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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-10. アニスとシズアは救出を成し遂げたい

時は少しだけ遡る。


Dランクパーティー山燕(やまつばめ)のリーダー、ローウッドは、土の壁の中でどうしたものかと考えていた。


山燕は、パルナム近郊の街ユミルの出身者で構成された五人組の冒険者パーティーだ。

これまではユミルやパルナムを中心に活動していたのだが、最年少のエバが十五歳の成人を迎えたことを機に修練の旅に出ることにした。


それで最初に目指したのがドワーフ族の街であるドワランデ。職人の街とも呼ばれたドワランデに行けば、良い装備を格安で入手できると聞いていたことに()る。

これまでに蓄えた金で装備を新しくする。それが冒険者パーティーの新たな門出にふさわしいことだと考えた。


西の森に来たのは、昇級に必要なC級魔獣の討伐も念頭にはあったものの、手に入れた新しい装備をいち早く実戦で試してみたかったからだ。


だが不運なことに、遭遇したのは黒魔獣の群れ。

大きさとしてはC級相当だが、魔法が効かないので討伐難易度は上がる。

更に、探索魔法に引っ掛からないことから、不意打ちを受けることも良くあるのだ。


山燕にとって幸いだったのは、猫人族で人一倍危機察知能力が高いサーシャがいたこと。

耳の良い彼女が何かが近付いて来ると言ったのでパーティーの全員が辺りを警戒していた。


風の探知魔法(ウィンドサーチ)が使えるローウッドも、魔法では何も見付からないのにと首を傾げながらもサーシャの言葉を信じて周囲を見回す。すると、森の木々の向こうから何やら黒い獣らしきものが近寄って来ているのに気付いた。


眼で見えるのに、探知魔法では視えない存在がいることは、かつてローウッドも聞いたことがある

それが何であったかは覚えていないが、確か魔法が一切効かなかった筈。

つまり、いざ戦いになった時、純粋に剣の腕が問われる相手。


今の自分達の手には余りそうだと思い至ったローウッドの判断は速かった。


「トビー、大急ぎで冒険者ギルドに行ってくれ。魔法の効かない黒い獣が出たと伝えて欲しい」


だが、トビーの反応は鈍い。


「何だ、ローウッド。戦わないのか?装備だって新しくしたのに」

「そういう次元の問題じゃないんだ」


詳しく説明して聞かせようとした矢先、サーシャが叫んだ。


「ローウッド、左からも来る」


見ると、そちらにも黒い獣の姿がチラついている。


「全員下がるぞ。散り散りにされると危ない。固まって動くんだ」


それから黒い獣達が襲ってきたが、ともかく防戦に徹した。

こんなところで犠牲を出したくはない。


途中で何とか隙を作ってトビーを逃がし、自分達も空き地を見付けるとドルトンの土魔法で自分達の周りを土の壁で半球状に覆って貰った。そこへエバの水魔法で上から水を流して、土を固め、これで(しばら)くは大丈夫だろうと息を吐いた。


後はトビーが助けを連れてきてくれると信じて待つだけだ。

幸い誰にも大した怪我はなく、サーシャやエバの治癒魔法で治せた。


それから(しばらく)くの(のち)


