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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第二章 アニスとシズア、冒険者になる
13/303

2-1. アニスとシズアは冒険者になりたい

ギイッ。

建物の入口の扉が開いて、二人の少女が中に入って来た。いや、二人の後から犬も付いて来ている。首輪は無いが、左耳に識別用のイヤリングを付けているので、飼われているものだと分かる。


そこにいた大人たちは、ここにやってきたのは初めてであろう一見ひ弱そうな少女たちが場違いに思いつつも、二人共腰に剣を帯びているのを見て、その目的は察していた。

そして少女たちは、そんな大人たちの考えなどまったく気にしないかのように、真っ直ぐ目的の場所へと向かっていく。


「ようこそ冒険者ギルドへ。今日はどのようなご用件でしょうか?」


ここは街の冒険者ギルド。二人の少女、アニスとその妹のシズアは、冒険者ギルドの受付カウンターの前に立っていた。

カウンターの内側から受付嬢がにこやかな笑顔を二人に向けている。


「私達、冒険者になりたいんですけど」


アニスが用向きを伝えると、受付嬢は笑みを崩さずに応答する。


「冒険者登録ですね。(かしこ)まりました。冒険者登録は十歳以上となっておりますが、お客様方のお歳を伺ってもよろしいでしょうか」


受付嬢は未成年の二人相手に丁寧な態度を崩さない。この人凄いなと思いながら、二人を代表してアニスが返事をする。


「私は十三歳で、シズ、あ、妹は十歳です」


答えを聞いた受付嬢は、そうだろうなと頷いた。この地方では、子供が十歳になると剣か短刀を与える習慣がある。受付嬢自身も十歳になった時に親から短刀を貰った。

そして二人は剣を持っている。きっと親が兵士か冒険者なのだろうと受付嬢は想像していた。でも、それだけでは冒険者にはなれない。


「年齢は問題ないですね。お二人は神殿学校の生徒さんでしょうか?」


少女たちは首を横に振る。


「違いますけど、神殿学校の生徒だと何かあるんですか?」

「神殿学校の生徒さんの場合、冒険者になるには先生の許可が必要なんです。逆に、先生が許可していれば、学校として必要な水準に達していると認められたことになって、ギルドでの冒険者試験が免除されるんです」


「だとすると、私達は冒険者試験を受けないといけないんですね」


アニスが物分かりの良さを示すと、受付嬢が微笑んだ。


「はい、その通りです。冒険者試験についてはご存知でしょうか?」

「いえ、知らないので教えてください」


受付嬢は相変わらず二人に微笑んだまま話を続ける。


「冒険者試験には、剣技と魔法があって、どちらかが一定の水準に達していれば合格になります。お二人は神殿学校の生徒さんではないので、剣技で受けられますか?」


問われた二人は顔を見合わせる。


「私は剣技で受けますけど、妹は魔法で受けます」


そこで初めて受付嬢の眉がピクっと動いた。魔力量が一定以上の子供は神殿学校に行ける。神殿学校の生徒でもないのに魔法で試験を受けることが意外だったのだろう。

しかし、流石は受付嬢。感情を表に出したのはその一瞬だけだった。


「それでは試験官を呼んできましょう」

「いや、いい。ナンシー、俺が小娘たちの試験をやってやる」


席から立ち上がろうとした受付嬢ナンシーを押し留める声が、アニス達の横から聞こえて来た。見ると、頭に猫耳を付けた(いか)つい顔の大男が立っていた。


「ギルマス。よろしいのですか?」

「ああ、丁度手が空いているからな。元気の良さそうなこいつらが、どんなものか見てみるのも面白そうだ」


がっはっはと笑うギルマスに、半眼になるナンシー。


「相手はまだ冒険者にもなっていない娘さん達なのですから、きちんと手加減してあげてくださいよ」

「それくらい十分承知しとるわ。それじゃあ、こっちに来い、娘っ子ども。試験は訓練場でやる」


ギルマスの後を付いていく二人。カウンター横から裏手の奥の方へと通路を進むと、広い場所に出た。


「ここが訓練場だ。それで試験を始めようと思うんだが、その前に名前を教えて貰えるか。俺はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターをやっているガザックだ」

