えていたが、違う?


「どっちでもないって、どういうこと?」

「アニーも父さん達から聞いたこと覚えてない?黒魔獣に魔法が通じないのと同じように、漆黒ダンジョンの中では魔法が発動しないってこと」


「えー、あー、そだったっけ。ごめん、忘れてた」


アニスは頭を掻いてみせた。

サラから聞かされたことの印象が強くて、その前に両親から何を言われていたのか、正直頭から抜けていたのだ。


「まったく、アニーってば仕方が無いわね。ともかく、漆黒ダンジョンには魔法が通用しない。なら、漆黒ダンジョンを魔法で消そうとしても、消せないと思うのよね」

「確かにそうかもしれないけど」


魔女の力の話になってしまうのだろうかと、アニスは身構える。


「常識的にはね」

「はい?」


「私は魔法のことをすべて知っている訳ではないから、もしかしたら特殊な方法で魔法が効くのかも知れないし、魔法以外の方法があるのかも知れない。私はそれが何かを追及したいのではなくて、そうしたことができる人がいるのが確実だろうと言いたいのよ」

「うん、それで?」


どうやら魔女の力の方には話がいかずに済みそうで、密かに胸をなでおろす。


「その人は、普通にできないことができる。それって大きな力を持っているってことなのよ。ね、分かる?大きな力が行使できる。私が最初に言った悪女になるための条件を満たしているのよ」

「力を持っているってだけでは、女かどうかは分からないけどね。ただ、ダントンは女の人だって言ってたか」


「まあ、もしかしたら魔女的な男の人かも知れないけど、そこは大きな問題ではないのよ。それだけの力を持った人が何も考えず何もしていないとは私には考え難いの。でも、そうした人が何かをしている噂を聞いたことがないでしょう?ザイアスやザイナッハだけでなくて、パルナムみたいな大きな街でもね。ダントンは何か知っていそうに思えるけど、その人の本来の目的を知っているのかどうかは怪しそうだったわ」


アニスにはそれは当然なことのように思えた。

魔女仲間のアニスですら、サラから目的のような物を聞いたことが無い。


「目的ってあるのかな?」

「だから私はあると思っているし、それを聞いてみたいのよ。そして、私と利害が一致するなら、一緒に何かをするのもアリね」


「一緒にって、その人達と対等な関係になるつもりなの?」

「ええ、ただそのためには私もそれに見合う何かを持たないといけないのよね。私に何ができれば良いのか、その人の目的を聞いて良い知恵が思い付ければって考えてるわ」


「いや、シズ、凄い」


かつてサラに一方的に助力を依頼した自分とは違い、シズアの志は何て高いのだろうと感心しきりのアニスだったが、先程のシズアの物憂げな表情のことは既に頭から抜けていた。


考えてみるに、以前のアニスはサラに対してかなり図々しかったですね。



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