ローウッドはドルトンに開けて貰った(のぞ)き穴越しに外の様子を確認する。

いなくなっていてくれればと願ったが、残念ながら黒い獣達はまだそこにいた。


日が暮れれば助ける側も危険度が増す。

もしかしたら、一晩このまま土の壁の中で過ごすしかなさそうだと諦めつつあった。


そんな状況がサーシャの言葉で変わる。


「何かが来た、と思う」


手分けして何ヶ所かに開けた覗き穴から外を見る。と、ドルトンが声を出した。


「女の子が一人いる」


女の子が一人だけ?今一つ信じ難い。ローウッドは自分の覗き穴から周囲を再度確認するが、何も見えない。


「こっちは誰もいない。他はどうだ?」

「こっちもいないよ」

「うん、いない。あ、魔獣が来た。グレイウルフが一体。でも、近付いて来ない」


このタイミングで魔獣?ますます良く分からない。


「女の子の方に黒い奴が向かった。四体」


その女の子のことが凄く気になる。ドルトンに頼んで覗き穴をもう一つ作って貰う。サーシャやエバも同じことをして、結局は四人ともが女の子と黒い獣の戦いを見物した。


彼女は強い。見ていた誰もがそう思った。


途中、空から短剣が降って来て、もう一人いると分かったが、それでも堂々とした戦いっぷりだ。

女の子に向かっていった四体ともが、あっという間に地面の上に倒れ伏す。


「ローウッド、どうする?」


ドルトンが尋ねてきた。

言いたいことは分かる。このまま見物しているだけでは冒険者として問題だと。


「黒い獣が十体、俺達が四人に女の子達が二人と魔獣が一体。あの女の子の強さを考えれば互角、不意を突ければいけるか」

「やろう」

「私達、冒険者だもんね」


サーシャとエバも乗って来た。


「どうやって不意を突く?」

「この土壁を周囲に飛ばして黒い獣にぶつけたらどうだ?ドルトン、できるか?」

「やってみる」


「それじゃ、ドルトンに土壁を飛ばして貰う。女の子達の正面の奴らは彼女達に任せよう。ドルトンとサーシャは左に行ってくれ、俺とエバは右へ行く」

「うん」

「お任せー」


そしてドルトンが呪文の詠唱に入り、力ある言葉を口にする。


「|アースエクスプロージョン《地面爆破》」


ローウッド達を守っていた土壁が外側に向けて吹き飛んだ。


「行くぞっ」


最早躊躇(ちゅうちょ)は禁物だ。ローウッドは剣を抜いて黒い獣に立ち向かう。

手前の一体は思惑通り、土壁の破片が当たって負傷している。このまま一気に倒してしまおう。


* * *


大きな土の塊の爆発に驚いたアニス達だったが、土の塊の中の魔力の動きを察知していたアニスの動揺は小さく、立ち直るのも早かった。


「手前の黒魔獣は私が引き受ける。シズとアッシュは冒険者達の援護(えんご)を」

「はいっ」


バウッ。


土の塊の中にいた冒険者達は不意打ちを狙ったのだろう。

であれば、ここで一気に片を付けようとする筈。

アニスとしても渡りに船の状況だ。


手前に見えている黒魔獣は三体。

一番手前の一体は、土の塊の爆発には巻き込まれておらず無傷だったが、アニスは構わず突き進む。


相手の動きを見切り、左前脚の爪の攻撃を避けると、右前脚に斬りかかる。

そしてよろけたところで、背中の首筋に上から剣を叩き込んだ。

十分な手応えがあったので結果を見る必要は無い。


剣を引き、残り二体の方へ足を踏み出すが、そこでフライ(浮遊)と加速の付与を併用して跳躍し、二体の上を飛び越えて土の塊の残骸の上に着地する。


「合流はさせない」


折角分断できたのだ。このまま決着を付ける。

アニスは剣を下げたまま、静かに二体の方へと歩いていく。

それから二体が倒れるまで、そう時間は掛からなかった。


一方、アニスに援護を指示されたシズア。

慣れない状況に苦労していた。

敵味方が入り乱れて動いているところで魔双剣を飛ばすと、間違えて味方に怪我をさせてしまいそうで怖いのだ。


そんな時、アッシュはどうしているのかと見てみれば、冒険者達二人が相手をしている以外の黒魔獣を近付けさせないようにしていた。

なるほどと、シズアも用のない黒魔獣が冒険者に近付かないよう、魔双剣で威嚇(いかく)し始める。


そうして冒険者二人掛かりで一体ずつ倒して貰っていった結果、遂には倒すべき相手がいなくなった。

アニスは念のためにと、すべての倒れた黒魔獣の様子を確認して回り、満足そうに頷くと皆が集まっているところにやってきた。


「皆、怪我はない?」


アニスが話し掛けると、ローウッドが一歩前に出る。


「ああ、問題ない。それよりも、助けてくれたことに感謝したい」

「いやぁ、別に良いよ。ギルマスから依頼を受けてやったことだし。それで貴方達は?あ、私はアニス、こっちは妹のシズア、それと契約魔獣のアッシュ」

「初めまして、シズアです」


バウッ。


相手に尋ねる前に、まず自分から名乗らなければと慌てて自己紹介に入るアニス。


「俺達は冒険者パーティーの山燕(やまつばめ)。俺がリーダーのローウッドで、後は順にエバ、サーシャ、ドルトン。全員D級の冒険者だ」

「あ、そなんだ。私達もD級だよ。おんなじだね」


山燕の皆に、にっこりと微笑み掛けるアニス。


いやいや、あの戦い振りで同じってことはないよね、と山燕のメンバーは心の中で声を揃えた。


アニスはそこまで無茶な戦い方をしてはおらず、C級冒険者としてなら普通?


でないと、ギルマスのダントンが二人だけで行かせる判断とかしないですよね。


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