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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-11. 間話・カマールは内輪で相談したい

王国内のドワーフ族の地、ドワファラード辺境区を治めるドワファラード辺境伯は、ドワーフ族の族長が拝命(はいめい)する習わしになっていた。


通常であれば、辺境伯と言えど任命権は王国の王にある。

だがドワファラード辺境伯について、王が自らの意思で選んだことはない。

ドワーフ族の族長会議が王に進言し、王がそれを追認する形で辺境伯を任命してきた。


その習わしに従って、現在ドワファラード辺境伯を名乗っているのはカマール・トラファード。

理知的で温厚な性格であり、同族達からの信頼も厚い。


そのカマール・トラファードは、夜もとうに更けている中、自らの執務室にてドライエフ魔具工房のマーシャと向き合う形でソファに座っていた。


そんな時、いきなり執務室の扉が勢い良く開かれる。


「カマール、何があった?俺は黒魔獣のことで忙しいんだが、来てやったぞ。あん?おばばも呼ばれてたのか」


冒険者ギルドのギルマスであるダントンは、マーシャの姿を認めると返事を待たずにその隣へドスンと腰掛けた。


「どうしてアタシが呼ばれたのか、まだ教えて貰えてないんだよ」

「そうか。それでカマール、他にも誰か呼んでいるのか?」


ダントンに視線を向けられたカマールは首を横に振る。


「二人共、夜分遅くに済まない。早いうちに話したいことがあったんだ」

「何だ、厄介事か?」


カマールの方に身体を乗り出すダントン。


「そうだな。厄介事になるかも知れないし、ならないかも知れない」

「何だ、それは?どちらかハッキリしないのか?」


「そう、ハッキリさせたいんだ。だから君達と相談しようと思った」

「分かった。なら、まず話を聞かせて貰おうか」


ダントンは座り直して話を聞く姿勢になる。

そんなダントンにカマールは微笑んでみせた。


「では、まずダントンの関連から始めようか。先程、冒険者ギルドから黒魔獣の群れの出現についての報告書が届いたので読んだ。黒魔獣の群れに遭遇し、その後の消息が不明になった冒険者達の捜索に、未成年の少女二人の冒険者を派遣したとあるが、何故この二人を選んだ?」


「一番足が速かったからだよ。驚いたことに、奴らは飛行魔法を付与した(ほうき)に乗って飛んで行ったからな。あれなら例え黒魔獣に追い掛けられようが余裕で逃げ切れたさ。それに地上を行くよりも安全だろう?」

「そうだな。偵察だけに徹していればな」


カマールは真面目な表情で、含みのある言い回しを選んだ。

それに気付いたダントンが、片方の眉を上げる。


「二人が黒魔獣と戦ったことを言いたいのか?それは彼奴等の判断だよな?」

「そうか?あれはギルド依頼だとあるが?依頼は冒険者の救出と漆黒ダンジョンの探索とあるぞ」


「い、いやぁ、救出のための偵察だって。まぁそれでも実力は確認していたぞ。C級相当だって言うから出したんだ」


ダントンはカマールの静かな迫力に気圧されて、言い訳気味に反論する。


「C級の昇級要件は満たしてるのか?」

「一人はな。それに奴等は、試練の道の案内状を持っていたんだ。だからそう判断しても悪くないよな?」


「そうだ、悪くはない。実力を確認する意味ではな。だが、案内状を渡したものが後ろにいるとは思わなかったのか?」

「どうせ、どこかの貴族が物好きで渡しただけだろう?カマールは辺境伯なんだから、心配ないさ。って、ん?もしかして」


ダントンはカマールの表情から風向きがよろしくなさそうだと感じ取った。

そんなダントンの目の前に、カマールは一通の封書を持ち出してみせる。


「何だ、それは?」

「これは今日届いたものだ。使者が引ったくりにあって、危うく盗まれてしまうところだったが、通り掛かった冒険者に取り返して貰えたらしい」


「運が良い奴だな。ってか、そいつはわざわざそんなこと報告してきたのか?」

「やってきた使者がへとへとになって肩紐の切れた鞄を抱えていたのを見た門番が、不思議に思って尋ねたらしい。助けてくれたのは(ちゅう)を飛ぶ短剣を持った少女の冒険者だったそうだが」

「宙を飛ぶ短剣?そんな物があるのか?」


ダントンは不思議そうな表情で首を傾げた。


「ギルドの報告書にも書いてあったと思うんだが。双剣を飛ばして黒魔獣を倒したと」

「飛ばしてって、投げたってことじゃないのか?」


「そいつは魔双剣のことだよ」


それまで黙っていたマーシャが話に割り込んだ。


「魔双剣?それって前におばばの工房で試作してた奴か?ずっと未完成じゃなかったか?」

「そうだ。それのことだ」


「へー、凄いな。遂に完成させたのか。だが、それをどうして娘っ子達が持ってるんだ?D級どころか、C級でも中々手が出ない額だよな?」

「アタシがくれてやったのさ。ちょっとした記念にな」


「ふーん、そうか。あの娘っ子達はおばばの知り合いだったんだ。奇遇だな」


ダントンは、素直に感心する。


「奇遇ついでに、この文書のことに話を戻しても良いか?」

「そりゃ構わないが、何故ついでなんだ?」


「これを読み上げてみて貰えるか?」


問われたことには答えず、カマールは封筒から中身を取り出して差し出した。

受け取ったダントンは、紙を広げて口に出して読み上げる。


「『秋の実りの季節が近付く今日この頃、貴殿におかれては壮健にお過ごしのことと思う。領地の畑には害虫が湧いたりしていないだろうか。十分に注意されるのが幸いに通じるのだと固く信じている』」


