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妹大好き姉の内緒のお手伝い  作者: 蔵河 志樹
第六章 アニスとシズア、火の山に赴く
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6-5. マーシャは魔双剣の変化を目の当たりにする

ドライエフ魔具工房の店舗の中。

マーシャが店の販売実績を眺めて、商品の在庫量の妥当性を検討していると、店の奥の通路からひょいと頭が出てきた。


「あ、マーシャ、お願いがあるんだけど」


話し掛けてきたのは、先程応接に案内した年若い姉妹の姉の方だった。


「どうした、アニス?今度は何だ?何か工具が必要か?」


未完成の魔双剣を調べると言っていたが、調べたところでどうにもならないだろうにとマーシャは考えていた。

自分も含め、工房の皆や腕の立つ他の工房の職人とも工夫を重ねた結果なのだ。そう簡単に解決するとも思えなかった。


いや、確認以前の話として、分解ができなくて困っているかも知れない。それで、工具が必要かと尋ねてみたが、アニスは首を横に振ってきた。


「工具は持ってるから要らないよ。それより、広いところで試したいんだけど、庭を使っても良いかな?」

「この時間なら誰も庭には出ていないと思うがね。何を試すつもりなのかい?」


「魔双剣がどこまで飛ぶかと、戦いの中でどんな風に使えるか、かな?」


ん?あの魔双剣の魔法の糸は手の長さほども伸びなかった筈。なのにアニスは庭で試したいという。

何かがおかしい気がしたマーシャは腰を上げた。


「どれ、庭を使っても問題ないか、アタシが一緒に行って見てやろう」

「ありがとう、マーシャ」


無邪気な笑顔で礼を言うアニスを見て、アニス達がしようとしていることを確認したいという下心を抱えているのが悪い気がしてくる。


だが、そんな気持ちは顔には出さず、マーシャはアニス達と共に店舗奥の通路を抜け、建物の裏から庭に出た。


一通り見回すが、庭に人影はない。

庭は魔具の実験など屋内ではできない作業のために使われるが、今日はそのような予定があるとは聞かされていなかったので、予想通りではある。


「やはり問題なかったようだな。お前さん達の自由に使うといい」

「うん。シズ、どこまで伸びそうかやってみて」

「ええ、ここでなら思い切り試せるわね」


シズアは一人だけ前に出ると、両側の腰に挿した双剣を鞘から抜き出して構えた。

そしてその両手首が魔力の光で包まれる。シズアが腕輪に魔力を流し込んでいるのだ。結果、腕輪と魔双剣とが魔法の糸で結ばれた。


そのこと自体は驚くことではない。そうなるように設計されたものだとマーシャも知っているのだから。


だが、あの糸の太さは何だ?とマーシャは目を見張る。

あんなに太い魔法の糸は未だかつて見たことがない。


「行くよっ」


気合の入ったシズアの声が響く。


そして開いたシズアの手から、魔双剣が勢い良く前に飛び出した。

魔双剣は庭を突っ切り、反対側に建っている作業場の建物にぶつかりそうになる。が、そこで垂直に向きを変え、空に向けて昇っていく。どこまでも、その後ろに魔法の糸を伸ばしながら。