「私はアニス」

「シズアです」


アニス達が名乗ると、ガザックは頷いてから視線を下に向けた。


「お前たちの後ろにいる犬っころみたいなのは、グレイウルフの子供か?」

「はい」

「随分と懐いておるようだが、お前たちのどちらかがテイムしているのか?」

「アッシュは私がテイムしてるよ」


アニスは右手の甲にある魔法の紋様に魔力を通して光らせて見せた。


「そうか」


ガザックは、アゴヒゲを手で擦るとシズアに目を向けた。


「なら、シズアの方から試験をするとしよう。魔法の試験はこっちだ」


ガザックは、二人を訓練場の一角へと連れていった。そこには木製の的が三つ並んでいて、それらから少し離れたところでガザックは立ち止まる。


「魔法の試験だが、ここからあの的を狙って貰う。壊しても、燃やしてくれても構わない。好きにやってくれ」


シズアは、軽く頷くと一歩前に出て右手を前に翳した。そして呪文を唱え始める。

呪文と共に魔法の紋様が現れ、魔力が順調に集まっている様子を見たアニスは、練習通りに十分な威力の魔法を撃てそうだと安心する。


「ウィンドカッター」


力ある言葉と共に放たれた風の刃は、アニスの見立て通りに強力なものであり、かつ正確に的の中心を捉え、的を両断した。


「おおっ、シズ、上手いっ、完璧だよっ、天才的っ」


拍手をしながら絶賛するアニス。


「いや、これくらいはできて当たり前だと思うから、あまり(おだ)てないでよ」


シズアは頬を仄かに赤らめている。

そんなシズアがやっぱり可愛いと思うアニスだった。


「妹を誉めてやるのは良いが、今度はお前の番だぞ。ほれ、剣だ」


ガザックから木剣を受けとったアニスは、木剣が思っていたより重くて、落としそうになる。


「これ、重い」

「そうだ。実戦で使う剣は重いからな。なるべく近くなるように芯に重りを入れてある。まともに当たると骨を折るかも知れないから、気を付けろよ」

「ガザックの骨も折れちゃう?」


心配になって尋ねたアニスは、ガザックにガハハと笑われた。


「お前さんみたいなひよっこに打たれるわけがないさ」

「そうとも限らないと思うけど」


アニスは独り言のように呟いていたのだが、ガザックの耳にはしっかり入っていた。


「ほお、偉い自信じゃないか。気に入った。よし、アニス、俺の体にまともに打ち込めたら、飯を奢ってやろう」

「シズも一緒で良い?」

「ああ、構わない」


アニスは舌なめずりした。

ガザックに打ち込めれば、試験合格祝いのご飯が付いてくる。俄然やる気を出したアニスはどうやって勝つかについて、頭を捻り始めた。


「剣技の試験に魔法は使うのは駄目?」

「俺相手に使う余裕があるとは思えんが、使いたければ使えば良い」


「ガザックも自信家だね」


アニスが目を細めると、ガザックは笑顔になった。


「お前ほどじゃないさ」


二人はシズアから少し離れた位置で向き合う。


「さあて、ギルマスだもんなぁ、父さんやジークよりも強いんだろうな。私の剣技がどれだけ通用するんだろう?まともに戦ったら勝てる気がしないけど、でも、先ずはどこまで通じるのか試してみないとだよね」


アニスは一人納得して、剣を構える。


同じく剣を構えたガザックがアニスに向かって声を上げた。


「いつでも掛かって来て良いぞ」


アニスはどこから攻撃しようかと相手を見る。普通なら無意識に腕や脚などに魔力が貯めて魔力による自然強化を施すものだが、ガザックの四肢には魔力が殆ど存在していない。多分、ガザックは意図的に魔力を抑えているのだろうとアニスは考えた。


つまりは、手を抜かれている。

ガザックにしてみれば当然の配慮なのかも知れなかったが、アニスには面白くなかった。


「本気にさせるっ」


強い意気込みと共に、アニスは前に出た。


第二章、始めます!!


------------

(2023/12/30追記)

アニスとシズアがいよいよ冒険者に。シズアは魔法が上達しているようですね。アニスはどうなるでしょう。


さて、後ろから始めた見直しも二章まで来ました。

本章も主に改行位置の変更が主で、合わせて間違いや表現の見直しもしています。


次話以降、それ以外で特筆すべき点があれば後書きに書かせていただきます。


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