と、ダントンは顔を上げてカマールを見た。


「何で害虫の話なんだ?」

「牽制か、忠告か、そんなところだろう。『お前のところに政敵から何か言って来てないか』とな。それよりも、先を読んでくれないか?」


「あぁ。『さて、この度ザイアス出身の冒険者、アニスとシズアに試練の道の案内状を授けることとした。よろしくお取り計らいいただきたく願う。ラ・フロンティーナ・ダイナ・ラフォニア』はぁ?」


ダントンは、今度は口を開けたままカマールを見る。


「第一王女自ら授けただと?誰だ、アニスとシズアって?」

「その名前は君のところからの報告書にも書いてあっと思うんだが。君が救出に向かわせた二人組の冒険者の名前だよ。先程も、彼女達が試練の道の案内状を持っていたと言っていただろう?」


「あー、そうだな。ただ、どうにも頭の中で結び付かなんだよな。報告書の方はケイトに任せてるし」

「うむ。そうなると、この場にいるべきはケイトになるか。君がケイトを冒険者ギルドのギルマスに推薦するってことで良いな?」


「い、いや、ちょっと待った。えっ、俺、ここで解任されちゃうの?それは少し気が早いんじゃないのか?」

「そうか。ならば試験をしよう。見事答えを当てられれば残留、当てられなければケイトと交代だ」


「えーと、何で俺、試される立場になっているんだ?まぁ、良いや。問題って何だ?」


最早諦めの境地に立ったらしいダントンが、カマールを促す。


「その手紙に書いてあることの中で、これまでの会話に出ていない注意すべき点があるんだが。それが何か分かるか?」

「今、話してないことだよな?うーん、と、ザイアス、か?」


若干自信なさげにカマールのことを上目遣いに見上げるダントン。


「おめでとう。ギリギリ合格と言うところだな。それで、どうしてザイアスに注意しなければならないのか、覚えているか?」

「えっ、まだ試験が続いているのか?」


「いや、違う。お望みならそうしてやっても良いが」

「遠慮しておく。で、ザイアスってどこだ?」


「王国の北西部にある精霊の森の入口にある街だと言えば分かるか?」

「あぁそうか。そう言われれば、流石に俺でも分かるぞ。しかし、王族かと思えば、そっちの話か。えっ、もしかして、第一王女はあいつらと手を組むつもりか?」


ダントンは両手を膝の上に乗せ、興奮気味に前屈みになる。


「そこのところについて、大伯母さんから意見を貰いたいところなんだ」

「いくらはねっかえりの姫様と言っても、分別はある御方だ。自分から手を出そうとはしないだろうさ。それにあの女達が王国に関わろうとするとも思えない。大方、ザイアス子爵が第一王女に庇護を求めたのではないかい?最近、各派閥があそこにちょっかい出していたみたいだからね。アニスとシズアが子爵の使者としてパルナムを訪れたのだとしても、アタシは驚かないよ」


「確かに大伯母さんの見立てが正しそうな気がする。であれば、第一王女の動きについては、我々としては傍観していれば良さそうだね。ただ、二人の少女の冒険者達をどう扱うかの話は残るが。厄介事を避けるなら、さっさと試練の道に挑ませるように促すか?」


カマールが顎に手を当てて思案するが、ダントンは首を横に振った。


「あいつら、漆黒ダンジョン探しに参加する気満々だったぞ。試練の道の話は漆黒ダンジョンのことが片付いてからでも良いんじゃないか?」

「そうなのか。まあ、冒険者相手にこちらの都合を押し付けても面倒なことになりそうな気もするし、こちらはいつでも試練の道へ進んで貰えるよう準備だけしておくことにするよ」


「で、結局、あいつらの方は第一王女の件とは無関係ってことだよな?漆黒ダンジョンはいつも通りの対処で行くぞ?」


話の行き先が見えたダントンは、腕を組みながら今後の対応について確認した。


「そうさね。漆黒ダンジョンは発見次第、いつも通りに冒険者ギルドの連絡網で共有するのが良いだろうさね。ダントン、そっちの方はお前さんに任せて問題ないかい?」

「ああ、ケイトが冒険者達に声を掛けてくれているからな」


自信満々で返事をするダントン。

そこにマーシャがぽつりと(こぼ)す。


「やっぱりケイトをギルマスにした方が話が早いかね」


「おばばまでそんなこと言うのかよ」


どこまでが冗談か分からないマーシャの言葉に焦るダントンだった。


マーシャはカマールの奥さんのお爺さんのお姉さんにあたりますので、大伯母さんと呼ばれているんですね。


ダントンがおばばと呼んでいるのは、単にマーシャが長老格だからです。


あと、ダントンが「あいつら」言っているのは、勿論、魔女のことになります。


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