「凄いねアニー。まだまだ行けるよ」


感嘆するシズアの言葉が聞こえる。


しかし、マーシャには目の前で起きていることが理解できなかった。

そうなれば良いと考えていたものの実現できていなかったことが、今、現実の物として見えている。

夢かと思うが、頬を(つね)ると痛い。


なのに、二人の子供達は至極当然のことのように受け入れている。

どこかに大きな認識のずれがありそうな。


そこでマーシャは既視感(デジャヴュ)に囚われた。

何か古い記憶に引っ掛かることがある気がするのだが、それが何かは思い出せない。


「シズ、もうそれくらいで良いよ。今度は私と模擬戦やって」


マーシャの想いを他所(よそ)に、声を掛けながら前へと出ていくアニス。


「良いけど、魔法の糸が絡まりそうなのはどうにかならないかな?」


途方に暮れるシズアの視線の先には、空から降りてくる双剣がある。その後ろに、長く伸びた魔法の糸がだらしなく落ちてきており、確かに絡まりそうな感じがする。


「いや、魔法の糸なんだから絡まることなんて――ん?この糸って、実体があるんだ」


手近な魔法の糸に手を伸ばし、握れることに気付いたアニスは驚きの表情を見せた。


「糸の使い方が難しいなぁ。あれ、でもこれ、アニーに巻き付けたら動けなくできそうよね」


良いことを思い付いたとばかりにシズアが嬉しそうな表情になる。


「どうかなぁ。結局は魔法だよね?魔力の強い方が勝つんじゃないかなぁ。試しに強い魔力を当ててみよっか」


と、魔法の糸を握るアニスの手に、瞬間、物凄い量の魔力が集まったかと思うと、その部分の魔法の糸が消えてしまう。


「ほら、やっぱり切れた」

「あー、まったくアニーは反則よね。お陰で双剣の制御が切れちゃった、あれ、切れてない?」


魔法の糸の消えた部分が広がっていくが、双剣は相変わらずシズアの方に戻ろうとしている。


「だから魔法の糸は消せるんだって。糸が見えなくても腕輪との繋がりは切れてないから」

「そうなのね。もっと扱い方の練習が必要だわ」


シズアは手元に戻って来た双剣を握ると、魔法の糸を出したり消したり、(ある)いは糸を伸ばしたり縮めたりなど、何ができるかと試し始めた。


「ねぇシズ、練習も良いけど模擬戦やろうよ」


そう言うアニスは、既にシズアと向き合う位置に立っている。


「ええ、でもアニーを怪我させそうで怖いわね」

「さぁ、それはどうかな。あ、私は刃の無い剣を使うよ。切れないけど当たると痛いからね」


「分かった。アニーを近寄らせてはいけないってことね」


言うが早く、シズアは魔双剣をアニスに向けて投げる。


「それっくらいじゃ、私は止められないっ」


自分目掛けて飛んで来た魔双剣を、前に出ながら剣で左右に弾くと、そのままシズア目掛けて足を踏み出す。

そうなることは想定済みか、シズアは焦ること無く(ただ)ちにに魔双剣の制御を取り戻し、走るアニスの両横から挟み撃ちにするように魔双剣を飛ばす。


その魔双剣があと少しでアニスに届くかと言うところで、アニスは急に一歩右に跳ぶ。それで間合いに入った右側の魔双剣を剣で弾くと、今度は横に半回転しながら剣を振り下ろし、左側の魔双剣を地面へと叩きつけた。

そのまま流れるような動きでアニスはシズアに近付き、剣を振りかぶる。


対するシズアは流石に焦ったのか、魔双剣に注意を向けることなく呆然とした表情のまま動かない。

そんなシズアの様子を見ていられなくなったマーシャは目を閉じてしまう。

次の瞬間、ガッとぶつかる音が耳に入って来た。


うん?アニスの剣がシズアの防具にぶつかる音ならばもっと鈍い音の筈だが。


疑念を抱きながらマーシャが恐る恐る目を開けたところ、剣でアニスの打ち込みを受けているシズアの姿があった。

腰にぶら下げていた剣を咄嗟に抜いて応じたようだ。


「シズ、やるじゃない。剣を練習して来た甲斐があったね」

「そ、そうね。身体が勝手に反応して、自分でも驚いたわ。でも、これなら」


ニッとシズアが微笑む。


地面に落ちていた魔双剣が宙に浮き、アニスの背後から迫っていく。


「さぁ、どうかな」


アニスは腕に力を入れ、自分の剣でシズアの剣を押し上げると剣を引き戻して後ろに振り、後ろ向きのまま魔双剣を剣で(はた)く。

そして剣を前に戻すと一歩踏み込み、姿勢を崩したままのシズアの首筋に剣を当てた。


「ここまでだね」


アニスの宣告に、シズアは体の力を抜く。


「アニーは相変わらず容赦ないよね」

「手加減しても、シズのためにならないからね。でも、シズはもっと強くなれると思うよ」


そう言いながら、アニスも力を抜いて剣を引く。


シズアが魔双剣を手元に戻して鞘に収める様子を眺めながら、マーシャは二人の力量に舌を巻いていた。


アニスの打ち込みをギリギリで受けたシズアも駆け出しの冒険者の域から抜き出ているが、アニスはそれよりも遥かに上を行っている。

シズアの攻撃が素直過ぎた点は否めないにしても、どこをどう飛んで来るかも分からない魔双剣を冷静に正確に対処していた。どうやったらこんなに成長できるのだろうか。


だが、魔具職人としてのマーシャには、それ以上に気になることがある。


それを確かめようと、マーシャは二人の方へと歩み出た。


魔双剣を使い始めたばかりでは、アニスに対抗するのは難しかったようですね。でも、もっと慣れて来れば変わるかも知れません。


さて、珍しくタイトルがアニスでもシズアでもありません。間話ではないお話では初めてですね。

で、次話まで続きます。と言うか、書いていたら長くなり過ぎたので分けました。次話は明日投稿予定です。

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